異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第87話「―――だけど、これじゃあ南のヤシの島ってよりは」

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―――そして翌々日。

 

予定通り6人はダンジョンまで来ていた。

 

今までの日曜に数時間ほど修行のために訪れたわけではなく、初心者用と思われる1~2階層を突破して次の階層へ赴くため―――岬の手に入れた新しい力で、薄墨色の歪みを突破出来るか試すためである。

 

もうすでにこの階層に現れる者たちは、ほとんどが岬にも空悟にも歯が立たない。

 

特に―――

 

「オラァッ!!」

 

ショットガンから放たれた銃弾が一瞬輝いて、強固な装甲を持つカニの化物―――ただし、何故か直立二足歩行な上、腕が14本もある―――に叩き込まれる。

 

ガウン、という轟音とともにカニは吹き飛んでばらばらになっていた。

 

「だいぶ出来るようになったな、庚辰流気功術」

 

「ああ……便利だな、これ」

 

ミナの修めている庚辰流という格闘術の一部である気功術を空悟、そして文は習っていた。

 

これは生命エネルギー、もしくは生命の精霊力を肉体や器物に込めることで強化する術理である。

 

生命の精霊術と異なり、性別も魔法の才能も関係なく習得できるため、かなり便利な術である。

 

グリッチ・エッグではミナたちが主な活動地域とする範囲からはるか東方に存在する、中華と日本とベトナムとタイとモンゴルの文化が合体したような謎の国「録」にしか伝わっていない。

 

―――それもごく一部にしか伝えられない秘伝。

 

その秘伝の術をミナは惜しげもなく親友と友人に開帳していた。

 

そう、つまり。

 

気功を込めた銃弾を空悟が放てるようになってから、ほとんどのモンスターは既に相手にならなくなっていた。

 

先程現れた―――おそらくは魔界○士 *a・*aに出てくるカニのモンスターをモチーフとしたカニのようななにかも、既に空悟と岬の二人だけで20匹は排除している。

 

ロ○の洞窟もどきに出てきた、ほとんど例外と思われる上級モンスターらしい魔物以外は、という但し書き付きだが―――そんな連中とも一対一ならある程度戦えるとミナは見込んでいた。

 

「しかし、今日は魔○塔士の海上マップか」

 

「船はオレとルルが漕ぐからしっかり戦え、空悟。つーか、海上なのになんで手こぎボートなんだよ。ここは浮島を持ってくるべきだろ」

 

ミナは呆れてものも言えないと言う風にため息をついた。

 

「ミナさんを苛つかせるためとはいえ、あの邪神も手の混んだことをするものです」

 

ルルがオールをグイグイと漕ぎつつ苦笑する。

 

そうしてどこまでも続く大海原とかんかんと照る太陽を見て、「本物の太陽ではないようですね」と呟いた。

 

『それはそうだろう。本物であったなら、それはそれで恐ろしいことになる』

 

廻はそう言いつつ、夕と共に索敵と捜索を行っている。

 

『本当にあるのか?ヤシの木が生えた南の島など』

 

夕が疑わしそうにミナを見つめる。

 

苦笑して沈黙したミナに代わり、岬は「本当にゲーム通り……とは行かないとはおもうのですけど、ヒントではあるのですから行ってみましょうですよ」と笑った。

 

似たようなやり取りを新しい見た目のフロアにたどり着いた時には必ず行っていることに、ミナも岬も笑うしかなかった。

 

そうしている間にまた数匹カニのような何かが海上に浮かび上がり襲いかかってくる。

 

道のりはまだ遠いようだったが、ボートは―――ミナたちの膂力によるボートらしからぬ速度で―――着実に進んでいく。

 

カニのような何か、水色のタコのようなもの、そしてそのままクモ人間が何度も何度も、しつこいくらい襲ってくるが、すべて岬と空悟の攻撃で沈んでいく。

 

そのうちに顔が貝になっている海賊が上がってきたりもしたが、空悟と岬によって次々と蹴散らされていった。

 

そうしておよそ3時間ほどが過ぎたころ。

 

『水上捜索電探に感あり。進路前方三十粁に島がある。方角、東南東』

 

先端に立つ夕がそう言って振り向いた、

 

