異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第7話「巻き添えがもう出ているならもう容赦はしない」

-7-

 

闇の中を進み、工場の奥を目指す。

 

壁にかかっていた案内図によれば、このまま進めば作業場……工場の本体である、かつてベルトコンベアーや組み立て場が存在した場所にたどり着くだろう。

 

連中がたむろしているとすれば間違いなくそこだろう。

 

臆病者は狭い場所を、バカと道化者は広い場所を好むものだ。

 

事務所エリアを出たのだろう、窓から薄曇りの日が差し込んでいる。

 

階段を登り、2階のデッキへたどり着く。障害はない。

 

元組み立て工場のデッキから吹き抜けの下を見下ろすと、そこには何十人かのチンピラ、暴走族たちがバイクやら持ち込んだ箱や椅子に腰を掛け下卑た笑いを漏らしながら蠢いている。

 

エルフの遠目で見れば、安物の銃器やバンパーを改造したと思しき刃物を持つものもチラホラと見受けられた。

 

―――見れば、さらわれてきたのだろう。

 

少女が一人、下卑た連中にふさわしいやり方でもてあそばれている。

 

「ひぃふぅみぃ……64人か。いやあ、いますねえ。盗賊団の根城ですか、ここは。お定まりの誘拐とアレもやってますね」

 

「まあ似たようなもんでしょ。善良な市民から財貨を掠め取って生きてる連中だもの。誘拐、アレ……と多分、殺人も、かな。汝ら罪あり、と……」

 

ミナはバッグからシンプルな装飾の弓を取り出した。

 

「指環よ指環、込められた力を開放せしめよ。信念なりしもの、世を貫く正義なる王よ、彼のものらに己が同族の殺害を犯したものが存するか詳らかにせよ。罪科の在り処を教え給え。サーチ・ギルト」

 

右の中指に嵌められた白い宝石が輝く指環を下にいる者たちに向ける。

 

正義神の神聖魔法、罪を調べるための魔法が発動した。

 

「―――8人か。思ったよりは多くない」

 

弓に矢を番える。木芽で作られた森人の矢だ。

 

ヒュウッと風切り音が1度。

 

どう、と三人が倒れる。

 

三本の矢が同時に放たれ、それが同じくほとんど同時、認識できないほどの差で3人の男の脳天に突き刺さったのだ。

 

一人は少女を弄んでいたものだ。

 

「くたばれ」

 

一言つぶやくとまた三矢が放たれ、三人が綺麗に倒れる。

 

「私、弓はそんなに得意じゃないの。だから律儀に殺らせてもらうわ」

 

今度は二本番えて、放つ。

 

心の一つもこもらない単純作業だった。

 

正義神の宣告によって、殺人の罪を犯していることがわかった8人は、チンピラ共が騒ぎ始める前にこの世を去った。

 

「さて、アレされてるあの子が死んじゃう前に制圧するわよ、ルル」

 

ルルは声を出さずに肯んずる。

 

「何だこっりゃあ?!」

 

「ジェイくん!?ジェイくん!?……し、死んでる……」

 

「あああ!なんだおい!ああ!?」

 

チンピラ共が8人の死に気づいてどよめき始めた時には、すでに手遅れだった。

 

ルルの唱えた眠りの雲の魔法が、眼下のチンピラどもも、乱暴されていた少女も巻き込んで、中のすべてを眠らせてしまったのだ。

 

ミナはそれを見届けると、デッキから眼下に飛ぶ。

 

トン、と体重がないかのように軽く床に降り立つと、裸にされている少女に駆け寄って息があることを確認した。

 

「世界を調律する我らが祭神よ。遍く穢れを清め給え、遍く汚れを祓い給え。ピュリフィケーション」

 

光が掌に灯り、白い光は彼女の体にぶちまけられた汚濁を浄化していく。

 

…その容姿は、色黒で、少しルルに似た少女だった。

 

つまり、少女はルルに間違われ拉致されたのだ。

 

「チンピラに知能を求めても仕方ないけど、巻き添えがもう出ているならもう容赦はしない」

 

