異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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「せいやぁ!」
空悟の回し蹴りが廃屋の扉を激しく叩いた。
ショッキングピンクの魔法少女が消え去った後、開いていない扉のすべてがロックされてしまっていたのだ。
当然玄関もその有様であり、空悟は全力で蹴破ることしか対処法がなくなってしまっていた。
「ちっ!壁も扉も駄目か!なにかの魔法ってやつだな!」
コートを翻らせ、彼は痺れる片足を地面に落とした。
そう、扉も壁も何らかの障壁かなにかが存在し、それを破壊することが出来ないのだ。
見たところ、バレンタインの時に会場を封鎖した光の壁にも似た感触の殴り心地に空悟は「やっぱりな」と苦笑する。
「……全国の事件は虹色の飴玉で生まれた化物共を、あの魔法少女……多分一人じゃねえな。アイツラが倒してたんだ」
肩で息をしながら、空悟はそうしてその場にあった椅子に座った。
「全く……これは三郎を待つしかないか」
もっと強ければ、障壁をぶち抜くことも出来るだろうに、と臍を噛む。
と、その時であった。
ジン、と震えるような響きが屋敷を覆ったのは。
そして暫しの静寂の後、玄関がギィと軋む音を立てて開いたのである。
「よう、空悟。無事か?無事ならとっとと外に出て手伝ってくれ」
「三郎!」
顔を出したのはミナ……彼の親友であったのである。
外では―――
「チェストぉ!!」
裂帛の気合とともに夕の回し蹴りが公園の木に炸裂した。
しかし、木はびくともしないどころか、葉すらも揺らさない。
「くっ!」
「んん……ここが空間の歪みの中心ですから、これを壊すかリドルを解かないと岬さんたちが閉じ込められている空間には入れないというのに、嫌に頑丈ですね」
ルルが捻じ曲げられた時計のようなアイテムを木に向けながら苦笑した。
空間の神ツァアシスランの力を秘めたその時計……イーガックの懐中時計は空間の歪みや異空間への入り口を発見するための道具である。
それによってこの公園の中心にそびえ立つ大きな木……住宅地には似つかわしくない、全長約15mほどの木が歪みの中心であることまでわかっていた。
「ちょっと、いきなりぶっ倒そうとするんじゃないわよ。山号公園にそれがなかったらほとんどただの広場でしかないのよ?」
「ミナさん。空悟さんは無事でしたか?」
ミナが抗議しながら現れ、それを見たルルは空悟の心配をした。
「ま、見てのとおりよ」
「ああ、特に問題はない。岬ちゃんの同類に閉じ込められたけどな」
無傷でピンシャンしているコート姿の空悟を見て、ルルは嘆息する。
その嘆息が無事で良かったと言う意味なのか、それともしぶといなという意味なのかは空悟にはわからなかったが、ミナの呆れた顔を見て後者に近いものなのだろうと苦笑いした。
「ルル、遮音はしてるわね?」
「そりゃもう。これからどうしますか?これはおそらく相当に真面目にやらないといけないですよ?」
ミナの問にルルはそう答えて、木を見上げる。
「少なくとも私や廻の攻撃では、全く痛痒がないようだ。これは完全に物理攻撃ではどうにもならん」
夕がムッとした様子で先程回し蹴りをした脚を撫でた。
廻もまたその様子に首肯し、ミナは「二人で駄目ってことは純粋な物理攻撃じゃどうにもならないってことに私も同意するわ」と言ってベンチに座った。
「魔法的な封印だとは思うんですけどね」
封印を解かないと、この木は時空の中で止まったままの存在に成り果ててしまうのではないだろうか、というのはルルの推測である。
「そりゃ困るな。この木は春になると燕が巣を作るんだ。多分、近くが民家だからここに作るんだろうな。燕は家に巣を作り虫を食う。だから、おかげでここらは害虫が少ないし、家や施設に巣を作ることもないから糞の掃除も楽なんだよ」
空悟はそう言って木を見上げる。
「そういや、お前が引っ越す前の家はここらへんだったもんな」
ミナはそうしてベンチから立ち上がって、フック付きロープを出した。
「とりあえず天辺まで登ってみるわ。なんかわかるかも知れないし」
ジャンプでそのまま登ってもいいが、周辺民家の住人に超人的な身体能力を見られるのも面倒になりそうだったためだ。
