異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第56話「絵空事の詩 -昔のお話②-」

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おおよその買い物が終わり、遅めの昼食を取りながらハルティアはミナの顔をまじまじと見ていた。

 

「上古の森人とあらば、2000の齢を超えねば森は出ぬと聞いたものだがな……そなた、500歳にもなっておらぬのか……相当やるな、様々な意味でだ」

 

昨日と同じ塩パスタに鶏肉の塩焼きと木芽のサラダをおかずとして注文したミナに、ハルティアはシチューに堅パンを浸けて潤びさせながら感嘆した。

 

「そうです?うちのトーチャン、あ、いえ父上は700歳で森を出て50年くらい冒険者してた、って言ってましたけど。普通なのでは?ほら、ハイエルフの300年って誤差の範疇ですしおすし」

 

ミナはこちらの世界の父に早すぎるからと2年以上反対され続けた過去を隠して笑う。

 

母曰く「父も祖父にそう反対された」ということなので、まあそこらへんは地球人の魂とも関係なく血筋なのだろう、とミナは断じていた。

 

その返しにハルティアは鼻白んで、シチューをたっぷり吸った堅パンを口の中へ放り込む咀嚼すると「うーむ、そこらへんは部族によって異なるのであろうか?興味深いことだ」とさして興味もなさそうに返事する。

 

「まぁええぇんでねえなや。森ぃおん出たのが早すぎるってぇ勇者の名前騙るにゃぁそのくらいの根性は要るわいなぁ」

 

山人はグビリグビリ、とワインを瓶ごと飲み干して口髭を拭い、そして鶏肉の塩焼きを頬張ってフン、と鼻息を荒げた。

 

さてもさても上古の森人と長身の女騎士、それに吟遊詩人の山人とは奇異な組み合わせである。

 

ともすれば、女騎士以外の二人は戦闘がきちんとできるのかも怪しい、と余人は思うだろう。

 

ミナもまた自分を棚に上げてカイムに対してそう思ったが、よくよく見れば背に負っていたのはリュートだけではないようであった。

 

壁を見れば、リュートと×の字を描くように短い斧が立てかけられている。

 

店に入った時、カイムが詩人のマントで隠すように持っていたそれを出した瞬間、ああ、やはり冒険者だったのだな、と少女は内心で微笑んだ。

 

「そのとおりであるな。私も名を聞いた時少々驚愕を禁じ得なかったが……しかし、相当やるだろう?本物ではないのか?」

 

「やーだなーハルティアさん、こんなちんちくりんが勇者だったら、世の男共が幻滅しちゃいますよぉ。詩人の歌でも、種族不明の妙齢の女性ってことになってるじゃないですか」

 

あっはっはー、と笑ってミナは水で薄めたワインをがぶりと飲み干した。

 

大してうまくもない、むしろ不味いその水のような何かは、水の豊富なこの地でも人々の主要な飲料であった。

 

「ふっ、吟遊詩人の歌など、大げさな脚色ばかりで真実には程遠かろう。この大工の棟梁みたいな顔した詩人の歌を聞いたのであればわかろうさ」

 

ミナの言葉をまるで信じていない、といった風情で女騎士はシチューをスプーンで掬い、自分の歌を腐された山人を無視してくぁっと大口を開けて飲み込んだ。

 

「うん、美味い。こういうのがいいのだ」

 

今日は鶏肉が多く仕入れられたのか、メニューが鶏肉づくしである中、女騎士が頼んだその鶏肉とゴボウらしき根菜のシチューは、色味はともかく実に美味しそうな匂いを発していた。

 

ミナは追加注文しようかどうしようかを迷いつつ、女騎士と山人の詩人に思い切って聞いてみた。

 

「ところで、私の行く理由は言いましたけど、お二人が行く理由をお聞かせ願えないでしょうか」

 

むしり、と堅パンを千切って女騎士は「なんだそんなことか」と笑う。

 

「もうしばらく前の話だが、兄とな、冒険者をしていたのだ。しかしながら、例の森に挑んで負けてしまった。このカイム殿と、後3人ほどで。まあ後は詩の通り。半分が殺され、半分が返された。私と兄、カイム殿は生き残ったのだが、はは、兄は怪我がひどく実家に戻されてしまったよ。私の挑む理由はこれだけだ」

 

