異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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52話「まあ、僕の感性は人寄りでしたからね。昔から」

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その日の夜―――

 

空悟は明日の準備を行いながら、息子に背中に乗られつつ、文に相談事をしていた。

 

「まあなんかこないだの歌自慢大会のときから、三郎とルルくんの間がなんだか微妙な気がするんだよ。まあ十中八九ストレス溜まってんだろうとは思うんだが……」

 

「え?色恋沙汰じゃないんですか?ほら、男の娘とかヲタク好きでしょう?先輩も精神的ホモになりつつあるのでは?」

 

文は夫のワイシャツにアイロンを掛けながら、そんなひどいことを抜かしてケラケラ笑う。

 

空悟はその様子に、「まーそーかもしれんけどよぉ。俺やお前、茜さん以外に対する態度は完全に女だしなあ」と苦笑する。

 

「まあなるようになるんじゃないですか?あのズボラでカスでコミュ障だった先輩ですよ?どーせ楽しいこと、冒険に夢中で隣りにいる人のことなんかなんにも見てなかった、とかいうオチですよ、きっと」

 

「それなら平和なんだけどなあ……」

 

携帯食と着替えを全てリュックサックに突っ込んだ空悟は、九四式拳銃を分解整備しつつ一筋の汗が頬を伝ったことを感じていた。

 

「おとーちゃんおとーちゃん、じゅう、かっこいいね!」

 

息子が背中をバンバン叩く。

 

空悟は「こら隆!」と一言叱って、文に目配せをした。

 

「お父さんが困っているでしょう?ほら、一緒にお風呂入りましょうね。アキも一緒に」

 

文はワイシャツをクローゼットにしまうと、脇で人形遊びしている娘を抱き上げて、息子を連れて風呂場へ向かう。

 

「あーおかーちゃんずーるいーあきばっかりー」

 

「おにーちゃん、おとーちゃんにかまってもらってたからおあいこ」

 

「はいはい、仲良くしましょうねー」

 

文にあやされながら部屋から出ていく子供たちを見送ると、再び拳銃の分解整備に没頭して、空悟は思う。

 

(ま、俺が心配しても仕方ねーな。文の言うとおりだ。なるようになるさ)

 

空悟はミナ=三郎の親友であるが故に、彼女の―――彼の、恋愛に対する鈍さは熟知していた。

 

(小学生並みだったからな、そういうところ)

 

空悟は笑って、拳銃の組み立てを終えるとそれもリュックサックの中にしまう。

 

明日は朝六時集合の予定であった。

 

 

 

そして探索当日となる。

 

今回の探索予定日数は空悟が休みを取れた2日の間だ。

 

「何回も聞いたような気がするが、そんなに有給とって大丈夫かおめー」

 

「これまでほとんど有給使ったことなかったからな。逆に上司は安心してるみたいだ」

 

研究所にてミナから受け取った胸当てなどを装備しながら空悟は言う。

 

「ま、それならいいんだけどな……」

 

ミナは頷いて椅子に座り、廻と夕の躯体換装が終わるのを待っていた。

 

「ほえー……」

 

岬は変身した状態で、呆けたように周りを見回してはため息をついている。

 

「どうしました、岬さん?」

 

ルルに聞かれた岬は、そのまま周りをぼうっと見回しながら「いやあ、前回はあんまり余裕なかったんで、あれでしたですけど、こうして見るとこう……去年までの状況とかけ離れてて、なんかこう、現実味がなくて……」と言っていつもどおりににへらっと気が抜けたような嫌な笑みを浮かべた。

 

「それも人生というやつですよ。ねえミナさん」

 

「そーね……ま、ほんとそうよね」

 

朗らかに話しかけてくるルルに、できるだけいつもどおりの表情を作りながらミナは思う。

 

―――数ヶ月前にこんなもやついた気分になるって自分に言って信じるだろうか?

 

答えは明確に否である。

 

(考えても仕方ないことは考えない、がモットーじゃなかったか、ミナ・トワイライト!しっかりしろ!)

