異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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昨日投稿するの忘れてた……(́・ω・`)


第73話「私達は『運がいい』」

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空には薄っすらと雲がかかり、朧月が地上を優しく照らしている。

 

春と言うにはまだ肌寒いが、空の色だけを見れば本日間違いなく春に見える日であった。

 

地上には未だ降り積もった雪が堆く積もり、人々の行き交いに必要な部分だけが除雪されている。

 

神森市は雪国ではあるが、海が近いこともあり春は早い。

 

後一月もすればこの雪もすべて水に返っているはずだ。

 

雪の間道を3人の少女と1人の少女に扮した少年が歩いていく。

 

みはるの家はミナたちが住む西之森よりも更に西、自衛隊駐屯地の近くのマンションだ。

 

歩いておよそ1時間というところであろうか。

 

日はとうの昔に落ちきって、冷たい風が流れていく。

 

夜の黒を冷たく優しい月の光が覆っていた。

 

「なぁ、どこまでついてくんだよ。おじさんの車呼んだ方がはえーよ」

 

恋が不満を岬に述べるが、彼女は「一般人を巻き込むかもしれないのです」と言葉少なく答える。

 

「……つまり?」

 

「あの箱の蓋で悶絶してた女の人がまた来るかもしれないということですよ」

 

その時に戦えない人がいては足手まとい。

 

万一的に殺されでもしてしまったりしたらとんでもないこととなる。

 

いくらミナやルルが蘇生魔法を扱えるといっても、死の瞬間の記憶は残る―――それは精神衛生上あまりよろしくはないのだ。

 

深刻なトラウマが残ってしまう場合とて当然のようにあるのだから。

 

「こんなことならとっとと免許とっときゃ良かったわ。4月になる前に教習所行きましょ……」

 

ミナがふぅと息を吐いて、まだ吐いた息が白い初春の空気を吸い込む。

 

「ところで、いきなり引っ越すなんて話になったのはやっぱりそういうことなんです?」

 

「ああ、そうなんだよ……あいつが出てきたらあたいだけじゃどうしようもねえんだもん。仲間っつーか、この力を持ってるやつは他にもいるって女神さまから聞かされててさ。ようやくお前のことを見つけたんだ、岬ちゃん。だからお前とかお前の仲間とかが居る街の方が安全だと思ったんだよ。元々おじさんやみはるねーちゃんからは東京を離れることを勧められてたしな」

 

それに、と言って恋は俯いた。

 

「それに、『オリジナル』のお前の近くにいれば、全部の解決も早いんじゃないかと思ってさ」

 

恋はそう言って、真剣に岬の顔を見た。

 

「なぁ、一緒に戦ってくれよ。オリジナルを探せって女神さまに言われて、この一月ずっと探してたんだ」

 

「うーん、でもあたしそんなに一緒には……」

 

手を握ってどうかとお願いする恋に、岬は鼻をかいてどうすればいいか悩んだが―――

 

「あら。いいじゃない。どうせ春から小学校に通うんだし、岬」

 

―――ミナがそんなことを言い出したので、その悩みも吹っ飛んだ。

 

「多分みはるちゃんちのあたりなら学区も一緒だろうから、ってかあんたら私と空悟の後輩になるのね、そうすると。惟神小学校の学区だし」

 

「えぇぇぇ……あたし聞いてないんですけども……」

 

肩を落として不満を言う岬に、ミナが指を振る。

 

「なーに言ってんの。あなたの戸籍、年齢10歳でしょ。そしたら小学校と中学校は通わなきゃだめよ。カーチャンとあなたの名義上の親になってる人が迷惑するわ。よく勘違いされるけど教育の義務って、教育を受ける本人の義務じゃなくて受けさせる人の義務なのだわ」

 

ミナが笑い、岬がげんなりした顔になったが、恋はニコリと笑ってそのことを喜んだ。

 

「えっ、じゃあお前も同じ学校に転校すんの!?じゃあ、一緒にいる時間も長いよな!な!」

 

ぶんぶんと握った手を振ってくる恋の様子に、岬は「……この歳になってまた小学校とは……」と小さな声で呟いて、「わかりましたです。どうせ強くならなきゃならないのはこちらもおなじなのです」と恋の手を握り返す。

 

「じゃあ、道中オリジナルとかなんだとかって話をもっと詳しく……」

 

