異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第79話「ぎゃああああ!!ついてくるですううう!!」

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―――銀髪の少女は焦燥にかられていた。

 

それは目の前にいる太陽の髪と翠玉の瞳、白磁の肌を持つ少女とその供である青みがかった銀髪と妖しげな瞳を持つ少女の姿をした少年のせいである。

 

(なぜだ……!なぜここに『オリジナル』の仲間が……!)

 

その少女の瞳は、その少女の容姿は―――ああ、暗闇で見えなかったあの魔法少女たちの首魁の―――

 

(刑事やロボットならまだ私が対処できる!だが、こいつらは私―――いや、我々のすべてを使っても無理だ―――!肌が、髪が、全身の細胞が産毛に至るまで危険だと叫んでいる!)

 

どこかの石○彰声の狛犬のようなことを考えながら、少女はそのことをお首にも出さずにミナの追加注文を受け取る。

 

ジンジャーエールとナポリタンもう一つであった。

 

(おのれぇぇぇぇぇぇ!私の渾身のケーキ類を全部無視してナポリタンだとぉぉぉぉぉ!自信はあるがなあぁぁぁぁ!)

 

内心で全力でブチギレながら、少女は「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」とケチャップで唇を少し汚したミナの顔を一瞬睨めつける。

 

「いやさぁ、ただのナポリタンなんて馬鹿にしてたさ。がねぇ、いやぁ、味わい深かったって感動したぁ……」

 

後ろからそんなミナの声が聴こえる。

 

「一個しかパスタないからどうかと思ったけど、これは確かにナポリタンだけでいいわ。風が語りかけます―――うまい、うますぎる」

 

(……くっ……)

 

褒められて若干嬉しかったかもしれない。

 

だが、彼女のセリフがどこかで聞いたことのある言葉だったため、微妙に苛つきながら少女は厨房へと戻っていく。

 

そして、ショートボブの少女に「あの大食らい、もう一つナポリタンを頼んだ……」と肩を震わせながら注文書を渡す。

 

「え……イェカ様のケーキを頼まずにナポリタンオンリー……あ、ありえない……!」

 

「でも、ナポリタンも美味しいですけども……あ、でもでも、イェカ様のケーキには劣りますね!」

 

ピンク髪の別の少女がそうニパと笑って擁護する。

 

「……ありがとう。しかし、これはチャンスだ。彼女らがここにいるということは、『オリジナル』や伊良湖恋の傍に味方はいないはず……!」

 

イェカと呼ばれた少女は、フライパンに油を―――なんだか高級そうな瓶からオリーブオイルらしき油をフライパンに注ぎつつそう言った。

 

「少々間抜けではあるが、我々スーパー・マジカルガール・ネットワークとしては最初の作戦となる。慎重に、かつ大胆に行うようにな」

 

その言葉に、周りの魔法少女たちは頭を下げて敬意を表した。

 

おそらくは彼女が最も強い魔法少女であり、ミナやルルに魔力を気取らせていないということを考えても相当の存在であることがわかる。

 

言葉からすると、廻や夕に対してすらなんらかの対抗手段を持つのだろう。

 

それは今後、黄昏の傭兵団に立ちふさがってくるに違いない。

 

イェカは満足そうにふっと笑い、周囲を見回す。

 

見回して頷いたその時―――ピンク髪のちょっと抜けてそうな少女が「その平成初期キメた組織名、どうにかなりませんかイェカ様ぁ」と間延びした声で指摘した。

 

「その意見は却下する。いいからパスタを茹でておきなさい」

 

にべもなくそう突っ返したイェカに、ピンク髪の少女はなおも「茹で起きしましょうよう……喫茶店風のほうが私好きぃ」と言って、ショートボブの少女に頬を引っ張られる。

 

「いひゃいいひゃい何ひゅるのマコちゃん!」

 

「イェカ様に口答えするなって言ってるだろ!バカ!この大バカ!」

 

