異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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※いつもよりパロ要素強めです。


第64話「ガーン、ショックです……」

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『はーい!ハッピーバレンタイン!皆さん、元気にバレンタインしてますかー!?』

 

利発そうな少女が、マイクにそう叫んだ。

 

『うおおおおおお!恋ちゃーーーん!!』

 

見れば会場の中の10%かそこらは、サイリウムを持ったドルヲタと思しき連中である。

 

『今日はサイリウムは禁止ですよー!仕舞ってくださいねー!』

 

人差し指を立てて注意する少女は、中学生に入るか入らないか、といった体であった。

 

『大都会に咲いた少女アイドル伊良湖 恋ちゃん、ご注意ありがとうございますわ!今回のイベントは穏便に済ませたいですわねっ!』

 

今度はみはるがそうマイクで呼びかける。

 

―――前回の歌自慢大会は最後が大騒ぎになってしまったこともあって、みはるとしてはこう言わざるを得なかったのである。

 

伊良湖恋と呼ばれたアイドルとみはるの注意に、ドルヲタらしき連中はいそいそとサイリウムをかばんに仕舞っていく。

 

(ぶっちゃけ不備ですわね、注意が行き届いていない……)

 

内心みはるは予想外に人が集まったことに対して、商店街で集めたイベントスタッフが対応しきれていないことに呆れていたが、とにもかくにもイベントは進行させなければならない。

 

みはるは相棒へアイコンタクトを行い、場の主導権をつぐみへと手渡す。

 

『バレンタイン~というわけですけどぉ~~恋ちゃんはだれかぁ、好きな人なんかいらっしゃるんですかぁ~?』

 

間延びした声に、恋は『いたらここにはいませんって★』と明るく愛らしく少女は笑う。

 

その様子に、ドルヲタらしき連中は先程と同じように叫ぶが―――『だからうるさーーーい!今日はアイドルイベントじゃなくて、商店街のイベントなの!お・し・ず・か・に!』と恋はあくまで笑顔でドルヲタ共を黙らせた。

 

会場が静まったことを確認した恋は、つぐみとみはるに首肯して『みなさんありがとー!それじゃあプログラムを進めていきますねっ!』と元気に宣言して、またニパっと笑ったのだった。

 

「すげえです……子供とはとても思えないですよ……」

 

廻に肩車してもらいながらごった返す会場の先の仮設ステージを見つめ、岬はそうしてまた嫌な笑みを浮かべる。

 

「またそういう顔して……言っただろう?」

 

廻に窘められてその笑みをすぐに消し、ごめんなさいです、と一言謝ってまた会場を見つめた岬は「普通ですね……」とつぶやいた。

 

ステージの上では、ゲストで呼ばれた伊良湖恋のトークショーが行われていて、時折みはるが「誰がマイナー地方芸人ですか!?」とか会場に突っ込んで、それをつぐみと恋がツッコミ返しするといった風情であった。

 

「普通……というか何も起きそうにないのに、あの声の不気味さが心から離れないですよ……」

 

ぶるりと肩を震わせて岬は腕を掻き抱いた。

 

「そうだ。私のような機械ですら"聞こえる"ほどの思念である。生半な物ではない……画像照合の結果から言えば、ステージに立つ伊良湖恋と今朝の魔法少女の同一人物可能性は五十七%。完全に同一人物とは言えないな」

 

「うーん……微妙なとこですね。じゃあ、普段のあたしと変身したときのあたしの同一人物可能性はどんなもんなんです?」

 

岬がそう聞くと、廻は「……照合。事前情報及び声紋、生体反応を考慮に入れなければ七十七%というところだ。確かにあの少女が今朝の飛行人物と同一であることを疑うべき数値であることは間違いない。観測を続けよう」と答えた。

 

「やっぱり変身すると美少女化してるんですねえ……」

 

