異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第90話「あ、なんか違うこと言った」

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梯子を登り続け、たどり着いた場所はヤシの木の頂上であった。

 

途中には罠のたぐいもなく、途中で岬がへばったりしたが順調に登れていた。

 

その頂上は―――ヤシの木の上は地上から観測できた大きさよりも広く、戦闘でふっとばされでもしない限りはそうそう落ちそうにはない足場を形成していた。

 

『空間の歪みは―――あそこだな』

 

廻が指差した方向には、別の階層でも見た薄墨色の空間の歪みが存在し、それを守るように3体の魔物が鎮座していた。

 

「あれは……三郎、知り合いか?」

 

「ああ、そうだ。下のダンジョンでボスやってたはずの、ゴブリンパラディンとヴァンパイア―――それと、遺跡の王……名を伝えられなかった山人の王様だよ」

 

親友に問われ、ミナは低く答えて白い翼のついた杖を抜き払った。

 

「ゴブリンパラディンとヴァンパイアはそうそう難敵でもない。ただ、あの愚王は胸のシンボル……魂を保持している宝石を破壊しなきゃ死なない。最初に対峙した時はルート……パーティリーダーの剣士がバンザイアタックでなんとか仕留めたんだ」

 

しかし、所詮は中堅から上位に入りかけの頃の自分たちで―――決死の覚悟で挑んで、だが―――倒せた相手だ。

 

今の自分と、魔王とも戦えるルルや廻、夕がいて倒せない道理はない。

 

しかし、この場は不条理が横行するバグダンジョンである。

 

そう一筋縄にはいかないと、ミナとルルは強化魔法を唱え始める。

 

敵が動かないことをいいことに、身体強化、武器強化が施され、そして魔法の威力を高める増魔陣がミナの足元に描かれる。

 

「オレとルルは支援に徹するから、頼むぜ皆」

 

「了解だ!」

 

空悟の一声で戦闘は始まった。

 

ミナはまず増魔陣を起動させる。

 

「ミナ・トワイライトが陣に問う!汝、なんと生まれしものか!」

 

『我は光。光を育て増やし広げるものなり』

 

「然り!汝の名は『増魔』なり!」

 

今回は神聖魔法を強化するための陣として作られたそれは正しく発動した。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!大いなる流転に生まれし渦を我らが鎧として与え給え!調和とは即ち世界なり!ホーリー・ウォール!」

 

暗黒魔法のデス・ウォールとは対称的に、魔法への抵抗力を最大限に高める聖なる壁が6人の前に展開される。

 

その瞬間に、夕と廻はゴブリンパラディンとヴァンパイア、それぞれに飛び蹴りを食らわせていた。

 

『戦力分析。『戦略兵器の魔王』の〇.〇八五と推定』

 

『同、〇.一〇二と推定』

 

二人は着弾寸前、機械的に敵戦力を分析していた。

 

瞬間、ゴドゥンという肉を破壊する音が二つ響いた。

 

『グワァァァァァァ!!』

 

『―――ヌゥ』

 

空悟や岬では苦戦すると思われる程度の怪物は、それでもまだ生きていた。

 

チキチキと道野枝兄妹の体の中で観測機器が駆動し、その生命がまだ十分に活力を残していることが把握される。

 

『上方修正。速攻で叩き潰すぞ』

 

『了解だ』

 

二人はそうして愚王の亡霊から引き離した小鬼の聖騎士と成熟した吸血鬼へ拳を向ける。

 

そして、護衛から引き離された王は刑事と魔法少女と相対していた。

 

『……汝ら、我が財を奪ったな……?!』

 

その瞳は紅く爛々と燃え上がり、口角は怒りに吊り上げられ端から泡を吹く。

 

正気とは思えぬ、否、最初から正気などなく作られたその亡霊を模したバグモンスターは、複写元の妄執のままにその剣を抜き放つ。

 

『オオ、なんと不遜なものどもよ……我が偉大に敵うものなどいないというのに……虹の帝すら、魔王や神すら我が威光の前にいずれひれ伏すであろう!』

 

その言葉を離れて聞いているミナは嘆息した。

 

「オレの記憶のままじゃねーか……」

 