その二人の少女の様子に、イェカも他の店員らしき魔法少女たちも額に手を当ててため息をつく。

 

(……『オリジナル』さえ排除できれば……)

 

イェカの心にそんな気持ちが去来する。

 

スーパー・マジカルガール・ネットワークとやらの前途は多難に見えたのであった。

 

 

 

一方その頃。

 

西之森の公園で岬と恋はキャッチボールを延々としていた。

 

「へいへいー!ピッチャービビってるのでーす!」

 

「くそー!これならどうだぁ!」

 

ふたりとも大人顔負けの豪速球を投げては捕り、投げては捕っている。

 

なんのためにそこまでするのかというほどに、もう2時間は続けていた。

 

今日は日曜日。

 

しかし、住宅地の合間かつあまり子供がいない場所を狙ったせいか、草が茫々と生え冬の間に枯れ草をさらしている公園には誰もいない。

 

美少女が二人、延々とキャッチボールをしてるのは一種異様な光景であった。

 

「あー疲れたぁ!もうだめだぁ!」

 

「ふっ!あたしの勝ちなのです」

 

元39歳、現戸籍10歳の偽小学生はドヤ顔で胸を張る。

 

大人げない、と仲間の誰かがここにいれば思うだろう。

 

だが、彼女にとっては10年以上ぶりに何も考えずに遊べる友人である。

 

それが何とも楽しくて、どうしても全力投球になってしまっていたのだ。

 

「はい、スポドリなのです」

 

冷たい―――魔法で冷たくしていた―――スポーツドリンクを手渡し、岬は彼女の隣に座った。

 

「さんきゅ。つか、すっげーフィジカルだなあ、岬ちゃん。あたいもアイドルだからレッスンでめっちゃ運動してるけど、それでも敵う気がしねえ……」

 

その言葉に岬は「まあ、ミナちゃんとダンジョンに潜ってますからねえ……」と笑う。

 

「そっかぁ……あたいは連れてってもらえないかなぁ」

 

「んー……今度頼んでみますですか。空悟さんが仕事で来れないときとかの臨時メンバーならイケると思うのです」

 

岬は指を顎に当ててそう考える。

 

そう言えば、今度の火曜日は珍しく全員が有給/代休を取れるということで久々のダンジョンアタックだ。

 

その後にでも提案してみよう、と岬は思う。

 

そしてスマホで時間を確認すると、バッグから包みを2つ取り出した。

 

「もうお昼ですねえ。お弁当、用意してきたから食べましょうですよ」

 

「やったぜ。やっぱ飯食わねえと力出ねえもんな」

 

受け取った恋は嬉しさを隠そうともしない表情で包みを開ける。

 

中身は……唐揚げと茹でアスパラガス、そして卵焼きに一口おにぎりというものだった。

 

すべて早起きして岬が作ったものである。

 

「はい、マヨネーズなのです」

 

小袋のマヨネーズを渡すと、恋は「ありがとう」と言って、それをアスパラガスにかけて「これ好きなんだよ。めっちゃ好きなんだよなあ」とにこにこ顔で箸をつける。

 

その光景に、ああ、平和だなあと思いつつ素早く食べる彼女を見て嬉しくなった岬はほとんど食べ終わっている恋の弁当箱にアスパラガスを渡して笑った。

 

「くれんの!?ありがてえ……マジありがてえ……」

 

男子学生みたいだなあ、反応が。

 

そんな感想を心のなかにだけとどめて、岬も唐揚げを口にして―――

 

次の瞬間、弁当箱を投げ捨てて恋をかばった!