「ワイもだぁわ。半分はおまぁさんがあの森に行くのが心配だからぁだんが、もう半分はぁあのクソ野郎には一度泡吹かせんとならんってこっちゃ」

 

ハルティアはあくまでも飄々と、カイムはどこか苦虫を噛み潰したような顔でそう答える。

 

ミナはその答えに、「YESだね」とどこかのアニメの主人公のセリフを日本語で呟いて、「納得しました」と共通語で返した。

 

「出発は……今日にします?明日にします?」

 

「ははっ、急ぐ旅でもないのであろう?私は共に冒険に出るものは、一度は酒を酌み交わさねばならんという信念を持っている。お互いの戦力の確認も含めて、今日は飲み明かそうではないか」

 

ドン、と木のジョッキをミナの前に置いて女騎士は呵々と笑う。

 

そのジョッキの中身は、紛うことなく100%ぶどう酒であったのだった。

 

 

 

―――現代。

 

「とまあ、これがルルの森に挑んだパーティーでねー」

 

時刻は既に7時半を回り、ミナはあれから1時間半ほどこの話をしていたようだ。

 

ミナは朝食の片付けをしつつ、岬に「まだ聞きたい?休憩する?」と聞く。

 

岬は「へー、面白いですねえ。続けて?」と笑って、続きを促した。

 

「はいはい……えーと、それで、結局2人共酔いつぶれて、カイムに部屋に叩き込まれて翌日二日酔いで死にそうになりながら出発したのよ……」

 

 

 

結局、ミナの二日酔いが覚めたのは出発して2時間ほど経過した昼下がりのことであった。

 

ミナは「ひでぇ目にあった……」と日本語でつぶやきつつ、街道の脇でお弁当を広げていた。

 

「無限のバッグかぇ。こりゃあとんでもねぇのぉ持ってんなあ、おまぁさん……」

 

カイムが飲み物……酔い醒ましの柑橘水の入った水袋をまだ二日酔いから回復していないハルティアに渡しつつ驚く。

 

「それは……無限のバッグであったか……ますます……おぇ」

 

ハルティアは受け取った柑橘水を飲む間もなく、それを放り出して地面に座り込んで乙女の尊厳を口から吐き出した。

 

水袋を地面に落ちる前にキャッチしたミナは、その様子に「あっぶねー私もやらかすところだったし……」と小声で呟く。

 

そして胃の中のものを吐き出し尽くしてもなお空嘔を繰り返す女騎士の背中をさすってやった。

 

「只人だぁ森人だぁは大変じゃいなぁ……二日酔いするほど飲むなぇって酒の神さんからの思し召しだわいぇ。たっぷり苦しめぁ」

 

「うぉぉのるぇぇぇ……何故ぇミナはァァァァ……ウオェ!そんなに回復が早いんだぁぁぁぁ……私とそんなに……違わんほど飲んだるぉぉおおおぉぇぇぇぇぇ……ずぅるぅぅいぃぃぃ……!」

 

空嘔を更に繰り返しながら、女騎士の怨嗟の声が響く。

 

ミナは単に途中からチェイサーの柑橘水をはさみつつ飲んでいただけだった、ということには触れないで、はいはいと相槌をしながらハルティアの背中を擦り続けるミナだった。

 

それでも酔いつぶれたのだから、ミナは自分の運が良かったことを調和神に感謝する。

 

結局、その日ハルティアが回復し切ることはなく、吐瀉物が撒き散らされてしまったそのあたりを少し離れた場所で野営をすることになったのは言うまでもない……

 

 

 

野営をしててくてく歩き、野営をしてはてくてくと歩いて、早10日が経過していた。

 

その間、特に面白いこともなく、はぐれのコボルトやゴブリンに何度か遭遇しただけで、ほとんど魔物に遭遇することもなかった。

 

10日の間で一番大きな出来事は、リドル輸送団の荷馬車が脱輪して動けなくなっているところを助けてあげた程度であった。

 

「ビオールの街道を地道に一月半、かあ……一日の歩みがえーと10時間くらいは歩いてるから……まあ大体福島県から鹿児島県くらいまであるのか……?」

 

おおよそ出発点からの道のりは1500kmほどと見てミナはふーっと息をついた。

 

「よくよく考えればアホみたいに遠いですね。大陸横断しかねない勢いですよ」

 

