異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第75話「初めての仲間 -昔のお話Ⅱ①-」

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「やはり恋ちゃんの効果は絶大ですわね!この間の探検隊の再生数は凄まじいことになっておりますわ!ご協力ありがとうございます!」

 

開口一番、みはるはそう叫ぶようにお礼を言った。

 

場所は―――「思い出鏡」である。

 

「……お客様、私ども今は業務中ですのでお控えください―――また後でね」

 

ミナは貼り付けた笑みでみはるにそう告げた。

 

「ほらぁ。見かけたからっていきなり来ちゃ駄目って言ったでしょ、みはるさん」

 

ぬえ子がジト目でみはるを見る。

 

その足元にはいつもの一夜干しが入っていると思われるクーラーボックスがある。

 

彼女は副市長の娘であるが、その実家は乾物屋を営んでいる。

 

なぜ副市長の妻が乾物屋を営んでいるかはミナの知るところではない。

 

そもそも知ってどうするという話でもある。

 

気持ちを切り替えてミナは「それではご注文が決まりましたらお呼びください」と告げて踵を返した。

 

「むー……」

 

むくれるみはるの声が後ろから聞こえるが、聞こえないふりしてレジに戻る。

 

厨房の中では崎見老人が作業をしているはずだ。

 

―――ルルはといえば、ぬえ子を見かけた途端にバックヤードへ逃げ込んでしまっていた。

 

「……まああの子がニガテなのはわかる」

 

ボソリとそう言って、ミナは目を瞑る。

 

あの撮影の後、クレーラの瞳を報酬として受け取ってはいたが、あの洞窟の調査を行う事はできないでいた。

 

あの箱は妨害でもあったのだろう。

 

また赴く必要がある、と少女は考えて目を開けた。

 

―――その前に次の休みは岬の新しい力でダンジョンの先へ進めないか確認しなければ。

 

ここ3週間はダンジョンに潜っていないため、そろそろなんとかしなければいけないという頃合いでもある。

 

あれから少しして、ホワイトデーのイベントは市の体育館で行われ、盛況のうちに終わったらしい。

 

その直後、恋が芸能活動を一時縮小して神森市を中心に主にネットで活動することを発表して騒動になったこともあった。

 

流石に10歳の子供をアイドル活動で拘束するなど、なかなか鬼畜の所業でもあったし彼女の所属する芸能事務所も納得したらしい。

 

―――もちろん、恋がナニカ魔法を使った可能性もあるが、それを咎める気にはならなかった。

 

「さてどうしたものか」

 

そう呟いた時、みはるから注文を呼ぶ声が聴こえる。

 

ミナは考えを打ち切って、仕事に専念するのであった。

 

 

 

―――ふと、夢の中にいることを自覚する。

 

めったに夢を見ないハイエルフたちが見る、過去の回想に近い「かつて」を想う夢だ。

 

そういえばそうだった、とミナは述懐する。

 

自分が過去を―――前の世の自らを取り戻したのは、そんな上古の森人の持つ夢の世界であった。

 

今、思い返すものはなんだろう。

 

ミナの心に夢となって去来するものは、最初の仲間と最初の冒険。

 

あの無様で、情けなくて、最低の冒険の話。

 

そうか、と思う。

 

空悟や岬、廻と夕。

 

今、自分が仲間としている者たち。

 

皆、それぞれに事情は違えども冒険とは無縁の世界に生きてきた者たちだ。

 

戸惑っているのだろうか。

 

冒険を知らぬ世に生きる者たちを冒険へ導くことに。

 

冒険を知る世界の駆け出したちを指導することはいくらでもあった。

 

しかし、今回は違う。

 

―――違っていて、面白い。

 

ミナは夢深くに落ちていく中、そんなことを思った。

 

そうしてまた夢を見る。

 

遠い日の、まだまだ未熟で無様だったあの頃の自分を―――

 

 

 