―――岬がそうして、恋に「オリジナル」のことを聞こうとした瞬間。

 

きゅらきゅらと謎のキャタピラ音が響いてくる。

 

雪の間道を、きゅらきゅらと……

 

「……ミナちゃん、恋ちゃん……あたし、大層嫌な予感するのですが?」

 

「奇遇ね。私も同感よ。ルル、何か感じる?」

 

岬が冷汗を流して仲間の方へ向き直ると、今まで恋を怖がらせないように沈黙を保っていたルルが「また閉じ込められました」と事も無げに笑った。

 

「えっと……つまり?」

 

「車を呼ばなくて大正解、ってこと!岬、恋ちゃんは変身!ルルは何でもいいから敵が姿現したら攻撃魔法!」

 

ミナの指示にルルが「我々にここまで気づかせないとは、魔王の類ですかね?」と魔力を集めながら苦笑する。

 

「笑ってる場合じゃないってば」

 

その瞬間。

 

雪の間道の奥から現れたのは。

 

「ミナちゃん、ミナちゃん。あたしの見間違いじゃなければあれ……99式自走155mm榴弾砲なのですが……」

 

角ばった車体の中央に固定された巨砲を見た岬は、ギギギと軋むようにミナに振り返りながら、月光で照らされたそれを見る。

 

完全に陸上自衛隊の制式装備である99式自走りゅう弾砲そのものである。

 

ただし―――

 

「岬、ちょっと違うわよ。私の眼が確かなら、あれ主砲が8インチはあるんだけども―――ルル、攻撃魔法中止。デスウォールの準備」

 

ミナは白杖に魔力を集め、神聖語を唱えだす。

 

―――詠唱が完成した瞬間と、それが発砲した瞬間はほとんど同じであった。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!その御手を盾として我等を厄災から守り給え!プロテクション!」

 

バウン、と発砲音がしたと同時に榴弾がプロテクションで弾ける―――

 

ビリビリと空気が震え、威力が相殺された。

 

「気をつけて!ロングノーズと同じなら毎分6発以上撃ってくるのです!」

 

架空戦記ヲタの岬の言葉に答えるかのように、ルルがデスウォールの準備に入る。

 

プロテクションよりも効果範囲も時間も、何より防御力そのものが遥かに上のそれが唱えられると同時に、ミナはバッグから金剛石の長剣を取り出していた。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ!その赤き牙を盾と変えたまえ!デス・ウォール!」

 

「とぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

発動と同時にミナが駆け出す。

 

彼我の距離は350mほど。

 

ミナの足であれば15秒とかからない。

 

駆け出すと同時に、自走砲はミナに重機関銃を放つが―――ガキン、ガキン、ガキンと金属を立ててその攻撃はミナ自身にかけられたプロテクションによって防がれた。

 

またバウン、と発砲音がして、それはルルのデスウォールに粉砕され―――

 

「そりゃぁぁぁ!!」

 

渾身の力で振り抜かれた金剛石の長剣は、3発目の榴弾が発射される前にその砲身を叩き切る。

 

それでも発砲しようとしたのだろうその自走砲は―――ドゴン、と大きな音を立ててその砲を暴発させて沈黙したのであった。

 

「……こんなデカい自走砲なんてあるのかしら……?」

 

ミナが怪訝そうにそう言って、沈黙した自走砲に飛び乗る。

 

そしてそのハッチを金剛石の長剣でこじ開け、中を見ると―――

 

そこには、なにもない。

 

戦闘車両としてあるべきものがなにもない。

 

空虚な空間が広がっていた。

 

まるで出来の悪いおもちゃのよう。

 

ミナの脳裏にそんな言葉が走っていく。

 

どくん、と心臓が跳ねた気がして、顔が自然に上を向いた。

 

その衝動をかき消すようにミナは照明の精霊術を静かに唱え始めた。

 

「小さき灯りの子リンカよ。私の手に小さな灯火をちょうだい。私の行く手を照らしてちょうだい」

 

手のひらに生まれた明りがゆっくりと車内に落ちていき、中を煌々と照らす。

 

しかし、そこには先ほどと同じがらんどうで、本当に出来の悪いプラモか何かのようだった。

 

砲弾はおろか、本当に何も入っておらず、砲口からは外の月明かりが覗いている。

 

どうやって、と問う必要はない。

 

これはそう言うものなのだとミナは即座に理解した。

 