「否、主に髪色や微妙な体型の変化などが君の場合大きい……だが、彼女が魔法少女と仮定すると、体型は身長が五糎ほど変化があるがそれ以外はほとんど変わらず、顔つきと髪型に大きな差異が存在した」

 

「ガーン、ショックです……」

 

廻はそんな岬になにか言うことはなく、一呼吸おいて続けた。

 

「今の伊良湖恋は実におとなしそうな表情を浮かべているが、今朝の魔法少女は獲物を追う狩人のような―――ある意味で凶悪な殺人鬼を思わせる表情だった―――別人としか画像解析からは判断できないほどに。だが、撮影できたのはほんの一瞬。これ以上の解析は難しい」

 

「なるほど、そうなのですね……」

 

岬は腕を組んで会場を見遣る―――と、その時であった。

 

『ふっはははははは……どいつもこいつも幸せそうにしやがって……!ドルヲタ共ですら幸せそうにしやがって……!恋人共も大量にいるみたいだなあ……!』

 

くぐもったいやらしい声が響く。

 

仮設された会場―――駐車場になるはずの空き地は広く、屋台やメインイベントを行うステージの他にも小イベントスペースが設けられており、そこに人がごった返す中、その声は響いたのである。

 

「ク……!これは……まずいか!岬殿、一旦会場から出るぞ!武装するにはここは人目がありすぎる!」

 

「はいです!」

 

肩車されたまま、二人は素早く会場を出て夕のいる場所を目指そうとした。

 

だが―――!

 

『ふははははは!誰一人としてこの会場からは逃さん!バレンタインデーなどというくだらない行事を行う者たちへの見せしめとなるのだよ、貴様らは!』

 

会場の周囲を薄い壁のような透明の膜で覆われていることを廻は探知した。

 

つまり、脱出が通常の方法では難しい可能性が高いことを理解したのである。

 

「……やむを得ん。非殺傷性麻酔瓦斯の噴霧を……」

 

廻がそのロボットとしての性分を明らかにしようとしたその瞬間、何かがバリンと割れるような音がして―――

 

そこに―――仮設ステージの上にいたのは、なんと。

 

「ふははははははは!この世からカップルどもの居場所をなくすため、人前でいちゃつく腐れカップル共に鉄槌を下すため!マスクドジェラシー見参ッッ!!」

 

なんだかよくわからないが、とにかくムキムキの覆面レスラーであった。

 

「……しっ○○スク?」

 

「何かねそれは」

 

質問された岬は、その存在の元ネタらしいものを記憶から蘇らせる。

 

「えーと……30年くらい前の漫画に出てくるギャグキャラですけども……微妙に違いますですけども……」

 

「漫画本の登場人物めいた妖怪……また面妖な……」

 

廻は面妖な、と表現したがそれもそのはずである。

 

廻の測定数値には、到底人間のそれとはかけ離れたものが計測されていたのだから。

 

「やっぱあれ、ふつーの人間じゃありえないですよね……?」

 

岬は廻から離れることを怖がるように、彼の頭にしがみついて怯えていた。

 

周囲では人々がざわついている。

 

「なにあれ……」

 

「イベントの余興かなんかでしょ」

 

「あれ?ケータイ通じない……」

 

様々な声が聞こえてきて、徐々に何かがおかしいことに気づいていっているようだった。

 

「ふっ!くだらんことをしている暇人がいるみたいだな!あっち行って遊ぼうぜ!」

 

「もー、ダーリンてばー」

 

などと言っているバカップルもいたことにはいたのだが―――

 

「むっ!暑苦しいバカップル発見!ジェラシービーム!!」

 

「「うわーっ!?」」

 

などと目から怪光線を出した謎の覆面によって昏倒させられていたりしたのだが「不思議と」誰も気にしてはいないことに岬は気がついたが、それはそれとして、である。

 

「まずいですよ……このままじゃ騒ぎに……」

 

「何、問題はない。物理的実体が存在するのなら私が片付けてしまえば―――!?」

 

瞬時、廻は拳を虚空へと突き出した。

 