彼女が故郷……天護の森を抜け、イファンタ大森林地帯を去り、早2週間が経過していた。

 

彼女が父からもらった地図が正しければ、そろそろ目的地が見えてくる頃だ、と目を覚ました木の上で思う。

 

前世ではこんな場所で眠ることは考えられなかったな、とその少女は苦笑した。

 

その耳は長く、肌は白磁、その瞳は翠玉で、その髪は太陽の光のよう。

 

上古の森人であることを示す容姿を持った彼女の名前はミナ・トワイライト。

 

かつて地球に生まれた時は、水門三郎という名前で呼ばれていた存在である。

 

故郷を出て2週間、彼女は西へまっすぐ進んでぶつかった街道沿いに歩き続けてきた。

 

目指す場所はエトス都市国家群の一つ、チャータムだ。

 

「エトスの国々の食料庫である農業国チャータムには、村々を狙うゴブリンやコボルト、豊富な食料をかすめ取るジャイアントラットやジャイアントローチが絶えることがない。駆け出しの冒険者には良い国だ。何しろ仕事にあぶれることはない」

 

父の―――この世界へ転生してきてからの―――言葉に従い、ミナはひたすらそこを目指していた。

 

革袋の中の水を飲む。

 

革袋は父が自ら作ってくれたもの、中の水は昨日見つけた泉で補充したものだ。

 

それ以外にも彼女の持つ武具の殆どは父が若い頃に―――まだ初心者だった頃に使っていたものを仕立て直してもらったものばかり。

 

マジック・アイテムのたぐいは殆どない。

 

それらに頼るようになるのはまだ先だ、と父は言った。

 

護身用のショートソード、作業用のナイフ、自作の霊木の弓、動きを邪魔しないソフトレザーアーマー、丈夫なブーツが今の装備である。

 

霊木の弓を除けば、それは駆け出し冒険者の典型的な装備の様相を呈していたが、ほとんど着の身着のまま冒険者になる貧農の子供たちよりは億倍も恵まれているだろう。

 

「わがまま言ってごめんな、トーチャン……ありがとう」

 

ミナは目を瞑って父に感謝し、地面に降りた。

 

「さて、今日こそ街に着いて食料補充したいなあ」

 

もうすでに2日何も食べていない。

 

父から聞いた途中の街は、どうにもこうにも既に廃墟と化していたため補充ができなかったのだ。

 

本来ならもっと食料は持つはずであった―――しかし。

 

基本的に上古の森人―――ハイエルフと呼ばれる種族は、普通のエルフやヒューマンに比べてあまり食料を必要としない。

 

量にすれば半分かそこらも摂れれば十分だろう。

 

だが、彼女は特別であった。

 

彼女の魂の中には地球人であった水門三郎の魂が溶け込んでいる。

 

故に、食事は普通に摂らねば体はともかく心が持たないのである。

 

記憶を取り戻した三年前よりも前から、ほとんど生まれつきそうであった彼女は、大食らいのミナと故郷では呼ばれていてそのことをたいそう恥ずかしく思っていたものだ。

 

それが故に、持ってきた食料は早々に尽きていた。

 

「不便だなあ……どうせならそういうところも皆と合わせてくれりゃよかったのに」

 

自らを転生させた何者か―――後の時代、仇敵として滅ぼすこととなる存在へと文句をつぶやいてから、リュックサックを背負いミナは街道を歩き出す。

 

彼女が10年を過ごすことになる街、ラシェランへ到着するのはそれからおよそ1日後のことであった。

 

 

 

街についてすぐ。

 

父が持たせてくれた路銀―――中途でほとんど街がなかったために全くもって消費することのなかったそれを使って、ミナはまず食事を摂ることにした。

 

六脚豚のサンドイッチと同じく六脚豚のシチューのセットを頼む。

 

―――故郷では肉は食べられなかったからなあ……

 

心のなかでウキウキと記憶を取り戻してから3年ぶり、生まれてより数えれば400年以上ぶりの肉に思いを馳せる。

 