「なるほど。箱に閉じ込めた次はこれか」

 

ミナはハッチから出て、周囲を睨む。

 

すると雪の間道を形成する雪の中から硬質な顔の兵士たちがゆっくりと生まれ出でるところが―――

 

「今度はお人形遊びか!ルル!二人を守って!岬と恋ちゃんは何でもいいから攻撃!すぐに来るわよ!」

 

ミナが叫ぶと同時に、現れた兵士は雪の上を匍匐前進しつつその手の自動小銃を撃ち始める。

 

それらはデスウォールに弾かれてルルたちに届くことはない―――

 

しかし敵は……古いアメリカの兵士人形を思わせるそれらがどんどんと増えていく。

 

既に30人、1個小隊を超えて集結しつつあった。

 

月の明りに照らし出されても、先ほどまで見えていた町は影も形も見えない。

 

それどころか、雪が積もった空き地の間の歩道に掘られただけの雪の間道が、まるで迷路のように周囲へ続いているのだ。

 

鍾乳洞と閉鎖空間である証拠だが、今度は敵がいる。

 

早めに出る必要があった。

 

「ていっ!」

 

ガシャン、と音がする。

 

銃弾をかいくぐって近づいた恋が兵士人形の背中を鎌で切り払ったのだ。

 

その一撃でまるで人間のように兵士人形は動きを止め、周りの人形は復讐を誓うかのように彼女へと銃を向ける。

 

「やべっ!?」「エネルギーボルト!」

 

岬が光矢を放ち、恋を狙った兵士たちは次々に倒れていく。

 

だが、銃弾が一発だけデスウォールの範囲外に出てしまった恋の頬を掠めて、血の花が咲いた。

 

「くっ……」

 

悔し気に一歩下がった白と青の魔法少女に、桃と黄の魔法少女は「早く戻ってなのです!いまのうち!」と声を掛け、彼女はそれに従って飛び退る。

 

タタタタタタ、と自動小銃の発砲が続くが、すぐにデスウォールの範囲内に戻った少女には何の被害も与えられなかった。

 

ならば近づくべし、とばかりに兵士たちの中でも軍曹……おそらくはベトナム戦争ごろの米陸軍軍曹の階級章を付けた人形がハンドサインで行けと命令する。

 

「いけませんね、怪我をしては。破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。その牙より哀れで弱きものへ生命を下賜されよ。リトルヒール」

 

領域内に戻ってきた恋に掛けられた治癒の暗黒魔法は瞬時に頬の傷を血液ごと消し去った。

 

「う……ごめんなさい」

 

バツが悪そうに、いや明らかに怯えてそう頭を下げる恋に、ルルは「ありがとう、でいいですよ。良い子にしていれば何もしませんから」と微笑んだ。

 

恋は「本物の銃じゃ無茶はできないぜ……」と肩を落とすが、ルルは「なにあの程度ならすぐにもどうにかできますよ」と事も無げだ。

 

「でも、数、多くないです……?」

 

岬の言葉を示すように、どんどんと敵の数は増している。

 

雪の上だけではなく、間道からも染み出すように兵士人形たちは生まれ続けている。

 

実際、向こうでミナは兵士人形たちを秒に1体は切り倒しているが、彼女にまとわりつく兵士人形は増えるばかりだ。

 

ミナ自身の防御力が銃やナイフなどの攻撃力を上回っているのか、当たろうが切られようがほとんど痛痒はないようである。

 

「……多いですねえ」

 

「多いとか言ってる場合じゃねえってば!アレおかしい!雪からアホみたいに生えてる!」

 

恋がにじり寄ってくる兵士たちに鎌を向けて叫んだ。

 

「うーん……どーしますかー!ミナさーん!」

 

「ぶっ飛ばすに決まってるでしょ!詠唱するから周りの敵フッ飛ばして!」

 

「承知しました―――偉大なるロジックよ!寄る辺なく燃える炎を我に!玉となり丸となり弾となし燃やし尽くせ!ファイヤーボール!」

 

どん、と火炎の球が飛んでいく。

 

それはミナの近くに着弾して、ほとんどの兵士人形を吹き飛ばし―――しかし、ミナは無傷であった。

 

ミナがいま身に着けている装備は、火鼠の皮衣―――かのかぐや姫が所望したそれと同じ名を持つマフラーである。

 

