異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第55話「遠い日の詩 -昔のお話①-」

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『―――おはようございます。こちらはJOYY-DTV。惟神テレビです。本日の放送を開始いたします』

 

岬は惟神テレビのオープニングをお茶を淹れながらぼうっと見つつ、朝ごはんの準備をしているミナを観察していた。

 

何故かこの放送局はOPにこだわっていて、今日流れていたのは80年代から90年代にかけて福島県のローカル局オープニングで流れていた歌だった。

 

そのチョイスに疑問を抱く岬は可愛らしく首を傾げつつ、ミナたちのことを考えていた。

 

(ルルくんって服脱がしておっぱい揉むなんてスーパーセクハラしてる……魔物、モンスターなのになんでミナちゃんは封印とか……殺しちゃったり、とか?しないんですかね……)

 

朝食前にお茶菓子を食べるのは朝食を作っているミナに悪いと思った岬は、お茶だけをすすりつつ朝のアニメを見る。

 

今放送していたのは、新選組をモチーフにした40年ほど前のロボットアニメだった。

 

「油断してたらバッサリ、ってされないんですかねえ」

 

「されないから大丈夫よ」

 

米を研いで炊飯器にセットし、後は炊きあがるのを待つだけとなったミナはちゃぶ台に座る。

 

「あ、ミナちゃん。はい、お茶です」

 

ミナのぶんのお茶を茶碗に注いで、岬は首を傾げた。

 

「契約の魔法でしたっけ?それがあると危害を加えられなくなるんです?」

 

「まあ、そんなもんかな……あのセクハラは立派に危害だと思うんだけど、調和神様の判定ではOKらしいの、ちょっと納得行かないかも……」

 

ミナは岬の遠慮を察することもなく、置いてあったせんべいをボリボリと食べる。

 

「おかずは作らないんです?」

 

「昨日のカレー温めるから余裕。カーチャン、今日はいないし」

 

茜は昨夜遅くに水道管がまたも市内各所で破裂したらしく、その関係で徹夜で仕事中のはずだ。

 

事態が収まれば半休でもして午後には戻ってくるだろうが、とミナは踏んでいた。

 

「わぁいカレー、岬カレー大好き」

 

「ネタが古いわねーそれ何年前だっけ?」

 

「さぁ?あたし、ネットミームでしか知りませんですし」

 

岬はミナが朝食を気にしないでせんべいを食べていることに、自分も気にしなくてもいいか、とせんべいを手にとって口に入れる。

 

そのせんべいをポリポリとかじりながら、ミナの方を向いて聞いてみた。

 

「ルルくんって、どういう経緯でミナちゃんと一緒にいるんです?そんなに詳しく聞いてないですよね?」

 

今はレンズの入っていない小さな伊達眼鏡を指で押し上げて岬は聞く。

 

「うーん……まああいつ自身の経緯はあいつが自分で言うとして……まあ、そのくらいならいいか」

 

ミナは腕を組んでうーん、と唸った後にそう言って立ち上がった。

 

「今日はバイトもお休みだし、ゆっくりお話しましょう」

 

言うが早いか、牛乳パックを冷蔵庫から取り出して、昨夜岬を1人家に残す前に作っていたカレーに火を入れ、そこに足す。

 

二日目のカレーには牛乳と小さじ1杯のとんかつソースを入れるのがミナ、そして茜のやり方であった。

 

カレーが温まってもミナは焦げ付かないようにしつこくかき回し続け、ご飯が炊きあがるおおよそ30分後までその動作を続けた。

 

岬はその間、じっとその背中を見つめていた。

 

―――ご飯が炊きあがって数分後。

 

「さてまずはどこから話したものか」

 

ミナは福神漬とらっきょうを冷蔵庫から出して、カレーをよそいながらそう言った。

 

カレーを2枚テーブルに置いて、スプーンと箸を岬に渡すと意を決したように話を始める。

 

