異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第70話「ぐぬぬぬぬぬぬぬッ!!」「むぅん……!」

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「というわけで、商店街の会議は延期になりました」

 

みはるが扇子をパン、と閉じて申し訳ない顔でミナに頭を下げた。

 

「あー……うん、しょうがないわよ。あんなことがあったのだもの」

 

頬を掻きながらミナはそう言って笑い―――みはるの後ろに座っている少女を見た。

 

「……なんでアイドルの子がここにいるです?」

 

同席していた岬がそう言って彼女をチラと見た。

 

―――そう、彼女、伊良湖恋という名のアイドルがニコニコと笑いながらその場にいたのである。

 

「あははっ!そりゃあ台無しになったバレンタインイベントの穴埋めにホワイトデーのイベントに出るから、今日はみはるおねーちゃんと打ち合わせだったんですよぉ」

 

カラッとした笑顔でその少女は笑う。

 

その笑顔に、岬はまた嫌な笑顔を返しそうになるが、すんでで取りやめる。

 

同じく同席している廻がちらっと見てきたからだ。

 

「まあそれは良いんですけどねぇ……芸能の徒……アイドルであればプロデューサーとかマネージャーとかいう人がついてるものでは?」

 

ルルもまた額に指を当てて少し嫌そうな顔だ。

 

「お外で待たせてま~す♪」

 

あっけらかんとした恋の声に、ルルはメガネを指で押し上げて瞑目する。

 

「……まあいいでしょう。とりあえず、要件は済んだということでよろしいですか?」

 

「いえ、実は―――」

 

みはるはニッと歯をむき出しにした笑みを浮かべてミナ達を見た。

 

「なんだか嫌な予感しかしないんですけども」

 

岬は口をへの字に歪めて、みはると恋から目をそらして頬杖をついた。

 

「いえー実は東京の喧騒に飽き飽きしてましてぇ、こちらの街には新幹線駅もありますし、こちらに引っ越してこようと思いまして。今日はそのご挨拶でもあるんですっ」

 

ニパッと―――事件の際の獰猛な笑みをまるで思わせない顔で、少女はそう言って咳払いをした。

 

「なぜ一般人である私達んところに来るのよ……まあ、いいけど撮影とかには参加しないわよ」

 

ミナがお茶菓子を出しながら、そう言って牽制する。

 

「そ、それは……」

 

みはるが目をそらしたのを見て、ミナは小さくため息をついた。

 

「まあ、話だけは聞いてあげるけど……とりあえず商店街の会議は延期ってことでいいのよね?」

 

「ええ……4月か5月ということになりましたわ。ホワイトデーのイベントは強行ということになりましたが」

 

扇子を開き額の汗を払うように扇いで、みはるはお茶菓子を口にした。

 

手に取った長饅頭は、歌自慢大会で手に入った長饅頭引換券で手に入れたものである。

 

「それで、あたしたちに何をしろと言うのです?」

 

岬はこたつの中で足を伸ばす。

 

なんとなくどころじゃなく嫌な予感がしてきたからだ。

 

「実は恋ちゃんがあなたをあい」「お断りなのです」

 

はっきりきっぱり岬は答えた。

 

みはるはその言葉に苦笑して、恋に「ほらね」と言わんばかりに肩を竦ませてみせた。

 

歌自慢大会の時もろくに顔を見せなかった岬がうんというわけがないとでも思っていたのだろう。

 

そしてそんな視線を向けられた少女は諦めた目をしていない―――道理で岬を同席させてほしい、などと恋が言い出すわけである。

 

―――余談だが、岬はすでに新しい戸籍を手に入れているため、外に出ても大きな問題はない状態である。

 

「えーなんでぇ?」

 

恋が不満そうに岬を見ると、39歳の幼女は伊達メガネをくいと人差し指で押し上げてきっぱりと「ならぬものはならぬのです」と言葉を紡ぐ。

 

「ばらすぞ」「こっちこそなのです」

 

小声で脅しの応酬が行われ、二人の視線が火花を散らす。

 

バチバチと音がしそうなくらいに張り付いた笑顔で二人がにらみ合う中、ミナはバリッと麦せんべいを噛み砕いて嘆息した。

 

「まー……撮影に顔を出すつもりはないけど、手伝うくらいなら私は良いわよ。あのブローチをくれるんならね」

 

ニッと笑ってみはるを見る。

 

みはるは諦めたように「いいですわ。ただ、商店街の会議のほうも出てくださいましね?」と念を押した。

 

