異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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53話「前衛がいない、魔法使うことしか出来ない魔道士はクソザコナメクジ」

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午後6時……時折の休息をはさみながらダンジョンを探索していった6人だが、結局の所は次のフロアへの入り口と思しき場所は昼過ぎに見つけた階段以外には見つけることが出来なかった。

 

地図はほとんど完成しているが、ところどころに×がつけられている。

 

これは、その場所にゲームそのものであればあるはずのものがなかったことを示していた。

 

『昇降機も地上へ転移させてくる謎の人物もいなかったな』

 

夕が指折り数えて唇を歪めた。

 

「その代わり所々に宝箱があったからいいじゃないですか」

 

岬はその宝の一つである微かに光る小さなブロックを手にとる。

 

それはルル曰く、不思議なレンガと呼ばれるバグダンジョンで時々取れる素材アイテムだ。

 

不思議なレンガは不思議なくらいの耐熱性と強度を持つ謎のレンガである。

 

それを使って組み上げられた錬金術用の炉は素晴らしいものとなるため、これの採取は低難度バグダンジョンが現れた場合、最優先で冒険者ギルドに依頼が出るのだ。

 

そして、それはエストロヴァの雪片を修復するために絶対必要な素材なのである。

 

「まー必要なぶんには全然足りないけど、少なくともこのダンジョンに存在することはわかったのは僥倖ね」

 

「この宝箱落とした、えーと……」

 

「名前はいいわよ。あの幽霊が銅の鍵持ってたのもゲームとは違うところね。銀の鍵はゲームどおりだったのに。抜けがあるのがなんかムカつくわ。どうせなら完全再現しろっての」

 

ミナと岬は次のフロアへ続くと思われる穴の前で、野営の準備をしていた。

 

廻と夕は索敵、空悟はテントを張る準備をしている。

 

今日のところはここまでである。

 

後は明日の探索として休息に入るのであった。

 

 

 

二日目はすぐに階段を降りて、次のフロアの探索を始める。

 

昨日の最初のフロアはどう見てもW*Zにしか見えないものだったが、今度はマップを完成させていくと……

 

「ロ○の洞窟の地下2階じゃねーか!今度はドラ○エか!?とことん人のことをバカにしてんのかよぉ!」

 

「まー落ち着け。落ち着いて先進もう。どう考えてもこっちをイラつかせる罠だ」

 

書いた地図を地面に叩きつけて荒い息をつくミナを空悟はそう言ってなだめる。

 

ルルはまたため息をついて、「もしかして僕ら……というより、ミナさんや空悟さんの記憶を読み取ったりして作ってるのかも知れないですね」と推測した。

 

「ミナさんはエレベーターの場所を少し間違えて覚えていましたし、空悟さんは銅の鍵を取る場所を忘れていました。中途半端に読み取った知識で組み立てたとも考えられます」

 

「そうね……十中八九そうだわ。ということは、次もフロアがぜんぜん違うことになってるのは確定ね。私をイラつかせるためのダンジョンとは恐れ入るわ……」

 

肩を落としながら、ミナはかつてのゲームの記憶どおりにフロアを進んでいく。

 

―――す○やま○ういちの音楽でも鳴ればいいものを。

 

少女は仲間とともに慎重に進みながら、そんなことを思う。

 

そんな彼女たちの前に現れたのは、リアルな人間の顔が腹部に浮かんだコウモリであった。

 

『キキキキキ!』

 

「お前、絶対す○やま○ういちのこと考えてたろ。す○やま○ういちの一番好きなモンスターじゃん」

 

「うるせーばか!こんなもんがド○キーであってたまるか!」

 

甲高い声を上げながら現れた10ほどの人面コウモリにミナは怒りのまま剣をぶつけ一体を撃墜すると、呪文を唱える。

 

「偉大なるロジックよ!寄る辺なく燃える炎を我に!玉となり丸となり弾となし燃やし尽くせ!ファイヤーボール!」

 

ミナの頭より少し大きい程度の火球が生まれ、放たれる。

 

人面コウモリの一体にそれがぶつかると、あっという間に火球は燃え広がり、ほぼ全ての人面コウモリを叩き落としてしまった。

 

「あー!イラつく!無意味に寄せてきやがって!」

 

「ミナさん、どうどう」

 

残った1匹が廻の拳で潰されるのを確認して、ルルはミナをなだめる。

 

