異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第51話「うーーーん、まあいいわ。何も企んでいないなら」

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ミナは、基本的に依頼を受けないで冒険に出るタイプの冒険者である。

 

昔は違ったが、少なくとも今はほぼバグダンジョンの攻略専門だ。

 

小金がほしいときだけ、あらかた街住みの冒険者達が依頼を取り尽くした後、余った「ゴブリンの巣が近くにできた」だの「コボルトが鉱山に住み着いた」だのといった人気がない依頼を片っ端から受けて受付さんに感謝されるくらいである。

 

―――世界を救える勇者がゴブリンの依頼なんか受けるな、とギルドの古参からは怒られたりすることもあったが、そもそもそうした依頼が余ってるほうが被害が拡大するのだからいいじゃないか、とミナは思う。

 

世界を救う仕事がない時に、村を救う勇者が居たっていいはずだ。

 

ドラ○エには村勇者という称号もあるのだ、とミナは常々思っている。

 

そうした姿勢はこちらの世界に戻ってきてからも変わらない―――つまり能動的に自分で冒険を探しに行きたい―――が、少なくとも向こうから飛び込んできた依頼を無下にすることだけはなかった。

 

そんなミナのところへ訪ったのは誰であろう。

 

それは予定された2月のダンジョンアタックの前々日のことであった。

 

「フライングガールズサーカスの撮影に付き合えって?あのさぁ……私ら、別に有名人になりたいわけじゃないんだけど」

 

水門家を訪れた三人、つまり相羽姉妹とみはるを見据えてミナはうんざりした顔を向けた。

 

「それに私、ネットは怖いって教わって生きてきたんで、能動的にネットで活動する気さらっさらないんだけど」

 

その言葉通り、前世の三郎は業務関連で入れていたLINFを除けばSNSのアカウントを一つとして持っていなかったし、LINFにしてもアカウントは非公開設定で、同僚や上司のアカウントしか登録していなかった。

 

LINFにしたところで、おそらく空悟と再会していなければ早晩アンインストールしてしまっていただろう。

 

「有名になるってめんどくさいでしょ。そんなに有名になりたいの?」

 

ミナがみはるにそう問いかけると、おもむろに立ち上がって悪役令嬢もどきは笑い始めた。

 

「ホーホホホホ!この一ノ瀬みはるがッ!金やちやほやされるためにこんな活動をしていると思っていたのかァ―――ッ!!」

 

「いや、ジョ○ョはいいから。何度も聞くようだけど、あなた本当に高校生???」

 

ミナがげんなりして、みはるに言っても無駄だなあ、と思ってようやく退院できたつぐみのほうを向いた。

 

「なんとか言ってあげて……というか、検査は大丈夫だったの?」

 

「おかげさまで~全然健康で~悪いところなんにも残ってないみたいです~」

 

ポンと手を叩いてつぐみが朗らかな表情を見せ、ミナは「そりゃ良かった」と小さく息をついた。

 

「みーちゃんみーちゃん、本題に入りましょうよ~私達の撮影参加の話はまた今度で~」

 

「そうだよ。ルルさんも呆れちゃってるじゃない」

 

相羽姉妹の指摘を受けたみはるは、「仕方ありませんわね」と言って座布団に正座して「本題」に入る。

 

「―――実は」

 

それは確かに、ミナたちが関わらなければならないことだったのだ。

 

 

 

「……例の賞金の使いみちについて紛糾している?」

 

「そうなのですわ。お父様の意見と組合長の意見がぶつかってしまって……」

 

やれやれとみはるは肩をすくめて首を横に振った。

 

「いや、あれからまだ1週間ちょいだけど、そんなに早く紛糾するってどゆこと?」

 

「ミナさん、以前から紛糾していた、という可能性は?」

 

ルルがミナの疑問に補足すると、みはるは我が意を得たりと首肯した。

 

「そうなのです。実際に賞金が入ってきて、議論が白熱してきてしまって……このままですと面倒なことになりそうですので、こうしてご相談をさせていただいた次第ですわ」

 

パチリと扇子を閉じて机の上に置き、みはるは難しい顔をした。

 

「それで私達に振興策を考えろ、ってこと?」

 

「仲裁でもいいんだよね~正直、どうでもいいことで喧嘩してるとしか私~思えなくて~」

 

つぐみが間延びした顔で頬に指を当てて困った顔をする。

 

「ふーむ……まあ、それはいいけども、一体どんな主張で対立してんの?」

 