「―――あれはもう170年ほど前のこと―――」

 

ミナはスプーンでカレーライスを掬いながら、遠い日の歌を謳い始めた……

 

 

 

『古き歌にあり。闇の森人去りし闇黒よりも尚黒き闇の森に美しき悪魔が潜む』

 

朗々と響く吟遊詩人の歌は、道行く人々の歩みを止め、その歌声と語られる物語で魅了していく。

 

その中に、吟遊詩人の歌を興味津々に聞く鍛銀の剣を携えた軽装のエルフ、頭に大きな青いリボンを着けた少女がいた。

 

彼女の名前はミナ・トワイライト。

 

ガミテ王国の危機を救った凄腕の精霊術師にして剣士……と言われているハイエルフの少女だ。

 

勇名が過ぎてもはや伝説の勇者とまでもてはやされてしまい、窮屈になってしまったその国を飛び出してきたのはもう2年も前のことだ。

 

それ以前にも同じようなことがあり、そのたびに別の国へ飛び出していくのは彼女の常であった。

 

彼女が今逗留しているのはマガサロン民主国という直接民主制を採る小国である。

 

彼女の容姿は目立つ……いや、それこそ絶世の美少女と言っていいものであったが、浮かんでいる表情がいたずら好きの子供のような歯をむき出しにした笑みだったため、幾分かその印象も薄らいでいた。

 

ミナはその吟遊詩人の歌を聞きながら、仲間を集めてその森へ挑むことは出来ないかと考えていた。

 

「いいじゃん。すごいいいじゃん。わくわくするじゃない」

 

吟遊の邪魔をしないよう小声で少女は笑う。

 

『おお、悪魔は嗤う。冒険者たちを嘲笑う。騎士を嘲り、戦士を誹り、次を待つ。次は誰が挑むのか、勇者の訪いを待っている―――』

 

果たして、彼の口から紡がれし物語は悲劇で終わった。

 

冒険者の半数は死に、半数は返されたと詩人は歌う。

 

詩人が帽子を取ってお辞儀をしたことで歌が終わったことを悟った聴衆らは、チャリンチャリンと音をさせて銅貨や銀貨を詩人の帽子へと放り込んでいった。

 

ざわざわと喧騒が戻り、おおよその聴衆が去っていった頃、詩人の帽子に一枚の金貨、それも小金貨5枚に相当する中金貨が放り込まれる。

 

「おおっと……?これはこれは……」

 

「ね、詩人さん?その森って本当にあるの?」

 

腕を背中側で組んで顔を近づけ、ニコニコと朗らかに笑う少女に詩人は気圧される。

 

「その目立つ見た目ぇ、上の森人さんかぇ……こんな小せぇ国の都になんの用ですかいね」

 

詩人は浅黒い肌をした山人、つまりドワーフだ。

 

少女はその疑問には答えずに、山人の目を見て笑う。

 

「珍しいなあ、って。こういう昼の太陽の下で歌う人は喜劇や英雄譚を歌うものですよ?それもドワーフの人なら余計。それが詩人さんと来たら、ずっと悲劇を歌っているのですもの」

 

「ああ、ま、それも趣味でねえ。ま、ワイくらいんなりゃあさ、気が滅入る悲劇でもおひねりは飛んでくるってもんだわ」

 

ジロジロと詩人がミナの瞳を見る。

 

「あんた本当に森人さんかいね?その長耳はつけ耳じゃないだろうねぇ?」

 

伝統的に森人と山人は仲が悪い……というか、仲が良くても喧嘩友達のような関係になることが常だ。

 

その因果のようなものが、詩人には何故か感じられずに首をひねる。

 

見ればその身に弓を帯びている様子もなく、青く塗られた上等そうな革鎧と鍛銀の長剣を身に着けていることから剣士のようではある、と詩人は思った。

 