すると、そこには―――黒い靄が生まれ、そこからSMマスクらしきマスクを着けた同じくムキムキのふんどし男が生成されようとしていて、廻の拳はその顔面を強かに叩いたのである。

 

「へ、へへ……やるじゃねぇか……!」

 

靄から地面へと落ちたそれは、不敵な言葉を残して血反吐を吐き、やはり黒い靄に溶けて消えていく―――

 

そして、同じものが会場のそこかしこで現れていたのである。

 

「ふはははははは!我が同胞チーム・ジェラシーよ!会場を制圧するのだ!ふははははは!」

 

廻は一瞬、と言っても我々人間に比べて濃密な計算と思考をして、答えを出した。

 

「とう!」

 

手に持った小さな礫……彼の持っていた百円ライターを目にも見えぬ速さで投擲したのである。

 

その初速は亜音速に達し、馬鹿笑いを続ける覆面レスラーの額にバゴンとプラスチックと軽金属の塊であることを忘れたかのような音を立てて衝突した。

 

「ぐわーっ!?だ、誰だ!?このようなことをする愚か者は!?」

 

(愚か者はどこをどう考えてもそっちなのです)

 

岬が廻の頭にしがみつきながら、そんなことを思うが重要なことはそこではなかった。

 

「着弾速度、時速682粁。この速度であの形状のプラスチックが頭部に着弾した場合、あの覆面ごときでは防護は不可能。投擲物は脳を貫通することは明白。人間ではないことだけは間違いない―――岬殿、私は光学迷彩を使う、少々降りてくれ」

 

人々の視線がステージに向いていることを確認した廻は、そう言って岬を地面に下ろした。

 

そして、ゴニョゴニョと岬に耳打ちしてうなずいた。

 

「わ、わかりましたですよ!き、気をつけてくださいです」

 

岬にそう言われて、ニコリと笑う。

 

「光学迷彩起動。ではあとは頼む」

 

廻がそう言うと、そのまままるで溶けるように彼は見えなくなってしまう。

 

周囲の人間は現れたふんどしマスクマンやステージ上で転げ回るマスクドジェラシーを名乗る覆面レスラーばかりに注目して、彼に注目することはなかった。

 

「頼みますですよ……あたしも動かないと!」

 

そうして、岬は走る。

 

現在、会場は謎の壁のようなものに覆われている。

 

もしそれが魔法少女と関係があるならば、岬がなんとかできるかもしれない。

 

会場の端まで行ければ、変身しなくても出せる魔法の杖でどうにかできる可能性はある。

 

現在は携帯電話も通じないので、それ以外にすることは他にはなかった。

 

何十という魔物を倒し、冒険者現象によってパワーアップしている岬の体力、筋力はすでに大人の男をも遥かに凌ぐだろう。

 

その身体能力で、人混みをかき分けながら会場の端を目指す。

 

たかが百数十メートルがやたらと遠く感じる。

 

だが、止まるわけには行かなかった。

 

「やぁお嬢さん!こんなところで何をしているのかな!?他の観客と同じくステージを見ているといいっ!」

 

「それともぉ~俺と一緒にデートがいいかぁ~!?」

 

「お前ロリコンかよ」

 

「美少女なら相手が何歳でもヨシッ!」

 

気持ち悪いことを抜かしつつ目の前にふんどしマスクマンが現れる。

 

髪型はモヒカンと角刈り―――まるで本当に例の漫画の中から出てきたようだ、と岬は内心でげんなりするが、廻に窘められていたから、いつもの嫌な笑みは浮かべない。

 

「邪魔するなです!不審人物が幼女に声かけたら犯罪になる時代ですよ!」

 

岬はいつの間にか生成していた魔法のステッキで―――ガキン、と。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?そこを狙うとは容赦という言葉を地獄に置き忘れておるのごーーーつ!?!」

 

フルスイングできんのたま(直喩)をぶん殴ったのである。

 