「まあミナさんの記憶から作ったものなんでしょうからね」

 

ルルも同じように嘆息して、岬に古代語魔法を強化するための術を唱える。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。彼の者に美しき論理構造を与えよ。世界を改竄する論理こそ、魔の本懐なれば!ロジカル・エンチャント・メンタリティ!」

 

古代語魔法を使用する際のみ精神力を底上げし、その精度を高める魔法だ。

 

それを受け取った岬は「ありがとうですよ!」と叫んで、そのままエネルギーボルトの詠唱に入る。

 

愚王は未だ何かを喚いているようだが、聞く必要はない。

 

空悟は脇に抱えた一〇〇式機関短銃をフルオートで全弾発射し、次いでショットガンと九四式拳銃を両手で保持し、弾切れになるまでぶっ放した。

 

『己……鉄の秘密を愚弄するものめ……!我が怒りで潰してくれよう!』

 

「あ、なんか違うこと言った」

 

怒りに悶えて禍々しい意匠の黄金剣を空悟に向けた王に対して、ミナはそんな小さな感想を持った。

 

その瞬間、空悟が抜き放った精神注入棒が王の怒れる剣と接触した。

 

ガギリ、と火花を吹いて棒と剣がぶつかり合う。

 

今まで彼の身を守ってきた精神注入棒は、しかし徐々に剣に押されて刃が食い込んでいく。

 

もしミナが掛けたファイアウェポンがなければ、即座に両断されていてもおかしくなかった。

 

『ははは、どうした!増えるばかりしか能のない愚かな只人にしてはやるようだが、そこまでか!』

 

勝ち誇り、口角を喜色に歪める愚王に空悟は舌打ちをする。

 

「うっさいのです!偉大なるロジックよ!力の矢となれ!砕け!エネルギーボルト!」

 

横合いから光の矢を岬がぶちかます。

 

『鬱陶しい羽虫め。戦場に女がドレスで出てくるなど、戦への冒涜!只人は戦の作法すら知らぬらしいな!』

 

「ぐ!?」

 

吠えて剣を一閃、空悟を弾き飛ばすと迫るエネルギーボルトを怒れる剣は消し飛ばした。

 

「魔法の剣ですか!」

 

「やっべ!?下手にふっとばされたら落ちるぞこれ!!」

 

パラリ、と空悟の足元の削れた樹皮が眼下―――おそらくは1000mかそこらはある―――へと落ちていく。

 

「空悟!さっきも言ったがあいつの本体は胸の紋章だ!それをぶっ壊さない限り死なないぞ!後、落ちるのは心配するな!オレがフライトとグライドで拾いに行く!」

 

「おう!なんか得物貸してくれ!精神注入棒じゃあ切られっちまう!」

 

空悟がそう吠えると、ミナはバッグから一振りの日本刀を取り出して放り投げる。

 

「使え!」

 

「おう!」

 

空中でキャッチして、その鞘から刀を抜く―――抜けば玉散る氷の刃とでも言うのだろうか、ドワーフの王が持つ怒りの刃と比して冷たさすら感じる刀だった。

 

「よぅし!やってやるぞ!」

 

そうして態勢を立て直すと、空悟は刀を正眼に構えて王を見た。

 

『お行儀のいい道場剣法……気に食わぬわ!』

 

「やかましい!日本の警察官をなめるなよ!!」

 

正直言えば、空悟は真剣を握ったことはろくになかった。

 

というよりは押収品の刀を触ったことがあるくらいだ。

 

だが、この刀はしっくり来ると思った。

 

「鞘を捨てるったぁ、巌流島なら負けるところなんだろうけどもよ……」

 

投げ捨てられた鞘がガランと音を立てて木の表面に落ちる。

 

その瞬間に彼は駆け出していた。

 

「ォォォォォォォォォッ!!」

 

『小癪な!』

 

愚王の剣が閃き、空悟の刀とぶつかり合う。

 

今度は、押されることはなかった。

 

『―――相当な業物……よかろう、我が宝物の一つに加えてくれよう』

 

「うるせー!借りもんを盗られてたまるか間抜けェ!」

 

空悟が刀に力を入れる。

 

不思議と刃は素直に敵に向けられ、そして鍔迫り合いが始まる。

 