「そりゃもちろん。追加報酬はその扇子と同じものでいいわ」

 

ミナの言葉にみはるはパッと笑って、「いいですわよ!」と華のように笑った。

 

―――その後ろで幼女二人がにらみ合い、それをロボと不死者が呆れ顔で見ているのを無視して。

 

 

 

―――翌々日。

 

「はい、我々はまたもこの謎の洞窟!以前謎のブローチを手に入れた洞窟へとやってきたのですわ!」

 

隣町のみはるのおじさんが管理しているという洞穴に、ミナ・ルル・廻、そして岬の4人はみはるたちとともにやってきていた。

 

川○浩探検隊の格好をしたみはるが元気よくそう宣言する姿を、カメラを持たされた廻が撮る。

 

その様子を岩の上に座りながらミナは観察していた。

 

(とりあえず特別ヤバそうな感じじゃないけど……油断はできないわね……)

 

クレーラの瞳、即ち魔力を持つものが触れることで輝きを放つグリッチ・エッグの宝石を使ったアクセサリが出土するというのであれば、ここにはバグダンジョン、グリッチ・エッグとの関係がある可能性が高い。

 

みはるたちがそこに撮影に行くという危険を侵すのならミナたちもついていかなければならないという判断で4人はここまで来ていた。

 

空悟と夕はそれぞれ仕事であり、廻はシフトがないようで本日はこちらに来ることができている。

 

ほかは、みはるとつぐみの二人。

 

ぬえ子が来ていないことに、ルルが少しだけ安堵したのは彼の内心の秘密だ。

 

―――そして最後に―――

 

「なんであなたが来ているのです?」

 

「そりゃあ決まってるでしょ?さ・つ・え・い・☆」

 

そこにはみはるたちと同じく探検隊の服を着た伊良湖恋がいたのである。

 

そう、ミナたちがここに来た理由の一つがこの少女である。

 

クレーラの瞳は魔力を持つものが触れば光るものだ。

 

それはこちらの世界で魔法少女となった岬であれ、冒険者現象により強力化している空悟であれ同じことだ。

 

―――それはつまり、下手にあれに触ればみはるたちにあのブローチが普通ではないことがわかってしまうということであった。

 

幸いにして恋にそのブローチを触らせたことはないようで、恋も例のブローチを普通のものであると認識しているようだったのが不幸中の幸いである。

 

そう、今回最大のミッションは彼女にあのブローチを触らせることなく報酬としてもらってしまい、更に新しい同系統のマジックアイテムが存在したときに触れさせないことである。

 

―――ミナとしては事情を話してしまうことも考えたが、危険に巻き込むことを考えて今回はNGとした。

 

廻と岬の話を聞く限り、現在どころか先日のバレンタイン事件の前の岬よりも恋は弱い。

 

ゴブリン相手に無双できる程度では、サ○ン○ピーもどきが出てきた時には対処できないだろう。

 

こちらの事情に巻き込んで大変なことにしたくはなかったのである。

 

もし彼女にバレてしまうことがあれば、その時に説明するつもりだ。

 

ミナは嘆息して、みはるたちが持ってきた機材のバッグを持ち上げるのであった。

 

 

 

―――洞窟の中は広かった。

 

「さあ~遂に洞窟突入~~~!今日は~素敵なゲストも来ていますよ~♪」

 

つぐみの言葉を合図に、少女がカメラの前に飛び出てくる。

 

「ばぁっ☆みんなのアイドル、恋ちゃんだよ~♪」

 

両頬に合わせて手のひらを開いておどけながら現れた少女は―――「でもだいぶ広くねぇ?!これおかしくね!?」と急に男口調になって洞窟の天井を指差した。

 

確かに広い。

 

入り口から考えると、まるで鍾乳洞のような高さである。

 

「……んん?間違ったかしら?」

 

みはるがあたりを見回して、怪訝な表情を浮かべる。

 

そう、それは―――以前ミナが見た探検隊シリーズのパロディで見た場所ではなく―――

 

「明らかに~ち~がう場所~……だよねぇ……」

 

頬に指を当てたつぐみがそうして不安そうにミナ達を見る―――そのミナは一瞬だけ深刻な顔をしてニッと歯を出して笑った。

 

内心、まずいとは思っていたが。

 

内部は以前見たそこらの熊が冬眠していそうな洞窟ではなく、よくよく目を凝らしてみれば鍾乳石が天井より垂れる完全な鍾乳洞であった。

 

内部はほぼ真っ暗なため、それを見れたのはミナとルル、そして廻の3人だけだ。

 