わぁっと周囲の女性からは快哉が叫ばれるが、男性は股間を押さえるか、手のひらで口を抑えて「なんということを……」とドン引きしていた。

 

「お、おごう……おっ……」

 

ビクンビクンと痙攣するモヒカンのふんどしマスクマンを介抱しつつ、角刈りの方は「なんてことを……それは内臓なんだぞ!」と顔色を青くして岬に抗議したが……

 

「テロリストにかける容赦も情けもないのです!そこを退かなかったら、あんたの息子を死に別れさせてもよいのです!」

 

全く歯牙にかけずに、そのステッキを彼の股間に向けた。

 

「ひ、ひぃ!どうかお許しを!」

 

「わかればいいのです」

 

そうして彼の脇を通り抜けようとした岬だが―――

 

(ふぁふぁふぁふぁ!所詮は幼女!なんだか無茶苦茶強そうだが、考えが浅い!このまま後ろから羽交い締めにしてしまえば―――)

 

当然のようにふんどしマスクマンBは岬に後ろから襲いかかった―――のだが。

 

羽交い締めにされる瞬間、腰を落としてそれを回避すると、杖の柄で男の顎を打ち上げて、そのままふんどしマスクマンBの股間を蹴りで打ち上げた。

 

「あぎゅるぎあぼごるげぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!?」

 

意味不明な叫びを上げて男は昏倒し、もう一匹のふんどしマスクマンとともにビクンビクンと痙攣し始める。

 

「雉も鳴かずば撃たれまい、というのです!さらば!」

 

そうして人混みをかき分け、岬は再び走り出した。

 

 

 

「ミナさん、動きますよ」

 

「夕ちゃんからも連絡きたからね……」

 

ミナが結局頼んでしまった抹茶ドラゴンパフェ特盛コーラ味を食べきった瞬間、ルルとミナはそう言って立ち上がる。

 

ミナのスマホには夕からの連絡があり、すでに武装して近隣のビルの上に待機しているとのことだ。

 

「一般市民を巻き込んでカップルに鉄槌……?また素っ頓狂な漫画の露骨なパクリしてきやがったな……」

 

ミナはため息を付いて会計を済ますと、デパートの屋上に出る。

 

商店街のアーケードにぽっかり口を開けている大型駐車場予定地にそびえる光の壁を見て、ミナは「これはごまかしきれないわよ……?しーらね」と隠蔽についてさじを投げてから、こほん、と咳払いをしてルルを見る。

 

「ヤバいくらいの魔力が集まってるわね……よし、多分廻さんと岬は内部で解決のために動いているはず。私達はまずあの結界を破りましょう」

 

「承知」

 

短く答えたルルは、結界のみならずあらゆる魔力、精霊の動きを一時的に崩壊させるパーフェクト・ディスペルの準備を始めた。

 

「これで破れない、つまり魔力に因らないもの、もしくは再生するものだったら、強引に突破する。いい?」

 

「ええ。世界を支配する偉大なるロジックよ。論理は遠方に旅をせん。真なる世界を取り戻させよ。魔なるものにて生まれたものを、元の形へと崩壊せしめよ。パーフェクト・ディスペル!」

 

効果距離を長大化する拡大を行い、ルルはその術を唱えた。

 

光が爆ぜ、そして光の壁は消えてなくなる―――が、それは一瞬。

 

すぐに再生し、再び空き地を覆う光の壁が出来上がってしまっていた。

 

「やっぱりこうなるか……ガッちゃん呼んで夕と合流して近くまで行って強引に突破しかないか」

 

壁の近くまで行き、インビジブルを使って結界を魔力でこじ開ける。

 

一瞬パーフェクト・ディスペルが効いたことから考えても、それが最も簡易な方法であった。

 

「ま、廻さんなら気づいてて岬にやらせてるかもね」

 

ミナはそうしてガーゴイルを呼び出し、夕と合流するのであった。

 

 

 