「生粋かどうかはわからないけども、間違いなくハイエルフよ。イファンタにある天護の森から来たんですよ、詩人さん」

 

ミナはそんな詩人にあくまで友好的に―――森生まれのエルフとしてはなんとも不似合いに―――そのドワーフに笑いかける。

 

「ワイはラチョマー山のカイムだ。おまあさんの名前はなにかいな?」

 

不審に思いながらも詩人……カイムは名を名乗る。

 

少女はそれにうんと頷いて、「天護の森のミナ・トワイライトです。よろしくお願いします」とあくまで丁寧に頭を下げた。

 

「山人に頭ぁ下げる森人なんざ初めて見たわいや」

 

「そうですか?………確かに、頭下げてるようで下げてない同族は何人も見ましたね、ええ。良くはないと思います」

 

ふむ、と唇に指を当ててミナは「問題だ」と呟く。

 

確かに、典雅さを持つその仕草はエルフで間違いがないようであった。

 

「で、ミナ・トワイライトだったかぇ?その名前っちゃあガミテ、エトス、後ぁギアーガを救った勇者のもんだ。お嬢ちゃんが騙るには過大じゃねえのかや」

 

「だから、ですよぉ。誰も信じませんもの。こんなちんちくりんが勇者なんて。騙るにはもってこいの名前です」

 

ミナはクスリと微笑んでそう答える。

 

「で。カイムさん。その森ってほんとにあるんですか?」

 

興味津々といった風情でもう一度聞くと、カイムは仕方ねえない、と瞑目して答えを紡ぎ出した。

 

「歌んとおりだわぇ。こっから東に月の半周りほど歩いたところにリドル輸送団の本拠があんだ。そこまで街道沿いに行って、まっつぐ北にもう月の一巡り歩いたところにある。そいだけは間違いないわいね」

 

はるか北北東の方角を指してカイムは続ける。

 

「見てきたからわからぁね。あすこにゃぁ行っちゃいけねえぞ、ハイエルフのお嬢ちゃん」

 

「そうですね……ちょっとわくわくしてきました」

 

「いや、話ぁ聞けっての!本気でひどいとこだっつの!!」

 

相変わらず満面の笑みで森への挑戦を仄めかす彼女に、カイムは思いっきり怒鳴った。

 

その声に、ミナはきょとんとして「……どのくらいヤバイか、教えてもらえます?」と今度は神妙な面持ちで聞いてみた。

 

「話ぁ長くなんぞ」

 

「いいですよ。食堂にでも入りましょう。もちろん、お酒もおごっちゃう」

 

ミナはサムズアップをしてカイムに食事をおごると約束し、情報を聞き出そうとした。

 

カイムはどうあってもこの小人のようにも思える少女が引くつもりはないのだと察する―――ドワーフに飯と酒をおごるというのはそういうことだからだ。

 

 

 

その店は「歌う小鳩亭」という小さな店だった。

 

カイムの行きつけの店らしく、珍しくもドワーフ達秘伝の火酒を仕入れているという。

 

勝手のわからないミナはカイムが頼んだものと同じものを頼んだ―――酒も。

 

「お嬢ちゃん……」

 

「ミナでいいですよ、カイムさん」

 

「じゃあ、ミナ。おまぁさんよぉ、森人が火酒なんざ飲んだらぁなぁ、引っ繰りけぇっちまうぇ。やめとけや」

 

呆れた顔でカイムがドンと置かれた錫のボトルから木のグラスにとくとくと酒を注いだ。

 

「いやあ、物は試しですよぉ。ダメそうならあげますんで」

 

そう言って、ミナはボトルを取り返すように奪うと同じく自分のグラスへ注いで笑った。

 

「どうなっても知んねぇわいや……?」

 

「かんぱーい!」

 

そうして二人はグラスを合わせ、ミナはドワーフの流儀に合わせてグイとひと呑みにその火酒を飲んで目を見開いて驚いた。

 