本格的にミナの神経を逆なですることをこのダンジョンの主は決めたのだろう。

 

それを理解したルルは魔法を唱える。

 

暗黒魔法―――神聖魔法にも存在する―――の一つ、気分を落ち着かせる魔法サニティだ。

 

「ほんと、落ち着いてくださいよ、ミナさん」

 

「……そう、ね。なんだからしくないわ、今日の私……」

 

頭を振ってからミナは周りを見回す。

 

冷静になった頭には、周りの情報がよく見えてきた。

 

(W*Z1のB1Fにしろ、このロ○の洞窟にしろ、初心者向けそのものの洞窟……ゲームであれば)

 

中途半端に再現された二つのフロアは初心者向けというには広く、魔物たちも多く出現してくる。

 

それもミナが―――かつての三郎が怒りそうな―――

 

先程のフロアでは、あまりに元ゲーとかけ離れたものが繰り出されてきたせいか、ミナもイラつきはさほどは感じなかった。

 

しかし、今度のフロアの構造を知った後で出てきたド○キーのような何かを見て、ミナは激高して冷静さを失ってしまっている。

 

それに反比例するように空悟が落ち着いていることから、これは何か精神に影響を及ぼす効果が働いている可能性があることにミナは気づいた。

 

そしてルルを見て、首肯する。

 

「冷静になったようですね、ミナさん」

 

「はー、よかったですよ……」

 

水を渡してルルが微笑み、岬が安堵の声を出すとミナは上を見た。

 

「ようし。こうなったらアホみたいにルート通り行く気も起きないわ。空悟よぉ?」

 

「……ああ、そうだな。もう少し単純に行くべきだな。単純つーか、力押しだけどもよ」

 

ミナと空悟は示し合わせたかのようにブンブンと腕を振って準備運動を始めた。

 

『何をするつもりだ、金髪女』

 

「そりゃあ、ねえ、決まってるわよ。この壁に穴をぶち開けるのよ!このままじゃあ埒が明かないわ!」

 

夕に聞かれたミナは呪文を唱え始める。

 

「方向ヨシ!多分ゲームどおりならこの壁ぶち抜いてすぐになんかあるはずだ」

 

空悟はそうして、「敵がいるならそこだろうとは思うから、準備しておこうぜ」と笑った。

 

そう、ロ○の洞窟地下2階は階段を降りてきてすぐ北の場所に孔を開けることが出来たなら、あっという間に目的地のロ○の石版が存在するのだ。

 

「なーるほどーです。たしかに律儀に道順たどってやる必要もないですからね」

 

岬が腕を組んで首を縦に振った時、ちょうどミナの呪文が完成した。

 

「地に棲むもの、優しき老爺ノームよ。今日はお山をくり抜いてトンネル作り、街道づくり。土除け、穴掘り、進みましょう」

 

トンネルの術が発動され、人1人が入れるほどの穴が3メートルほど開いた。

 

そしてミナはその穴の中に入って重ねて呪文を唱えていく。

 

2回ほど精霊術が発動した時、ぼこりと壁が崩れて次の―――おそらくはこのフロアの最奥へとたどり着いた。

 

『確かに効率がいい。この程度なら崩落の危険もないだろう』

 

『敵性体三十七!来るぞ!』

 

廻の感嘆と夕の警告、それと同時に現れたのはオークの群れ、そしてチロチロと口から火の吐息を漏らすサラマンダー……そしてその奥の石版の前に鎮座する悪魔像であった。

 

『よくぞ来た勇者共……ここが貴様らの墓場となろう』

 

ズズズと岩と岩の擦れる音を上げながら悪魔像は立ち上がる。

 

『行けい!』

 

くぐもった声で悪魔像がそう宣言すると、オークとサラマンダーの群れは穴から出てきた六人を取り囲む―――が、既にそのときにはルルの呪文が発動する寸前だったのだ。

 

「この程度で僕たちを止めようとは、甘い甘い……世界を支配する偉大なるロジックよ、吹き荒れよ、氷雪の嵐となり、眼前を吹き洗え!ブリザード!」

 

ゴウと烈風が吹き荒れ、大挙して襲いかかる前衛は、サラマンダーもオークも皆カチンコチンの氷像となって砕けていく。

 

それに追い打ちをかけたのは、廻・夕・岬の三人だ。

 

空悟が手榴弾を投げ、その爆発で動きを止めた瞬間。

 

『『殺人光線、照射開始』』

 