その頃。

 

やはり休みということで、ミナからの話もあったことから子供たちを保育園に預けた今野夫妻も商店街へとやってきていた。

 

「またか!」

 

「またみたいですね」

 

もはや諦めたかのように夫妻は口々にそう言って目を見合わせる。

 

「……すまん、せっかくのバレンタインなんだが……」

 

「はいはい。もともとあなたは好きじゃないですものね、バレンタイン。いいですよ、いってらっしゃいませ。先輩には『後で聞きたいことがある』とだけ伝えておいてくださいね」

 

張り付いた笑顔で冷たい声を出す文に、空悟は背中に一筋汗が流れるのを感じたが、もはやそれはどうしようもないことである。

 

「まあ、あいつが起こしてるわけじゃねえからなあ……やれやれだ」

 

空悟はそうして彼女に短い棒切れを一本手渡した。

 

「なんです、これ?」

 

「ああ、三郎がくれた護身用の杖だ。『レイドル』って唱えながら地面に叩きつけると、身を守る結界を作ってくれるんだと」

 

「なんでも持ってますね、あの人」

 

はぁ、とため息を付いて「先輩が連絡してきた時点でだいたい諦めてましたから、心置きなく行ってきてください」と文は伝えて、歩き出す。

 

「4時までに戻ってこなかったら、子供たちを迎えに行ってから先輩の家に行ってますんで」と言って。

 

渡されるはずのチョコは―――帰ってくるまでお預けであった。

 

無事帰ってくると信じてのことだろうと思った空悟は「出来た嫁でありがたいよ、ホント」とつぶやいて駆け出した。

 

 

 

その頃、通行不能の半透明の光の壁の前で岬は杖を構えていた……のだが。

 

「人目が多すぎて、やりづらい……!」

 

余り目立つわけにも行かないのだが、舞台へ視線を集めようとするふんどしマスクマンはこちらを妨害してくるし、その妨害を排除すれば視線がこちらに向いてしまう。

 

これは大変面倒な状態であった。

 

或いは、もはや派手にやってこちらに視線を集めてしまうというのが一番なのではないだろうか。

 

岬はそう考えて、杖を大ぶりに振るうことを決める。

 

(この壁とあのしっ○○スクもどきとが、虹色の飴玉と関係あるのなら―――あたしがなんとかできるはず!)

 

岬はそうして衆目の監視の中、杖を壁へ叩きつけようとした―――その時。

 

『勝手してくれてんじゃねえぜ、おっさんども!』

 

ドスの利いた少女の声が会場に響いた。

 

「で、出た―――!恋たんのマイクアピールだ―――ッ!!」

 

周囲のドルヲタどもが騒ぎ出すが、壇上の恋は『やかましいッ!うっとおしいぜッ!!おまえらッ!』とどこかの幽○紋使いのような言葉遣いで叫ぶ。

 

「……えっと、あれは……」

 

全員が壇上に目が釘付けになる。

 

その隙に岬も杖を叩きつければいいものを、そのドスの利いた声に彼女も釘付けになってしまう。

 

「あれは恋たその豹変芸でござるよ。見てのとおり、表情は柔らかいままでござる」

 

パーカーを着たガリガリのドルヲタがそんなことを教えてくれるが、岬の脳にはしっかり入ってこない。

 

わかるのは、周囲の全員が「何故か」彼女に釘付けになっている間に、事をなすことだ。

 

その時、一瞬、ニヤリ、とステージ上の少女が自分に向けて微笑んだ気がした、と岬は思った。

 

その考えは刹那に溶けて、消えていく。

 

「虹の欠片よ!元の姿へ戻りなさいです!!」

 

岬は自然と口をついて出た言葉のまま、杖を壁に叩きつける―――すると。

 

パァン、と音がして壁が爆ぜ―――そのまま、崩れ去っていく。

 

崩れ去った壁は収束し、そして岬の手に半分に欠けた飴玉になって落ちてきたのであった。

 

