異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第80話「……ん?ここは……宇宙じゃん!?」

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「こ、ここは……?」

 

岬が気がつくと、そこは宇宙空間―――のような場所であった。

 

星々が瞬き、流星が流れる。

 

体は宙に浮き、掴みどころなく揺れる。

 

瞬く星々からここが本物の宇宙ではないことは丸わかりだ。

 

星々は大気のゆらぎで瞬くのであって、宇宙空間では瞬かない。

 

そこまで思ったところで、数十メートル先をぷかぷかと浮いている恋を見つける。

 

「恋ちゃん!」

 

名前を呼んで宇宙を飛んで駆け寄ると、その体は無傷であった。

 

「良かった……気絶しているだけなのです。これならあたしでも……精霊術のレベル3なら、使えるはず……」

 

岬は下腹部に意識を集中する。

 

『生命の精霊ウィータは生命の生まれいづるところ、即ち女性の子宮に強く宿るのです』

 

精霊の理を教えてくれたルルの言葉が脳裏に思い出される。

 

「雫なるもの、生まれいづる命ウィータよ……生命の樹より垂れし珠をあたしの助けたい人の体と心に宿し、その傷を癒やしてくださいです!」

 

岬の手が光り、触れた場所から恋に宿って消えていく。

 

精霊術の第三位階ヒーリングの術である。

 

自分に残っている体力と同じくらい相手の体力と傷を癒やす生命の術だ。

 

―――体力が残っていない状態だとあまり意味がないが、生命力そのものを複写するような術のため、体力が十分に残っているなら相当に効果が高い術である。

 

精神力は相応に必要だが、有用な術であることは間違いない。

 

その術の光を吸い込んだ恋はゆっくりとまぶたを開けた。

 

「……ん?ここは……宇宙じゃん!?」

 

目を覚ました恋が飛び起きてそう叫んだことに、岬はほっと安堵の吐息を漏らした。

 

「気づいてくれてよかったです。大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫。ふわふわするけど」

 

「ふわふわするのはこの空間のせいだと思うですけども……空対空ミサイル食らって宇宙とは、これまたおかしな話なのです。魔法も使えましたからあの世ってわけでもなさそうですし」

 

恋を抱き上げて、岬はキョロキョロと周りを見る。

 

「作り物には……」

 

「見えないよなあ……魔法で作り出してんのかな?」

 

恋の言葉に岬は首肯し、ステッキを振る。

 

「……うーん、何も感じないのです。モンスターの気配とかあれば楽だったのですが」

 

星がバーっと流れていくのを見ながら、岬も恋も落胆した。

 

「とりあえず動きましょうです。星が流れているのはあっちのほうだけみたいなので、まずはあっちへ行ってみましょうですよ」

 

「了解ー!ってかあたいあんまりいいところねえなあ……」

 

「まぁまぁ。あたしもミナちゃんと一緒にいるとそんなものですし。レベルが違うとはこのことなのです。これから頑張れば大丈夫なのです」

 

肩を落とす恋の肩を叩いて岬が元気づける。

 

恋は「ああ、頑張るぜ!」とガッツポーズを取った。

 

―――そしてその姿勢のまま、フヨフヨと飛んでいく。

 

目指すは流星の生まれる場所(仮)であった。

 

 

 

―――そして。

 

「夕。気づいたな?」

 

「無論だ。岬につけていた発信機の反応が消えた」

 

廻の言葉に夕はウェイトレスの衣装を解きながらそう答えた。

 

岬の危難を察知した道野枝兄妹がまず動いたのである。

 

「―――店長殿。申し訳ありません。家族から急な知らせがあり、本日は夕共々早期退出をさせていただきたいと思います」

 

直立不動で店長の前に立った廻にそう言われた店長は「うむ、構わん。今日は臨時に夜営業を中止する心算であった」と答える。

 

店長は困ったような顔で、普段よりもノロノロとした動きでテーブルを片付けている潤美をチラと見る。

 

見れば顔色は青いし、ふらついているしで明らかに調子が悪そうだ。

 

「見ての通り潤美君も体調不良だし、私もちと片付けておきたい案件がある故気にせずに帰宅したまえ」

 

「承知いたしました。ありがとうございます」

 

廻は律義にお辞儀をして店長の言葉に謝意を示す。

 

「夕、準備は?」

 

「終わった。お前の方こそ」

 

「問題ない。それでは、店長殿、潤美殿。お先に失礼します」

 

廻の言葉と同時に、夕も「お疲れ様でした」と頭を下げる。

 

「はい……お疲れ様でした……うぐっ……」

 

声を出すのも辛そうな様子で無理やり笑顔を作ろうとする潤美であったが、くらりとふらついて店長に支えられてしまう。

 

その店長に「ああ、潤美君?本当に辛そうだから君も帰ったらどうかね?君の生理が重いというのは私も知っているから今更気にする必要もあるまい」と言われて、彼女は口を抑える。

 

「ほら、吐いてきたまえ。下手な妊婦さんの悪阻より君のそれはきつそうだ……」

 

