異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第76話「初めての洞窟 -昔のお話Ⅱ②-」

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受けた依頼で向かった洞窟は、ほぼ定石通りのゴブリンの巣であった。

 

村の近くにいつの間にかできていた洞窟。

 

何かで隠されていたのか、ゴブリンたちが掘ったのかはわからないが、とにかくよくある村の近くのゴブリンの巣という奴である。

 

依頼書によれば、既に旅人や村の娘が幾人かかどわかされているのだという。

 

それもまた定石通りであり、早く解決しなければ村が滅ぼされることもあり得る事態だ。

 

何しろ、女を捕まえたゴブリンはすぐに数が増える。

 

同種族だけで増えることができるコボルトに比べてもまだ多い。

 

100匹200匹ともなれば、寒村などあっという間に滅ぼしてしまうだろう。

 

そんな事態を防ぐため四人は旅支度を済ませると、早速この洞窟へとやってきていた。

 

準備といっても、ロープや蝋燭などの冒険者道具は全員そこそこ揃えていたためおおよそ薬類の入手が主となる。

 

イーサは第1位階の神聖魔法、リージェは第2位階の古代語魔法を扱えるが、回復手段としてはイーサのリトルヒールだけでは心もとないこともあり治癒と解毒のポーションを何本か買ってきていた。

 

治癒、解毒ともに駆け出し冒険者の回復魔法に比べれば効果のある魔法薬だ。

 

あるとないとでは大違いだが、値の張る代物でもある。

 

それらの購入資金はこの中で一番初期所持金が多かったミナの財布から出ており、代金はいずれ3人から返してもらう予定である。

 

これには3人とも一切反対しなかった。

 

命あっての物種なのである。

 

「せいッ!」「ギーッ!?」

 

斥候のゴブリンが一匹、ルートの小剣でその命脈を絶たれる。

 

ルートは腕が立つ少年で小剣での戦いにも慣れていたことと彼以外の全員が呪文使いであることもあって特に困難と言えることはここまではなかった。

 

ゴブリンが作る罠としては定石ともいえる落とし穴や回り道、道が分かれた待ち伏せポイントなども丁寧に潰して4人は奥へと進んでいく。

 

「ゴブリンやコボルトは油断ならない。奴らは変に頭がいいくせにバカだから、想像もつかないことをやらかしてくる」

 

ルート少年は声を落としてそう続けた。

 

やはり当たりだ、とミナは内心で喜んだ。

 

……彼女は転生したとはいえ、自分にチートだのギフトだのといったものはないとこのときは思っていた。

 

故にこそ、頼れる仲間があっさりと見つかってよかったという気持ちと、彼らは本当に頼りになるのか、という相反する気持ちが綯い交ぜになった気持ちでいる。

 

どちらにせよ、イーサが多少あたりがきついくらいで性格的にも嫌いではない良い子たちだ。

 

少女はこのパーティーで長くやっていけそうな気がしていた。

 

「じゃあ武器回収しましょ。棍棒と……これは毒ナイフか……やっぱり毒使うんですねえ」

 

エルフの夜目には、それは気味の悪い緑の液体……おそらくはカビか何かの色でこうなっていると思われる気持ち悪い粘液が塗られたナイフが映っている。

 

ミナは嫌そうにゴブリンの死骸から武器をはぎ取ると、棍棒は手で持ち、ナイフは布で拭いてカバンへ突っ込んだ。

 

「……ええ……?持ってくの、それ……?真面目に正気ですか……?」

 

露骨に嫌そうな顔をするイーサにミナは笑って「だってゴブリンって数多いんですもの」と返す。

 

「その通りだイーサ!剣は刃こぼれもするし、血糊でぬめり斬れなくもなる。多対一の戦闘では敵の武器と体は積極的に利用しろと師からも言われた!」

 

「だからってそんなこ汚いの使うの……?」

 

「使うんですよ、これが。それにゴブリンはこんな華奢な私が斬っても死ぬ程度の生き物ですし、メイン武器を使うのはもったいないですよ」

 

肩を落としてルートとミナの言葉にげんなりする少女は、気を取り直したかのように「あーはいはいわかったわよ。ルートが言うならそうなのでしょう。不本意ですが」と前を向く。

 

「武器のことはもういいわ……それより急ぎましょう。娘たちが何をされているかわからないもの」

 

「そりゃもう……ナニされてるに決まってる」

 

気を取り直した少女に、半森人の魔法使いは容赦なくそんなことを言って彼女の気力にダメージを入れていた。

 