一瞬焦って入り口を見れば―――

 

ゴゴゴ、と岩がこすれる音がして光を漏らす入り口はあっという間に閉じてしまう。

 

「―――やられた!」

 

ミナは舌打ちし、ルルに目配せをする。

 

超常現象―――グリッチ・エッグとなんの関係もないみはるとつぐみがパニックを起こさないようにするために、二人は同時に詠唱を始める。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ」「世界を調律する我らが祭神よ」

 

「「心に一時の安らぎを」」

 

「破壊の嵐吹くその前の」「整いし世界への入り口を」「「サニティ」」

 

調和と破壊、善神と邪神、二柱への祈りは即座に届き、それは人を落ち着かせる白い光となってみはるたちの胸に宿った。

 

「―――なんだか、すごく」

 

「落ち着きますわ……ここは一体どこなのでしょう」

 

その人を落ち着かせ精神の平衡を回復させる光を浴びた二人は、恐怖の色をなくしてキョロキョロと周りを見る。

 

ヘッドライトで照らされたそこは―――ミナたちも見ている鍾乳洞であった。

 

「ところで~今の光は~……」「気の所為!」

 

ミナがそう強弁して、つぐみを睨む。

 

「わ、わかりました~でも、これは一体……閉じ込められちゃいましたねぇ~……」

 

先程まで入り口のあった場所にヘッドライトを当てて、それが動かせそうにないものであることを確認するとつぐみは肩を落としてしまう。

 

(こんな立派な鍾乳洞、なかなか見れないわねぇ―――ちょっと作りもの臭いけど)

 

ミナは天井を見て、フッと息をついた。

 

「間違いなくこれおかしいよな。撮影どころじゃなくねえか、ねーちゃんたち」

 

恋がそうしてヘッドライトを周囲に向ける。

 

ちたん、ちたん、と天井から水が垂れてくるのがわかる。

 

おそらく地下であることもありそこまで寒くはないが、問題は―――

 

(ミナさん、やっぱりスマホの電波死んでます)

 

(同じく。一切の通信が利かない)

 

ルルと廻が口パクしてきたのを、ミナは読唇術で読み取って落胆した。

 

―――みはるたちには外に出る時、記憶をなくしてもらうとして―――

 

ここをどう切り抜けるかを考えるべきだとミナは頭を切り替えた。

 

地面は平坦で、道はどこまでも続いているかのように広い空間だ。

 

まずは岩をどかせないか試してみよう。

 

杖を無限のバッグから取り出し、古代語の詠唱を始める。

 

「世界を司る偉大なるロジックよ。我が身に力を。腕に、足に、目に、指に。強く、速く、正しく、巧みに―――フィジカル・エンチャント・オールボディ!」

 

ミナの体に赤い光がやどり、すぐに消える。

 

力押しでどうにかならないか、廻に目配せをして二人は岩の前に立つ。

 

「今のなんですの!?そのステッキ、どこから出したんですの?!」「だから気の所為!いいから岩をどかすからちょっと下がってて!!」

 

その強い言葉に気圧されたみはるが一歩下がると、ミナは廻ととも全力で岩をどかそうとするが……

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬッ!!」「むぅん……!」

 

全く一切びくともしない。

 

その影でルルがいくつかの解呪や解錠に関わる呪文を岩にかけていたが、それも全くの無意味であった。

 

「だー!無理!これは力押しじゃ無理ね!!」

 

ミナがそう叫び、廻もまた「賛成だ」と岩から体を離す。

 

「あなた方は一体……」「なんなんですか~……?」

 

サニティの効果が薄れたのか、二人は不安そうにミナ達を見てくる。

 

その目にミナはにっこり笑って「ここから出たら説明するから、今は動きましょう!電波も通じないみたいだから、ちんたら救助を待ってる暇はないわ!」と二人に有無を言わせぬ勢いで話しかける。

 

「う、まあ」「わかり、ましたぁ……」

 

そのミナの真剣な目に、不承不承に二人は頷く。

 

「よろしい!こう見えて私たちはこういう閉じ込められたりハマって動けない時に脱出するプロ!大船に乗ったつもりでいなさい!」

 

ミナの言葉が鍾乳洞に響く。

 

ミナはバッグからヒヒイロカネの小剣を取り出し、その先端に魔法の光を灯した。

 

「それは……」「また後で!じゃあ行くわよ!」

 

みはるの言葉を強引に遮ってミナは歩き出す。

 

他の6人はその背中についていくのであった。

 

 

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