「そうだわいなぁ。おまぁさんが無限のバッグをもってなきゃあ途中で村やら町やらぁ寄らねばならんかったぇ、もうちっと旅程は短くなろうかいな。後1日半も歩きゃあリドル輸送団の本拠だぇ」

 

カイムはずしりずしりと地面を踏みしめて歩いていく。

 

「早く行くにも馬車……は尻が痛くなるから好まん。急ぎの旅でもない……まあ、楽しみながら行こうではないか。ミナよ、今晩も昨晩の続きの話を聞かせてくれよ」

 

そうハルティアに肩を叩かれて、ミナは苦笑する。

 

「それにしてもあれはどこのサーガなのだ?少なくとも森人のものではあるまい?」

 

「遠い場所の、古い歌……ですよ」

 

ミナは少し遠くを見て、そう答える―――

 

まあ、彼女が語っていた物語は、某初代ウ○トラ○ンのファンタジー風アレンジであったのだが。

 

彼女の妹をお守りしている時に、何か話をしてくれとせがまれて作ったものの一つである。

 

もちろん全39話を丁寧にアレンジしたそれは、天護の森でも人気の創作歌であった。

 

「そんなに気に入りました?『星の守り人の物語』」

 

「ああ、絵空事だとわかるのがいい。そこに事実も空々しい脚色もなく、ただただ人々を守る巨人や戦士たちと脅かす魔獣や魔神の戦いがある。それがたまらなく良い」

 

ハルティアのその言葉に、ミナは特撮の神様とその後継者たちに感謝する。

 

そうして少しでも前世の世界の縁が残れば良いと微笑んだ。

 

「カイム殿も見習うがいい。真の歌とは虚構の中にあると私は見る!」

 

「アホぉいいなさんな。そりゃ一面の真実ぅちゅうやつにすぎんわぁや」

 

カイムにわかったような口を聞く女騎士に、山人は呆れて物が言えないと返してミナを見た。

 

自分なりの答えを言えと言われたような気がしたミナは、ほんの少しだけ考えて答えを出す。

 

「事実はいつもひとつですが、真実は見るものによって変わります。だから、物語に真も虚もないというのが私の意見ですね」

 

その言葉にカイムは「いやさぁ全くそういうことだわいな。ハルティアよぉ、おまぁさんはまぁだまぁだわかっとぉらんちことだわいな」

 

「ふーむ……吟遊とはそういうものか。まあ虚実織り交ぜなければ物語たり得ぬのはもっともだ」

 

ハルティアは首を傾げて槍を回し―――それを前方に向けてそう言った。

 

「虚しかなきものにはわからぬであろうが―――そこのもの、出てこい。獣の臭いは隠してもわかるものだぞ」

 

槍を向けられた先の茂みから、黒装束の男たちがガサガサとかき分けるように現れる。

 

「ミナよ、気づいておったろう?」

 

「……まあ。脅威度が低いので、こっちに危害を加えようとしたら殺ろうと思ってました」

 

ミナは鍛銀の長剣を抜き、スモールシールドを前に出して構える。

 

女騎士もまた長槍を構え、笑った。

 

「お主ら、人ではあるまい……何者だ?」

 

『……』

 

ハルティアの問に、黒装束の者共は何も答えずにこちらを囲んでいた。

 

「どうすんじゃいなぁ?」

 

「そりゃもちろん……」「蹴散らす以外になかろう!」

 

3人はそうして戦闘に入った。

 

「優しく麗しく淫らなる森の乙女ドライアードよ!その腕で我が敵を覆え!その愛で我が敵を縛れ!」

 

ミナが上古のエルフ語で素早くそう唱えると、周囲の森の木がその触手―――否、枝葉や蔦を伸ばして黒装束へと襲いかかる。

 

精霊術の第三位階、蔦縛りの術アイヴィーロックだ。

 

総勢10人ほどのうち、それで捕まった3人がハルティアの素早い突きであっという間に頭を飛ばされて崩折れる。

 

突きを放ち終えた隙を狙った別の男は、ミナの横薙ぎの一閃で胴を断ち切られて地獄へと落ちた。

 

「一匹はぁ生かせよぉな。なんなんかぁ調べねばならんわいぁ」

 

カイムは手斧を投擲し、それはガスリと黒装束の顔面を潰して地面へ落ちる。

 