しんしんと降り積もる雪を思わせる声音が響く。

 

そしてミナがリフレッシュとリトルヒールを唱え、少女の苦しげだった寝息を穏やかなものに変えた。

 

ミナは少女を背に担ぐと、寝こけているチンピラどもに視線を移した。

 

そして宣告を唱う。

 

恐怖の魔法ではない。それはエルフにとっては樹木化の魔法と同等の刑罰を意味する術だ。

 

「狂気を司るもの、星をかき消す光、うらなき月光精よ。我が怨敵の心底に神殿を建てよ。永劫に惑う幻の牢獄を」

 

第八位階の精霊術、月光の精霊による発狂の魔法ルナーがミナによって発動された。

 

―――恐怖の魔法よりもはるかに強力な精神魔法である。

 

エルフの森に許可なく侵入し、破壊を行ったものへ下される罰の一つ。

 

死よりも恐れられる月刑と名高き、永遠に目覚めない狂気の悪夢に人を沈める魔法である。

 

バッグから大きめのバスタオルを取り出して少女を覆い外へ向かう二人の背に、この世のものとも思えぬ叫び声が響き渡った。

 

その数56。

 

一人の例外もなく、彼らは狂気の中で人生を終えることになるだろう。

 

そこにはなんの慈悲もなかった。

 

 

 

その頃。

 

工場の外には一台の車が停まっていた。

 

車の中でまんじりともできぬ様子の男は、ダークグリーンのスーツを身に着けた筋骨隆々の男。

 

三郎の親友、今野空悟だ。

 

「―――通報があったのはこの場所だが、俺が一番最初か。応援を待たなきゃな」

 

空悟は懐の拳銃、グロック17の装弾と動作を確認する。

 

「よし」

 

問題がないことを確認して懐へ戻す。

 

本日未明、少なくとも10人以上の男がバイト帰りの少女を拉致したという通報がよせられ、神森署暴対班ではその捜査を行っていた。

 

言うまでもなく、先週の水道局襲撃を皮切りにした半グレ集団の集結と関わりがあると見られたためである。

 

そして、つい1時間ほど前、拉致を実行したと思しき車両がこの廃工場近くに来ていたという目撃情報が寄せられた。

 

近辺でそれらの車は発見されず、おそらくここに犯人グループが潜んでいると思われ、直ちに暴対班が向かうこととなったのである。

 

「……先走るわけにもいかんが、とにかく暇だな……」

 

時計を確認する。15時37分。

 

日が落ちれば、向こうの有利だ。

 

手早くなんとかしなければならない。

 

水道局襲撃では自分はなんの役にも立たなかった、と彼は少し自己嫌悪を抱いていた。

 

彼にとっての親友、水門三郎が仕事がうまく行かずに体を病んでしまい、それに自分が何もできなかったことも拍車をかけていた。

 

彼の妻は「気に病むな」と言ってくれたが、それでも自己嫌悪は彼を責め立てていた。

 

懐の拳銃を取り出し、もう一度握る。

 

その時であった。

 

「―――あれは」

 

バスタオルにくるまれた少女を背負った少女と、彼女の荷物らしきものを持つ少女が工場の入り口から出てきたのは。

 

彼女はバスタオルにくるまれた少女を背負ったまま、器用に壁を駆け上がり、そして外に出る。

 

死角になる場所からだからか、こちらには気づいていないのかも知れない。

 

バスタオルにくるまれた少女の顔はよく見えなかったが、背格好は拉致された少女と似ていた。

 

空悟は意を決して車から出て、聴取を行うべく彼女らの下へ歩き出した。

 

 

 

「あれは……」

 

その動きをミナは最初から察知していた。

 

察知していた上で、救助した少女を引き渡し、中が地獄絵図になっていることを伝えるために接触することを決意したのだ。

 

「いいんですか?知り合い……いえ、親友なのでしょう?」

 

「……仕方ない。それにこの姿を見て俺だとは気づかないだろう」

 

壁を駆け上がりながら、ミナはルルにそう返した。

 

