異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第60話「洞中の詩 -昔のお話⑥-」

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「シャェヤッ!」

 

カイムの仕込み刀が、レブナントの首を落とす。

 

それはやはり魔法の武器であったろうか、下級の吸血鬼である帰参者たちを膾に切り裂き、その再生を許さなかった。

 

しかし、カイムはドワーフであるためどうしても動き自体は鈍重だ。

 

斬り裂いた一瞬の隙を突き、そこにレブナントが1体覆いかぶさってくる、が。

 

「ちぇいっ!」

 

ミナが投げた短剣が帰参者の脳天に突き刺さり、次いで放たれた矢がカイムの頬をかすめて、ゾンビ2体の頭を吹っ飛ばした。

 

「ミナァ!アブねぇんぞ!!」

 

「ごめんなさい!弓はそこまで得意じゃなくて!」

 

ミナの弓術は里での習いも中途半端なら、実戦でも剣や槍を好んだがゆえに―――あくまでハイエルフにしては―――弓が得意ではない。

 

だが、この戦場ではそれで十分だった。

 

何しろワラワラと次から次へとアンデッドたちが湧いて出てくるのだ。

 

狙いなどつける必要が殆どない、味方に当てないように考えればいいだけだ。

 

「名もなきアメノホヒの子等よ!」

 

遂に我慢しきれず放たれた破邪の炎がアンデッドたちを焼き尽くし、その勢いで巨木をも燃やそうとするが―――しかし、あまりに歪んだ巨木が大きいためか、或いは邪悪なためか。

 

その炎穂は不死者たちをなめ尽くしても、なお巨木を燃やすことは出来なかった。

 

「ようし!今の術で前衛が消えた!今のうちに内部に入り込むぞ!広間は不利だ!」

 

ゾンビとダークネイルをまとめて薙ぎ斬り、ハルティアは走り出す。

 

ミナも、カイムもそれに続いて走り出した。

 

「カイムさん!お願い!」

 

「わぁっとらぁあや!これでも喰らいやぇ!」

 

カイムは洞の入り口に3人が突入した瞬間、いくつもの小さい瓶の入った袋の中身をぶちまける。

 

もちろん、瓶の中身は全てメタノールである。

 

「火の子、竜の子サラマンダー!尻尾の火を矢にして投げて!」

 

ミナのファイアボルトが投げられ、それは一瞬で爆発する。

 

「よぉぉぉぉしッ!偉大なるロジックよ!亀の如き歩みに兎の手助けを!フィジカル・エンチャント・アジリティ!」

 

ハルティアの詠唱が完成し、論理の光はカイムの脚に宿る。

 

身体賦活の魔法の内、素早さを強化するものだ。

 

「転ぶなよ、カイム殿!」

 

「はっ!おっ転びやぁせんわぁ!」

 

そのまま爆炎に飲み込まれたアンデッドたちを置いてけぼりに、ミナたちは目の前の洞を駆け上がっていく。

 

階段状になった内部を走れば、そこかしこに不気味な顔のような彫刻―――と見紛う瘤があるのが見て取れた。

 

「うむ!気持ち悪いな!!」

 

ハルティアがそれらを無視して駆け上がろうとするが、やはりと言えばやはりとしか言いようがないが、その顔のような瘤は口々に呪詛の言葉を投げかけてくる。

 

『あぁぁぁぁぁぁぁ……』『苦しィィィィ……』『悔しぃィィィィぃ……』

 

「うげっ!マジで気持ち悪いな!」

 

ミナがうへぇと心底嫌そうに顔を嫌悪に歪める。

 

「ここに囚われている魂だろうか……?」

 

「わかんないですけど、それならやっぱり名もなきアメノホヒの子等の術を使いましょうか?」

 

ハルティアはそのミナの言葉に逡巡した。

 

彼女もここまで5~6回魔法を使っている。

 

残りの回数は2~3回というところだ。

 

―――彼女はミナを勇者だと既に信じているようだが―――

 

ミナはその倍かそこらは精霊術を使っていた。

 

「後、どのくらい術は使える?」

 

「そうですね……まあ規模と種類にもよりますけど、後20回くらいは余裕ですよ。あ、サモン・スピリット系は3回くらいしか使えませんね。あれ、疲れるんです」

 

「……なるほど。普通そんなに使えないからな?」

 