「……木の香りがする。もしかして、これウィスキー?ジンとか焼酎じゃないんだ……すごい。ここらへんのドワーフすごい」

 

「……それ飲んで平気なエルフなんざぁ初めて見たわいぇ……本当にあんた森人けぇ?」

 

同じく目を見開いて驚愕するカイムに、ミナは「ちょっと特別製なもので!」と笑った。

 

「これって木の樽に入れて保存しているんですよね、多分。色んな所を旅してきましたけど、大体他のところでは火酒と言っても樽じゃなくて陶器で保存しているから、こんな焦げた木の香りも琥珀色の色味もつかない……」

 

「よぉわかるわいぇ。ここらじゃぁ良い土も石も取れんけぇ、木の樽使って保存するんだわ。酒に混じりもんへぇんなぇよぅにその樽の中を焦がしてやるのよ」

 

早口でブツブツと酒の品評をする少女に、詩人はこの火酒の製法を答える―――驚くべきことに、それはミナの知る地球のウィスキーの作り方によく似ていた。

 

「へぇ!名前とかあるんですか?」

 

ミナは自分と詩人のグラスにもう一杯酒を注いでそう聞いた。

 

「火酒は火酒だわいぇ。名前は只人がつけるもんじゃいな」

 

「そっかーそうなんですね」

 

ミナはそのウィスキーを舐めるように飲んで、しみじみとした気持ちになる。

 

泥酔するほど飲むのはNGだが、この程度は大丈夫。

 

料理が来るのを待ちつつ、彼女はその懐かしいとさえ言える酒を味わっていた。

 

「おまちどうさん」

 

つっけんどんに片目が潰れた店主が料理を次々とテーブルへ置いていく。

 

六脚豚の香草焼き、木芽とグリーンスライムの干物のサラダ、そして川魚のソテーに塩と油だけで味付けされたパスタが山盛りで出てくる。

 

「やっぱ野菜中心かぇ、食うのは?」

 

「いや、それが肉も大好きでして」

 

ほとんど丸焼きに近い香草焼きを慣れた手付きでバラバラに切り分けていく手際は優雅でさえあり、肉を食べることを忌避する生粋のエルフとはとても思えない仕草であった。

 

「ミナよぉ、おまぁさん小人が化けてんではねぇんだろぉなぁ?」

 

「よく言われますけどねーそれ」

 

二人は野趣を損なわない程度に切り分けられた肉を素手で掴んで口に入れる。

 

「あー美味しいッ!なぜこうも濃い味付けの肉はうまいのかッ!醤油がないのが悔やまれるぅ!」

 

「ショーユ?なんじゃいなそらあ」

 

ミナは聞いてきたカイムに、つい口に出た前世の調味料のことを説明する。

 

「あー……まあ大豆で作ったソース、です。魚醤みたいな感じで。まだお目にかかったことは(この世界では)ないのですが」

 

こちらの世界にはあるのだろうか。

 

少なくとも酒があり、発酵というプロセスがある以上、似たようなものは作れるはずだとミナは踏んでいたが、確証はない。

 

醤油がこの世界にも存在することを彼女が知るのは、それから半世紀近く後のことだ。

 

カイムはその曖昧な言葉に、あごひげをこすりながら「ふーん……ドワーフが知らん食い物を知れぁそら食いたくなるように出来てんだわ。もし手に入れたらワイにも分けてくれや」と言ってまた火酒をグイと飲んだ。

 

「したらば本題に入ろうやぇ。あんた、なんだって歪んだ森なんざぁ行こうって気になったい?」

 

飲んで、そう睨めつける山人の詩人に、ミナはニヤリと笑って答えた。

 

「そこに困難があるから……です。冒険とはそう言うものでしょう?」

 

「そんな気持ちで行った阿呆が、もう何十人も帰って来やせんわぇ。帰ってきたもんも冒険者ぁやめちまったり、頭おかしくなって引きこもったりってぇなぁ」

 