「中身の惨状もとっとと知らせないといけないしね。それより死体は回収したんでしょうね」

 

「手抜かりなく。これまで同様、血痕もきっちり消しておきましたよ」

 

「暗黒魔法でも浄化使えるの、ほんと納得行かないわね!」

 

邪神の信仰者でも使えるピュリフィケーションについて文句を言った時、車の中から空悟が出てくるのが見えた。

 

彼はまっすぐ、淀みない生命力を放ちながらこちらへ歩いてくる。

 

「……変わってねえんだろうな、あいつ」

 

男の口調でつぶやく。

 

空悟は目の前まで来ると、ニコリと笑って警察手帳をこちらに見せた。

 

「どうも、お嬢さん方。警察のものなのですが、少し話を聞かせていただいてもよろしいですか?」

 

「……はい、喜んで。この子のことですよね」

 

ミナは一瞬だけ逡巡して、朗らかに答える。

 

「私達がたまたま通りかかったときに、彼女が全裸で飛び出してくるのが見えまして。それで壁を飛び越えて助けたのですが、彼女はそこで気絶してしまいまして……」

 

「中を見てみたら、明らかにおかしい様子で叫んでる男たちが何十人も見えましてね。これはなにか恐ろしいことが起こったのだ、と考え彼女を抱えてここまで戻ってきたのです」

 

ルルがミナの言葉をつないで、説明する。

 

わざわざ裏口から出る必要もなかったため、元組み立て作業場の入り口は開けてきたので、信憑性はあるはずだ。

 

「なるほど……では、詳しい話をこちらで」

 

空悟はそう促すと、車のドアを開いて、少女を含む三人を車の中に乗せたのであった。

 

 

 

20分もしないうちに応援の刑事たちや警官が到着すると、現場は騒然となった。

 

乱暴された少女のためにすでに救急車が呼ばれているのは当然として、中の惨状を見た刑事たちは追加の救急車を、それも大量に手配する必要性に迫られたからだ。

 

50人以上の男たちが、完全に発狂しているという誰も見たことがないであろう惨状は、屈強な警察官たちをして恐怖を感じさせるには十分なものだった。

 

よだれを垂らして笑い続ける男もいれば、ガタガタと震えて体育座りするものもいる。

 

走り回っては何かにぶつかって転び血まみれになっている男。

 

目の前の何かを振り払うように暴れ続けるものもいる。

 

そんな様々な症状を呈しながら、全員が全員、完全に狂っていた。

 

そこかしこに散乱する注射器が何が起きたのかを想像させる。

 

―――これは当然、ルルの工作であるが。

 

「こりゃひでえや……全員ラリってやがる」

 

ハゲの刑事がこめかみを押さえながら外へ出てくる。

 

「今野ォ、拉致られた女を助けたって連中はどうした?」

 

「俺の車にいますよ、目加田さん」

 

「いや、たしかにこれを見りゃあやべえことが起きたって思うわな……空前絶後だよ、少なくとも俺の中じゃあ」

 

目加田と呼ばれた刑事は瞑目すると、口をへの字に曲げる。

 

「……やってることからすれば、全く当然の報いだと思いますけどね」

 

空悟はブラックコーヒーを一口飲んで、同じように口をへの字に曲げた。

 

「そりゃそうだ。あんな連中、この世からいなくなっちまえばいいと何度思ったことか。人間はそうそう反省なんかしねえよ」

 

「経験っすか?奥さんからパチの禁止令解除してもらったんですか?」

 

「けっ!娘が大学終わるまではやったら離婚だっつってるよ」

 

ハッハッハ、と二人は場に似つかわしくなく笑い合う。

 

「とりあえず全員縛り上げるぞ。あのままじゃ何人か死んじまいそうだ」

 

目加田の言葉に空悟は首肯するとコーヒーを飲み干した。

 

―――結局連中が到着した救急隊によって全員救急車に押し込まれるまで、実に3時間以上の時間を要したのであった。

 

 

 

ミナたちが警察から解放されたのは、救急隊が去ってから1時間後のことだった。

 