「甘い光があなたの心に染み渡る!スクリュー・フラッシュ・スプレッド!」

 

殺人光線でオークたちの残りの殆どが吹き飛び、サラマンダーたちは岬の杖から放たれた光を浴びると戦意を失ってそのまま消えていった。

 

『な、なんと……!』

 

何もさせてもらえず、あっという間に蹴散らされた悪魔像の配下らの様子に悪魔像本人は驚愕の表情を浮かべる。

 

その表情を嘲笑うかのように、ミナは質問した。

 

「あんた、このダンジョンの主……のわけないわよね。明らかに弱っちそうだし」

 

「おいおい、そう言ってやるなよ。多分、こいつ3の○王の爪痕にいたサ○ンパピー役だしそこそこ強い気がするんだけど」

 

空悟がそう言ってやるが、ミナは「ダ○の○冒険でザ○○ラに使役されてたイメージしかねえよ」と苦笑する。

 

その様子に悪魔像はワナワナと震えだし、怒りの叫びを放った。

 

『おのれ!このフロアを預かる我をコケにしおって!出よ、我が眷属たち!』

 

その叫びに応じて、悪魔像の影からは紫色のローブを着た四本腕の魔法使いらしき男たちが湧いて出てくる。

 

紫色のローブどもについて、ミナも空悟も覚えがあったが最早口にする気にもなれなかった。

 

『やれい!』

 

号令とともに紫色の魔道士たちは呪文を唱え始めるが……

 

「やっておしまい!」

 

「アラホラサッサー!!」

 

空悟が二丁の一〇〇式機関短銃を両腕に抱えて乱射し始めると、廻と夕もまた機関銃と音波砲、そして噴進魚雷をぶっ放す。

 

『火薬の武器だと?ふははは!そんなものが効くはずが―――何ッ!?』

 

勝ち誇る悪魔像だったが、その声はすぐに驚愕に染まる―――すぐに紫色の魔道士たちは黒い血を吹き出してバタバタと倒れ始めたのだ。

 

ルルと岬、そしてミナがいつの間にか各種の強化魔法を3人にかけていたのである。

 

「前衛がいない、魔法使うことしか出来ない魔道士はクソザコナメクジ。習うでしょ、普通そんなん誰かにさ」

 

ふっと肩をすくめて笑うミナに、悪魔像は悔しげな歯ぎしりを返す。

 

『おのれ、おのれ!この―――』

 

「ごめんね。興味ないの」

 

名前を名乗ろうとした悪魔像に、金剛石の長剣を携えたミナが神速で接近し―――

 

『あ、が―――』

 

脳天から股まで一刀両断に斬り裂いた。

 

『う、ぐ、おぉぉぉぉぉ……』

 

断末魔が洞窟に響き、悪魔像は名乗りを終えることもなくそのまま地面にどうと倒れ、そのまま塵となっていく。

 

後には魔物たちの死体と静寂だけが残った。

 

いや、悪魔像が褥としていた謎の巨大な石版だけが残る―――そこに書いてある文字は、当然ゲームの中の文言ではなく―――

 

「はい、全く意味不明な文言ね。文字は辛うじてドワーフ文字っぽいけどぐっちゃぐちゃ」

 

ミナは嫌悪感を顕にその文章を見て半目になる。

 

その様子に、空悟は内容をとりあえず聞いてみた。

 

「なんて書いてあるんだ……?」

 

「ねこですよろしくおねがいします、とそんな変わんない精神汚染級の電波文章。字体はあれだな。壊滅フォントってあるじゃん」

 

その言葉に、刑事は「そういえばそんなのあったな」と腕を組んで首肯した。

 

「ドワーフ文字版のそれって感じだよ。結局は、前に研究所上層で見たあのキモいイミフの手紙と同じ、バグダンジョンの意味無し文書だ」

 

ミナはそうして石版に取り出した杖を向ける。

 

『破壊するのか?』

 

夕にそう聞かれたミナは、当然でしょ?と答えて精霊語……つまり、上古のエルフの言葉で二つの精霊に語りかける。

 

「凪の日はいと優しく嵐吹かば厳しき水の娘ウンディーネよ、燃え盛るもの、火の子竜の子サラマンダーよ。その相反する二つを我が手に与え給え。溶け合い爆ぜて眼前に破壊の嵐をもたらさん!」

 

その瞬間、ドガンと轟音がして石版が崩れ去る。

 