 

恋は岬の渡したアスパラをくわえていたこと以外は全て食べ終わっていたからいいものの、岬の弁当は半分以上が地面にぶちまけられてしまう。

 

中身がぶちまけられた弁当がすべて地面に着く前に、一瞬前まで岬たちが座っていたベンチは光弾が着弾し―――ドゴン、という炸裂音を響かせて破壊されてしまっていた。

 

「ああ、もったいねえ!?どこのどいつだクソッタレ!」

 

くわえていたアスパラを口の中に放り込んでシャクシャクと咀嚼しながら、岬の腕の下で恋は毒づく。

 

「かーん一髪だったのです!あーもう!食べ物を粗末にする人間は立派になれないのですよ!」

 

虚空に向けてビシリと指をさすと、その虚空がゆっくりと揺らいでいく。

 

そしてそこには、緑と黒のセーラー服めいた衣装を身にまとった少女が一人浮いていたのである。

 

「鋭いな、『オリジナル』……だが、貴様と伊良湖恋だけで私に勝てると思うなよ」

 

持っている武装はどうやらヨーヨーのようで、「うるさいのです!ジェネリックス○○ン刑事!」と岬は罵倒して立ち上がる。

 

恋も同じように立ち上がり、その緑と黒の魔法少女らしき少女を睨めつけた。

 

「行くぞ、岬ちゃん!変身だ!」「はいなのです!」

 

もうこうなっては見られる前に始末をつけるほかないと判断した岬は恋の言葉に従ってステッキを振る。

 

光とともに変身した二人は、名乗ることもせずに空を飛んだ。

 

ヨーヨーの一撃をステッキで弾き、岬は少女を睨めつける。

 

「予想通りになっても全っ然嬉しくないのです!どうせあたしの力か命を狙ってきたのですよね!?」

 

岬が叫ぶと、少女は「そのとおりだ『オリジナル』。我が主のため、貴様を捕縛させてもらう」と口端を三日月に歪めて笑った。

 

「岬ちゃんはやらせねえ!ミュージック・オブ・ヴァッサー!」

 

恋が鎌の柄を笛のように口に当てると、妙なる調べが鎌から漏れる。

 

すると周囲に水の玉がいくつも現れ、笛の調べに合わせるかのように緑と黒の少女へと向かっていった。

 

その水玉は緑と黒の少女へと衝突し、しかしさほどの痛痒を見せてもいない。

 

「その程度か……」

 

「やっべ、全然効いてねえよ……」

 

すっと地上に降りた緑と黒の少女に、恋は少し後ずさる。

 

「情報通りだな、伊良湖恋……いや、ミストレル・レン。貴様ではこのクロキには勝てん……貴様のような即席の魔法少女ではな」

 

ヨーヨーを投げては戻し、ゆっくりと近づきながら少女は嗤った。

 

「即席って、まだあの事件から2ヶ月は経ってないのですよ?みんな即席なのでは?」

 

その嗤いに負けぬように、毅然と笑んだ岬がそう聞くと「貴様らにはわかるまい……我らが主の秘密をな……」と言って、ヨーヨーに魔力を込めて岬へと投げ放つ。

 

しかし、それは岬のステッキに弾かれ、今度は岬が空に飛んだ。

 

「問答無用なのですね!ならこちらとしても容赦はしませんですよ!恋ちゃん!レイン・エールです!」

 

「おう!虹の源、大いなる雨よ!降り注げ!レイン・エール!!」

 

水玉が集まり、塊となって「レイン・フォー・ユーッ!」と恋の気合のこもった声とともにクロキと名乗った少女へと向かっていく。

 

その水玉を見つめながら、岬は精霊語を唱えた。

 

「凪の日はいと優しく嵐吹かば厳しき水の娘ウンディーネさん!優しい吐息は息吹になって、息吹を束ねて矢に変えて。岩をも穿つ鏃としましょう!」

 

精霊術の第三位階、ウォーター・アローだ。

 

勢いこそウォーターカッターと言えるほどには強くはないが、殺傷力を持つ高水圧の放水を行う術である。

 

それが恋の魔法から「生えた」。

 

ドシュ、と放たれた矢はクロキの二の腕を傷つけて虚空へ消えていく。

 

「くっ……流石だな、『オリジナル』。流石にそこの即席とは勝手が違うか……」

 

腕を抑えて、少女は岬を見る。

 