事件には関係なしと判断されたため、かなり早く解放されたのだ。

 

「そうかい、君たちが三郎の新しい弟妹だったのか」

 

運転席から後ろの座席に空悟が語りかける。

 

ミナたちは空悟にバイト先まで送り届けてもらうところだった。

 

時間は20時半。バイト開始時間まであまり時間がなかったのでありがたいと言えばありがたかった。

 

「しかし、危険だよ。そういうのを見つけても、まずは警察に通報してくれよ、今度からね」

 

「そうします。今野さんのことは義兄から常々」

 

ペコリと頭を下げて、ミナは空悟の言葉を肯んじた。

 

「……いや、どんなことを聞いていたかは聞かないけど、ある程度眉唾ものだと思ってほしいことはあるかな……」

 

困ったように笑う空悟に、ミナが思い出すのは、中学時代に絡まれていたクラスメートの女子を助けるために不良高校生と喧嘩になり、見事停学になった事件のことだった。

 

三郎もまた巻き添えを食らい、生徒指導室で半日説教されたことは忘れられない記憶だ。

 

親友と、まるで初対面のように会話する。

 

どこかふわふわするような気分だったが、これも宿世か因縁か、とミナは諦めた。

 

「そうですねぇ……ッ?!」

 

その時であった。異様な気配、いや、これは精霊の嫌う鉛の気配。

 

空悟の持つ拳銃のものではない。

 

空気の層、風の精霊を切り裂いて何かが飛んでくる。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ―――駄目!間に合わない!」

 

窓ガラスが割れ、そして―――

 

「ぐっ!?」

 

キキィ、と急ブレーキの音が響き渡る。

 

タァン、と破裂音がほぼ同時に聞こえた。

 

―――鉛玉。狙撃だ。

 

弾は空悟の左肩に直撃していた。

 

「がっ……まさか……」

 

走る激痛に耐え、彼は車のキーを抜く。

 

「空悟!おい!おい大丈夫か!?」

 

ミナの声が響いた。

 

女の口調で取り繕う余裕は失せていた。

 

「傷は浅いぞ!しっかりしろバカ!頑丈なのが取り柄だろうが!」

 

ミナは後部座席から飛び出し、運転席から空悟を引きずり出す。

 

「世界を調律する我等が祭神よ、癒やし直し治し戻す力を降り注がせたまえ!ミディアムヒール!」

 

光が空悟の肩に吸い込まれ、瞬時に肩の銃創は消え失せる。

 

盛り上がった肉が内部の銃弾をすくい上げ、チンッと金属音を立ててそれを地面に落とす。

 

「よし!ルル!」

 

「もうやってます」

 

空を見れば、月光に照らされた翼の生えた異形が飛んでいるのが見える。

 

「ガーゴイルよ。鉛玉を放ったものを捕らえよ。決して殺すな。そのような生ぬるい目に合わせるな」

 

ルルが召喚した守護像は時速にして二百数十kmの速さで狙撃手のもとへ向かう。

 

―――抵抗は不可能だった。

 

「……君たちは一体……?」

 

「えーーーーと……」

 

立ち上がった空悟にミナはバツが悪い顔を向ける。

 

一筋の汗が頬を伝った。

 

「……ま、いっか」

 

鉤爪でズタボロになった男がガーゴイルによってこちらに連れてこられるのを見ながら、ミナは笑った。

 

「俺だよ、オレオレ。姿は全く違ってるけど、俺だよ。わかんねえかなあ。腐れ不良と喧嘩したバカの尻拭いしたの誰だっけか?」

 

スカートの埃を払っておどける。

 

「水門三郎だよ。お前の親友だろ。忘れちゃいないだろ?」

 

「その口調……おめぇーマジで三郎か!?ハァ!?どうなってんだ!?」

 

驚愕で空悟は顎が外れそうなほど大口を開けて叫ぶ。

 

ミナはその様子に、強い郷愁を覚える。

 

その郷愁を振り払うように話を続けた。

 