「こっちも忘れてもらっては困るのですよ!空悟さん、そこどけてくださいなのです!」

 

岬の杖の先に光が浮かんでいるのを察知して、空悟は「あぶねぇ!」と叫んで横に飛んだ。

 

「愛に慄け!光に戦け!愛は力に、光は力に、力は鋼になれ!アナン・ブーステッド・コメットぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

光が鉄球となって、王に向けて射出される。

 

王は『愚かな……見え見えよのう』と呟いてそれを避ける。

 

「だったらこれはどうなのですか!」

 

岬が吠えると、鉄球はいつの間にか繋がれていたワイヤーによって王のもとへと戻ってくる。

 

『小癪!』

 

愚王はその塊を怒れる剣で弾き飛ばす。

 

弾き飛ばされた鉄球は、そのままワイヤーが解けて地上へと落ちていった。

 

その隙を狙い、空悟が走る。

 

今度は斬りかかるのではなく、腰溜めに構えた刺殺の構え。

 

向かう先は唯一つ、王の心臓の位置にあるエンブレム。

 

それこそが王の命なれば、それを穿たねばならぬ。

 

ミナはその光景に、古い記憶が蘇っていた。

 

遺跡の伝説を知る年老いたドワーフ。

 

詳細を確認するために戻った実家で起きたトラブル。

 

そして遺跡の攻略と、今の空悟と同じように魔剣プルガトリオを携えて突撃したルートのことだ。

 

頭が少し痛む。

 

しかし、それも一瞬。

 

―――あのときとは異なる光景がミナの目の前に展開されていた。

 

「ぐっ……!」

 

『……その手は通じぬ』

 

空悟の吶喊は、王の左腕にいつの間にか装着されていた盾によって止められていた。

 

『我が蒐集品の中には我の危機を感じて現れるものもある……そういうことだ』

 

―――しまった。

 

ミナの心にその言葉が浮かび上がる。

 

これが記憶の中から作られた想像のものなら、かの愚王について調べた時に『持っている』とされたものは持っていてもおかしくはない。

 

バグダンジョンは不条理の世界だ。

 

であるなら―――こういうこともある。

 

ミナは咄嗟に呪文を唱えた。

 

それは―――

 

「千なるものよ、薄く輝く翠よ!岩を通すその力を今こそ我が輩に与えよ!閃け妖しなる刀・今津鏡よ!!」

 

その瞬間、剣は呪文のとおりに翠に輝き、盾へと徐々に埋まっていく。

 

『な、何ぃ!?こ、これは東方の物の怪どもの業だと……!?う、ぬぬぬぬっ!!』

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『させぬわぁぁぁぁぁ!!!』

 

盾を破壊する前に、彼の頭を砕けばよい。

 

そう考え、王は怒れる剣を振りかぶる―――が、そこまでであった。

 

「あたしの存在を忘れてもらっては困るのです!」

 

剣は止まる。

 

岬が投げつけたワイヤーに絡め取られて。

 

『ぬううううう!!』

 

それを力ずくで振り切ろうとするが、それまでである。

 

『そこまでだ。もうゴブリンパラディンもヴァンパイアも斃した』

 

岬が保持したワイヤーに廻が手を貸す。

 

「せりゃあああああああああ!!」

 

『おのれえええええええええ!!!二度までも只人や森人ごときにぃぃぃぃ!!!』

 

まるで本物のように吠える、かつて存在した愚王を模した何者かは空悟の剣に心臓を、負の生命の源たる紋章を破壊される。

 

『ぐおおおおお……ぉぉぉ……―――Oooooooooo―――!』

 

そうして地面に崩折れて、鎧と剣、そして破壊された盾を残して消え去ったのであった。

 

「はぁぁぁぁ……死ぬかと思った!」

 

空悟は地面に膝をついて、深く深く深呼吸をする。

 

そうして息が落ち着くと立ち上がって、「よし!勝った!!」と笑った。

 

「そうだな。勝ったな……あん時よ、4人がかりで命がけ、満身創痍になってどうにかしたのを、バフとその刀ありとは言えほぼ無傷で倒したんだから、もう上級冒険者の域には達してるぜ。おめでとう、ふたりとも」

