異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第86話「おじさん、ラーメンと生ビール大ジョッキでちょうだい」

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「―――ここは」

 

岬は、まず恋に膝枕されている自分に気づいた。

 

どこまでも続く蒼穹と白い大地。

 

そして、周囲には彼女の仲間たちがいた。

 

「あああぁ!起きた!起きたぁ!心配させんなよなぁぁ!」

 

頭が恋によってギュッと抱きしめられる。

 

その時、ようやく自分がドラゴンとの戦いで力尽きて倒れたことを思い出した。

 

「恋ちゃん……心配かけてゴメンなのです」

 

ニパと笑って、岬は体を起こす。

 

「ここまで来るのに苦労したのよ?暗闇の空間の後は謎の大迷宮、そしたら大量のミサイルが降り注いでくるキルゾーンにご招待されてね」

 

ミナが何でもないようにそう言って笑う。

 

その光景に、助かったという思いが岬の中に生まれてくる。

 

「……なんとかなった、のですね?」

 

「ええ、そうよ。後は帰るだけ。しっかし、白き空に―――あっちの世界の異空間に繋がる道を開けて、それを改変できる組織がいるなんてね」

 

感心したように何度も頷くミナと「平成初期キメた魔法少女ってマジでやべーな……」と遠い目をする空悟がいた。

 

「うむ、肉体に負担、後遺症はないようだ。無事で良かった、岬」

 

「あ……はいなのです。ありがとうございますですよ」

 

優しい目で廻が労ってくれたことに、岬は嬉しくなってしまう。

 

「えへへ……あ、ところでもう一個虹の欠片がこの空間のどこかにあるはずなのです!」

 

岬がそう言うと、ミナがすぐに「もうそっちは見つけたわ」と岬にそれを渡す。

 

「あ、ならよしなのです!」

 

今は変身もできないほど魔力が消耗しているので、ミナにその虹の欠片を返してバッグに入れてもらう。

 

岬は立ち上がり、ガッツポーズを取る。

 

「不覚を取って誘拐されてしまいましたが、なんとか生きて戻れるのです!」

 

「だからってむちゃするなってばァァァァ!!」

 

そんな岬に抱きついて、恋は泣いてしまった。

 

「ゴメンなのです……でも、恋ちゃんを守るためだったのです。わかってほしいのですよ」

 

岬がそうして恋の頭を抱いて笑う。

 

その光景に、言葉を発していなかったルルと夕も微笑んだ。

 

「わかってるけどさぁ……」

 

「はいはい、そこまで。それじゃあ帰りましょ。帰るまでが遠足です、ってね。外に出たら美味しい蕎麦屋があるからそこ行きましょ。西之森の『豊醸屋』のラーメンは美味しいのよ」

 

彼女の言葉に、空悟が「ああ、あそこ未だにラーメンのほうがうめーのか……」と気まずそうな顔になる。

 

「へー知らなかったのです」

 

「蕎麦か……うん、あれはいいものだ」

 

岬と夕が乗り気になったところを見て、廻がうんと頷き、泣きじゃくる恋を宥めながら黄昏の傭兵団は空間をあとにする。

 

―――ミナは踵を返したその時、その今は空虚な空間を睨めつける。

 

(白き空は形なき力、リソースの生まれくる場所。グリッチ・エッグの活力を生み出し、然してその法則は我々の世界とは異なるイマジネーションの世界……その世界にこれだけ広大な空間と地上と似た法則を作り、しかも白き空へ繋がる通路になる空間をも作り出す、か……)

 

この空間を作ったのは一人か、それとも複数か。

 

自分ほど強いだろうか。

 

或いは、自分たちより強いだろうか。

 

ミナは抱き合う少女たちを見つめながら、厳しい戦いになるかも知れないと予感していた。

 

 

 

通常空間に出て、変身を解いたメグミはおっとり刀でやってきたマコに説教されていた。

 

場所は山号公園近くの蕎麦屋である。

 