「ほれ、いわゆる異世界転生ってやつだよ。俺はファンタジー世界で世界を救ってきたんだぜ。なんの因果か、異世界そのまんまの格好で戻ってきちまったけどな」

 

だから三郎をそのまま名乗るわけにも行かず、三郎はサナトリウムで療養中、なんてことにしなきゃいけなかったというわけだ。

 

クックック、と含んだ笑いが口から漏れる。

 

「お前が電話かけてきたときは焦ったわい。1年?2年?まあしばらく連絡も途絶えてたからもう忘れられたかと思ってたぜ」

 

「忘れるわけねーだろ、ボケェ!そうならそうとはよ言わんかアホ!」

 

「言って信じるか!?俺なら信じねぇーよ!」

 

かつてと同じく、かつてのように二人は悪口雑言を交えて言葉を交わす。

 

ルルはその光景を少し羨ましいと思いつつ、犯人と凶器を少年の目の前に放り投げて大地に足をおろしたガーゴイルを目配せで消滅させた。

 

「じゃれ合うのはそこまでにしてください。後始末、頼みましたよコンノ殿」

 

ルルは努めて無表情で空悟の太ももを叩いた。

 

―――叩いた際に、マーキングの術をかける。

 

これで何かあっても追跡が可能となったことを確認すると、ミナのそばに寄った。

 

「……ライフルか。クソどもが、こんなものまで持ち出しやがって」

 

凶器のライフルを確認すると、空悟はそう吐き捨てた。

 

「―――とりあえず俺のカーチャンと親友に手を上げ、そしてルルと間違われた女の子をひどい目に合わせた。これだけでもう鏖確定かな……」

 

ミナは笑う。アルカイックスマイルで。

 

「……ってことは、あの廃工場であの連中をああしたのは……」

 

「黙っててくれよ。それとも、救いようがない悪人でも更生の余地があるって思う派?」

 

指を唇に当て、可愛らしく笑うミナに空悟は首を振った。

 

「いいや?むしろどんどんやれ。俺の思い出の街でやらかすクソどもに遠慮はいらねえよ。ファンタジックに殺れるなら証拠も残らんようにできるんだろ」

 

「あなた、本当に只人の街の官憲ですか?僕らの世界でもそんなこという人、あんまりいないのに」

 

「うちの暴対班の基本的な考えでね。人間は反省しない。何十年檻に入れておくより、スパッと殺したほうが世のため人のためだ」

 

言葉の通じない振りをする外国人、常識的な言動が通じないチンピラども、そういうクズどもを何十人牢獄に放り込んでも、平然として出所後は武勇伝にしてしまう。

 

そんな連中になんの慈悲が必要だろうか。

 

刑務所のリソースはもっと情状酌量の余地がある人間のために空けておくべきで、野獣の檻にはもったいないというのが彼と彼の先輩たちの考え方であった。

 

拳を握り、ぺ、と気絶する男を避けて唾を吐く。

 

その唾には血が混じっていた。

 

(危ないところだった……)

 

ミナはそれを見て内心で胸をなでおろす。

 

銃弾は肩にとどまっていたが、ライフル弾直撃の衝撃で別のところも負傷していたのだろう。

 

回復魔法がそれらを綺麗に治し、銃弾すら排出してくれなかったら本当にまずいことになっていた可能性もあった。

 

その心配をおくびにも出さず、道化師めいて少女は笑った。

 

「その考え、イエスだね。お前、そんなに過激なやつだったっけ?」

 

「警察に入ってからだぞ」

 

「それもそうか」

 

ホッ、と安堵のため息を付いた少女に、刑事は一言「じゃあさっきの廃工場のマジなところ、詳しい話聞かせてくれや。後、ここ2年位のこともよ」と肩をたたいた。

 

ミナは「あ、やっぱりそうくる。こりゃ今日はバイト休みだわ」とつぶやいた。

 

すでにルルがバイト先に事故に巻き込まれたという体で電話をかけていたのは言うまでもない。

 

ルル曰く、丸顔の店長の絶望の混じった声がいっそ哀れだったとのことである。




ぐふっ……

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