 

ミナは心のなかで、上級の入り口の入り口だけどな、と思いながら空悟から刀を受け取る。

 

その顔には笑みが浮かんでおり、空悟と岬が強くなっていることを言葉の上では素直に称賛した。

 

「おう、ありがとう!……しかし、この精神注入棒はもうだめだな」

 

礼を言った刑事は半ば以上まで刃が達した棒を見て嘆息した。

 

「……あ、そうだ。この王様が持ってたやつを使うっていうのは……」

 

『私はやめておいたほうがいいと思う―――空悟殿、そこにあるだけで謎の力場が形成されている金属など奇怪であるにもほどがある』

 

廻がそうして、空悟に注意するとミナはこくりと首肯してジト目で空悟を見た。

 

「廻さんの言うとおりだぜ。そいつは『怒れる王の剣』って呼ばれてる呪いのアイテムだ」

 

そうしてミナは白い杖を剣に向けて呪を唱える。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。我が手にあるものを我が手に依らずに駆動せしめよ。幻想の手は我が目の中にあらん。ファントム・ハンド」

 

現れた幻の腕が、その剣とガランドウになった鎧、盾を絡め取って無限のバッグへと仕舞ってしまった。

 

その代わりにミナが素手で出した剣は、鍛銀の剣―――

 

その鉄よりも固く、ただの銀よりも遥かに強靭で魔へ抵抗性を持つ銀の合金で作られた長剣を空悟に渡す。

 

空悟はそれに「お、ありがとうよ。この借りはそのうちな」とまた感謝の意を示しつつ、恐る恐るに聞いてみた。

 

「……ところで、どんな呪いがかかってるんだ?」

 

「ダインスレフとかチュルヴィングとか知ってるだろ。北欧神話のドワーフたちは素晴らしい武具や装飾品を作るが―――妄執に囚われたり発注者が彼らを怒らせたりすると、呪いのアイテムを仕上げてくることがある」

 

ミナはそこで言葉を区切って、大きく息をついた。

 

「……ああ、なるほどな」

 

空悟が親友の言葉に憤りの臭いを感じて短くそう言うと、ミナは髪をかきあげて続きを述べる。

 

「お察しの通り、それは此方の世界も同じでね……特に、年嵩を経て鉄の秘密へ手をかけた山人はな、やらかすことがあるんだよ」

 

「驕れる名を破却された山人の王の剣、怒れる王の剣と呼ばれるそれは、王が手ずから打った剣。しかし、己の妄執に王は囚われた。もっと財宝を、もっと黄金を、鉄の秘密を―――呪いの名は『強欲』。王は己の欲望に食いつぶされ、王国を滅ぼした―――」

 

ミナの言葉をルルが続ける。

 

「山人や当時彼らと戦争をしてた森人の間では結構有名な伝説でして。本物の剣はミナさんと最初の一党が地中深くに遺跡ごと沈めました。永遠に失われたはずのそれを、おそらく複製品とは言えここで拝めるとは思いませんでしたねえ」

 

ルルがうきうきとしているのに反比例して、ミナはうんざりとした様子で遠い日のことを思う。

 

「正直、森人も只人も大概なほうだけどよ。山人も連中が自称するよりはやらかしてっからな……チハたんの砲を勝手に複製してくれやがったアホの話したっけ?」

 

「いや、聞いてないな」

 

「そのうち話すよ……アレは嫌な冒険だったからな……シラフで話すには頭が痛くなる話だよ」

 

ミナはかきあげた髪をくしゃくしゃと掻き乱して、それを手櫛で整えると5人に向き直った。

 

「とにかくこれであの歪みまでたどり着けるわ。行きましょう、皆」

 

ミナは先程までの顔が何でもなかったかのようににこやかに笑っていた。

 

「OK、じゃあ行くべ」

 

空悟がその様子に気持ちを切り替えたのだと判断して、歪みの方向へと向かうミナの背中を追う。

 

その後ろでは、廻と夕に完膚無きまでに叩き潰されたゴブリンパラディンとヴァンパイアがサラサラと砂のように崩れていったのであった。

 

 




鉄の秘密は、「くろがねのひみつ」とお読みくだされ。

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