 

ピシャリと自分の頬を張って、ミナは立ち上がる。

 

その時、プシュりとドアが開く音がして廻と夕が入ってきた。

 

『換装完了だ。待たせたな』

 

『早速出発しよう』

 

ガシュンと地面を踏みしめて、完全装備の二人は最初にあったときと同じ姿でそう言った。

 

ミナはもやついた気分を吹っ切るように立ち上がって、「それじゃあ行くわよ!研究所地下ダンジョンへ!」と宣言して歩き出した。

 

中に浮かぶ骸骨は、どこか無理をしているような少女の様子を見て、少年と刑事を見遣る。

 

二人はなんとも言えないような笑みを浮かべていた……

 

 

 

戦略兵器の魔王がいた部屋に空いた黒い穴を前に、ミナはニヤリと笑う。

 

そこにはミナにもはっきりと感じられる濃厚なバグの気配。

 

すなわち、濃厚な冒険の気配が漂っているからだ。

 

「よし、入ってみましょう……まずは私から」

 

その穴にミナは「せーの」と言ってから飛び込む―――と、その視界には岩肌を露出させた洞窟が続いていて、脱出口をわかりやすくしているのか落ちてきた上方向を見れば、黒い穴からロープが垂れ下がっていた。

 

もちろん、それはミナたちが垂らしたものではない。

 

「聞こえるー!?」

 

『聞こえてますですよー!』

 

ミナの言葉に岬の声が返してくる。

 

「とりあえず高さに気をつけて!3メートルくらい落ちるわ!」

 

『わかったー!』

 

今度は空悟の声が聞こえてきて、それから10秒ほどして空悟が。

 

それから岬、夕、廻、そしてルルの順でダンジョンの中へと飛び込んできた。

 

『索敵―――周囲に生命反応なし』

 

夕が索敵を終えてミナを向く。

 

『どうする?』

 

「とりあえずマッピングしつつ進みましょう。感じからして、すぐに襲いかかってくるだろうし……」

 

六人は集合して、まっすぐに続く回廊を歩き出す。

 

回廊は広く、天井は高く、六人が横に広がってもなんの問題もない。

 

そこをミナと廻が前衛、中衛を夕と空悟、後衛をルルと岬が担って前へ進んでいく。

 

―――20分ほど歩いた時だった。

 

物理的な索敵はロボ二人に任せ、魔力探知を中心に行っていたミナは、妙な精霊力を感じて天を見た。

 

『粘液感知……敵か?』

 

「スライム……いえ、ブロブかな、この感じは。気をつけて。金属を溶かす生きてる粘液よ」

 

その瞬間ミナの上から、ビチャリとした粘液が落ちてくる―――が、ミナの体はそれに触れることはない。

 

体捌きで避けて、飛び散った強酸の粘液もマントで防がれる。

 

廻にその粘液がかからないように彼の前に立ってだ。

 

「よっしゃ、後は……」

 

「アナン・ファイヤーッ!」

 

ミナが言うまでもなく、空を飛んだ岬が翼から炎を放ち燃やし尽くす。

 

最初の戦闘は何も問題なく終わりを告げた。

 

「うーん、ブロブが出てくるから中級冒険者向けくらいのフロアなのかしら。バグダンジョンらしくもない……こりゃ私やルルの出番はないわね」

 

ミナが焼け焦げたブロブの残骸に近づきながら言うと、何かに気づいてヒヒイロカネの剣を構えた。

 

「……まあバグダンジョンならそうよね」

 

『粘液、未知の物体と融合』

 

廻がそう言って腕部機関銃を粘液の残骸へ向け、遅れて空悟もそれへ機関短銃を向ける。

 

「なんだこれ……」

 

「何だこれも何も、ブロブが合体してるんですよ。地面とね」

 

ルルが空悟にそう言うと、岬は気持ちの悪さに顔を青ざめさせる。

 

「う、撃っちゃっていいですか!?撃っちゃっていいですよね!?」

 

岬が翼を広げて、再びアナン・ファイヤーを放とうとした時、それは完成した。

 

巨大なスライムの球体に、何個もの人間の生首らしきものが浮かんでいる―――が、その生首は図ったように全て左目が存在しない。

 

顎も異様に長くその表情は漫画の絵のようにディフォルメされていた。

 

「ジン○ンとか○面鬼かよ……?」

 

空悟はそう言って、一〇〇式機関短銃のトリガーに指をかける。

 

『キキキキキキキキキキ……!』

 

ディフォルメ生首が金切り声のような笑い声を上げる。

 

ミナは剣で警戒しつつ、後ろにいる空悟と岬にコクリと頷いて「よし、ヤッチマイナー!」と号令した。

 

その号令と同時に、岬と空悟が同時に炎と銃弾を放つ。

 