「何考えてるんだお前は!あの方の話をよく聞いてなかったのか!お前とあのお方だけなんだぞ!あの場所で自由に動けるのは!」

 

マコの横にはだるーんとぐったりしているバルカン女と緑の幼女とクロキがいる。

 

どうやら彼女が気絶している少女らを何らかの方法でここまで連れてきたようであった。

 

「それを!勝手に行って!とっとと外に出て!私にみんなの回収までさせておいて自分は食事とはどういうことだ!!」

 

「まーまー落ち着いてよマコちゃーん?天ぷらそば食べる?」

 

挑発的な感じもなくのんびりとそのようなことを抜かしたメグミの口に、マコは躊躇なく指を突っ込んで横に広げた。

 

「いひゃいいひゃい!ひゃひひゅるのマコひゃん!?」

 

「ドやかましいわ!いい加減にしろってんだよ!!」

 

周りを気にせず大声でまくしたてるマコと、同じく抗議の声を上げるメグミ―――それを見て黙っている蕎麦屋の店員などいないだろう。

 

「―――あのなあ、あんたら。大声で騒ぐならとっとと食って出ていったらんね!」

 

髪を金髪に染めたチンピラっぽい店員がそうしてメンチを切ってくる。

 

「お説教やるんなら公民館にでも行かんかいね!このダラズが!!」

 

「いやですわね、テツさん。高校生相手に何キレてるんですか?ほら、あなた方もさっさと食べて出ていってくださいまし。白い目で見られていることに気づいていらっしゃいます?」

 

ブチ切れる男に対して、おっとりとした金髪の女性……格好からすると料理を作っているのは彼女のなのだろう。

 

金髪と妙にマッチした和装を身に着けた女性が、お盆をひらひらしつつ割とストレートに「さっさと帰れ」と促してくる。

 

「ほらぁ、マコちゃんのせいで怒られたぁ」

 

「す、すいません!ほら行くぞ!すいません!これはお騒がせ料です!!」

 

ブーブーと不満を述べながら蕎麦を即座に平らげたメグミを引きずって、マコは1万円をレジに置いて出ていく。

 

「あ、ちょっとお待ちなさい!こんなにいただけないですわよ!?」

 

「迷惑料です!取っといてください!!」

 

元来大声なのであろうか、先程よりもなお大きい声で叫んで少女は暖簾をくぐる。

 

その後ろをゾンビのようにフラフラと負け魔法少女3人が出ていく光景は異様であった。

 

「のう、さっちゃん……最近の女子中学生は変わっとるのぅ……」

 

「……ですわねぇ……店長とお呼びなさい」

 

怪訝な顔のチンピラ親父店員と金髪巨乳の店長が困惑しつつそれを見送る。

 

客は5人ほどいて、誰もが同じような顔つきになった後、興味をなくして蕎麦やラーメンに集中していった。

 

それから30秒もしないうちに暖簾をくぐった者たちがいたが、その姿を魔法少女たちが見ることはなく。

 

暖簾をくぐった者たちの幾人かは、去っていく少女たちの後ろ姿をちらりと見て。

 

そのくぐった暖簾には「豊穣屋」と篆書体で大書されていたのだった。

 

それから金髪巨乳の店長の髪よりもなお太陽を思わせる髪の少女が席につくなり注文を飛ばす。

 

「おじさん、ラーメンと生ビール大ジョッキでちょうだい」

 

「……蕎麦は頼まんのかのう……ワシは悲しい……」

 

そんな少女―――ミナの注文に、金髪のチンピラ親父は寂しそうにそう言ったのだった。

 

 

 

―――スーパー・マジカルガール・ネットワークのアジト。

 

「……メグミ。あなたはもう少し落ち着きなさい。その力は軽々に使っていいものではない」

 

「す、すいません……!」

 

瞳を紅く光らせて怒気を放つイェカに、流石にメグミも平伏することしか出来ない。

 