食べている場所は、親切なおばあさんに教えてもらった冒険者ギルドの食堂である。

 

「お待ちッ!六脚豚セットね!後、薄めたワインどうぞ」

 

亜麻色の髪と尻尾が美しいワードッグのウェイトレスが元気に注文した品を置いていく。

 

「ありがとうございます」

 

一言お礼を言って、ミナは目の前の食事と向き合う。

 

もぐり、とサンドイッチを食むとまず何かの香辛料の味と香りが口の中に充満し、次いで肉汁が口の中に弾ける。

 

―――うーまーいーぞー!!

 

人目がなければきっと某グルメ漫画のリアクション爺のように叫びだしていたことであろう。

 

そのくらいに美味しかった。

 

(中世ファンタジー風世界だから心配してたけど、なにこれ美味しいじゃねーかよぉ……)

 

ほろりと涙が出てくる。

 

シチューを匙で掬って口に入れた。

 

柔らかい煮豚が口の中でホロリと溶けて、得も言われない味を醸し出している。

 

食材の保存が良いのだろうか、ほとんど臭みのたぐいはなく、ミナはまた涙を流してしまった。

 

そうして一口一口味わいながら口の中へ入れていく。

 

「うめ……うめ……」

 

嬉し泣きをしながら肉肉しいサンドイッチとシチューを頬張るエルフの少女という奇異な光景を、周りが注視していることも気づかないほど肉に集中していたのであった。

 

 

 

「ああ、美味しかったッ!」

 

パンとシチューをお代わりして、ようやくお腹が落ち着いたミナは薄めたワインをがぶりと飲み干してそう笑った。

 

まずはやるべきことはやった。

 

食休みを少ししたら、ギルドに冒険者登録せねばなるまい。

 

父が冒険していた頃と同じであれば楽だろうな、と5分ほどして立ち上がった少女は思う。

 

そして食堂の窓口へお金を支払うと、受付へと歩いていく。

 

時間はもう昼過ぎ。

 

人もまばらなギルドの受付は特に誰もおらず、冒険者登録はスムーズに開始された。

 

「はい、どうもー冒険者ギルドへようこそ。登録ですか?ご依頼ですか?」

 

メガネを掛けた只人の受付嬢がそう言って歓迎してくれる。

 

名札には「ミーシャ・ブルボン」と書かれている。

 

「登録でお願いします」

 

「はいはーい―――おや、シチューの匂いが……ここのシチューは美味しかったでしょう?名物なんですよ」

 

書類を用意しながら、ミーシャはシチューの話を始める。

 

「エルフさんでお肉食べる人は珍しいですけど、人それぞれですねぇ。それじゃあこれに必要事項を記載してください」

 

書類には氏名、年齢、種族、喋れる言語、書ける言語、簡単な経歴の記載欄、そして今できるスキルの確認欄があった。

 

「あ、代筆は必要ですか?必要であれば、銅貨七枚で承ります」

 

その値段が高いのか安いのかはわからない。

 

少なくとも、代筆の値段はシチュー1杯よりも安かった。

 

―――端的に言って、代筆はミナには必要がなかったが。

 

「大丈夫です。共通語の読み書きは父から教えてもらいました」

 

「そうですか。では、あちらの記載スペースでお書きくださいねー」

 

ニコニコと営業スマイルを崩さないミーシャに促され、粗末な机が並ぶ場所を案内され、そこで羽ペンを使って必要事項を記載していく。

 

(名前、ミナ・トワイライト。403歳、種族はハイエルフで、スキルは……精霊術位階2に戦士と野伏初心者……経歴は……)

 

ミナはなんの虚飾もなく、こちらの世界に生まれてから後の経歴をそのまま記載して提出した。

 

そのままと言っても、彼女は403歳という百世紀を超えて生きるハイエルフたちにとって小学6年生から中学1年生かそこら程度の扱いの年齢だ。

 