水蒸気爆発の精霊術スチーム・デトネイターが炸裂して、そのミナの気分を悪くした文章は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

爆発の跡に、一つの魔法陣と宝箱が残されているのに一番最初に気づいたのは岬だ。

 

「宝箱と―――五芒星?」

 

『なんだこれは?』

 

夕がミナに振り返ると、ミナは「今回はここまで……ってことかな」と答えて杖をしまう。

 

「バグダンジョン特有の脱出ポイント、ってやつよ。長く深いダンジョンにはこれがあることがある……デタラメで出来たバグダンジョンの中では数少ない……ほとんど唯一と言っていい正常な場所よ。これに触れたら、ここに私達が来たことが記録される。そしてここへの帰還用のアイテムがその宝箱に入ってるはずね」

 

肩をすくめて「記憶陣は研究所に固定するつもりだったから、これがあるダンジョンで助かったわ」と笑った。

 

ミナはそうして、宝箱に杖を当てる。

 

「何をするんですか?」

 

「解錠。私、盗賊の修行も積んでるからね。研究所上層でも見せたけど、鍵開けくらいはチョチョイのチョイ。でも今回は面倒だし魔法で開けちゃうわ」

 

ミナは目を閉じて、呪文に集中する。

 

「偉大なるロジックよ。仕掛けられたものを遠ざけよ。悪意を、害意を、作りし者の意志を遠ざけ、我を守れ。リムーブ・トラップ!」

 

まず唱えられたのは罠解除の魔法だ。

 

トラップなしの宝箱であれば、それはアンロックだけで十分である。

 

しかし、罠が仕掛けられたものであれば事前に罠を解除するか、この魔法で罠を解除してやる必要がある。

 

もちろんこの魔法にも失敗の可能性はあるが―――

 

「よし。案の定テレポーターが仕掛けられてたけど、もう大丈夫よ。開けるわ」

 

ミナの呪文の腕にかかれば、その心配は殆どなかったと言える。

 

開けられたその小さな宝箱を、慎重にミナが開くと―――そこには転移の指環と―――小さなブローチがあったのだ。

 

それは……つい先日に、ミナが見せられたものと同じものだ。

 

「クレーラの瞳……?まさか……」

 

それはみはるが見せた青い宝石と同じもの……ミナには偶然とは思えなかった。

 

ミナは布でそれに直接触れないように拾い上げると、掴んだ布でブローチを包んでバッグの中にしまう―――

 

そして仲間たちに振り返った。

 

『今しまったものはなんだ?』

 

夕が不思議そうに聞くと、勇者は答える。

 

「これは……向こうの世界。グリッチ・エッグではかなりの高値で取引される宝石よ。ただ、ね―――」

 

ミナは、これがみはるたちが商店街のいざこざの解決が出来たら報酬として寄越すといったものと同じものであることを告げた。

 

それを告げられた瞬間、その場にいなかった岬ら四人は「またか」と言った顔になった。

 

「これはやっぱり外でなんか起こるフラグだなぁ……何が起こるか、今は想像もつかねえが、商店街でなんか起きるってことかね?気をつけておくしかねえな」

 

「ああ、偶然には思えないからなあ……ルルはどう思う?」

 

親友の意見を聞いたミナは、自らの従僕にも意見を聞く。

 

その質問にルルはニコリと笑って、「空悟さんと僕も同じ考えですよ」と答えた。

 

「そもそも対処するにも情報はありませんからね……それに、ほら」

 

ルルが魔法陣の向こうの階段を指差す。

 

その階段の周りは、何か薄墨でも流したように黒い霧が渦巻いて歪んでいた。

 

「此処から先はやはり行き止まり。ミナさんの仰る通り、今回はここまでのようです」

 

『解析……次元境界線の歪みを検出。済まない、説明してもらえないか?』

 

廻がミナへ聞き、ミナはそれに答える。

 

それは次元の歪み、バグの作った境界線。

 

ダンジョンの主の思惑を侵入者たちが超えるまで開かない結界がこの薄墨色の歪みだ。

 

普通はダンジョンの中の仕掛けを解いたり、あるいはある程度以上にパーティーが強くなると解除される。

 

今回の場合、考えられるのは……

 

「このクレーラの瞳に関する事件を解くか、或いは空悟と岬が一定以上に強くなるか、ね……」

 

「もし後者だとすると、この次のフロアは相当難易度が上がるのではないかと……」

 

