異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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前回が長めだったので短め。


第78話「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ、お客様」

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―――やばい、チハたんの運転のつもりでやってると飛ばしすぎる。

 

ミナが教習所で634年ぶりに乗用車のハンドルを握って、最初に考えたことがそれであった。

 

ミナには当然運転の経験はあったが、基本的にグリッチ・エッグで運転していた自動車の類は九七式中戦車改だけである。

 

ガーゴイルの操作は魔力、馬やロバといった乗用生物についてはハイエルフ的になんとなく会話めいたことができるため失敗したことはない。

 

そんな中、流石に第二次大戦時の戦車と現代の乗用車は勝手が違いすぎて、前世でどう母の軽自動車を運転していたか理屈ではわかっても体が全く思い出せない状態になってしまう。

 

そのちぐはぐさにミナは笑いさえこぼれてしまいそうだった。

 

因みに、もちろん初代ジープ・グラディエイターの譲渡を受けるためのものなので、MT講習である。

 

「あー、はい、そのまままっすぐね」

 

幸い、ミナには勇者の権能というものが存在する。

 

努力しようと思って努力している限りは、限界を超えて無限に上達していくという便利なスキルである。

 

そのおかげか、2時限めですでにわりかしものになった運転を見せていた。

 

「うんうん、このくらい素直に覚えてくれたらおじさん嬉しいわ」

 

隣りに座っている少し小太りの教官はそうして汗を拭いた。

 

「いやーかなり難しいですよ、これ」

 

ミナはそうして定位置に教習車を止めて、ふぅ、と息をついた。

 

「停止位置もぴったりですね。それでは2時限めは以上となります」

 

おじさんがそう宣言して、ミナは教習車から降りて教官に頭を下げた。

 

「ありがとうございました!またよろしくおねがいします」

 

「この分なら全然問題なく免許取れると思いますよ。それではまた次回」

 

教官はそう言って、教習所の事務所へと戻っていった。

 

ミナも同じように建物の中へと戻り、手続きを終えると外に出た。

 

「さぁ~~て。今日はバイトも休みだし、岬も恋ちゃんちに遊びに行ったし、暇潰ししてるはずのルルと合流したら飯でも食いに行くかぁ~!」

 

教習所から出て、ミナは周囲を見渡す。

 

―――ぶっちゃけこの森野果教習所の周りにあるのは、自衛隊の駐屯地だけである。

 

いや、自衛隊の駐屯地は住宅地により近いところにあるため、なお寂しい。

 

周囲に食い物屋は―――実は教習所や近くの免許センターへ来る人間を目当てにそこそこある。

 

森の果てなどという名前のくせに鬱蒼と木に覆われた立地に、ポツポツとお店があるのはなかなかシュール、或いはちょっとロマンチックな人間なら幻想的とも表現しそうな様子であった。

 

「相変わらず戦車とか自走砲とか動きにくそうな場所に駐屯地あるのよねえ」

 

移動用の四車線道路が県外まで続いてるから良いんだろうか、とミナは嘆息して、ルルがいるはずの喫茶店へと向かっていく。

 

歩道をてくてくと歩いていると、その脇を自衛隊の高機動車が一両走っていった。

 

「自衛隊の人もお昼ご飯……いや、基地で食べるわよね?そうでもないのかしら……」

 

許可さえ出ればそのくらいは出来るのかな、とあまりこちらの現代世界の軍事に詳しくないミナは思う。

 

これが架空戦記マニアな岬であればすぐに答えてくれたろうが、あいにくと彼女は今は恋と遊びに行っているはずである。

 

―――アイドルのくせに大丈夫なんだろうか、と思うが、本人が良ければよいのだろう。

 

むしろ心配なのは敵の出現であるが、流石に敵も白昼堂々人目のある場所で襲いかかっては来ない可能性が高いとミナは判断していた。

 

事実、あれから1週間、一切敵は現れていない。

 

そろそろ恋の母親そっくりだという敵も動く頃だろうとミナたちは思っているが、一向にその動きはなかった。

 

恋を狙う目的も見いだせず、そもそも遭遇もしていないから推測もできない。

 

しかし、邪神の手勢であるとすれば必ずや厄介なことになるだろう。

 

その時のため、今は英気を養うときなのだ。

 

そうしてミナは森の中の喫茶店へとたどり着いた。

 

窓際の席にルルが座っているのが見え、彼はミナに気づいてこちらに手を振ってくる。

 

「喫茶店ならナポリタンあたりが期待できるわね……」

 

ミナはそんなことを思いつつ、店へと入っていくのだった。

 

 

 

店の中にはルルと、背の高い少女がいた。

 

背の高い少女は店員のようで、ルルから注文を取っている。

 

そしてミナに気づくと、瀟洒な仕草で彼女に近づいてきた。

 

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ、お客様」

 

どこか蠱惑的な響きのある声だ。

 

年の頃はみはるやつぐみとそう離れてはいまい。

 

高校生か、大学生に見える銀髪の少女だ。

 

顔立ちも日本人離れした彫りの深さで、どこかの国から来た人なのだろう、とミナは思った。

 

(自分が言えた義理じゃないけども)

 

ハイエルフであり客観的には美少女といえるミナとて、悪目立ちしようと思えばいくらでも悪目立ちできる容姿をしている。

 

だからといって目立つ気はないが、少なくとも目の前の少女は背の高さとスタイルの良さもあって、目立つつもりなら自分と同じくらい目立つだろうな、とミナは思った。

 

「あ、はい。ありがとうございます。連れがいるんで、そこへ座りますね」

 

通り一遍にそう言って、ミナはルルの卓へと向かう。

 

「ミナさん、お疲れ様です。どうせ頼むと思って、ナポリタンを頼んでおきました」

 

「お疲れ、気が利くわね。というか、私がナポリタンを頼むってなぜわかった?」

 

テーブルについたミナがそう聞くと、ルルは「いえ、ここはミナさんが好きそうなボリュームの有るメニューはナポリタンしかないようですので。はい、メニューです」とミナに何かを渡してくる。

 

それは凝った装丁のメニューであり、多色刷りや透かし、レーザーカットなどの技術が使われて色々とおしゃれだった。

 

ちょっとミナには厨二病臭いなと思える程度にイタリア語で書かれたメニューに、申し訳程度に日本語訳のシールが貼ってある。

 

そんな何とも残念な感じなところに苦笑した。

 

「まー……そうね。うん。ピッツァとかって気分でもないし……マジでこんな凝った装丁のメニューでイタリア語なのにパスタメニューがナポリタンしかないってすげーな……」

 

そう言いつつメニューを見ていく。

 

「後はケーキとドリンクばっかりね。お酒はなし、と……」

 

しかも甘そうなのばかりでミナは(昼にここは失敗か……?ナポリタン食べたら河岸を変えるか……)とか店の人に大変失礼な事を考えてた。

 

その考えが打ち砕かれるのはその数分後のことである。

 

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