異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第47話 「……おかしくない、これ?」

 

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―――控室。

 

「とりあえず100点満点とは行きませんでしたが上出来でした!最悪でも準優勝はもらったと言っても過言ではありませんわね!」

 

扇子をバンッと広げてみはるは高々と勝利宣言を行った。

 

7番目のチームは、プロと言っても歌唱力が高いわけではなく、いわゆる握手商法でのし上がってきたタイプの集団アイドルの中にある内部チームの一つであるため、十瑚議員から高い評価が出るとは思えない。

 

そのためこのようなことをみはるは言ったのであった。

 

なお、最後のチームは割と若い演歌歌手のため、そちらの評価は未知数である。

 

「人事は尽くしたから、後は天命を待つのみ、ってやつだねルルさん!」

 

ぬえ子の握手をカイロを仕込んだ手袋をつけた右手で返し、ルルは「そうですね……まあこれで少なくとも、ビル解体の予算くらいは出るのではないでしょうか?」と笑った。

 

「そうね。あの見るだけで鬱になりそうなシャッター通りだけでもどうにかできればだいぶ違うでしょうね。店舗にそのまま住んでる人も今や少ないでしょうし……」

 

ミナも苦笑してそう返す。

 

「どうしましたの?高得点なのに元気ありませんわね?」

 

「結果を待つのはいつでも緊張するというものよっ!みはるちゃんもわかるでしょう?」

 

ミナは無理やり呵々大笑する。

 

みはるは「まあ、わかりますけれども。本当になにもない、でいいんですわね?」と唇をへの字に曲げる。

 

「なにもない、なにもないから顔を近づけないでお願い!」

 

「正直に言わないとこのままキスしますわよ?」

 

「やーめーろー!私にそのケはないッ!」

 

頭を捕まれ、顔を近づけられミナは悲鳴を上げる。

 

下手に力を入れ過ぎたらそのままぶっ飛ばしてしまいそうで、その調整のほうが疲れてしまう。

 

「やめろ貴様ら見苦しい……」

 

ぐいと強引に引き離したのは我らが旧帝国軍最終兵器である。

 

「そんなことはどうでもいいから、表彰式の前に化粧直しでもしたらどうだ。我々は特に必要ないが……」

 

凄まじい力で引き剥がされたみはるはその力に驚きつつも「そ、それもそうですわね」とキョトンとしている。

 

ミナはこっそり夕に感謝の意味で頭をちょっと下げると、夕はしっしっと追い払う仕草をして気にするなということを伝えてきた。

 

「まあ、なにはともあれ後1時間で優勝は決定するね。既に負けちゃった人たちは残念だけど……」

 

採点システムの不備で、予想が働いていないのは仕方のないことであった。

 

とはいえ、テレビ企画ではなくコメンテーターの解説だの予想会だのがあるわけではないので別にいいよね、とミナは考えていた。

 

それよりも―――

 

「じゃ、私と夕ちゃんはちょっと外に出てくるから。ルル、ここはよろしくね」

 

「承知しました」

 

今は、先程の昏倒させた男を押さえるほうが大事であった。

 

 

 

「それで、廻さんからはなんて?」

 

「会館救護室前の長椅子にて休憩中の振りをして待機。我々の到着を待つとのことだ。確認した銃器はロシア共和国製PP-2000機関短銃と思われる」

 

ミナが聞くと、必要な情報を夕が伝えてくる。

 

格好は先程までのワンピースのままだが、ミナは帽子は脱いでいて夕は殺人光線発射装置を隠すため被ったままだ。

 

「ロシア……?ロシアンマフィアとか中華系とかかなあ……?」

 

ミナは頭を振って、ああ嫌だ、と顔を顰める。

 

そして2分もしないうちに救護室の前へとやってきた。

 

「来たな」

 

廻がベンチから立ち上がり、持っていたコーヒーを缶入れに投げ捨てる。

 

「中に例の男以外の人、います?」

 

「今はいない……今の所起きてもいないようだ」

 

廻が答えると、ミナは頷いて扉を開ける。

 

そして、念の為昏倒した男にスリープクラウドをかけて、眠りを深くする。

 

中を見回せば救護班が回収したらしい男のバッグも存在した。

 

……流石に本物とは思われなかったのだろう、そのバッグを開けてみると中にはサブマシンガンが安全装置を外された状態で入っていた。

 

弾丸はフルに入っていて、当然のような発射寸前の状況が保たれている。

 

「あっぶねええ……!下手にトリガーに触れてたら大惨事だったわこれ……」

 

安全装置をかけて弾倉を外し、無限のバッグへとしまい込んでミナはホッと安堵のため息をついた。

 

そして二人に向き直ると、ニッコリ笑って「じゃ、始めるわね」と歯をむき出しにする。

 