勇者と従僕がそうして地球人の二人を見ると、空悟は唇をへの字に曲げた。

 

「1階がW*Z1のB1で2階がロ○の洞窟だろ?ここってあれじゃねーか?ファミ○ン版のW*Z3の1階なんじゃねーか?」

 

「またあたしや廻さんたちにわかんない言い方しますですね……」

 

岬に咎められた空悟は、ハッとして「ああ、すまん。つまり、ここはチュートリアル階層で、俺らにここでレベル上げしろってことなんだろうな、と。それに三郎をイラつかせることを目的にしてるなら、こういうバカにしたようなフロアは有効だと思ったんだ」とミナにしかわからない表現をやめて説明をする。

 

ファミ○ン版のウィ○ー○リィは、当初ファミ○ンにセーブデータを別ゲームのROMへコンバートする手段が存在せず、コンバートしなくても楽しめるPC版の3を2として発売した。

 

PC版2はいわゆる1のファンディスク的なものであり、最初の階層から強力なモンスターが出現する仕様であったためだ。

 

その後、データコンバートを可能とする外部記憶装置が発売されたことを契機に2を3として発売した上で、単品でも楽しめるようにPC版には存在しないチュートリアル階層を追加しているのである。

 

ミナはうーん、と少し唸った後「それで間違いないかもな……イラつくと言うか、呆れてきたよ、オレは……」と脱力して地面に座った。

 

「そういうことなら仕方ない。来週から特に用事なければ、日曜はここで半日くらいモンスター退治するようにしましょう。チェックポイントがあるしね」

 

そうしてミナは転移の指環を手に乗せる。

 

『それは指に嵌めて使うんじゃないのかね?』

 

廻がそう聞いてきたので、ミナは笑って「バグダンジョンの転移の指環にはリムーブ・トラップで破壊できない罠がかかってることがあるんで……それに、発動させるだけならこれでいいんですよ」と答えて呪文を唱え始めた。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。我が手にあるものを我が手に依らずに駆動せしめよ。幻想の手は我が目の中にあらん。ファントム・ハンド」

 

それは装着して使用するアイテムを装着せずに使用するための古代語魔法だ。

 

青く透き通った腕がミナの右腕から分裂するように現れて、指環をその指にはめる。

 

すると、指環から光が広がり六人を包み込んでいく―――

 

気づいたときには、そこは研究所の爆弾魔王がいた部屋……つまり、ダンジョンの入口であった。

 

「うん、罠も呪いもなかったみたいね」

 

ミナは幻の腕から指環を受け取り、腕は虚空へと溶け消えていく。

 

『戻ったかね。無事で何よりだ』

 

宙に浮く骸骨、薺川博士が声をかけてくる。

 

『ただ今戻りました、博士』

 

『初期目的については達成できたと判断いたします』

 

廻と夕が敬礼をしているのを背に、ルルはミナをじっと見つめていた。

 

「……何?」

 

「ミナさん、明日のアルバイト終わったらでかけませんか?ミナさんが僕の言うことを聞く回数も……3回ほど残っていますし」

 

ニッと歯をむき出して笑う少年に、ミナは額に手を当てて「あーそういえばそうだったわ」と低い声でうめく。

 

「いいわよ。なんか歌自慢大会のあたりから、私もなんだか調子狂うことが多いし……」

 

ミナがそう言ってルルの手を取ると、銃の手入れをしていた空悟が「お、デートか?」と気さくに笑ってきた。

 

ミナはジト目で「そーいうんじゃねーぞボケェ」と返すと、ルルに「じゃあどこ行くか、後で決めましょう?それとも行きたいところある?」と普段どおりの様子で聞いてくる。

 

ルルはそれに意味深な瞳で「実はですね……」と返すのだった。

 

 

 

その日の夜―――

 

ミナたちは文とともに焼肉屋「OZAWA」にやってきていた。

 

いつもどおりの飲み会であるが、今回は廻と夕もいる。

 

そのボディは潜入用に換装され、つい数時間前までの戦闘機械ぶりは失せていた。

 

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

いつもどおりに始まった飲み会は、いつもどおりに進行し、いつもどおりに終わっていく。

 

今日はミナも自重はしなかったが、そういう飲み方をするとわかっている以上今野夫妻もペースを乱されることなく、誰も潰れることはなさそうであった。

 

「先輩は女心もわからなきゃ、男心もわからないんですね」

 