ハルティアは半ば虚ろな眼でミナを睨めつける。

 

ミナはその目線に「いや、だってもう隠す意味もないっつーか……うちの父上は30回くらい使えたし普通なのかなって、30年くらい前までは思ってました」と曖昧な笑みで冷や汗を流しながら頬をかく。

 

「そんなんぁ、十分んに歳を重ねたハイエルフしか無理じゃいな……」

 

カイムはリュートから仕込み刀を出しつつそう言ってため息をついた。

 

「まあどこ行っても似たようなことは言われます!でも、これだけ術が使えないと死ぬシチュエーションが多かったので!」

 

ミナは鍛銀の剣―――ではなく、真銀、つまりミスリルの大剣をバッグから抜いてそう言った。

 

「その剣……」

 

「ええ。見ての通りです。前のキャンペーンで伝説の剣なくしちゃったので」

 

そうしてミナは呪文を唱える。

 

「真なる銀の剣よ。破邪顕正の力を秘めたるものよ。我が手にありて名を問わば応えよ。汝の名は『吹雪』なり!」

 

呪文が唱え切られた時、びょうと風が吹いた気がした。

 

剣の名は「吹雪」。

 

前回の大冒険で手に入れた剣の片割れであり、破魔の魔法がかかった段平だ。

 

「それでどうするつもりだ?ここは狭い。そんなものを振り回すことは出来ぬと思うが……」

 

「こうするんですよ!厳しき凍てつく蒼き孤狼フェンリルよ!吹き荒れ大地を凍てつかせよ!その牙ですべての熱をひれ伏させよ!」

 

ミナが氷の上位精霊フェンリルに呼びかけ、精霊術の奥義の一つであるアイスストームが発動する。

 

その威力は、「吹雪」の刀身から放たれ、口汚く喚く瘤たちを凍てつかせていった。

 

カチカチの氷に覆われたそれらを見て、ミナは「よし」とつぶやき、二人に向き直る。

 

「こいやぁ、氷の術をぁ強ぅするもんじゃいなぇ」

 

「そのとおりです。それがこの剣のいいところでして」

 

「吹雪」をバッグにしまい、ミナは笑う。

 

「寒くてかなわんが、不気味なものが黙りこくっているうちに進むか」

 

「はい、そうしましょう」

 

ハルティアの提案に他の二人は首肯した。

 

そうして三人は氷漬けの瘤を無視して一気に駆け上がっていく。

 

巨木の高さは20mか30mか、否、リドル輸送団本拠地の尖塔よりも高く見えたそれはもっと高いはずだ。

 

上に上がれば上がるほど、そこは広く、建物めいた内装となっていく。

 

バグによってか、それとも魔法のたぐいか、空間の拡張が行われていることは明白であった。

 

そうして、広間と呼ばれる場所にまで3人がたどり着く。

 

広々としてなにもない、円形の闘技場めいた場所だった。

 

「……なんか出そうですね」

 

「私もそう思うよ、ミナ」

 

その瞬間、ずぶり、と床の一部が歪んで―――そこから全身が鎖によって形作られたドレスに彩られた傷だらけの女が現れた。

 

「あの子供……やっぱり相当ヤバイ実力のリッチーですね」

 

ミナはそうして、今度は剣として振るうために「吹雪」を抜く。

 

「以前はいなかったな……ヴァンパイアだろうか?」

 

その言葉に、ミナは首を横に振る。

 

「ブラッドドリンカー……血を飲む者、飲血の鬼です。おそらくは」

 

「なんじゃぁとぉ!?」

 

飲血鬼ブラッドドリンカー。

 

ヴァンパイアの上位種モンスターであり、高位のアンデッドである。

 

地方で根城を持つものもいて、上級冒険者がバグダンジョンではない迷宮で全滅する要因のうち数%はブラッドドリンカーと言われる強敵だ。

 

それを生み出す、あるいは操るというのは生半な死霊術では行えないはずであった。

 

「よ、よく、よく来ましたわね、わね。ここ、ここここにはははは、あのあののあああああの子ししししか死か死おりませんことよよよよ」

 

口がよく回らないのか、吃音と反復をしながら女は笑う。

 

ブラッドドリンカーは細い鎖で縫われている裂けた口をニタァと不気味に歪ませて続ける。

 

「わわわたくくくしししは―――あなた方に死を告げるためにまいりましたの」

 