カイムは不機嫌そうに川魚のソテーにフォークを突き刺す。

 

一匹をそのままバリバリと頭から食べて、豚肉をサラダの葉で巻いているミナをもう一度睨めつけた。

 

「こんな風に食われっちまうぇ、あのバケモンによぉ?それでも行くっていうんかぇ?」

 

「それでも、です。そこまで危険だというのなら、ソロでまずは偵察を。それから仲間を募って挑もうかと」

 

ミナは豚肉をむしゃむしゃと食べて、カイムの目を見る。

 

「……本気も本気、っちゅうことかぇ。勇者様の名前を騙る小娘にゃあふさわしかんべかねぇ……」

 

ため息をついて、ドワーフは火酒を煽った。

 

「いいだろぉ。じゃあ、ワイと……もっかい挑みてぇいう馬鹿野郎がいる。少なくともワイとおまぁ、そいつで3人で挑めるわいや」

 

「……口ぶりからすると、一度はその森に挑んだことがあるみたいですね、カイムさん」

 

ミナが表情から笑みを消して、ついてくると言ったカイムを見る。

 

カイムはその目を真っ直ぐ睨み返し、「ああ、そうだわぇ。ひでえ目にあったもんさ」と言って、フンとそっぽを向く。

 

その様子に、ミナは「ふぅん……」と含みのある相槌を打って、塩パスタを取り分けた。

 

(色々あったみたいね……)

 

ミナは塩パスタをフォークでくるくると巻き取って口に入れる。

 

その塩パスタと一緒に食べる六脚の豚肉の味は、格別だった。

 

 

 

「……二日酔いなし!ヨシ!」

 

ミナはカイムとともに食事をとった後、宿屋も兼務している「歌う小鳩亭」にそのまま泊まっていた。

 

昨夜はあのままふたりともが腹一杯になるまで飲み食いしたのだが、その代金は小金貨2枚で済んだ。

 

ミナは二日酔いにならなかった幸運をガミテにいた頃に入信した調和神に感謝しつつ、とても安くてうまい店だしここを滞在中の定宿にしようかと本気で思っていた。

 

調和神に入信したのは、なんのことはない。

 

当時のパーティーにいた新米の女神官の勧めで入信しただけだ。

 

同じパーティーにいた森生まれの森人は「すごいな、君」と若干引いていたことを思い出す。

 

そんな女神官と森人は今や冒険者を引退し、結婚して家庭を持っている……彼女らの子供を見ることなく出奔したのは、それから2年経った今でも少しの心残りだ。

 

こちらからは手紙を出していて、向こうからも定宿にしている宿へ手紙が来ることがある。

 

絆はたしかにつながっていて、それは前の冒険の確かな成果の一つだ、とミナが自信を持って言えることの一つだ。

 

そうして思いを馳せながら少女は下着を着替え、服を着て「しゃっ」と気合を入れる掛け声を入れた。

 

ミナは多くの森生まれのエルフと違って、下着は穿く派である。

 

下腹が落ち着かない、とこちらの世界の母に言って微妙な顔をされたのはもう60年も前だろうか。

 

「感覚おかしくなるわねー……地球人やってた頃と時間感覚がさー」

 

ミナはそう、日本語で言って笑う。

 

着替え終わったミナは荷をまとめ―――先だっての冒険で手に入れた―――無限のバッグへ放り込み、チェックアウトのため階下へと降りていく。

 

そして用意されていた朝食を食べると、ぶっきらぼうでつっけんどんな片目の店主に宿代と朝食代を渡して外へ出た。

 

―――気持ちのいい天気で、空は真っ青に晴れている。

 

だというのに、どこかどんよりした空気が……精霊の動きが感じられたのは気のせいではない。

 

(なんとなくわかる。精霊の力が乱れて、風と水には力があるのに、土の力がすごく枯れてるんだ……)