「どこのどいつなのですか!あたしを殺そうとか捕まえようとか!おとなしくしている限りあたしはあなた達の力なんか奪いませんですよ!」

 

その様子に、岬は杖の柄を地面にドカッと突いて憤然とする。

 

「―――おとなしく?大人しく、ね」

 

くつくつと少女は嗤う。

 

「この鉄条クロキが奉ずる主は、この腐れ切った国々の群れを破壊し、新たな国家を作り出すのだ。大人しくなどと!戯言を抜かすな!」

 

ヨーヨーを胸の前でクロスさせ、クロキは岬に負けず劣らず憤然とする。

 

その様子に岬は、内心で(だめだこりゃ)と呆れ返っていた。

 

(国、って。国ってそんな簡単に作れるものではないですよねぇ……ミナちゃんやルルくんだって、今の世界を敵にしては勝てないって自分らで言ってましたですしねえ……)

 

岬の心に、いつぞやジョークで聞いた質問への回答が蘇る。

 

「ミナちゃんたちなら世界征服もできるような気がするのです」と聞いてみたのだ。

 

回答はにべもないものだった。

 

「まずそれをするなら各国の実力組織を黙らせるのが先になる。でも自衛隊ならやりようはあるけど、米軍やロシア軍や人民解放軍やらは無理」と。

 

たとえ自国民を人質に取ろうと、国民国家や独裁国家の軍隊は国家の命令を果たそうとするものだ。

 

ミナやルルの能力が知れれば、そうした国々はNBC兵器の使用も躊躇はすまい。

 

たとえ一撃ではミナたちを倒せなくとも、マジック・アイテムにも魔力にも体力も限界がある。

 

食料も水も必要で、NBC兵器など使われようものならその補給も覚束なくなるだろう。

 

ルルが権能を解放し、アンデッドを無制限に作ったところで同じこと。

 

核兵器でふっとばされても生き残れる物理的実体を持たないアンデッドもいるにはいるが、それで世界征服してなんの意味があるだろうか。

 

無論、魔法を駆使して実力組織そのものを自分たちの味方にしてしまう方法もなくはない。

 

なくはないが、そんな同じ国の軍隊が殺し合うような地獄を現出させてもミナたちにはなんの得もないのは明白であった。

 

結論から言えば、「国土を犠牲にしてでも国体の消滅を止める覚悟」を持てる国家と、個人であるミナやルルでは相性が悪いのだ。

 

自衛隊ならやりようがある、というのも簡単な話で「国土を犠牲にしてでも国体の消滅を止める」という覚悟を政治家がおそらくは持てないだろう、という本邦特有の国家意識のなさが論拠となる。

 

政治が迷っている間に、各基地・駐屯地を端から大魔法で吹っ飛ばしていけばいずれ自衛隊は機能不全に陥るだろう。

 

そうなった後でミナたちを止められる勢力は日本には在日米軍しかいない。

 

それも日本国内では行動が制限されるから、「やりようはある」とミナは答えたのである。

 

―――邪神や魔王ですら倒すほどの二人ですらパワーでの直接制圧についてはNGを出すほど、こちらの世界の国々は強い。

 

それらを滅ぼして新しい国家を作るなど、誇大妄想にしか思えなかった。

 

「阿呆なのです」

 

一言、呆れ返って岬はジト目でそう言った。

 

「……今、なんと?」

 

「阿呆、と言ったのです。完全に中学生の妄想のたぐいではないですか。紺○の艦隊や超大○営戦○大和の読みすぎとしかあたしには思えないのです」

 

前者は作品後半が作者のユートピア論で誌面の大半が侵食されてしまった架空戦記、後者はやたらと擬音が多く大和が単艦で米軍やドイツ軍を殲滅してしまう架空戦記である。

 

そのくらい頭厨二病で現実離れしてるのだ、と伝えたかったのだが双方とも1990年代の架空戦記ブームの頃に書かれたものだ。

 

当然年若いと思われる相手はそんなものを読んでいるはずもない。

 