廻と夕は目の前の生首スライム以外に何か来ないか警戒する中、それは確かに銃弾に削られ、炎に焼かれて燃え尽きていった。

 

「ザ・気持ち悪いDEATH!こないだの兵器男からしてそういうものだとはわかってましたですが、予想以上にキモいです!」

 

岬は青ざめた顔でそう叫ぶと、明後日の方向へ魔力ビームを発射する。

 

「ほら、もう次来てますですし!!」

 

その叫びと同時にボンと天井で爆発が起き、上から八本脚のゴブリンとしか言いようのない小鬼が20匹ほど落ちてきた。

 

『済まない。警告が遅れた。脅威レベルが低かったからな』

 

手に手に雑多な武器を持つ八本脚のゴブリンが接近する中、夕は腕の機関銃を小鬼どもに向けてぶっ放す。

 

当然、20匹程度のゴブリンのようななにかが重機関銃の制圧射撃に耐えられるはずもなく、あっという間に緑色のミンチ肉になっていく―――

 

因みに本来のゴブリンの肉は人間に近く赤い。

 

緑色のそれは、完全にバグダンジョンで生まれた異常個体であることがわかる色合いである。

 

「うおおおお……冷蔵庫で半年放置した鶏肉みたいな色してやがるぜぇ……」

 

『具体的な例えを出さないでほしいな、空悟殿』

 

廻が微妙にうんざりした顔で空悟の例えに文句を言うと、そのミンチに音波砲をぶちかましてパーティーから遠ざけた。

 

『周囲に敵影なし』

 

夕が機械的な音声でそう告げると、岬は「うふふふふふ……こんなもの用意したやつは必ずぶっとばしてやるですよ……」といつもの嫌な笑みを浮かべる。

 

道のりはまだ長い。

 

少なくとも、今日明日で最初のフロアは踏破しなければ。

 

ミナはそう考えながら、もやついた気持ちがまだ心に残っていることに気づく。

 

時間は朝の7時半。

 

まだまだ今日という日が終わるには時間がかかるのであった。

 

 

 

「生首ブロブ、八本脚ゴブリン、四つん這いの人間の背中からもう一個人間の上半身が生えたブッシュワッカー、十円玉や百円玉のクリーピングコイン……ウィ○ー○リィの悪質なパロかな???」

 

それから2時間後、襲いかかってきたモンスターの特徴をまとめながらミナは「うんうん、いつもどおりのバグダンジョンね」とケラケラ笑っていた。

 

「慣れていくのですね……自分でもわかるですよ……」

 

岬は先程ブッシュワッカーみたいな何かを撲殺した自分の杖をティッシュで拭きながらグスグスと涙を流しつつ鼻をすする。

 

「まあ慣れないと死にますからね。気持ち悪いくらいは乗り越えてもらわないと。ねえ、ミナさん」

 

「そうなのよね……いやあ、一番最初にバグダンジョンに踏み込んだのはルルと会った時より半世紀以上前だけど、しばらくはホント慣れなかったわ」

 

「故郷の森にバグダンジョンが出来たんでしたっけ?」

 

岬の涙目をトリガーに、ふたりは昔の話を思い出していた。

 

「そうそう。いやあ、とにかく気持ち悪かったなあ……あんたのいた歪んだ森は整理されてたけど、あれはルルの趣味だっけ?」

 

「まあ、僕の感性は人寄りでしたからね。昔から」

 

ルルは杖を取り出して、杖だけではなく全身にブッシュワッカーみたいなものの水色の血を浴びてしまっている岬に浄化の魔法をかけてやりながらそう言った。

 

「まあ僕がダンジョンボスでしたからね、ある程度は制御できましたから。」

 

『なるほど……どちらかというと、前回の爆弾が変化したものに近いものだったんだな?』

 

索敵を終えた廻が会話に混ざってくると、ルルは首肯する。

 

「変じたのはいつだったか……少なくとも、躯体はこの姿のまま成長していないわけですから、100歳かそこらくらいの頃ですよ」

 

ふ、と怒りでも悲しみでも寂しさでもない笑みがルルの表情に浮かぶ。

 

その顔を見たミナは、「廻さん、聞かれたくないことや言いたくないことってあるよね?」と睨めつける。

 

『そうか……済まなかった』

 

「いえいえ。そのうち気が乗った時にきちんと話しますよ。仲間になった人には話すことにしてるんです」

 