「よし!これで観客は逃げ出せるのです!こちら岬、廻さんどうぞ!所定の任務達成せりなのです!」

 

岬は手に持った、古い形式のトランシーバーにそう呼びかけた。

 

それは別に旧軍のものではなく、廻が休日にホームセンターで買ってきたなんの変哲もない特定小電力無線機である。

 

『こちら道野枝廻。了解。これより対象の排除を開始する』

 

無線機から聞こえてきたのは、そんなそっけない廻の声であった。

 

そしてステージ上では―――

 

「見るからに拗らせたモテない男ですわねあなた!」

 

ヒューホホホ、と言わんばかりに高飛車にみはるがマスクドジェラシーを煽っていた。

 

「モテねえからバレンタインの邪魔するんだ、こういうのはな……鬱陶しいにもほどがあらあなぁ!」

 

表情を笑顔で固定したまま、恋はマスクドジェラシーを睨めつける。

 

「全く情けねえや。そう思うよな、みはる姉ちゃん、つぐみ姉ちゃん」

 

マスクドジェラシーが現れるまで愛想を振りまいていた少女とは別人のような毒舌が出てくるが、これはみはるやつぐみも承知の上のこと。

 

可愛らしい表情のまま男っぽい口調で毒舌を吐くのが、彼女の豹変芸であった。

 

恋の言葉に、みはるとつぐみは「まったくですわ!情けない!」「あはははは~指差して笑っちゃうわ、おねーさん」と同調して嘲笑う。

 

脳天にライターが刺さったまま呻く覆面レスラーは、悔しそうにうめいていた。

 

「ぐ、ぐぬぬ……おのれ、我らが崇高な目的を……よくも……!」

 

『よくもではない』

 

その瞬間、虚空から一つの声がする。

 

「な、何奴……!」

 

『姓名、所属、その他いかなるものであれ私の情報を君に開示する理由がない。質問するのは私だ』

 

覆面レスラーの誰何を完全に打ち捨てて、怒りすらにじませたその声は―――

 

「この声……廻さん……?」

 

つぐみ、そしてみはるはそれが廻の声であることに気づいたようだが、廻の声が『お静かにお嬢さんがた』とだけ言うと、何かを察したようにそれ以上は口を開かなかった。

 

倒れ伏す覆面レスラーの頭が、見えないなにかにガシりと掴まれたのはその直後だ。

 

「ぐ、ぐあああ……お、おのれ姿を見せろ卑怯な……!」

 

『戦場で卑怯も糞もあるものか。この場を戦場にしようとしたのは君たちだろう?私に手加減する理由も、君たちの侵略行為を見逃してやる理由もない。そして、理由を聞くのは私だ。何度も言わせるんじゃあないぞ』

 

不可視の廻に掴まれ、苦しそうにうめき声を上げるマスクドジェラシーであるが、廻に手心を加えるつもりはないようで、ギリギリとその力は万力へと変化しつつあった。

 

「う、うぎゃー!?このままでは頭蓋骨が潰れる!」

 

『既に人間なら小金瓜の如く破裂しているはずなのだがな』

 

淡々と小金瓜、つまりトマトのように彼の頭は爆散しているはずだと、そう宣う廻に、覆面レスラーは悲鳴を上げる。

 

「ぎええ!?怖いこと言いやがる!おのれぇ!集まれ我が同胞たちよ!!会場の連中を人質にしろ!!」

 

そうして、ふんどしマスクマンたちを使って人質作戦を行おうとしたが……

 

「時既に時間切れ、って奴なのです。もう会場の人たちは逃げ出しましたのですよ!そして、警察の人も来ていますです!観念してお縄につきなさいなのです!」

 

そこには変身した岬と拳銃を構える空悟―――そして空からガーゴイルで着陸しようとする、ミナ、ルル、夕の姿があったのであった。

 




ガンガンとGファンタジー、ギャグ王は少年時代のバイブルでした。

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