熱と火、そして衝撃を吸い込み、熱として徐々に放出する性質から、冒険者が爆発系の魔法対策と兼ねて暖房にすることがよくあるアイテムである。

 

「よし!ルル、二人を守ってね!世界を停滞へ導く我らが厄神よ。我が願いを聞き届けたまえ。時と空に陥穽を。世の帳に閑静を。遍く影をお与えください。永劫の地獄の扉を開けたまえ。ディメンションイーター!!」

 

ミナの杖から黒い染みがしたたり―――垂れ落ちた闇は虚空の穴となって兵士人形と雪の間道を悉くに飲み込んでいく。

 

術者たるミナを除けば、ルルと彼に守られた二人の魔法少女だけがその落とし穴めいた空間にふわりと浮かんでいた。

 

後にはなにもない白紙の大地。

 

ポッカリと円形に、ごっそりと何もかもがなくなっている。

 

そのまるで世界が滅びたような光景に、白と青の魔法少女は戦慄した。

 

「なんて魔法でえ……おっかねぇ……お前のねーちゃんやべぇな……」

 

ルルにしがみつきながら、恋は岬にそう言うと、岬は「いや、これはヤバイどころの話じゃないのです……あの時は大して何とも思わなかったですけども……」とやはり顔を青くする。

 

戦略兵器の魔王の間では白い闇を飲み込んだだけであったディメンションイーターは、今は物理的な威力を持ってすべてを飲み込んだ。

 

それがたまらなく恐ろしい力なのだ、と。

 

あれからだいぶ力をつけた彼女はその恐ろしさを理解するまでに至っていた。

 

「アレは暗黒魔法の奥義の一つですからね。ああまでとっさに唱えられるのはミナさんくらいのものです」

 

ルルが少し自慢げにそう述べつつ地面に降り立つ。

 

そして、何もかもなくなった地面で立ち尽くし上を睨む少女は―――

 

「―――次は何?」

 

そう呟くが当然返答はなく。

 

―――す、と唐突に景色がゆらぎ。

 

「諦めたか……今は」

 

4人は元の雪の間道へと戻っていた。

 

「ミナちゃん、これは……」

 

駆け寄ってきた岬が不安げにミナの目を見る。

 

その瞳から感じられたものは、ミナと同じことを思っているという確信だった。

 

「間違いないわね。敵の狙いは……」

 

「恋ちゃん……ということなのです。もうこれで同じ相手と思われる相手が2度……ですし」

 

岬は杖を強く握ってミナの瞳を睨むように覗き込んだ。

 

「二度あることは三度ある……なのです」

 

「ええ、そういうことね。全く、次から次に問題が襲ってくるわね……これは、この間の事件で彼女に会えてなかったら大変なことになっていたかもしれなかった。私達は『運がいい』」

 

ミナは翼のついた白杖をバッグにしまってそう微笑む。

 

つまり、これもまた幸運の女神ヒトコシノミコトの導きなのであろうと。

 

「なんか頭ン中ぐちゃぐちゃしてきた……」

 

ルルに連れられた恋が変身を解きながらそう訴えると、ミナは「まあ……恋ちゃんも関係者だし、事情は話しましょう。貴女もグリッチ・エッグ由来の力を持っているのだし。さっきはそっちの事情しか聞いてなかったからね。そっちが知ってる『オリジナル』のことも含めて、日を改めて話しましょう―――もう20時だし」と最近買ったスマホ連動の腕時計を見て勇者は微笑みかける。

 

「うぇっ!?やっべ……プロデューサーにもおじさんにもこれ怒られるの確定じゃん……」

 

肩を落として少女は落ち込む。

 

「まーまー。あたしやミナちゃんも言い訳してあげるから気を落とさないでなのです」

 

そうして恋に岬は手を出した。

 

「握手なのですよ。これからもよろしくです。魔法少女の仲間として、友達として」

 

そして、この体になって初めての、自分を見失うような仕事についてから初めての、十余年ぶりの新しい対等な立場の同性の友人として。

 

―――ミナや夕も当然友人とは呼べる人々だが、実力差もあってやはり先輩感保護者感がある。

 

だからこれは岬にとっては内心嬉しいことであった。

 

「おう!よろしくな!」

 

アイドル然とした見た目に釣り合わない少女の男口調が心地いいと思った。

 

その光景を月が優しく見下ろしている。

 

春の朧月が……

 

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