「はぁい……おうぇぇ……」

 

店長の言葉に項垂れた潤美は店長に頭を下げてバックヤードへと下がっていく。

 

「……この分ではここから先の昼営業も出来んな。ま、今は客の一人も居はいないし問題はなかろう。さ、帰った帰った」

 

ひらひらと手をふるどう見てもナチス軍人にしか見えないおっさんに促されて、二人は店を出た。

 

「―――場所は西之森の山号公園」

 

「急行する」

 

店を出た途端、二人は目にも留まらぬ速度で床を蹴り、姿を消したのであった。

 

 

 

その頃、空悟は西之森の山号公園近くで張り込みを行っていた。

 

不審者が数名、近くの廃屋に入っていったという情報を得たためである。

 

バレンタインからずっと警察も警戒態勢を維持しており、半グレが戻ってくるような気配があれば対処することになっていた。

 

「そういやここらで今日は岬ちゃんが友達と遊んでるんだっけかな」

 

コーヒーを飲みつつアンパンを食んで空悟はそんなことを呟いた。

 

―――その瞬間のことである。

 

ドゴン!と爆発音がして―――何も起きていなかったのは。

 

「……すんげー嫌な予感。こりゃあ、またぞろ三郎案件かぁ?」

 

アンパンを口の中に放り込み、咀嚼しつつ彼はそう考えて廃屋へと歩き出す。

 

廃屋は元は2階建ての分譲住宅で、住人であった老人が死去し、家族もなく親戚もなくそのまま引き取り手もなく朽ちていった場所である。

 

幽霊が出るという噂があったが、隣もその隣も普通に住人のいる家であるためそんなものは嘘っぱちでしかない。

 

しかしながら、半グレ共が消えてなくなるまでは出入りしているチンピラがいたという情報もあった廃屋である。

 

最悪、不法侵入者がいれば自分で制圧してしまえばいい、と思った。

 

今の空悟の膂力と速度は、本気でやればそれこそ一流のスポーツ選手ですら追随できないだろう。

 

彼と戦って無事な地球人は、まずいない。

 

これはミナも認める成長の速さであった。

 

(もちろん、そんなんモンスターだの魔法少女だのが出てこなきゃって前提あるけどもよ)

 

そうして拳銃を出す。

 

今日は公務であるため、持っている銃は官給のそれである。

 

「さーて、吉と出るか、凶と出るか……」

 

そうして、ゆっくりと廃屋の扉を開ける。

 

勿論、この廃屋を管理している人物からは許可をとっているため、不法侵入ではない。

 

慎重に中へ入って目を凝らす。

 

廃屋の管理者はろくに掃除もしてないと言っていたはずだが、小綺麗に掃除されているのがはっきりと分かる。

 

「……いるな、これは」

 

ボソリと呟く。

 

あまりにも丁寧に掃除されている。

 

空悟は、几帳面な……それも女が住んでいると踏んで中を検める。

 

数分ほどして「化粧品は見当たらない……電気も当然通ってはない……こいつは中学の教科書だな……不審者は子供、か?」と顎に手を当てて空悟は考えた。

 

台所を見れば炊事をしたと思われる形跡もある。

 

ガスなど当然通ってなどいないというのに。

 

「うーん、軽くホラーめいてきたぞぉ。発電機もガスボンベだのコンロだのも見当たりゃしねー」

 

何も熱や電気を生み出す道具が存在しないにもかかわらず、現代文明めいた生活の痕跡があることに彼は冷や汗をかく。

 

(間違いねえなあ。三郎案件だわ。一旦撤退だ)

 

そう思って後ろを振り向いた時、そこには―――

 

「あっれぇ~?クロキちゃんかと思ったら、例のケージぃ?」

 

ショッキングピンク色の髪を持つ、やたらひらひらした衣装を着込んだ中学生ほどの少女……

 

どう見ても岬の同類にしか見えない少女が気配もなく現れていたのであった。

 

「……お嬢さん?ここは管理者がいる家屋ですよ?私は許可をもらって入ってきていますが君にはないようだ……見たところ中学生のようだけど、子供のいたずらで済むうちに出ていきなさい」

 

慎重に言葉を選び空悟は少女に声をかける。

 

そんな彼をあざ笑うかのごとく、少女の口が半月のようにニパと笑いの形を取った。

 

「あはははっ!そんなに怯えなくてもダイジョーブだよ、ケージさんん♪」

 

後ろ手を組み、可愛らしく微笑む少女に空悟は恐れを抱く。

 

(……岬ちゃんよりは弱い、と思える。だがこの見立てが合っているかはわからん。何より、飛び道具が拳銃しかない今は俺のほうが遥かに不利……!)