「いい加減、平和な日本で事件起きすぎでうんざり。とりあえず扉の鍵を締めましょう」

 

静かな声でそう言って、遮音の術と施錠の魔法を唱えミナはまだニコニコとしていた。

 

「よっしゃ。叩き起こして尋問といきましょ。なーに、私の術にかかればすぐに吐かせてみせるわ」

 

ギシリと軋むような笑みを浮かべて、銃乱射事件を起こそうとした男への尋問が始まろうとしていた。

 

 

 

それから10分後。

 

結果として、男は犯人について何も知らないことだけがわかった。

 

彼はどうやら会社をリストラされたらしく自暴自棄になっていて、それで他の金に困っていた連中と同じくマスクの男にそそのかされたようだ。

 

どのタイミングでもいいので、踏ん切りがついたらステージ上にいる人間と元議員を殺害しろ。

 

それだけを言い含められていたらしい。

 

ミナは前世の自分と同じような人間に僅かな憐憫を抱くが、それ以上に違和感を感じた。

 

「……おかしくない、これ?」

 

「ああ、人はどこまで自暴自棄で追い詰められていても、自分とは関係ない人間を殺すには相応の訓練や狂気が必要だ。あの男からはそれが感じられなかった」

 

廻の言葉にミナは頷く。

 

「憎悪をもって殺すのであっても、リストラされたことそのものは元議員とは関係ない……確かに、彼がいた与党派閥が主流派でなくなったために神森市やA県は寂れたとは言えるけど……ちょっと待って。万が一のこともあるし、精神操作がなかったか確認してみる」

 

ミナは精霊と偉大なるロジックに問いかけ、魔力と精霊力を読んだ。

 

「……なるほど。つまり、そういうことか。バグと闇の臭いがする……わずかに、わずかに。ルルでも多分集中しないと見分けられないほどのわずかな……」

 

ミナは考える。

 

未だエニヴァの黒筆を半グレの男に渡したものの正体は掴めていない。

 

もし、このバグの臭いの源がエニヴァの黒筆を治田に渡したものが犯人であれば……十中八九、ミナへの嫌がらせになることを考えるはずだ。

 

そして、ルルに下された神託。

 

―――敵は外から来る。

 

今回の顛末で外から来たもの、それはミナたちにとってはみはるやぬえ子、つぐみ、そして店長や大将もその範疇に入るが、それはもう内に……身内になっているとみて構わないだろう。

 

おそらくはこの街の外から来るもの。

 

元議員は元々神森市出身だから、除外する。

 

与野組合長もまた同じく。

 

そうすると本当に心当たりがなくなるが、だがそれは……?

 

外、外、外……意識の外、関係の外……

 

そこまで考えたところで、ミナは夕に声をかけられた。

 

「深い考えではないのだが、単純に町の外と考えるなら、潤美さんに詰め寄っていた外人という可能性はないか?中華人民共和国やロシア共和国は現在でも我が国の仮想敵国であるといんたーねっと上での情報から判断した。なんらかの指令を受けたあのチャ○コロと露助がやらかしているのでは?貴様、あのまま帰してしまったし」

 

腕を組むガイノイドの言葉に、ミナは「あっ」と声を漏らす。

 

「拳銃も機関短銃も中露製だし、十分あり得ると思うのだが……お前もちょっとロシアンマフィアだの中華系だのと呟いていたじゃないか」

 

「そういやそうだわ。ということは、やっぱり半グレの代わりにこの街に潜り込むつもりの連中がいて、歌自慢大会で街が正しい方向に活性化することは望んでいない、ってことなのかしら……?」

 

そしてその望みを手引したのは邪神かその手勢、エニヴァの黒筆を治田に与えたものがであるのは疑う余地がなく、であればミナかルルが手を下さなければならない件だろう。

 

「……めんどくさいわね。まあ、いいわ。ともかくこちらも未遂で終わったようだし、他の廻さんが気絶させた連中も今頃は……」

 

「ああ、不審な気絶者として病院に担ぎ込まれているはずだ」

 

その答えを聞いて、ミナは大きく頷いて踵を返すと、ドアに解錠の魔法をかけた。

 

「戻りましょう。なにかしてくるとすれば、後は表彰式のときでしょうし」

 

ミナはそう言って控室へ戻っていく。

 

尋問された男には腹いせのように、額に肉と油性マジックで書かれていたのだった。

 

 

 

ミナが控室へ戻ってきた時、ちょうど表彰式まで30分ほどの時間となっており、舞台裏へ移動する準備をみはるたちは行っていた。

 

「随分遅かったですわね。何かありましたの?」

 

「いえ、普通にお腹痛くて」

 

「ああ……お体には気をつけないといけませんわよ」

 

ミナの適当な言い訳をみはるが流し、控室から5人は舞台裏へと移動を始めた。

 

その時である。

 

「―――!」

 