書くことなど、森でずっと暮らしててこの度わがまま言って出てきました、くらいしかない。

 

その書類を受け取った受付嬢は営業スマイルのまま、一瞬だけ種族欄の記載に驚いたように目を見開くと、それ以上気にした風でもなく事務処理を続けた。

 

「はい、どうもありがとうございました。念のため虚偽なきよう正義神の神官より判定を受けてもらいますね」

 

「承知しました」

 

これも父に聞いたとおりだ。

 

何の問題もなく、バックヤードから出てきた青い髪の神官による虚偽探知と邪悪感知、罪科感知の神聖魔法にミナはパスし、晴れて彼女は冒険者となったのだった。

 

次いで、ギルドの宿に空きがないかを確認してそのまま1か月分の宿を取ってから食堂へと戻っていく。

 

(さて、まずはパーティーを募らないとなあ)

 

親の持たせてくれた路銀のおかげでしばらく―――おそらくは数ヶ月程度は暮らしていけるが、無職ではいられない。

 

少なくとも明日か明後日には仕事を始めたいと思っていた。

 

「村を襲うゴブリンか、鉱山に巣を作るコボルト相手が初心者のうちは実入りがいいけど危険、って受付さん言ってたけど……まあ、仲間が見つかんなかったらおすすめの大鼠退治でもすっかぁ……」

 

まずは付属の武具屋で鉢金と小盾でも買って、明日以降に備えよう。

 

動きを阻害しない程度の追加防御策を持たなければ、華奢な自分などあっという間に死んでしまいそうだったからだ。

 

頭を守り、敵の武器を防ぐために兜と盾は必要不可欠。

 

魔法の装備を手に入れられるようになるまでには長い時間がかかるに違いない。

 

それまでは……どこかのパッと見さまよう鎧な某TRPG風ラノベの主人公を見習おうと彼女は思った。

 

それから、小盾と鉢金は問題なく買えた。

 

―――フルフェイスの鉄兜も検討したが、重くてまともに動けなくなることがわかったのでやめておく。

 

それ以外だとカンテラを購入した。

 

ロープや蝋燭といった消耗品も。

 

これで準備は万端だと彼女は思った―――少なくとも、この時は。

 

 

 

翌日のこと。

 

―――割とあっさりと仲間は見つかった。

 

早朝、ミナが依頼の張り紙を見ていると、見た目には同い年くらいに見える少年少女たちが声を掛けてきたのである。

 

それがミナにとって最初の仲間……只人の少年ルート、同じく只人の少女イーサ、そして街住みの半森人少女リージェの3人だった。

 

それぞれメインは戦士、神官、魔術師らしい。

 

女性ばっかりなのが気にはなったが、それでもスキル的にはバランスのいいパーティーであることには違いない。

 

違いはないのだが、どうもこの構成にさまよう鎧的な既視感を覚えてミナは内心不安だった。

 

その不安は―――外れるのだが、それ以上に大失敗が起きてしまうことなど今のミナは思いもしないことである。

 

「どうも、ミナと申します。どうかよろしく」

 

通り一遍の挨拶をして握手を求めると、「俺はルートだ!よろしく頼む!」と少年がその手を握ってくる。

 

「イーサです。戦神の神官をしています。ルートとは小さい頃に同じ孤児院で過ごした仲。どうかよろしく」

 

少々つっけんどんに女神官はミナに挨拶をした。

 

(ルートくんが盗られるとでも思っているのかな?)