ブツリ、とその鎖が切れて裂けた口の中身が顕になる。

 

急に明瞭になった言葉は、それがそのまま魅了の声となって周囲に響いた。

 

「ぐっ!?大丈夫か、カイム殿!」

 

「な、なんとかぁなぁ!ワイは抵抗の歌ぁ歌っとくかぁよぉ!魅了されんでねぁぞぁ!」

 

ミナの心配は一切せず、ハルティアは冷や汗を一筋かいてカイムの心配をした。

 

カイム自身にはなんともないようだが、それでもこの場ではカイムは呪歌に専念してもらわねばならない。

 

抵抗の呪歌は、吸血鬼のような魅了や石化の声、魔眼を使う敵と戦うときには実に頼りになる術であるからだ。

 

よって、直接戦力としてはミナとハルティアだけとなる。

 

「ホホホホホ、わたくし、わたくし嬉しいですわ。そちらの山人の方は飲みごたえがありそう―――貴女がたはとっても美味しそう」

 

哄笑が響く。

 

「私キレイ?とか聞いてきそうな見た目しやがって……」

 

ミナはそうつぶやくと、ハルティアとともに駆け出す。

 

「とう!」

 

咆哮一閃、ミナの斬撃とハルティアの刺突が女を襲う―――が、ずるり、と滑るように後ろに引いた女には当たらない。

 

そして、ブラッドドリンカーはビュと何かを射出するような音を立て―――実際にそれは飛んできた。

 

「ハルティアさん!避けて!」

 

ミナがそう警告する前にハルティアは槍とともに横に転がっていた。

 

瞬間、ビシ、と何かがぶつかるような音がして、遠くの壁に穴が開く。

 

「あら……あらあら……残念」

 

女は嗤う、嘲笑う。

 

「血を飛ばしたのか……」

 

ハルティアは態勢を立て直し、慎重に槍を中段に構える。

 

「ええ、ええ、そのとおりですわよ。わよ。ふふふ、お腹が空くので、あまりやらないのです。ですよ?当たっていただけたら……うふふふ」

 

頬に手を当てて女はまだ笑っていた。

 

「当たってたら、少なくとも自由は奪われてましたよ。大怪我もしたでしょうし」

 

ミナは女から目線を外さないまま、そう言った。

 

「そういうことか……なら、こうするしかないな!」

 

ハルティアは懐から何かを取り出すと、それを地面に投げつけた。

 

それは地面にぶつかるとそのまま爆ぜて床を汚す。

 

すると、ふ、と灯が消えるように女の笑みが消え去った。

 

「……なる、なるほど。なるほど。貴女、いいですわね。これでわたくしは血を撃てない……ですが、あなた方も飛び道具は使えませんわよ?」

 

「毛頭、飛び道具を使う気などありはせぬ!」

 

ハルティアはそう言って、疾駆した。

 

(マザロンの落とし丸……!なら!)

 

マザロンの落とし丸とは、物理的に投射されたものを強制的に「落とす」使い捨てのマジックアイテムである。

 

結構なレアアイテムだが、使い所を間違わねば役に立つ。

 

先程の血弾だけではなく、弓も石も何もかも物理的な飛び道具は使用ができなくなるのだ。

 

しかし、それは―――

 

「魔法を封じるものではありません……わよ?偉大なるロジックよ―――」

 

そう、魔法を封じるものではなく、しかもブラッドドリンカーはヴァンパイア以上の古代語魔法の使い手である。

 

エルダーヴァンパイアほどではないが、それは熟達した只人の魔術師の何人分もの威力を持つだろう。

 

「―――撚りて繰りて奉らん……」

 

(間に合うか……!)

 

天雷の魔法ダイ・サンダーの詠唱が響く―――

 

「シルフよ!風の乙女よ!大気の震えを押し留めて!声の総てと音の全てと貴女の吐息も震わせないで!!」

 

一手、ミナの精霊術が先に働いた。

 

遮音の術ではなく、一切の音を一定期間、一定の空間から消去する沈黙の術が発動したのだ。

 

「……!……!!」

 

ここで初めて、女は焦った様子を見せたが、既に遅い。

 

滑るがごとく術の効果範囲から逃れようとしたブラッドドリンカーだが、ハルティアのほうが遥かに早く―――

 

「―――!」

 

声にならない獅子吼が女騎士の口から放たれ、そしてその魔槍は正確に女の心臓の位置を貫く―――

 

が、敵もさるものである。

 

その槍を掴んだ女は、ハルティアの兜を掴み―――それを握り砕こうと最後の抵抗を行ったのだ。

 

「―――!?」

 

「―――!」

 

その様子に、ミナは走る。

 

「吹雪」は手から離れ、その手に持たれているのは扱いやすい鍛銀の剣だ。

 

(間に合うか!?今日はこんなことばかりね!)

