異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第91話「保留ッ!」

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「光よ―――夢と希望は悪しき心に歪められた―――その心、支配するものから解き放ち給え!!悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

岬の杖から虹のひまわりがほとばしり、薄墨色の歪み―――バグの結界へとぶち当たった。

 

破壊不能オブジェクトにあたるそれは、ホーリー・フィックスでも破壊することは出来ない。

 

それをどうにかするための鍵ではないか、とミナが試させたそれはどうやら功を奏しそうであった。

 

くるくると回り砕けていくひまわり、それに呼応するかのように薄墨色の歪みもまた色を変え、やがてなくなっていった。

 

『次元境界線の歪みの修復はなされたようだ』

 

「ビンゴ、ね。次の階層への階段もばっちり入れそう」

 

夕の言葉にミナはニッと笑って一歩踏み出す。

 

「うん、大丈夫。他に罠はないわ。進みましょう」

 

『物理的な罠も存在しない。問題はないだろう』

 

ミナと廻は階段にそうして侵入し、4人がそれに続いた。

 

―――たどり着いた場所には、大きな鏡が一つ置いてあった。

 

出口はなく、おそらくはこの鏡こそが次の階層へのヒントなのだろうとパーティメンバーは一様にそう思った。

 

そのヒントとなるはずに鏡には――― 一つのブローチの姿が写っている。

 

それは間違いなく。

 

「みはるちゃんからもらったクレーラの瞳ね、これは……」

 

映し出されている不思議な色のブローチに、ミナは嘆息する。

 

試しに彼女はバッグの中のブローチを出して、それを鏡にかざしてみたが何も起きることはなく―――

 

つまり、このブローチに関する何かを解決しなければ、これ以上先には行けないということだった。

 

「一つ終わって、また一つ……ですか」

 

岬がそうして鏡を見る。

 

「……そうであるなら、やっぱり恋ちゃんのことを無視しては進まないのです」

 

彼女はそう決意を込めてミナを振り返った。

 

「実はですね―――恋ちゃんからお願い事があるのですよ」

 

そうして岬は、恋の希望をミナに伝える。

 

―――彼女もまた強くなるためにダンジョンに来たい、と言っていたことを。

 

空悟が来れない時限定であれば、ミナたちも良しというと思って、彼女はそれを提案してみる。

 

それに対する回答は―――

 

「保留ッ!」

 

その一言であった。

 

「―――駄目、ですか?」

 

「駄目とは言わないわ。あの子、スーパー・マジカルガール・ネットワーク……長いからSMNって略するけど、あの連中や例の母親似の何者かに狙われてるし、鍛錬のためにダンジョンに来たいってのはいいと思う。でもねえ……」

 

ミナは鏡を見て逡巡する。

 

ルルはいい。

 

彼はミナと一蓮托生であり、彼女の死と彼の死はある意味で連動している。

 

空悟は―――言っても聞かないだろうし、何より彼の好きにさせてやりたいという気持ちがミナには強くある。

 

廻と夕は、彼らのマシーンとしての自我が許す限りは共に戦うことは何も問題はないだろうと思えた。

 

岬は―――彼女は行くべき場所がない。

 

ミナたちとともにあることしか出来ず、彼女が戦いを望み、そしてSMNと戦うことを忌避しないのであれば問題はない。

 

それに空悟も岬も大人だ。

 

自己で自己の行動に責任を持てる年齢の人間である。

 

しかし、果たして伊良湖恋という少女には帰るべき場所もあり、辛い過去とは言え繋がるべき場所がある。

 

……いつ命を落としても不思議はないバグダンジョンに、己の責任を背負い切れはしないだろう11歳の少女を連れてきていいだろうか。

 

ミナはそう考えて再び嘆息した。

 

それもいいだろう、とミナは少しだけ思い直す。

 

思えば、自分とてハイエルフの世界では責任を取れる年齢ではないのだ。

 

地球人―――日本人で言えば、彼女は中学1年~2年程度の扱いをされて然るべき年齢の人間である。

 

只人の社会で長年暮らし、勇者の権能を携えて幾多の冒険を経てきたからこそこの齢で自らの判断で責任を取れる実力と立場を得ることが出来ているだけだ。

 

アイドルという仕事をしていて、きちんと生きて行けている、その上で命を賭ける覚悟があるのなら―――それはそれでいいのではないだろうか、と。

 

「ルルはどう思う?」

 

自分の考えをまとめたミナは長年の自分の下僕にそう問うた。

 

「どう思うも何も。望むのであれば別に構わないでしょう。何、即死まではなんとか無事に帰せるでしょうし。初めて会った時は少し自信過剰気味でしたが、前回前々回の冒険を経てだいぶ子供らしい素直さを取り戻しているようです。まあ、ミナさんの指示から逸脱するような真似はしないと思いますよ」

 

ルルはしれっとそう言って、少女にしか見えない綻ぶような華の笑顔をミナに向けた。

 

―――どうやらルルは少しだけ、あの少女を気に入って―――いや、玩具として遊びたがっているように見えて、ミナはぶはーっと盛大に溜息をついた。

 

「空悟、オメーはどうだよ。警官として11歳の子供を戦闘に出すのはよ」

 

そう聞かれた彼女の親友は、少しだけ諦めの入った顔で「それで諦めろって言われて自分がガキの頃諦めたかって考えてみろや。俺もお前も、なんとかして敵をぶん殴ろうとしたろ」と言ってケラケラ笑う。

 

―――確かに空悟を止めることが多かった三郎だったが、動き始めたら一直線だったのはふたりとも同じこと。

 

すなわち、彼は賛成だということだ。

 

もしもこの相手が自分の子供だったらまた違ったのだろうが、しかしそれは単なる無意味な仮定でしかなかった。

 

夕と廻は―――『金髪女の好きにしろ。私にその手の判断を求めるな』『入隊希望者の審査は指揮官が行うべきだろう』とにべもない。

 

パーティメンバーの誰もが賛成、または消極的賛成と保留だったことを鑑み、ミナは岬に向き直る。

 

「ってわけだから、否やはないんだけど……とりあえず恋ちゃんに会って話を聞いてからよ。真剣な気持ちで冒険に出ないのであれば、結構な勢いで死ぬからね」

 

肩を叩いたミナに、岬は「わかりましたのです」と真顔で答える。

 

その様子を見て、ミナはクレーラの瞳をバッグに仕舞って「今回は撤収!」と宣言して、鏡の間の右端にある魔法陣の前へと進んだ。

 

―――まずはみはるの依頼をこなさなければ。

 

ミナの心は、その気持で一杯になっていた。

 




区切りなので短め。
明日また続き投稿します。

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