それを惜しむことなく、次はリュートの中から仕込み刀を取り出して、「シャァ!」とドワーフに似合わぬ叫びで黒装束の喉笛を掻き切った。

 

なんのいいところもなく黒装束たちは既に数を4名まで減らし、既に劣勢は覆すことが出来ないほどになっている。

 

状況を判断したのか、黒装束たちは顔を見合わせ首肯するとそのまま上に跳んで逃げようとして―――

 

「させるかぁ!!」

 

ミナが放った鎖分銅で脚を絡め取られて、3名が転倒した。

 

そしてミナは短剣を逃げようとした黒装束の首筋に、後ろから正確に命中させる。

 

黒装束は哀れ地面に墜ちて血泡を吹きながら絶命し、残った地面に転がる3人もまた―――

 

その時であった。

 

『―――退けねば死ね』

 

何者かの声が、その場にいる全員の心のなかに響く。

 

ザシュリと何かが切り裂かれる音が聞こえ―――

 

鎖分銅で転倒した3人の黒装束は、その声が響くと同時に喉笛に鉤爪を突き立てて絶命していたのだ。

 

「あ!?やられた!?」

 

ミナが叫ぶが時既に遅し。

 

死んだ黒装束たちもまた、グズグズと崩れ溶けて消えていったのだった。

 

「……こぉれぁ……逃したかや……結局調べられんかったかぁのぉ」

 

「感じた精霊力からするとアンデッド、それも相当強い負の精霊力を感じました」

 

カイムの疑問にミナが答える。

 

「不死者なら、奴かも知れん。奴の森はじわじわと範囲を広げているからな。影響力はあるやもしれん」

 

ハルティアは槍の穂先を振って黒装束の血らしき液体を払うと、顎に手を当ててそう呻いた。

 

「我らは一度あの森に挑み敗れた者だからな。あの化生に監視されていたのやも」

 

そうして不機嫌そうに前を見る。

 

「まぁ進んで見ればわかるさ。征こうではないか」

 

「そうですね……」

 

―――先を往こうとするハルティアの背中に一抹の不安を覚えたのは、気のせいか。

 

ミナはカイムに目線のみ、無言でそれを訴えるが、カイムの瞳は何も答えることはなかった。

 

 

 

それから1日半。

 

カイムの予測どおりに、ミナたちは大陸輸送の中継点の一つであるリドル輸送団の本拠地に到着していた。

 

ひっきりなしに馬車が行き交い、伝書鳩―――の使い魔―――が空を飛んでいく。

 

宿屋や雑貨屋もそこかしこに見られ、ほとんど都市の様相を見せていた。

 

しかし、ここは都市ではない。

 

カイム曰く、リドル輸送団の創始者と言われている「マスラオ」が「街を作るな、一つに留まるな、運び続けろ」と遺したことが由来となって、この本拠地はあくまで本拠地であって、都市ではないと公称されている。

 

事実、この本拠地はこの100年の間でも2度ほど場所を移している―――主に魔王の誕生によって。

 

現在の場所には30年ほど前、ギアーガに巨大な迷宮が出来たことをきっかけとして移動した。

 

大国間の輸送を一手に握っている国際的な輸送部隊のためどの国にも属さず、戦争が起きれば彼らに中立義務を強制するダライゼーン条約によって当該国への輸送を停止する。

 

国家に属さないエルフの森や鉄の王国に従わないドワーフたちと並ぶ、国際的な見えない権力の一つが彼らであった。

 

それ故に政治的に取り込もうとした勢力や国家もかつては存在したが、いずれも失敗し、歴代の団長……特に現在の団長ラ・マグナはそうした行いを嫌悪・拒否しているのだと言う。

 

「ま、そんだから安定しとぉがいね」

 

「安定してるなら良いことですよ。権力は遠くにあって安定して政治を行ってくれてればそれでいいですからね。自分から近づかなくちゃいけなくなった人は、ご愁傷様です、と」

 

ミナは昼食に頼んだ塩味の野菜炒めが乗ったパスタにタバスコをかけながらそう答える。

 

(タバスコはあるのに、何故タコスとかはないんだろうか……)と不思議に思いながら。

 

「とはいえあの森の拡大が続けば、半世紀も経たぬうちにまた引っ越すことになろうさ、この基地も」

 