ただただバカにされたという思いだけが残されて、クロキは激高した。

 

「貴様!無抵抗で囚われれば命だけは許してやろうとイェカ様も言っていたというのに!その慈悲を理解できぬ売女め!ここで痛い目を見せてくれよう!」

 

そうしてヨーヨーに魔力を集め始めたクロキを見て、岬は恋に頷く。

 

「何するつもりだ、岬ちゃん?」

 

「ちょっと魔力が足りないかもしれないのです。あたしの肩を後ろから掴んでてほしいのですよ」

 

そう言った岬の顔は若干ピクピクと引きつっていた。

 

「……もしかして怒ってる?岬ちゃん……バイタとかなんとかって言われてたし……」

 

「ぜーんぜん怒ってないのですよ!あたしを怒らせたら大したものなのです!」

 

岬のその言葉に「……後で意味教えてくれよな?」とちょっと怯えながらアイドルの少女は岬の肩を掴んだ。

 

「させるものかよ!ハイパーツイスターッ!!」

 

クロキが魔力を込めて両手に握ったヨーヨーを投げると、それはバズソーのように自らの外縁に刃を生やさせて岬へと向かう。

 

「情報が正しければ、この技に貴様は抗えぬ!さぁ、その肌を切り刻んでやろう!」

 

自信満々にそう叫んだクロキに、岬は―――

 

「男子三日会わざれば刮目して見よというのです。女子とて同じことだと思い知らせてくれようなのですよ!」

 

岬は杖を地面に突き刺し、両の腕を突き出す。

 

その腕には光るグローブのようなものが輝いていた。

 

「小さな灯の子リンカちゃん。我が手に宿りて瞳のごとくに悪を見分けるのです―――輝け、我が栄光の手!」

 

カッ!と岬の手に宿った灯の精霊リンカが破裂する。

 

それは―――ハンズオブグローリーと呼ばれる、精霊術の第二位階。

 

本来は、爆発したり火が点いたりすれば吉、そうでなければ凶という運勢を占うための術であるが、簡単に術をアレンジすることでほんの小さな衝撃を生み出す。

 

今回のそれは小さな爆発となって、クロキの放ったヨーヨーをバヂンと弾いていた。

 

「何っ!?」

 

「いやあ、大した魔法だと思うのです。素早く、強く、物理的な破壊力を持っていて私自身の魔法で迎撃するのも、ステッキで弾くのも難しい術でしたのです―――ですが、予め精霊さんにあたしは声をかけていたのです……手は多いほど強いと、ミナちゃんやルルくんから教えてもらったことが役に立ちましたのですよ!」

 

岬はそうして指をチッチッと振って微笑んだ。

 

種明かしとしては簡単なことで、予め灯の精霊―――陽の光がある場所でなら、或いは灯を作る道具があればいつでも呼びかけられるその精霊に呼びかけて簡易に術が発動するように仕掛けておいただけだ。

 

そして岬の力量では大した威力にならないその術は、手に纏わせることで指向性を与えて……相手の攻撃を弾くだけの術となったのだった。

 

「馬鹿な……イェカ様の情報が間違っていた……?」

 

狼狽する少女に、岬はもう一度素敵な笑みを向けた。

 

「そう上司が間違っていると決めつけるのは早計というものなのです―――そう、乙女こそ誰かのために強くなれる生き物なのですから」

 

「……つまり、バレンタインデーの事件のときから……成長している……だと……?馬鹿な!そのようなことが……わ、我々とてイェカ様の御力がなければ……!?」

 

クロキが問うと、岬はニコリと笑って「はい、そのとおりなのです。あたしは成長したのですよ」と返す。

 

岬は―――あの日から、恋と出会ったその日から―――

 

力不足であると痛感した彼女と空悟は―――

 

廻や夕が暇な時、ミナに研究所まで連れて行ってもらって、ずっと彼らと模擬戦闘をしていたのである。

 