「じゃあ後は私たちの出番ね。世界を支配する偉大なるロジックよ。我が使い魔を彼岸より此岸へ連れ出し給え。コール・ファミリアー」

 

ミナの手にボウと光が宿ると、そこには白い小鳩がいて「くっくるぅ」と一声鳴いて島の方向へと飛んで行った。

 

簡単な使い魔を呼び出す魔法である。

 

術者の求めに応じて、契約した動物ができることをしてくれる魔法である。

 

契約した動物に生命力をほんの少し分けないといけないため、健康的でないと使えない術でもある。

 

ミナは数ある使い魔たちの中から、その鳩を飛ばしたのだ。

 

動物たちの見たものは、崎見老人の事件の際にルルが使った時のように術者に即座に反映する。

 

視界を奪うこともないので、あの事件の時のように気配を出してはいけない場合でもなければ監視や近距離の索敵にはこの術で小鳥を呼び出すのが一番である。

 

千里眼の術とは異なり、命あるものとの視界の共有であるため脳や人間としての視界そのものにも大した負担がかからない優れモノである。

 

「あの子が島に着いたらその島にヤシの木があるかわかるわ。まあヤシの木じゃなくなってる可能性も多分にあるのだけど」

 

「便利なのですね。あたしも覚えられるですか?」

 

岬のその質問に、ルルは「第三位階の古代語魔法なので岬さんならすぐですよ」と答えた。

 

小鳩は―――鳩に似合わず、低空を100㎞/hほどの速度で進んでいく。

 

人外レベルの二人が漕いでいるボートもその3分の1かそこらの速度は出ていたが、如何せん戦闘装備の廻と夕の大重量のためにトップヘビーになってしまっておりその速度に追随することはできない。

 

沈んでしまわないよう、船にはフォーリングコントロールなど重量を軽減させるいくつかの魔法が言うまでもなくかけられていた。

 

―――そして20分ばかりが過ぎたころ。

 

「みんな、ビンゴよ。ちゃんと島の真ん中にヤシの木があるわ―――ただし、全長1000mくらいありそうなやつがね。島のデザインも凶悪だし」

 

「そんなにでかいならここから見えてるはずだよなあ?」

 

オールを高速で漕ぐミナに空悟がそう聞くと「視覚阻害の結界だろうな。突然視界が開けたように見えた」と答えた。

 

額に汗しながら答えて笑う。

 

「ま、問題はねえよ。コバさんも殺せない程度の結界ならさ」

 

『お前みたいな生物の規格外じゃないのか、あの鳩は』

 

揶揄するように夕が言うと、「ちょっと鳩らしくない速度で飛べるだけで、普通の鳩よ。ラーメン食べたりライブ行ったりはしないわ」とやはりからかうように答えた。

 

『……?』

 

『ああ。あれか。ニ〇ニ〇漫画とかいう電子配信漫画の発表場所にあったものだな。人間のような挙動をする鳩の四コマ風刺漫画、という風情のな』

 

怪訝そうにする夕に、廻はミナの言った話について心当たりがあったのか詳しく説明して微笑んだ。

 

『……それの何が面白いんだ?』

 

「無表情な鳩がそういう人間くさいことをするから面白いのよ」

 

ミナの言葉に夕は何度も首をひねる。

 

『……わからん。だが、理解できないのは腹立たしい』

 

「じゃあ帰ったら一緒に読んでみましょうよ」

 

ミナにそう微笑まれて、夕は少したじろいだ。

 

『……う』

 

ロボットらしからぬ様子で小さく呻き、夕は黙ってしまう。

 

「そういえばWEB漫画とかもう10年以上読んでいないのです。漁ってみるですか」

 

岬が変身しているのに、どこから出したのか、落ち着かないと眼鏡をかけながらそうして唇を尖らす。

 

そんな他愛のない会話がしばらく続いて―――そして、小鳩が帰ってきた。

 

「お疲れ様!それじゃあ餌あげるからね」

 

ミナとルルがオールを漕ぐ手を廻と夕にバトンタッチして、鳩にバッグから取り出した餌をやる。

 

すると与えられた鳩はぐるっぽうと満足げに鳴くと、皿に盛られた餌を盛んにつつき始めた。

 

やがてその皿から餌がなくなり、鳩が霞のように消え去ったとほぼ同時に―――

 