昼間から薄めないワインを飲みながら、ハルティアは笑う。

 

「まあ、我々にはそう大きくは関係のない話だ。物資補給も終わったし、酒も十分に買った。後は北に向けて一月歩くのみよ」

 

ひっく、としゃっくりをする既に3杯は飲んでいる女騎士はもうすでにだいぶ出来上がっているようだった。

 

「まぁ、出発はぁ明日でええがいね。ハルティアよぉ、飲みすぎて都ォ出た時みたいになるんじゃぁねぇぞな」

 

カイムはジョッキの中の水で薄めていない火酒をグビリと飲み、そう嗜めると店員を呼んでおすすめの肉料理を頼んだ。

 

ふたりとも本格的に飲み始めたのを見て、なんだか馬鹿らしくなったミナはもう今日は進まないな、と思い店員さんを呼ぶ。

 

「すいませーん!店員さーん!注文いいですかー!!」

 

「はいはーい」

 

呼ばれてウサギ耳の獣人のウェイトレスさんが近寄ってくる。

 

普通のメイド服……フレンチメイドではない前世世界の伝統的なそれに近いものを見に付け、特に扇情的な格好をしているわけではないが、いるだけで色気を感じるような女性だった。

 

(まードワーフのおっさんと女二人じゃねー。いくら色気あってもかんけーないわー)

 

前世の自分だったら鼻の下でも伸ばしていたのではないだろうか、と思いつつ、ミナは「山人のマガサロン風火酒」と書かれたメニューを選ぶ。

 

ついでにおつまみとしておすすめの野菜料理と魚料理を大皿で頼むことにした。

 

「おー食べますねーエルフの方にしては。っていうかお魚食べるんです?わたくし、エルフの方がお肉やお魚食べるの見たことありません」

 

注文を小さな黒板にチョークで記載しつつ、ウサ耳ウェイトレスは少し驚く。

 

その様子に4杯目のワインを飲み始めたハルティアが「失敬な。私たちの分も含まれているんだろう?」と手を振った。

 

「まーそっすねー私は肉も魚も平気なエルフなので。野菜も好きだし穀類も好き。嫌いなものはそんなにないわねえ」

 

ハルティアの言葉を半ば無視して、ウサ耳ウェイトレスにそう言うと、「あらやだほんと珍しい」と手を口に当てて彼女は笑った。

 

「飯の好みにゃぁ口を出さねぇのがぁドワーフの流儀よ。まぁ、エルフを菜っ葉食いてぇ呼ぶなぁ親愛の証だけんどサァ」

 

ククッと含むように笑ってカイムはまた火酒をグビリと嚥下する。

 

その様子に、クスリとミナは微笑んで、注文はそれだけです、とウェイトレスさんに返す。

 

「ご注文承りましたぁ~あ、世間話なんですけどね、冒険者さんですよねぇ?なんだか最近本拠地の周囲に黒ずくめのアンデッドが出るそうなんで、気をつけてくださいね~」

 

ウサ耳ウェイトレスはそれだけ言い残すとぴょんぴょんと跳ね跳ぶように厨房へ向かっていく。

 

「……なぁるほどぉなぇ。そらまあ、そうかぁ」

 

「ちょっとした冒険の臭いがしますね、これは……」

 

あごひげについたソースを布で拭くカイムと野菜炒めパスタをもりもりと食べるミナはそう言って顔を見合わせる。

 

「蹴散らせばよかろう。湿気た顔をするな、ミナ、カイム殿。今は酒と料理を楽しもうではないか」

 

ハルティアがワインをグビリと飲んで笑った。

 

笑うと獰猛な印象が強くなる女だが、今は酒が入っているせいかふやけたような笑顔だった。

 

「それもそーですね。じゃあ出発は明日で」

 

―――ミナは笑って、カイムのボトルの火酒を自分の水で薄めたワインの入ったジョッキに注いで口をつける。

 

「現地まで後3分の2。気ぃ抜かねぁようにいくかいや」

 

「そうだな。では、改めて」

 

「冒険の成功を祈って―――」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

そうして日がまだ高いうちから降りきるまでの間、3人は飲み食いを続け、その宿にそのまま泊まる―――明日の出発に備えて。

 

結果的に言えば、翌日の出発は出来なかったのだが。

 

 

 

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