ルルが外の空気を吸うと言って店外へ出た時、文はそんなことを言ってきた。

 

「清水さん、もしかして酔っ払ってる?」

 

冷や汗をかきながら、ミナは文にチェイサーを注いであげるが、文の口は止まらなかった。

 

「いいえ、まだ酔うほど飲んでいませんよ。具体的には私の口からはいいませんが、もう少し考えたほうがいいですよ」

 

「いくら寿命が長いからっつって、なあ?」

 

不機嫌そうな文とは対象的に、どこか機嫌のいい空悟はそうしてケラケラと笑う。

 

その手にはウィスキーのロックが入ったグラスが握られていた。

 

「私もそう思うぞ、金髪女。どうもお前はそういうことに疎いようだが……」

 

日本酒をちびちびと舐めるように飲む夕に言われて、ミナはげんなりとした気分になる。

 

「3人が何を言いたいのかはなんとなくわかるけど、あいつとは150年も一緒にいてそんなことまったくなかったんだよなあ……あ、寝てる間におっぱい揉まれたり、服脱がされたりしたことはある」

 

「マジかおい」

 

「マジだおい」

 

ミナは一回寝たら、1時間経つまで生命か貞操の危機があるまでほぼ何をしても起きない。

 

起きないことを良いことに、あの不死の少年は彼女に悪戯をすることがあるのだ。

 

ひどい話である。

 

彼が少女のような外見でなければ、或いは全殺しにされていても文句は言えない所業だ。

 

「まあ、別にその程度はいいんだけどね……発覚したらボコボコにしてるし……」

 

ミナはウィスキーの入ったグラスを飲み切ってジト目になる。

 

そのジト目は文に注がれていた。

 

「人が寝てる時にセクハラしてくる男って、女性的にどうなん?」

 

「……まあ控えめに言ってないですね」

 

文はなんだか諦めたようにお湯割りを口にしてため息をつく。

 

ついたため息は、焼肉が焼ける音にかき消されて虚空へと消えていった。

 

ミナは「でしょー?」とボトルからウィスキーを追加で注いでケタケタと笑う。

 

「まあ、あえて言葉にすると、あいつとだけは恋愛はない……と思う。オレら後何百年何千年って生きるから、未来のことはわかんねーけど。多分。いや、まあ……見た目は好みなんだけど……」

 

「お前、昔からそうだよな。ヲタのくせに、一度も○○はオレの嫁、みたいなこと言わなかったし」

 

空悟にそう聞かれて、ミナは岬からの視線を感じつつ、曖昧に笑う。

 

「だって結局、絵空事だからな……本当にオレの嫁になってくれるわけじゃないしよ」

 

「うーん、それでもいいと思うんですけどねえ」

 

焼けたカルビをご飯に乗せてわしわしとかきこみ、それを嚥下しきると岬は続ける。

 

「だってそれだけ好きになった、ってことですし。あたしも紺○の艦隊に前○○征とか……ってあたしのことはどうでもいいです」

 

岬は自分のことを話し出しそうになったことに恥じているようで、それをごまかすかのようにハラミを鉄板に乗せていった。

 

鉄板に乗った肉はじゅうじゅうと音を立てて焼けていく。

 

「戦場ではいつ死に別れるかわからないものだ。君たち、否、我々は軍人ではなく冒険者だが、常在戦場であることに変わりはない。後悔はしないようにしたまえ」

 

肉の焼け具合をサーモグラフィで検知し、素早くひっくり返しつつ廻はそうミナを嗜める。

 

少女はその言葉に、「後悔は後に立つものだから、そんなものはエルフの冒険者なら誰だってわかってるわ。でも、ありがとうございます」とやはり曖昧な笑みを浮かべたまま答える。

 

(それでももやついているのは確かで、冒険をずっとずっと続けてきた私がこの200年ぶりの長い休暇とこちらの世界の情報量によって急激な変化を起こしていることもまた確か。考えないといけないのよね……)

 

そうしてとりとめのない思考と親友らのイジり、そして無言で肉を焼き続けるロボットたちの動作が数分ほど続き……ルルが店の中に戻ってきた。

 

ミナは思考を一旦やめて明日のルルとのお出かけに思いを馳せる。

 

―――きっと向こうも似たようなことを思っているんだろうな。

 

そう思ったミナは、やはりルルの主人であり冒険のパートナーなのであった。

 

 

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