ミナが3人のお茶を継ぎ足しながらそう聞くと、今度はぬえ子が答えた。

 

「みはるさんのお父さんが主張してるのは、廃ビル化してる商店街の半数近くのビルを壊して空いた土地を駐車場にした上で、新しい大きいテナントビルをおっ建てて、そこに土地代の維持で四苦八苦してる店に移転してもらって、空いたところをまた駐車場にしてとにかく駅前に車で来やすくするって感じかな」

 

「それに対して組合長、つまり商店街の意見としてはそれを良しとせず、廃ビルの解体・改装と新店の誘致を主張していまして……まあ集約するか、これまで通りにするかの差、ということですわね」

 

みはるが続けた言葉に、ミナはため息をついた。

 

「いや、普通にみはるちゃんのとーちゃんの意見で問題ないんじゃない……?実際、問題になるのは店舗に住んでる人だけでしょ?近くにアパートでもおっ建てればいいんじゃない?」

 

「ミナさんミナさん、住み慣れてる家を出て長屋に住みたい人はそんなにいませんよ。愛着の出たものは取っておきたくなるものです」

 

呆れて適当なことを言うミナに、ルルがそう嗜める。

 

「私、マジでアパート暮らしホテル暮らしが長かったからそういうのようわからん……」

 

ミナの言うアパートやホテルとはやっすい長屋、馬小屋、冒険者の宿のことであることは注意しなければならない。

 

しかし確かに、ミナは王都の冒険者の宿に自分の借りた部屋があり、そこに長いこと住んではいたが基本的には根無し草である。

 

特に長期の冒険に出た場合、キャンペーンだやっほーい!とばかりにそのまま年単位で帰ってこない生活を長年続けていたため、そこらへんに本当に疎くなってしまっていたのだ。

 

無限のバッグを手に入れた後、その傾向は特に強まり、王都の部屋には植物の鉢植えやプランターしか置いていない状態である。

 

もちろん、古いものを残す意義は認めるが、バブル期に作られたたかだか築40年のボロいコンクリートビルにそこまでの価値があるとも思えなかった。

 

「うーん……」

 

「すぐじゃなくていいんだよ。春くらいまでに考えてくれたらさ。次の会合は年度末だから」

 

3月20日に商店街と百貨店の会合が行われる。

 

それまでに第三案を持ってくるか、当日仲裁を行ってほしい、というのが3人の依頼だった。

 

「報酬として、こちらを差し上げますわ」

 

そうしてみはるが取り出したのは、青い宝石がはめ込まれたブローチであった。

 

「……それは?」

 

「歌自慢大会の練習中にお見せした探検隊で入った洞窟で見つけたものですわ」

 

ふふん、と得意げに鼻を鳴らすみはるに、ミナはまたうんざりした顔を向ける。

 

「なぜそんなものを渡そうと思ったし……」

 

そうして、そのブローチをまじまじと見遣ると―――ミナの瞳が一瞬大きく見開かれた。

 

「―――ま、いいわ。そのくらいだったら手伝ってあげる」

 

今までのだれた態度から、ミナは即座に清廉な雰囲気すら感じられる態度でそう答えた。

 

「……」

 

ルルはその回答に何も言わない。

 

ミナと同じことに気付いたからだ。

 

(……クレーラの瞳……何故、そんなところに……?いや、今までのことを考えれば不思議はないが……)

 

ルルは表情を変えずに内心で考える。

 

クレーラの瞳とは、グリッチ・エッグでも稀にしか産出しない元来から魔力を帯びたサファイヤのことだ。

 

魔力を持つものが触れれば自ら輝き、その光に誰もが魅了されるという……

 

既にバグダンジョンやグリッチ・エッグのはまぐりのような貝が存在していることから、存在そのものには不思議はない。

 

だが、その価値は向こうの世界に持ち帰れば金貨100000枚は下らないだろう。

 

そのくらい価値のある宝石だった。

 

(……ぶっちゃけ別にいらないけど、あれの解析がこっちの世界でされたらまずい……回収しないと……)

 

ミナは心の中だけで天を仰ぎ、また頭の痛い案件が増えたことに辟易する。

 

しかし、放ってはおけないことでもあった。

 

なんでこんなにこちらの世界に異世界の存在が紛れ込んでいるかは、きっとダンジョンを潜ればわかると今は信じるしかない。

 