「ナニって……やめてよ……そりゃ連中がそういうことするのは知ってるけども……」

 

歩き出しながらイーサは怖気を振るう。

 

「んんー……ゴブリンってほぼ単性生殖に近い、っていうかしっかりした形を持ってるだけで、スライムとそんなに変わらないってうちのトーチャン……いえ、父上が言ってました。オークやコボルトにはメスいますけどゴブリンって基本オスだけなのはそういうわけなんです。だから、最悪牛や馬、豚、それこそ胎さえ持つなら犬猫でも繁殖できる、って話です」

 

おぞましい事実を告げたミナを涙目で見つめたイーサは、「ゴキブリにしときゃ良かったぁ」と呟く。

 

「……そう?私はジャイアントローチの方がいや」

 

リージェはぼそりと言ってニヤリと笑う。

 

「ゴキブリや大鼠相手だと負ければ食われるだけ。ゴブリンなら―――女なら助かることもある」

 

「助けが来るまで地獄では……?」

 

ミナの言葉にリージェは指を振って、「死ぬほうが私は嫌なだけ。他の人のことは知らない」と答えた。

 

「ああ、もう……!どっちも変わらないなら勝って誉のある方にする!」

 

吹っ切れたように、先頭を歩くルートの後ろへとついたイーサはそうしてギリと歯を食いしばった。

 

隊列は、前衛専門のルートが一番前、そのフォローをするため武僧であるイーサが後ろにつく。

 

殿には近接戦闘も弓による遠距離戦も出来るミナがつき、真ん中には近接戦闘手段が限られるリージェだ。

 

ゆっくり、しっかりと進んでいくと―――

 

「グルルルルルル……」

 

唸り声を上げる普通のゴブリンの何倍もある体躯のゴブリンのようなもの―――ホブゴブリンが物陰からぬっと現れた。

 

配下として10匹ばかりのゴブリンもいる。

 

どれも雑多な武器を手にし、しかし杖や装飾のたぐいもない。

 

シャーマン……ゴブリンの精霊使いがいないことに、ミナは安堵して弦を引いた。

 

「ミナくん!後ろはどうか!」

 

「気配なし!物音なし!後ろからは何も来ない!」

 

ルートの声に、精霊へ祈りを捧げながらミナはそう返した。

 

「魔法、使うけど良い?」

 

リージェが木の杖を構えて、頭目であるルートに声をかける。

 

「隙を見て頼む!イーサ!俺はホブを相手する!君はミナくん、リージェくんと連携してゴブリンを頼む!」

 

ホブゴブリンが動けるほど広い場所である。

 

ルートは攻撃力を重視して、今まで使っていなかった長剣―――いや、三日月刀を抜いてホブゴブリンを睨めつける。

 

「戦神よ照覧あれ!ハァッ!!」

 

「おがぁぁぁ!!」

 

ホブゴブリンの棍棒がルートの頭蓋を砕かんと襲い来る―――が、ルートはそれを難なく避けてシミターを一閃した。

 

それは薄皮一枚しか傷つけることは叶わなかったが、しかし十分に彼奴の狙いを自分に集中させることは出来た、と少年は笑った。

 

「所詮はゴブリン!小鬼がいくら強くなったとてその程度!大きくなっただけでは人には勝てん!」

 

煽るようにルートは刀を振るう。

 

「即ち!君では俺には勝てんぞ!」「ガァァァァァ!!」

 

大きいだけのゴブリンと侮られたことに腹を立てたのか、ホブゴブリンはその棍棒を今度は横薙ぎに振るってルートの逃げ場を塞ごうとする。

 

しかし、そこに―――

 

ビョン、とミナの矢が飛んできた。

 

同時に二本放たれたその矢はホブゴブリンの肩に一本、もう一本は雑兵ゴブリンの心臓に命中する。

 

「一本外したか!」

 

ミナが舌打ちするが、それは十分にホブゴブリンの痛痒となった。

 

―――ミナが使った矢は街で買った鉄の矢である。

 

その鏃を外れやすいように細工しておいたのだ。

 

これもまた某ゴブリンだけを殺す人が主人公の小説で見た畳水練というやつである。

 

しかしながら、それは効果は十分にあったようだ。

 

「ギァァァァァァ!」

 

矢を慌てて抜く大きいだけの小鬼は、しかしその鏃がなく体の中に残ったことに悲鳴を上げる。

 

「叫んでる場合か!イヤァッ!!」

 