 

そんな身もふたもない感想が思い浮かぶが、それをおくびにも出さずに笑って「よろしくお願いします」と返す。

 

そして、もう一人だったが……

 

「私はリージェ。賢者の学院で学んできた魔術師。よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

(無口で無表情だなー……青い髪といいこれは綾〇系ってやつだな)

 

なんともコミュニケーションが取り辛そうな少女であった。

 

ミナは真摯な瞳にじっと見つめられて、不意に顔をそらしてしまう。

 

その気恥ずかしさを誤魔化すように、ルートへと質問をした。

 

「ところでルートさん。あなたはどちらから?イーサさんが幼いころって仰ってましたけども、今は違うんですか?」

 

「うむ!先ほどイーサが言った通り、俺とイーサは同じ孤児院の出でな!俺は7年ほど前に運良く剣術道場の師範に引き取られて今に至る!因みにイーサは戦神の神殿に住んでいるぞ!」

 

元気いっぱいにそう答えられて、「なるほど」とだけミナは返した。

 

「早速だが依頼を受けよう!4人いるのだから、自分たちの実力を測るためにもゴブリンかコボルト退治が良いと思う!一度やってみて継続した受託がきつそうなら、大鼠やゴキブリ退治に挑みたい!」

 

「あー女性多いですものね。巨大Gは確かに……」

 

巨大なゴキブリのビジュアルのことを思い浮かべて、ミナは少々気持ち悪くなる。

 

不快害虫の中でもかなり高位の嫌悪感を抱くフォルムを奴らは持っているなあ、と異世界に来てまでそう思った。

 

……普通のゴキブリは森で動物の死骸や糞、枯れた木や植物を食べて生きる森の掃除屋である。

 

住居にいるゴキブリは過酷な森の環境から安定した人間の住環境へと移ったものだ。

 

ジャイアントローチもその中から生まれた魔物であるといわれている。

 

元は森の仲間なんだから、気にすることはないとエルフの部分で思えども、まだシデムシのほうが嫌悪感がないと地球人の部分が思ってしまうのはどうしようもないことであった。

 

「じー……?」

 

不思議そうにリージェの瞳がこちらを覗き込んでくる。

 

「ああ、ゴキブリの別名のことですね」

 

「由来は?」

 

「さぁ……少なくとも、私が考えたものではないですね」

 

咄嗟に出てしまった前世でよく使われた略称を言ってしまって、ミナは少し冷汗をかきながら嘘ではないが真実を答えてもいない回答をしてお茶を濁した。

 

「まあイーサもリージェもゴキブリが苦手というのはどうしようもない!とはいえ背に腹は代えられない。ゴブリンやらコボルトで食えなければ仕方ないというものだ!」

 

詰まるところそういうことであった。

 

貧農の息子と娘の群れならいざしらず、目の前にいるルート少年はどうも剣術道場でそれなりに技を修めてきたと見え、その装備も長剣と脇差めいた小剣を持ち臨機応変に戦えそうな装備を持っている。

 

自分の知識とて某みすぼらしい鎧の男の教えによる畳水練に過ぎないとは言え、この少年と少年が信頼している女神官となら、それなりにやれるかもしれないとハイエルフの少女は考えた。

 

「ルート……本当に大丈夫ですか?私達はともかく、そちらのお二人とは出会ったばかり。連携ができるとはとても……」

 

心配そうに威勢のいいルート少年に物申すイーサであったが、ルートは「なに、ゴブリンごときに敗れるとあらばそれもまた天命!我らは大したことのないものだったと戦神に詫びるのみ!」とあまり真剣に取り合っていなかった。

 

ミナとしては双方の意見に頷けるものがあり、とは言え4人の一党の生活費はジャイアントラットやジャイアントローチ退治の報酬で賄えるほど安くはないという客観的な事実を支持しようと思う。

 

―――ミナにとってはルートやイーサほど読めない人なので不安要素でもあるリージェは、それらに興味がないようにミナの翠玉の瞳を見つめ続けていた。

 

「……どうしたんです?」

 

「綺麗だから」

 

ミナが聞くとそうしてジッとミナの瞳を見つめる。

 

「……私の目が?」

 

「うん。半森人は髪も目も、自然にない色になりがち。だから上古の森人の目は綺麗に見える」

 

リージェはミナをまだ真摯な瞳で見つめ続けながらそう続けた。

 

