異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第92話「で、そん時にできたのがあんたよ。懐かしいわ」

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その日、ミナとルルはバイト終了後にみはるから、例の駅前商店街と韋駄天百貨店の諍いについての話を聞いていた。

 

ミナやルルの格好はウェイトレスのままで、当然エルフ耳は見えている状態である。

 

その耳を不思議そうに見つめながら、みはるは「その長いお耳、おさわりしてもよろしくて?」と聞いてみた。

 

「お客様、ウェイトレスには妄りにおさわりになりませぬようお願いいたします」

 

ワキワキと手をにぎにぎするお嬢様風女子高生に、ミナはそうピシャリと言い渡す。

 

「女同士でもセクハラはNGなのですわよ。で、本題は何?会議なら出るって言ったでしょ?」

 

ミナが辛辣にそう言い放つと、みはるは「えー」と不満げにしながらも懐からパンフレット……というよりは旅行のしおりか何かに見える冊子をいくつか取り出した。

 

「その会議を隣町の温泉旅館でやることになったのですわ。歌自慢大会参加者の慰労も含めてのことですので、ミナさんと夕さんのお二人とご家族をご招待というわけなのですわ!もちろんルルさんもですわよ!」

 

つまり、取り出したしおりらしきものは本当に旅行のしおりらしかった。

 

そのしおりを受け取ったミナは、それをぺらぺらとめくりつつ「……回る先、寺と神社ばっかりじゃない。しかも隣町の」とげんなりした顔になる。

 

そう、この日程では―――善神の神殿に行くのを嫌がるルルが一日中不機嫌になってしまう。

 

ミナからかつてこの世界には神々はいないと教えられてきたルルだが、実際には科戸神社の氏神様らしき存在のようにファンタジー的存在があることはすでに分かっている。

 

そんなところばかり巡るのではルルも不機嫌になるだろうし、隣町にある不動尊を祀る寺などに参ったものなら、破邪の力で火傷したりなどしかねないことを危惧してのことだ。

 

「どう思う、ルル?」

 

「旅館に直でいいんじゃないですか?というか、なぜわざわざ隣町の寺社仏閣を見て回らないといけないのか、僕には全然わからないんですけど」

 

怪訝な顔でみはるを見ると、みはるもまた「やはりそう思われますか?」と微妙な顔になった。

 

「まぁ、我らが神森市の隣町、守親町は戦国時代に日蓮宗と一向宗が血みどろの抗争をしていた歴史の関係で寺社が多く、それを町おこしに使いたいのはわかるのですが」

 

「なんで態々隣町の人間が観光に行かなきゃならないのかしら……」

 

二人は顔を見合わせてため息をつく。

 

「まあだいたいわかったわ。それで少しでも寺社観光の足しにしたいのが誰かいて、それで商店街の皆さんは寺社巡りするってわけね」

 

ミナは腕を組んで、内心バッカジャネーノと思いながら「私たちは旅館集合で頼むわ」と微笑んだ。

 

「ですわよねー。ま、わたくしとつぐちゃんもそのようにいたしますので、合わせましょう」

 

みはるも扇子で口元を隠してため息をつく。

 

しばし沈黙が流れ、その沈黙を破ったのはルルであった。

 

「イッコーシューとニチレンシューですか。どのような連中で?」

 

ルルにそう聞かれたミナは苦笑しながら「昔の武装宗教団体とカルト教団よ。400年以上前のね」と答えた。

 

只人や地球人の5~10倍生きるエルフたちの感覚で言えば、せいぜい日本人が太平洋戦争を思う程度の時間でしかない昔であることに思わず笑ってしまう。

 

それを知らないであろうみはるもまた別の思いからから苦笑して、「言い方悪すぎて笑えて来ますわね」と続けた。

 

「おハーブ生やすほどじゃないだけマシでしょ?」

 

「ゲー〇ング〇嬢様はもういいですわ!お嬢様キャラだからってモノマネしろというリクエストが多すぎて辟易していますことよ!」

 

そんな二人のやり取りに、ルルは「なるほど」と何かを得心したように頷いたのであった。

 

 

 

それから2週間後。

 

素材集めと修行を兼ねてダンジョンアタックを3度ほど行ったことを挟みつつも平穏な日々が続き、温泉旅館へ向かう日がやってきていた。

 