叫んだホブゴブリンと倒れた仲間にビビったゴブリンの頭蓋に、イーサの持つ鉄の錫杖の一撃が打ち据えられた。

 

「ギャッ!?」

 

あっさりとゴブリンは脳漿をぶちまけて地面に倒れ伏す。

 

その血糊を浴びた少女は、先程までとは打って変わったようにニタリと笑って―――

 

「さぁ、次に私と踊りたいのは誰?戦神様の神殿へ私を送るのはどいつ?それとも私とアレしたいのかしら!?」

 

哄笑を上げる。

 

戦神の神聖魔法にして、位階が最低であっても使える魔法。

 

即ち、己の精神を高揚させ戦への恐怖をなくす魔法、マッドネスをいつの間にか彼女は唱えていたのだ。

 

「イーサ!致し方なし!貴様にはすぐに死んでもらう!」

 

幼馴染がリスクのある魔法を唱えたことで、ルートは速攻を選んだようだ。

 

それに気づいたミナはホブゴブリンへリージェはゴブリンの群れに対して魔法をかけることを選択した。

 

「火の子、竜の子サラマンダー!尻尾の火を矢にして投げて!」

 

「偉大なるロジックよ……力の矢となれ……砕け……!エネルギーボルト!」

 

炎の矢と光の矢がそれぞれに飛ぶ。

 

ミナのはなった炎の矢は―――

 

「グルァァァァァァァァァァ!?!?」

 

見事にホブゴブリンの目玉に直撃し、その魔物は急に失われた視界と肉を焼く痛みに混乱して棍棒を振り回す。

 

その隙はルート少年にとっては、十分に彼奴を殺せるものだった。

 

ブン、と振られた棍棒が彼の頬と肩をかすめて血が吹き出す―――が、彼はそれでは止まらない。

 

「おおおおおッ!」

 

裂帛の気合と共にシミターの切っ先は焼け焦げていない方の目に突き刺さる。

 

「ァァァァァァァァァッ!?」

 

声にならない声を上げてホブゴブリンは崩折れる。

 

一方で、リージェの光の矢は正確にイーサを殴ろうとしたゴブリンに命中してその胴体を三分の一ほど吹き飛ばして絶命させ、その一瞬に狂戦士はグシャリと別のゴブリンの頚椎を殴って破壊した。

 

「ぎ、ギーッ!?」

 

2匹ほど残ったゴブリンは逃げ出そうとするが……

 

「ゲッ!?」「ギゥ!?」

 

ヒュン、とミナが2本の矢を放ち、右は頭蓋を左は心臓を貫かれて絶命した。

 

その間に―――ザクリとホブゴブリンの頸動脈がルートのシミターで切り裂かれる。

 

人間とほとんど同じ急所を持つゴブリンに、それは致命的だ。

 

幾度かもがくように跳ねると、ホブゴブリンもまたその命を終えた。

 

「よし。ホブが出てきたということはこちらが順路に違いない!行くぞ!」

 

まだ笑い続けるイーサの頭にチョップを食らわせながら、ルートはそう言って暗闇の向こう側を見据える。

 

「あいた……ってうっ……またやっちゃった……」

 

「いくらゴブリンが嫌だからって、すぐにマッドネスを使うのはどうかと思う。乙女らしくない」

 

頭を振って後悔するイーサに、リージェがそう言ってふっと笑った。

 

その様子に、まるで酔っ払って何度もやらかしたおっさんを嗜める人のようだとミナは思う。

 

「すぐにとかまたとか、もしかして前にもやらかしたことが?」

 

「うむ!イーサが最初に戦神から下賜された魔法でな!喧嘩の時に思わず発動してドン引きされるということが幼い頃は多かったのだ!」

 

キラン、と効果音が出そうなくらい清々しい声で少年は宣う。

 

「私と初めてあった時も、酔漢相手にやらかしてた」

 

「言わないでください!不本意なんです!割と興奮すると勝手に発動しちゃうんですよ!」

 

イーサが顔を赤らめてそう抗弁するが、ルートはどこ吹く風で「勝てたからよし!なお酒場で喧嘩を止めようとすることは厳禁だぞ、イーサ」と窘めた。

 

「ルートぉ……」

 

「聞かぬ!では先を急ぐぞ!」

 

縋るようにルートへ振り向くイーサへ無慈悲に宣告してルートは歩き出した。

 

―――その光景は、ミナにとってなんともおかしいものであった。

 

 

 

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