ハーフエルフ、つまりヒューマンとエルフのハーフはどうしても―――青や紫といった自然界の動物があまり持たないシアン系の髪や瞳を持つものが多い。

 

本来の自然の理である同種族による子作りを無視したような生まれが影響しているのだ。

 

とはいえ、多くの国ではそれは差別の対象にはならない。

 

そう言ったものは―――バグダンジョンの脅威にさらされた世界では些細なことだ。

 

只人の成長力と森人の長命を併せ持つハーフエルフは、そんな世界では割と重宝される人材といえる。

 

特に、永遠に近いとも言える長い停滞を過ごすハイエルフの集落では歓迎されることの多い種族だ。

 

―――只人や小人ほど短い生ではなく、山人ほど仲も悪くなく、それでいて彼らにとっては刺激的と言える人生を歩むからだろう。

 

そんなリージェに呼応するように、イーサもミナを見つめてくる。

 

「……あなた、ハイエルフなのね。すごいな……長年冒険者をしてた神官長様も見たことがないって言ってたのに」

 

驚いたように、少し意外に思ったような顔で彼女はミナを見つめてくる。

 

「いやーまあ自慢するようなことじゃないですし」

 

「ううん、自慢されても困るんだけども……昨日、六脚豚肉のシチューを美味しそうに平らげてたわよね、あなた。ほんとにエルフ?」

 

知り合いのエルフは誰も肉なんか食べないのに。

 

彼女はそう言ってミナをジロジロと見てしまったのだという。

 

そのこと、というか奇異の目線に一切気が付かないほど肉に集中していたミナには寝耳に水であった。

 

「やぁ……どうも初めて食べたものに感動しちゃって、人の目なんか全然わかんなかったです」

 

ミナは頭をかいて笑った。

 

(やっちまったあぁぁ―――ッ!そういやエルフは肉をろくに食わねーんだったァァ―――ッ!)

 

内心、全力で叫びだしたくなるほど焦ったが、ここで転げ回っても仕方ないから努めて表情には出さないように微笑む。

 

「いやあ、ほんと、私ってば変わり者で……実家が刺激少なすぎて、そんで飛び出してきたんで……」

 

よくもまあ3年も我慢できたと少女は思う。

 

ご飯は確かに美味しかったし、お酒だって少しくらいは飲ませてもらえた。

 

でも、脂は含まれてないし、植物性のものばかりだしで辛いものは辛かった。

 

増え過ぎた獣を土に返す時だってハイエルフは獲物を食べないのだ。

 

主に供物として森の精霊に捧げるか、あるいは腐食や風化の魔法でそのまま土に返してしまうのである。

 

その所業について前世の記憶を取り戻して以来、もったいねー!と何度思ったことか。

 

ジビエ料理は難しいとは言え、肉に飢えた彼女には食材をみすみす森に返してしまうのはなんとも辛いものがあった。

 

その間、退屈に任せて妹の子守をする中、いろいろな―――と言っても前世で知った物語のアレンジ風吟遊歌を作ったり色々していた。

 

しかし、肉への飢えだけは満たせなかったのである。

 

「うむッ!肉を月に一度も食べられないと露骨に体調を悪くするからなッ!食える時に食うと良い!」

 

「いや、ルート?そうじゃなくてエルフはそもそもあんまりお肉食べない種族なんですってば」

 

突然口を挟んできたルートはイーサにそう突っ込まれても「だが、エルフとて肉が好きなものがいるかもしれないじゃないか」と譲る気はないようであり、それがミナには面白かった。

 

そもそも先程の健康云々と矛盾していることにイーサは気づいているのだろう、こめかみをグリグリと指で揉んで「ほんとこいつは……」と不本意そうに唇を歪める

 

「面白いでしょ。だから仲間にした」

 

リージェにそう言われて、ミナは「確かにこの二人は面白いかも」と微笑んだ。

 

ひとしきり笑いあった4人が依頼を受けたのは、それから15分ほど後のことである。

 

 

 

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