ミナはそうして3人の依頼を受けた―――受けて、後ほど大変後悔することになるのであるが、それはしばらく後の話である。

 

 

 

明けて翌日。

 

ミナとルルは本日崎見老人が定期健診の日ということでバイトが休みになったこともあり、翌日のダンジョンアタックを前に空悟と岬の訓練を行っていた。

 

場所は近くの運動公園の体育館である。

 

「なるほど。どうして。そう、色々、おきるんだろうなッ!」

 

「マジで勘弁してほしいわ。マジで……」

 

ミナは木刀で打ち込んでくる空悟を細い棒でいなしながら、またもため息をつく。

 

「ため息をっ!つくとっ!幸せがぁっ!」

 

「わかってるよ。逃げるってのは。よし、ここまで」

 

ミナは木刀を棒で払い、取り落とさせると訓練の終了を宣言した。

 

「あー全然敵わねえ!なんだよほんと、めちゃくちゃつえーな、おめーよぉ」

 

そうして空悟は床にへたり込むと、被っていた面を脱いで汗を拭う。

 

対するミナは女子用の袴を着ていたが、防具すら着込んでいなかった。

 

「そらぁ、オレだって200年も冒険者してるんだもの、10年かそこら警官やってるくらいのお前に圧倒されてたらつとまんねーよ」

 

「まあ、そりゃそうだわ」

 

そうして明後日の方へ吹っ飛んでいった木刀を回収するため、飛んでいった方向へと空悟は歩き出す。

 

他に人がいれば危険な軌道を描いていた木刀であったが、幸いにして今日は人っ子一人いない……大雪が積もった中の休日であれば、少しくらいは体育館に来そうなものであるが、それも見当たらなかったため大事には至っていなかった。

 

「なんでこんなに人がいねーんだろうな?」

 

「さて?僕もミナさんも、当然岬さんも人払いになるような術は使っていませんが?」

 

岬の杖に依る格闘術の訓練を終えていたルルは魔法瓶に入れてきた温かい茶を茶碗に注ぎつつそう答える。

 

本当に、妙に人のいない日であった。

 

「それにしてもルル、岬にさん付けするようになったのね?」

 

「ああ、仲間ですからね。そろそろいいかと」

 

「……ぬえ子ちゃんにもさん付けだったわね?つぐみちゃんやみはるちゃんには殿だったのに」

 

す、と僅かに目を細めてミナは少年の瞳を見る。

 

その色に動揺は見えない。

 

「ああ……まあ、なんとなく、なんとなくですよ。そんな怖い目で見ないでください」

 

ルルは諦めたようにミナの瞳を見て、フッと笑った。

 

「こちらの世界は情報が多い割に平和です。僕も、それに影響されつつあるのかもしれません」

 

無論、ルルとて調べはしている。

 

この世界がグリッチ・エッグ以上に血と鉄で彩られた地獄の一端を表す苦界であることは。

 

しかし、日本は平和だ。平和である。

 

故に、ルルは自分がおかしくなりつつあるのだ、と自覚していた。

 

敵は外から来るという破壊神の神託は、あるいは自分の今を現しているのかもしれないとルルは思う。

 

しかし、なんともどうしようもないことだという達観と、そして自らの主人が―――ミナがそれに気づいているか、という心配があった。

 

何しろ彼女は―――前世の水門三郎からもかけ離れて―――冒険を愛し、危険とともに生活していた女傑だ。

 

今の彼女について、ルルは彼女らしくない日々を過ごしていると思っている。

 

彼女は能動的に冒険を探しに行く女で、こうも動きがない、動きにくいことはこれまで殆どなかった―――少なくともこの不死者の少年が彼女の下僕になってからは。

 

なので、見た目以上に疲弊しているのではないか、というのがルルの、歌自慢大会からのミナの態度を見て思う心配であった。

 

「うーーーん、まあいいわ。何も企んでいないなら」

 

「はい、何も企んでいませんとも。あまりに平和すぎて―――海外に行かない限りは何を企んでも面白くなさそうです」

 

ルルは含み笑いをして、ミナから目をそらす。

 

「やめんか阿呆!」

 

その態度にミナはビシッとルルの額にチョップを食らわす。

 

いつものように。

 

「痛いじゃないですか、ミナさん」

 

その攻撃にルルは抗議する。

 

いつものように。

 

その様子に、空悟は「……いかんなこれは」と独り言ちるのであった。

 

 




とりあえず2話連続で。

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