パッと聞き取れない外国語でで何者かが突進してくる。

 

そしてそれは……ぬえ子が狙われた。

 

その手には刃渡り10cmほどのナイフが握られている。

 

まずい、と思ったその瞬間ミナは既に動いていたが、それよりも夕が―――いや、夕すらも超えて早かったのはルルであった。

 

ドン、とぬえ子が押され、ルルがぬえ子のいた場所に潜り込む。

 

ドスリ、とそのナイフはルルの腹部に突き刺さり……ルルは、ため息をついた。

 

「ミナさん、話する時間ありませんでしたから聞いてませんでしたが、そういうことでいいんですね?」

 

「そういうこと」

 

エルフ語で二人はそう言い合う。

 

「!??!」

 

ルルの腹部に確かにそのナイフは突き刺さっていた―――が、そこからは血の一滴も流れない。

 

ルルの体に傷をつけられるということは、たしかにそれは魔法のナイフ―――だが、それはルルの物理的な防御を突破することが出来なかった。

 

刺さっているが、リッチーである彼にとってそれは……無意味。

 

「……嘘、刺さってるのに?なんで……?」

 

尻もちをついたぬえ子が、ナイフが抜かれた刹那に傷がふさがっていく様子を目撃して、呆然と言葉を紡いだ。

 

「トリックですよ、トリック……種も仕掛けも教えませんが」

 

ルルは笑ってナイフを突き刺してきた男の頭蓋を掴んだ。

 

「!!!?!??!」

 

ルルもミナも知らない……ミナには辛うじてそれが中国語らしいことがわかったが、その言葉で男は喚く。

 

「……なんて言ってるか、わかる?」

 

ミナが夕を振り返り聞くと、夕は苦笑して答えた。

 

「『化物め、殺してやる』と最初は言っていた。次からは聞くに堪えない罵詈雑言だな」

 

「……中国人ですの?」

 

「さあ?北京語を喋っているからそうだろうとは思うだけで、別にモンゴル人でもインドシナ人でもロシア人でも私には関係がないな」

 

みはるの言葉に苦笑して、夕はルルに掴まれながら喚き散らす男の後頭部に手を当てて誰にも聞こえないように「非殺傷性麻酔瓦斯噴射」と呟く。

 

その瞬間、男は昏倒してだらりと力を失った。

 

「なんなんですの……わたくしたち、別に恨みを買う覚えはないのですが……第一、化物って可憐な乙女に向けてなんて言い様でしょう」

 

「私達、じゃなくてこの街そのものかもね……ぬえ子ちゃん?」

 

へたり込んだままのぬえ子に手を差し伸べたのはルルだった。

 

もちろん、その手袋の中にはカイロが仕込まれ、一応人肌に近い温度になっているためバレる心配はない。

 

「大丈夫ですか、ぬえ子さん」

 

「う、うん……私は大丈夫……でも、ほ、本当に大丈夫なの?あれ、絶対刺さってたよ?!」

 

「トリックです。完全にトリックです。もしくは目の錯覚です」

 

まばたきの一つもしないガラス玉のような瞳がぬえ子を見据える。

 

そこに怪しい光が一瞬灯ったことに気づいたのは、ミナだけだ。

 

(仕方あるまい……!私達が地球人じゃないことはバラせないからッ!)

 

ミナの苦渋に満ちた事後承諾が通ったことを確認して、ルルは少し安堵する。

 

そう、ルルは魅了の魔眼を使ったのだ―――不本意ながら。

 

「うん、わかった……信じるよ……」

 

ぬえ子はぼーっとしたままそう言って、立ち上がった。

 

ルルは小さくため息をつく。

 

(……これで彼女と僕の関係性は、若干『破壊』されてしまいましたね……)

 

魅了の魔眼は便利な能力だが、蓄積性がある。

 

何度も同じ人物に使えば、効きやすく、効果は持続しやすくなってしまうのだ。

 

彼女にかけたのは2回めだ。

 

これで魅了が解除されても、ぬえ子はルルに明確な好意を持ってしまうだろう。

 

少なくとも、今後も付きまとわれるのは確定である。

 

(突き放すにしても、僕、そういうの苦手なんですよね……)

 

ルルは昏倒した中国人らしきものを縛り上げながら苦笑した。

 

「みはるちゃん、行きましょう。こいつは警備員さんに任せて。夕ちゃん?」

 

「ああ。もうすでに警備員には連絡している。問題ない」

 

二人に促され、みはるは「わかりましたわ……」と不満げに言って舞台裏へと向かっていく。

 

そして、ぬえ子もまた同じように歩いていく。

 

黄昏の傭兵団の3人は、その後ろを守るようについていくのだ。

 

―――ルルの腹に刺さった魔法のナイフは、当然ルルが回収したことは言うまでもないことだった。

 

 

 

 

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