魔法少女相手の戦闘ではないものの、魔王と殴り合えるほどのロボットと戦うことは岬の経験となっていた。

 

―――物理で攻め寄せる敵への対処について、彼女は学んでいたのだ。

 

それはほとんど地獄の様相であった。

 

まず、廻や夕のパンチが一撃でも入ればふたりともほぼ戦闘不能となるのである。

 

骨が砕けたことも1度や2度ではない。

 

それをミナとルルが回復魔法で回復させる。

 

「一撃死しないように」

 

それだけが廻と夕がした配慮である。

 

そして空悟よりも岬は相対的に暇だ。

 

―――空悟の何倍も道野枝兄妹にしごかれてきたのだ。

 

端から警察官であり、戦闘に対する心構えが出来ている上、当然のようにフィジカル面でも十分以上の能力を持っている空悟と違い、心構えも肉体もなっていなかった彼女はその半月ほどのしごきでそれがだいぶ改善された。

 

10歳の体では当然のように限界はあれども。

 

「正直、こういうことになるとわかっていたらもっと苦しんでおけばよかったのです―――少なくとも、あんな仕事してたときよりも全然苦痛じゃないのですから」

 

素敵な笑顔が、不敵な笑顔に変わる。

 

「恋ちゃん、あたしに魔力を合わせるのですよ」

 

「お、おう!」

 

岬に促され、恋は自分の力を岬に同調させる。

 

そして岬は「―――まずはあなたを戦闘不能にしますです。あたしを売女などと抜かした罪を数えろなのです!」と激昂した。

 

「ま、まずい!この力は……!」

 

魔力が岬の、マジカル・アナンのステッキに収束していく。

 

収束した魔力は、翼の形を取って、それはやがて光の鳥になった。

 

「……すっげぇ……なにこれ……」

 

「あたしと恋ちゃんの魔力で作ったものなのです!さぁ、呪文を唱えるのです!」

 

その光の鳥を見て全力で後ろを向いてダッシュするクロキを見据えながら、その鳥に見惚れる恋に叱咤する。

 

「ああ!わかった!光と希望と明日の翼!」

 

「羽撃け!未来のエネルギー!マァァァァジカルゥゥゥゥゥ!!」

 

光の鳥が杖から離れて飛び立とうとする光景に、クロキは―――

 

「ひぃぃぃぃ!?嘘、嘘でしょぉ!?そんなぁぁぁぁ!」

 

悲鳴を上げて、空へと逃げ出す。

 

しかし。

 

「「サンダーバード!ストライクゥゥゥゥゥッ!!」」

 

二人の掛け声とともに、光の鳥は雷の如く大気を切り裂いて飛んでいく。

 

それは狙い違わずクロキに着弾して―――

 

「く、そぉぉぉぉぉぉ!お許しくださいイェカ様ァァァァァァァ!!」

 

大爆発を起こして消え去った。

 

その大爆発の後には―――髪や衣装の一部を焦がして気絶するクロキの姿があったのである。

 

「罪を憎んで人を憎まずなのです!」「だから憎まれても仕方ないことはするんじゃねえぜ!」

 

爆炎を背景に二人がポーズを取ると―――不思議なことにクロキが破壊したベンチや光の鳥の爆発で作られた大穴が修復されていくのを二人は見た。

 

「……!?これは一体何なんですか……」

 

「く、ククク……ふ、不思議には思わなかったか……?この場所に誰もいないこと、そして我々が戦闘していても全く誰も現れないこの状況を……!」

 

気絶していたクロキがゆらりと立ち上がり、岬を指差して嗤う。

 

「まさか……魔○空間とか幻○界とかガ○ームゾーンか!?」

 

恋のその言葉に、この場に空悟がいれば「例えが古い!」と突っ込んでくれただろう。

 

それはすべて80年代から90年代の特撮番組で、悪の組織が作り出すとされる異空間の名前だった。

 

そう、既に空には作り物の星や月がいくつも飛び交う異空間と化していたのである。

 