 

しかして、ミナの懸念は杞憂と終わる。

 

「―――!」

 

ハルティアの兜がブラッドドリンカーの膂力で握りつぶされる寸前に、ミナの剣はその腕を断ち切ったのだ。

 

その瞬間にサイレンスの術も途切れ―――

 

「おの……れ……わたくしの声までを……封じ……る……と、は…………ですが……後悔なさいませ……ほ、ホホホホホ………」

 

ブラッドドリンカーはそのまま地面に倒れ伏し、バサリと灰になって崩れ去っていった。

 

「こんなところで手こずってられないのよ!潔く滅びろ!」

 

ミナはそうしてバッグから前のパーティーで女神官の子からもらった聖水を出して、灰にかけて「消毒」する。

 

「危ないところだったな……」

 

歪んだ兜を脱いで、ハルティアは一息ついた。

 

「怪我がなくてよかったです。私、あんまり回復の精霊術得意じゃないんで」

 

ミナはポーションを1本彼女に渡して周囲を見回した。

 

生命の精霊は子宮に最も強く宿ると言われている。

 

そのためか、男はほとんど生命の下位精霊ウィータの術は使えない。

 

それは地球人の男の魂が混ざり込んでいるミナも同じことらしく、フェニックスやフェンリルと契約するほどの実力を持っていても、そこまで強い力を振るえないのだ。

 

記憶と生命の中位精霊クオリアの力を借りる術であれば自由自在なので、首をひねるばかりだが、とにかくそう言うものらしい、としかこの時のミナはわからなかった。

 

「じゃあ、ちょっと休憩してから……」

 

ミナがそう言うと、歌をやめて押し黙っていたカイムが口を開いた。

 

「そぉんもいかなぇみてぇだわ……」

 

重苦しい表情で、上り階段を見据えながら。

 

薄暗いこの部屋で、灯となっているのはカイムが持つランタンのみ。

 

―――その光を掲げて、階段を下ってきたものを見据える。

 

その姿は徐々に顕になり、夜目の利かないハルティアにも視認できるようになってきた。

 

そして、女騎士の表情は凍りつく。

 

「ば、かな……なぜ、お前たちが……!」

 

そこに現れたものは……ミナにはわからなかった。

 

ただ、想像だけはつく。

 

「迷ぉたか、迷わさせぇられたかゃ―――バダム、ショウヨ、ストロデ」

 

山人の吟遊詩人の口から、諦めと怒りが混じった声が漏れた。

 

 

 

「正直、ドン引きなのです。ほんとにそんなことやっちゃったんですか?」

 

岬は話がそこまで来たところで口を出した。

 

「繰り返しますけど……僕、当時ほとんど自我意識がなかったんですよ。プログラムで動いているコンピューターみたいなものだったんですね、わかりやすく言うと……」

 

ドン引きされてしまうのは慣れきっているのだろうことを思わせる少し疲れた口調でルルは弁解した。

 

「うーん……まあ人間5年で変わるって言いますですし、こっちの世界でそういうことしなきゃいいです……っていうか、割とそこらへん躊躇なくやってますですよね?」

 

岬はミナたちが半グレを皆殺しにして、それをルルがゾンビに変えて海に不法投棄した話を思い出してジト目になる。

 

ミナはその目に「まあまあ」と手をひらひらと振る。

 

「向こうの世界は見敵必殺、手加減一発岩をも砕くってもんだからね。そりゃもうなんとかもまたいで通る美少女魔道士を参考にしたロールをずーっとしてたし。第一、これからどれだけ犯罪被害者と行方不明者量産するかわからない半グレ共を生かしておく理由なんてさっぱりなかったしね!」

 

「とうとう隠す気もしなくなったですか」

 

岬にまだジト目で見られているが、ミナは気にせずに話し出した。

 

ルルと最初に会った時の話の最後を。

 

 

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