 

そして何よりも、警察官にとって拳銃は最後の武器。

 

相手が魔法少女……ミナたちと同じファンタジー世界の住人であれば、証拠など残らず、減った実弾という結果だけが残ってしまう。

 

今更に保身に走るのもどうかと思うが、今の職場をやめたくはない。

 

空悟は別に完全な正義の人ではなく、家族を愛し、友人を大事にする人間でもある。

 

警察やめるよりは、拳銃無しでこいつと戦うほうがマシだろう、と判断して銃は最後の手段であると懐にしまって彼は空手の構えを取った。

 

その様子にキョトンとして、すぐにその少女はケタケタと笑い出した。

 

「だからぁ、そんなに怯えなくてもいいてヴァ。どうせすぐに帰るし。もうここ用済みだし、掃除してあげただけありがたいと思ってほしいしぃ」

 

ニタリ、と獲物を見る獣の目で彼女は刑事を見た。

 

「それとも、ヤッちゃう?いいよ、私は。『オリジナル』のお仲間さん?」

 

「……!やはり岬ちゃんの件の関係者……全国で謎の事件を起こして―――いや、解決している魔法少女もどきか!」

 

「あー知ってた?知ってたなら話は早い。別に、あんたらと殺し合う気はないってヴァ。お仲間の『オリジナル』は別だけどねぇ」

 

そう言って、彼女はスススと音もなくムーンウォークで部屋の外へと出ていく。

 

「じゃあまた……もう二度と『オリジナル』には会えないと思うけど」

 

「待て!」

 

そうして追いかける空悟であったが、部屋の外に出た瞬間にショッキングピンクの少女は虚空に溶けるように消えていく。

 

『―――それじゃぁね。ふ、フフフフフ……あはははははっ!』

 

声だけが残響する……

 

「……逃したか、見逃されたか……俺ももう少し本腰を入れなきゃあな」

 

空悟は悔しげに臍を噛み、そしておもむろに携帯電話を取り出してミナへの連絡をするのであった。

 

 

 

―――そしてそして。

 

廻と夕が店長に早退の希望を告げている頃。

 

2杯目のナポリタンを半分ほど食べたミナは、電流が走ったようにハッと顔を上げて従者を見つめた。

 

「―――ルル。岬のマーキングがこの世界から消えたの、気づいたわね?」

 

「無論。行きましょう。恋殿の反応も消えていますし」

 

ルルがその一言を言う間に、ミナは残りのナポリタンの大半を高速で食べていく。

 

「んぐ……ごちそうさまでした!お勘定お願いします!」

 

そうしてケチャップまみれの口を紙ナプキンで拭きながら立ち上がる。

 

拭ききれなかったケチャップを気にせずに、レジへ向かって伝票を出すと―――イェカがその会計の応対をした。

 

(―――まさかもう気づかれた?いや、そんなはずは……否、こいつらはこの世界の常識の範疇にはいない。無論、我々の常識の範疇にもいない)

 

焦燥が胸を灼く。

 

(……此度の作戦は失敗する可能性がもう高くなってしまった……おそらくはほぼ失敗と言っていい。此奴らは何らかの方法で仲間の危難を知ることが出来る……!)

 

「3215円になります」

 

内心を見せずに会計を告げ、現金を出したミナたちにお釣りを渡す。

 

ミナもルルもその内心には気づけない―――見事な擬態であった。

 

「ルル、ガッちゃん呼ぶわよ」

 

「承知。ありったけの強化も行いますよ」

 

会話が聞こえる。

 

これまでの観測から、ガーゴイルの最大速度は時速にして300km未満。

 

そしてここから西之森の山号公園までは約20km。

 

―――数分で終わるはずもあるまいな。

 

イェカの心の中の焦燥が溶けていく。

 

今回は失敗したと損切りし、早々に撤退するべきだ。

 

そうして、カランカランとベルを鳴らして出ていく妖精たちを見送った魔法少女らの首魁は、厨房に戻るや否や指を鳴らした。

 

「―――マコとメグミに伝令をたの―――む?メグミはどうした?」

 

ピンク色の髪の無礼な少女の姿をイェカは探したが、どこにも見当たらず、魔力の波動すらも感じない。

 

イェカはマコと呼ばれた水色ショートボブ少女の言葉を待ちながら、嫌な予感がしていた。

 

「……それが、先程から見当たりません……」

 

「―――即刻連れ戻せ。どうせ山号公園近くの廃屋で遊んでいるのだろう。全く、あの子は……!」

 

鼻根を人差し指で押さえて呆れたイェカは、そのまま厨房の奥へ入っていく。

 

「クロキと作戦参加者も同様に連れ戻せ。此度の作戦は、あの化物共をここに留め置けなかった時点で我々の敗北だ」

 

残念そうに豪奢な椅子に座り、その姿は今までのメイド服風のエプロンドレスから銀と紅の魔法少女の姿へと変わっていた。

 

「……まずはあの化物共の探知を躱さねばならぬとはな」

 

突発的に決定した作戦ではあるが、失敗しそうにない策だとも思っていた。

 

彼女らは自分たちの存在を予想はしているだろうが、察知はしていなかったのだから。

 

「……まぁ良い。手はあるはずだ」

 

イェカはそうして目を瞑る。

 

その瞳はまぶたの下で、紅く妖しく輝いていた。

 

 

 

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