 

マガサロンの都の周りはエルフの森と言っても通じそうな古木の森で、たしかにそれだけでも土の力は落ちようというものなのではあるが……

 

「とりあえずカイムさんともうひとりに会って、森へ向かう準備をしなきゃね」

 

そうして昨夜別れ際に合流する場所として指定された広場……昨日、カイムが歌っていた広場へと足を進める。

 

マガサロンは大国ガミテと剣聖国マーナ、土の王国ギアーガの中間点にある国で、交通の要衝だ。

 

だから、土の力が衰え、作物が作れなくとも貿易でやって行けているのだろう。

 

それを示すように、広場は今日も大勢の人々で賑わっていた。

 

「えーと、カイムさんカイムさん、っと……」

 

きょろきょろと見回し、カイムの姿を探す。

 

人混みの多さからすぐには見つからないと思ったが、ドワーフの吟遊詩人は珍しい。

 

10秒もしないうちにカイムがいる場所がわかった。

 

その隣に立っているのは、長身の只人。

 

性別は……その胸の豊満さを見れば、男と思うものは誰ひとりとしていないだろう赤毛の女騎士であった。

 

「ああ、いたいた!カイムさーん!おはようございまーす!」

 

「おお、きたかいや。ハルティアよぉ、こいつがそうじゃいな」

 

近づいてくるミナに、カイムは目を向けて、ハルティアと呼ばれた女騎士に声をかける。

 

ハルティアはずいと前に出ると、ミナの目を睨めつける……まっすぐに。

 

「ほー、いい目をしてるじゃないか。いけ好かんエルフにしては。私はハルティア・アウグスティヌス。今はしがない冒険者をしている女だ。よろしく頼む」

 

「ま、同族にいけ好かないアホが多いのは認めますけどね、只人も大概ですよ。私はミナ・トワイライトといいます」

 

ミナはニコリと笑い、敵意の欠片も見せずにそう答える。

 

それにハルティアは得心したように腕を組んで首肯し、「然り然り。我らヒューマンにも愚かしい者共は星の数ほど存在しよう。いや、訂正しよう。いい目をしている。この世界の有象無象とは思えんほどにな」と言ってクックッと含み笑いをする。

 

(えっらそーだなー……多分どっかの貴族か王族のお嬢様って所ね)

 

ミナは「いいですよ、気にしてないです」と言って右手を差し出した。

 

ハルティアはその手をぐっと右手で握り返す。

 

「カイム殿の紹介ゆえ、全く心配はしていなかったが、ふふ……これは期待できそうだ。そなた、相当やるだろう?剣に弓、短剣や棒もいけそうだな?」

 

口の端を危険な角度に釣り上げて女騎士は笑った。

 

「……その獰猛な目と漆黒の鎧……黒い悪魔とお呼びしてもいいでしょうか?」

 

「は、はははっ!それはまた愉快だな!我らがこれより挑む地に潜むものもそう呼ばれている!私のことはハルティアでいい!さ、準備をしようじゃないか!リドル輸送団の下で補給はできようが、都合一月半の長旅だ!準備は万全にしようではないか!」

 

とあるRPGで異民族の少女が黒い騎士王子に言った言葉を真似たミナに、黒い鎧の女騎士は呵々と笑う。

 

そうして右手で額を押さえるカイムが「こういうやつなんだぇ……我慢しとぉせえや」と口をひん曲げて弁解した。

 

「いいですよ、ホント気にしてないですから」

 

ミナはひらひらと蝶のように手を振ってカイムに笑いかける。

 

こういう手合はこの60年、何度か見てきたし、今回もどうにかなるだろうとミナは思っていた。

 

それがどうなるかは、件の森についてみるまではわからないことでもあったのだった。

 

 

 




昨日投稿するの忘れてたでおじゃる。

言い忘れてましたが、ロリになっても岬は伊達眼鏡してます。

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