「またこのパターンですか!いい加減にしてほしいのです!」

 

岬がそう叫ぶが早いか、クロキは立ち上がり「わ、私は確かに敗れた……!だが、このイェカ様から頂いた力、決して貴様には渡さぬぞ!『オリジナル』!!」

 

そう言って、彼女は自分の胸の前で手を握るとその手に虹のかけらが3つ握られる。

 

瞬時に、緑と黒の魔法少女は青いブレザーに身を包んだ中学生ほどの女の子へと変じた。

 

三つ編みにした髪と目の下の隈が地味で根が暗そうな印象を作り出しているが、美少女と言える顔つきをしていることが岬にはわかった。

 

やはり魔法少女になると美少女になるのか、それとも美少女でないと虹の欠片が落ちてこないのか、と関係ないことが一瞬脳裏に閃くがそれはやはり一瞬で思考から消え失せる。

 

岬はステッキを彼女に向けると、彼女を睨めつけて言葉を投げる。

 

「……何をするつもりです?」

 

「知れたこと。この虹の欠片、欲しくばこの空間から見事に脱出してみせるが良い……!」

 

彼女は手の内のその欠片を空に向けて遠投げた!

 

「あっ!?なんてことしやがる!」

 

恋がその行方を目で追うが、すぐに欠片は溶けるように空の中へと消えていってしまった。

 

「―――ふ、ふふふふはははは!」

 

クロキはそうして力尽きたように崩折れて地面に倒れ込む。

 

「ふ、はははは……この空間にはまだ同志が存在する……生きて帰れると思うな……!イェカ様……バンザイ……!」

 

そのまま彼女は気を失ってしまった。

 

「ああ!寝るななのです!起きろスカタンなのです!!」

 

岬がそう叫んで駆け寄ろうとするが―――

 

「おい、あれ見ろ!」

 

恋が指差した方向から飛んできたのは―――

 

「……あたしの見間違いじゃなければ、あれベレンコ中尉亡命事件で有名なMiG-25なのですけども……?」

 

魔法少女の優れた視力は、その極超音速―――マッハ3近い速度で金属音を撒き散らしながら近づいてくる飛行物体を捉える。

 

特徴的な大きな主翼とノズル、エアインテークは飛行機好き、ミリタリー好きなら見間違えようはずもない。

 

そう、その禍々しささえ感じるシルエットはなんと旧ソビエト連邦で開発された超音速戦闘機MiG-25そのものであった。

 

「えっあれ戦闘機!?確か同じ形のやつト○ンス○ォーマーに出てたの見た!」

 

恋が驚いてそう言う間に、それは上空を通り過ぎていく。

 

「みはるちゃん何を見せてるんですかッ!」

 

MiG-25は西側の戦闘機と異なり、あまりフィクションに出ていない。

 

ト○ンス○ォーマーシリーズには一番最初のいわゆる「私にいい考えがある」と言ってはひどい目に遭う司令官が主役のアニメにしか出ていないのである。

 

そんな余談が岬の脳裏をよぎる。

 

その余談が思考から消え去った瞬間、MiG-25らしき何かからミサイルが放たれた!

 

「アシッドぉぉぉぉぉぉ!?」

 

岬はそのミサイルのNATOコードネームを叫びながら、恋の手を握って全力で低空を空駆け逃げ出す。

 

それが本当にNATOコードAA-6アシッド 、つまりロシアの空対空ミサイルR-40であるなら人体相手の誘導もそこまで執拗にはならないと思っていたからである。

 

―――だが。

 

「ぎゃああああ!!ついてくるですううう!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

それは本物と同じ極超音速―――マッハ4.5もの速度で岬たちへと向かってくる。

 

せいぜいガーゴイルより少し遅い程度の岬たちにそれを回避することは出来ず。

 

「おのれなのですううううう!!死んだら恨み念法なのですよおおおお!!」

 

「わああああああ!?!?」

 

チュドオン、と大爆発が起きて岬たちは意識を失ったのであった。

 

 

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