「言っときますが、アホみたいに重たい話なので、聞いて後悔しても知りませんからね?」

 

少年と少女は微妙な笑みを浮かべながら廻にそう言うと、『なるほど……楽しみに、というと不味いのだろうが、その時を待っている』と答えて鉢巻アーマーのサーチライトを点灯させた。

 

『どうするのだ?ここで休憩していくか?』

 

「いえ、岬の浄化が終わったし、そろそろ行きましょう。一箇所にとどまってるとまた来るわ」

 

「ぴぃ!?」

 

もうひとりのロボットに聞かれたミナがそう答えると、魔法少女は背筋をピンと跳ね上がらせて震え上がる。

 

その様子を空悟は笑いながら見ていた。

 

「なんだ?何笑ってんだメーン?」

 

「いや、なんでもねーよ。行こうぜ」

 

空悟は聞かれても笑っているだけだ。

 

内心では少し安堵して。

 

(どうやら持ち直したみたいだな。楽しいことをしてれば気も紛れる、だな)

 

そうして六人は隊列を整えると再び探索を開始した。

 

 

 

そうして、ミナが時計を見ると昼となっていた。

 

比較的汚れていない床にシートを敷いて6人は昼食を取ることにする。

 

ミナは弁当を広げると自分で書いた地図と夕が記録して地面に投影したマップを見比べる。

 

そして鶏肉の炊き込みご飯をおにぎりにしたものを頬張って、うんざりした顔になった。

 

「…………これは、ひっどいわ……このダンジョンの主、絶対こっちの世界のこと調べてるって」

 

もぐもぐとおにぎりを咀嚼し嚥下したミナは、唇をへの字に曲げる。

 

その地図は確実にミナと空悟には見覚えのあるものであった。

 

「あー……わかるわ。少なくともW*Zはやり込んでやがるに違いねえな」

 

空悟が弁当の唐揚げを箸でつかみつつ地図を見てそう言う。

 

「なんなんです?なにか気づいたことでも?」

 

「これ、ザー○リⅠの地下1階のマップにしか見えない」

 

「奇遇だな、俺にもそう見えるわ」

 

岬の質問に、二人はそう答える。

 

そう、四分の一ほどしか書かれていないが、それはどう見てもコンピュータロールプレイングゲーム黎明期の名作、ウィ○ー○リィⅠのダンジョンマップであった。

 

違いは、もう5時間も探索しているのに4分の1しかマッピングできていないというだだっ広さだけである。

 

「南西ブロックに部屋が3つで、入るとモンスターが襲ってくる……するというと、この扉を抜けて北へ行くとダークゾーンに入るわね……どういうジョークだ」

 

ミナはまだ描かれていない部分にあるべきものを口に出して、怒ったようにおにぎりにかぶりつく。

 

「遊ばれてるんですかねえ……」

 

ミナの言葉に岬がそう返すと、夕は映写を切っておにぎりを口へ放り込んで不機嫌そうに会話に割り込んだ。

 

『向こうが遊んでいるつもりなら、油断している間に首を取りに行けばよかろう』

 

夕はそうして水を補給してそっぽを向いた。

 

「それもそうね……こっちをナメてるならぶっ殺しに行けばいいか……」

 

「それにW*ZⅠそのまんまっつーなら、楽だろ。逆に。リル○ミン○ーガやりこんだろうが、俺ら」

 

空悟はそう言うと、食べきった弁当の蓋を締めてリュックへしまう。

 

「そりゃそーだわ。フェイクが混ぜられてないか注意しつつ行くか……」

 

そうして出発したミナ達を迎えたのは、果たしてどうだったかと言えば……

 

「はい、まあそうよね。完全にそのまんまだわ」

 

扉を出て左へ曲がり、次の分岐路を左へまっすぐ30分ほど歩いていくと下へ続く穴が開いている。

 

「罠、じゃないんですか?これ……」

 

「その可能性もあるから、とりあえずここはうっちゃっておいて、他の部屋の探索へ行きましょう」

 

『賛成だ。まずは階層の制圧を実施し、後顧の憂いを断つべきだな』

 

岬の意見を肯んじて、パーティーはもと来た道を引き返す―――すると、5分ほど歩いた辺りで通路いっぱいの八本脚ゴブリンが待ち構えていた。

 

その数はおよそ100以上。

 

―――全てが分隊支援火器の餌食となるのに2分ほどを要したのだった。

 

 

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