「確かに1000m以上は間違いないなくあるな」

 

空悟がミナから借りた双眼鏡を覗いた。

 

「―――だけど、これじゃあ南のヤシの島ってよりは」

 

『うむ。鬼ヶ島というべきだな』

 

男二人がその威容に息をのむ。

 

そこには―――鬼の顔を思わせる岩塊と、その角のごとくに生えた巨大なヤシの木があった。

 

「……どうも歪みはヤシの木の……つーか、角の上にあるみてーだな」

 

空悟の言葉に、ミナは「そうっぽいなあ」と口をへの字に歪める。

 

「ダンジョンの中にもう一個ダンジョンがある、って感じだな。やれやれ……これは攻略せねばなるまい」

 

ミナが舌なめずりするように微笑み、仲間を見た。

 

「どうした三郎。気持ち悪いぞ」

 

「悪い悪い。どうせオレをイラつかせるものだってんなら、愉しまなくちゃなって思っただけだ」

 

ミナはそうして舳先に立って呪文の詠唱を始める。

 

「シルフよ!風の乙女よ!我らに季節風の加護を与えたまえ!追い風となりて吹き抜けよ!」

 

瞬間、船がふわりと浮いた気がした。

 

第五位階の精霊術、テールウィンドである。

 

これは文字通りに追い風を吹かせる魔法だ。

 

それは帆がない船であろうとも加速させる魔法の追い風であり、船旅をする時には便利な呪文なのだ。

 

『上陸予定地点に敵影あり。このまま突っ込むのかね?』

 

「勿論!総員対ショック防御!世界を調律する我らが祭神よ!その御手を盾として我等を厄災から守り給え!プロテクション!」

 

ミナがプロテクションを唱え―――次の5秒で船は加速して岸壁に衝突する。

 

バグダンジョンの破壊不能オブジェクトなのか、船は一切ダメージを負わずにその衝撃はそのまま6人を前方へと放り出すエネルギーに使用された。

 

待ち受けていたモンスターたちの背後に6人はそれぞれに降りる。

 

ミナとルルは普通に、空悟は前回り受け身を取って。

 

廻と夕は脚部のジェット噴射でもって、岬は空を飛んで―――それぞれにダメージなく着地した。

 

「こんにちは死ねぇ!」

 

ミナがいつの間にか持っていた弓を三本三連射、廻と夕、そして空悟は銃器で射撃した。

 

悲鳴を上げる間もなく―――悲鳴を上げる機能があるかはわからないが―――後衛と思われる宙に浮く目玉たちがなぎ倒されていく。

 

射撃が一旦止むと岬は赤い新しい姿……フレアスタイルに変身して、中衛のヘビ人間やクモ人間に殴りかかる。

 

「赤き姿は原始の力!殴って殴って殴りまくるのです!!」

 

その手には赤い手甲が装備されており、その威力で敵を殴りまくる。

 

それに負けじと空悟が精神注入棒を取り出して襲いかかる。

 

「たぁりゃぁ!!」

 

『グゴゴゴゴゴ……!』

 

気合の入った一撃に、クモ人間が頭部から緑の液体を吹き出して絶命する。

 

そしてそれから一瞬遅れて、ルル以外の3人も近接戦へと移行し、海外線で待ち受けていた30ほどの魔物は3分持たずに駆逐されていた。

 

「雑魚だな……」

 

ミナがヒヒイロカネの小剣を鞘に納めつつ感想を述べてあたりを見回すと、やはり使い魔で空から見た時には認識阻害がかかっていたのかやたらと広い―――

 

少なくとも、まっすぐ角にあたる巨大ヤシの木へ向かうのは得策ではなさそうだった。

 

「これは多分、どっかに入り口があるな」

 

ミナがそうしていると、周辺にはいくつか内部に入れそうな洞穴があることが見て取れた。

 

『地下に入るか、それともそのままヤシの木を目指すか、だな』

 

夕がそうしてミナをちらりと見てくる。

 

ふとバッグから取り出したイーガック懐中時計を見れば、まだ午前9時ごろ。

 

スマホの時計は既に12時を過ぎていると言うのに、だ。

 

出発した時間は午前7時。明らかに経過時間と合っていない状態だった。

 