チラとも上を向くことの出来ない状態で、メグミは震えていた。

 

「―――此度の損害は虹の欠片が5つに、あの異空間の一部放棄……まあ、あの化け物がいてその程度なら割には合う、か」

 

ふむ、と顎に手を当てて銀髪の少女は微笑んだ。

 

「『オリジナル』の力が増したこともある意味では好都合と言える―――」

 

そして、カツカツと玉座の後ろの宝箱を開けて、視線をメグミと同じように震えて平伏する三人の魔法少女へと向けた。

 

「チカ、ショウコ、クロキ。虹の欠片を失ったことは不問とする。『オリジナル』の成長速度、そしてあの化物共の能力の一端を知ることが出来た功績をもって相殺としよう」

 

箱の中から取り出されたのは―――虹の欠片だった。

 

よくよく見れば、箱の中には100を下らない量の虹の欠片が眠っているのがわかる。

 

二つの虹の欠片をクロキとチカと呼ばれたバルカン女に放り投げ、二人がそれを受け取ったことにニコリと笑う。

 

「ショウコも含め、三人とも元の任務に戻るがいい」

 

「「「ハハッ!」」」

 

三人は声を揃えてイェカへの忠誠を誓った。

 

その姿に満足そうに頷くと、今度はメグミに目を向けた。

 

「メグミ―――あなたには罰を与えます。いいですね……?」

 

震える彼女の頬に指を這わせ、彼女は妖艶に微笑むとかちりとなにかスイッチのようなものを押した。

 

「そんな!そんなぁ!それだけはぁ!」

 

メグミの叫びと同時に床に穴が開き、慄いて咄嗟に飛び上がろうとしたメグミだが、その穴から出てきた透明の蔦のようなもの……触手といえばいいだろうか、それに絡め取られて落ちていった。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!ラマーズ法はいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

不穏な言葉を吐きながら墜ちていく少女を尻目に、床に出来た亀裂はあっという間にふさがっていく。

 

その様子に、周りの魔法少女はガタガタと震え青い顔になる。

 

「……そう怖がるな。よほどやらかさない限りはやらない」

 

そうしてイェカは虹の欠片が詰まった箱を、元のように閉じて鍵を締めた。

 

「全くあの子は……少しは反省すると良いが」

 

こめかみに手を当てて、イェカは物憂げに椅子に座る。

 

「―――これで話は終わり。さ、それぞれやるべきことをやりなさい。まず、ショウコは学校の宿題からね」

 

「は、はいっ!すぐやります!」

 

ショウコはそうして立ち上がり、横にいるチカとクロキもまた同じように立って三々五々と部屋の―――と言っても二十畳はありそうな広い部屋に散っていった。

 

その様子を満足気に眺め、ひとり残ったマコへと声をかける。

 

「それでは本日の営業報告をお願いするわ。あの大食らいの化物以外の客もそこそこいたはずだけど」

 

それまでとは打って変わった明るい声で、この話はもう終わりとばかりに微笑んで。

 

「はい、それにつきましては……」

 

マコが帳簿を読み上げつつ、今日の収支等について報告していく。

 

部屋の隅ではショウコが勉強机を出して、宿題の片付けにかかったのを見ながら少女は頷いた。

 

チカはその横でモデルガンらしきライフルを磨き始め、クロキはブツブツとつぶやきながらショウコの勉強を見始めている。

 

先程までの緊張と怖れを孕んだ空気がどこかへ行ってしまったかのように。

 

今の彼女の様子は、出来の悪い妹を見守る姉のようで―――

 

マコはその様子に、畏怖を覚えていた。

 

きっと必要があれば、自分たちに死を命じるであろう少女の奥底に。

 

―――果たしてこの謎のアットホームさを持つ魔法少女組織の目的は、本当に国家建設などという妄想なのであろうか。

 

彼女らが次に現れる時にそれは明らかになるのだろうか。

 

虹の欠片は何も言わず、ただ静かに輝いていた。

 

 

 

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