最悪フック付きロープと素手で登れば、酔っ払いのバカとして押し通せるということもある。
ミナはそうして丸められたフック付きロープを肩に担ぐと、取っ掛かりになる枝まであっという間に登っていってしまった。
そういえば、とミナは思い出した。
まだ三郎が20代の頃、あまり親しくなかった小学生の頃のクラスメートが酔っ払って木に登り、降りられなくなった上に滑って落ちて、そのまま亡くなってしまったという報せを受けたことを。
ビキリと頭痛がして、それも邪神が封印していた記憶だということがわかる。
何故よりにもよって木登りしている今になって思い出すのか。
「くそやろうめ……」
ミナは一つ恨み言を漏らして、頭痛を思わせない速度で登っていく。
そうして中腹まで登った時に、異常事態に気がついた。
「―――うん、どう考えてもおかしいわこれ」
ミナは20mほど登ってきていたはずだ。
―――その木は15mほどの大きさでしかないはずなのに。
「ルルー!空悟ー!今こっちどう見えてるー!?」
下へ向けて声を張り上げる。
「駄目だ!お前の姿は見えない!」
「一番上まで行ったところまでは見えました!ですが、その後姿が見えなくなっています!」
二人の声はまだ辛うじて聞こえている。
これは、確実に「これが順路」ということを示していた。
「リドルと言うほどではなかったかぁ……ま、単純でいいわね。ロープを下ろす!それを伝うか、木登りしてきてくれ!ここを登っていかないといけないらしい!」
―――これが無限回廊のたぐいでなければ、だが。
直後、廻と夕は光学迷彩を発動し一足飛びに―――木を垂直に駆け上がり、ルルはミナと同じように素手で。
空悟だけが降ろされたロープを伝って登っていった。
途上では何も起きることはなく……しかし、そこから見える景色が木の高さを超えて空高くなっていくことに空悟は冷や汗をかいた。
「ジャックと豆の木かよ」
「豆が生るならまだマシだわな」
大きな枝で一息ついて、5人はその高さを確認した。
「―――地上まで三十米五十六糎。地上より測定した木の全長は十五米三十二糎。異常なのはわかっていたが、異空間に通じる道とはね」
廻は計測結果を全員に伝えて嘆息する。
それを聞いてミナは「地上にあるバグダンジョンではよくあるものよ。ルルのダンジョンにもこういう空間系のトラップは設置されてたしね」と苦笑した。
「ええ。アレは入ったものを全く違う場所にバラバラに転移させる分断罠でしたが」
ルルがそう言って「これは空間の歪みが一方通行なので、そういう意地の悪い罠はなさそうです」とイーガックの懐中時計を見る。
「自分で意地の悪いとか言っちゃうのかおめーってやつぁ……」
枝の上に立ったミナは、こめかみを人差し指でグリグリともみながら呆れ返る。
「まぁまぁ。僕、あんまりあのダンジョンを作ったときのこと覚えてないので」
「覚えてないで済まさないでよね……」
ハルティアやカイムとの冒険が思い出され、ミナは呆れた顔から苦笑いに表情を変化させた。
そして空悟の腰と自分の腰を命綱でつないで「これでよし。廻さんや夕ちゃん、そこのタコはともかく、お前は落ちたら死ぬ高さだからな」と笑った。
「おう、助かる。んじゃあ登ってやるかあ。あの生意気なメスガキに目にもの見せてくれちゃるわ」
「あーショッキングピンクな魔法少女だっけ?」
木をよじ登りつつそう聞くと「ああ、岬ちゃんのことも知ってたし、俺らのことも把握してるみたいだった」と空悟も同じようにクライミングしつつ答えた。
「そうか……うーん、やっぱいるのか……悪の魔法少女組織……」
ミナがめんどくさそうな顔でぼやくと、空悟は「まぁ倒せばいいだろ」と微笑んだ。
「名付けるならスーパー・マジカルガール・ネットワークってところか?」
「おめーがジャン○ー○ン好きなのはわかってるけど、流石にそのネーミングセンスは現代っ子にはアレだと思うぞ?」
ミナが呆れた顔で下の空悟を見る。
「そうか?」
とにかく、まずは岬を助けなければ。
五人はそれから、黙々と木を登っていくのであった。
特撮マニアの空悟がつけた名前が正鵠を射ていたのは―――余談である。
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