「ここは時間の流れが歪んでるみたいだから、急がないで慎重に行きましょう」

 

つまり、それは―――

 

「ダンジョンに入るのですね?」

 

「そう、ダンジョンの中でね」

 

岬にそう答えて、ミナは笑う。

 

「まあとりあえずそろそろお昼だし、ご飯にしましょう」

 

そうして休憩を提案して、無限のバッグから休憩用のシートを出すのであった。

 

 

 

そうして体感で1時間後。

 

イーガックの懐中時計の時間は1分ほどしか進んでいなかった。

 

時空の歪みを検知し、時間神と重力神、そして運命神が定めた正しい時間の流れを示すイーガックの時計がそうなっているということは、間違いなく外では1分しか時間が経過していないということである。

 

「ほぼ時間が止まってんな……長丁場になりそうだ、これ」

 

「スマホの電池の消費もなんかおかしいしな……」

 

食べ終わった弁当や飲み物を片付けながら6人は目の前の洞穴を見た。

 

「ここまで時間が歪んでいるとするともたついてるとオレらだけ年取っちまうことにもなりかねんが……」

 

『少なくとも、まっすぐあの角を目指すのは危険だろうな―――地上は私達でもはっきりと観測できるほどに次元交錯線が歪んでいる』

 

ミナが男言葉で唸っていると、夕が口を挟んでくる。

 

「夕ちゃんたち、そんなこともできるの?」

 

『ああ、次元交錯線・境界線の歪みの検知はな。前に言っていたはずだが』

 

夕がそう言って口をへの字に結ぶ。

 

「……そういえばそうだった。うーん、まあいいわ。それなら地上を行くのはNGということで……まあ順路通り洞穴に入るとしますか」

 

ブルーシートを片付けながら少女は立ち上がる。

 

岬たちもそれに続き、岬は解除していた変身を再度行った。

 

「さて、御開帳、と」

 

まずは近場から、とミナは洞窟に入っていく。

 

ルルもミナも同じくイーガックの懐中時計を首にかけながらの行軍であるため、かつてのルルのダンジョンに仕掛けられていた分断トラップのたぐいを検出することは容易である。

 

洞窟の中はひんやりとした岩の壁であり、少し進むと遺跡のような石壁の場所に出る。

 

そしてそこをしばらく歩いていくと……

 

ミナは、チタン、チタンと水が落ちる音を聞いた。

 

ミナは嫌な予感がして、一瞬立ち止まってその音をしっかりと耳に残すかのように聞く。

 

「どうした三郎?」

 

引き戻したのは親友の声。

 

「いや、なんでもねえ……ちょっと気になる音がしただけだ」

 

そう言って足を早める―――すると、ガランとした広間に出た。

 

一瞬、獣臭と腐臭がした気がしたが、それは気の所為。

 

―――ふと、上を見る。

 

そこには―――見事なまでの鍾乳石が幾十も天井から生え、そこから落ちた水が部屋の中央に集まって泉を作っていた。

 

その光景に深い既視感を覚える。

 

当然だろう。

 

なぜなら、そこは。

 

「―――なるほど。とことんオレを怒らせたいらしいな、このダンジョンの主……推定ドミネーターのクソ野郎は」

 

ミナの冷たい声が響き渡る。

 

そこはかつて、ミナが最初の冒険で失敗して落とされた場所。

 

そして、最初のパーティーと最後に冒険をした場所。

 

―――「水の流れる遺跡」。

 

その懐かしい場所そのものであったのだった。

 

 

 

ニタリ、と女は笑った。

 

あの女の負の感情が聞こえたからだ。

 

桃色の闇の中、女は低く喜悦に嗤う。

 

―――あの女の記憶は私のものだ。

 

桃色の闇が嘯いた。

 

女は高く哂う。

 

その女の顔は、恋の母親のようにも、森人の勇者のようにも、あるいは―――

 

平坦な声の呵い声が聞こえる。

 

桃色の闇が閉じて、また真の闇が生まれる。

 

何度この光景を繰り返すのか、生まれては消え、消えては生まれくる。

 

太陽も月も星も輝かないこの地で。

 

女は柔らかく咲う。

 

明日は、きっといい日になるだろう。

 

 




本作はヤマグチジロウ氏の「ハト」を応援しております。

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