その間、SMNや謎の女が動くこともなく、他の事件も起きていない。

 

そのことに安堵しつつ、ミナは旅行の準備をしていた。

 

「三郎、着替えは持った?阿南さんの分も詰めたわね?」

 

「ばっちりだよ、カーチャン。つか意外だな、カーチャン旅行あんまり好きじゃないだろ?」

 

ミナは無限のバッグではない、普通の旅行バッグのチャックを締めてそう聞いた。

 

茜は「そこはね、お前の父さんと新婚旅行に行った旅館なのよ。当時、うちも父さんの実家も貧乏でね。父さんも私も別に遠出したいわけじゃなかったから、そのままその旅館のゲーセンで三日くらいド〇アー〇の塔を二人で攻略してたっけ」と懐かしそうに笑う。

 

「ド〇アー〇って……もうその時期はス〇Ⅰとか出てなかったか?」

 

呆れる元息子現娘に茜はふっと鼻で笑いを返し、「あの旅館にス〇Ⅰが入ったのはもうほんの少し後ねえ。それでド〇アー〇を倒したときは、二人で『自分ら何してんだろ……』って呆然としたものよ」と自慢にならないことを抜かした。

 

「で、そん時にできたのがあんたよ。懐かしいわ」

 

「聞きたくなかった!そんな出生の秘密!」

 

ミナは頭を抱えて嘆くが、茜はそんなことどこ吹く風で「全く関係ないけど、ド〇アー〇の塔より難しい迷宮とかあったの?」とミナに聞く。

 

それに対してミナは「オレ、ド〇アー〇やったことねーんだけど……」と口をへの字に曲げるのであった。

 

そこにドアを開けて現れたのはルルである。

 

「お義母様、ミナさん。こちらも準備できましたよ」

 

「あらかわいいじゃない、ルルくん」

 

淡いピンクの長袖ワンピースと白い大きな帽子が黒い肌に生えて異様に似合っていて、ミナはいつものことながらではあったがジト目になる。

 

ともすれば自分より女物が似合っているのではないか、と思い、しかしながら前世ではありとあらゆる服装が自分に似合わないと思っていたミナは言葉を喉元まで出しつつも沈黙した。

 

似合うなら、それに越したことはないのではないか。

 

たとえ目の前の少女めいた男が、その股間にペットボトルめいた逸物をぶら下げているとしても。

 

それに気づいたか、気づいていないのか。

 

勇者の従者、1世紀半に及ぶ付き合いの少年は、勇者の母にぺこりと頭を下げた。

 

「おほめいただきありがとうございます、お義母様。これはミナさんと同じく……」

 

「そ。私の若い頃の服よ。いやぁ、ぴったりね」

 

ぽんぽんとルルの肩を叩いて茜は笑い、そしてミナの方を見ると「あんたも似合ってるわよ、その服」と言う。

 

「やめろよカーチャン……まあ今のオレに似合わねえ服って、多分おっぱいでっかい子じゃないと似合わねえ服とか明らかにかっこ悪い変な服とかだけだとは思うけどもさぁ……」

 

ミナがいま身に着けているのは、胸元が少し開いたレディーススーツである。

 

色は黒で、まるで出来るOLが仕事に行く時のような風情だ。

 

「なんでオレだけ仕事服なんだよ、カーチャン……」

 

「どうせついたらアンタは会議でしょ。ルルくんは出る必要ないみたいだし―――第一、会議終わったら浴衣に着替えるでしょうが」

 

ミナはそう言われてしまえばそうとしか思えず、いまいち納得できないと思いつつも頷いた。

 

「そりゃそうだけど、なあ……」

 

どうせ出席する奴ら、韋駄天百貨店関係者と商店街の組合長くらいしかスーツ着てこないだろうなあ、と若干納得行かない気分でミナは胸元に風を入れて天を仰いだ。

 

「ところで岬は?」

 

「外で恋殿と遊んでいますよ。廻さんと夕さんは仕事場から店長殿や潤美殿と移動するという連絡が来ました」

 

ルルにそう聞かされ、ミナは「おっけー」と頷いた。

 

「運転は……」

 

「三郎、アンタ仮免教習まで入ったんでしょ?練習がてら行きは運転なさい。帰りは代行頼むから」

 

どうせ自分も娘も朝から酒飲んでるだろうからね、と苦笑する母にミナは「了解ー」と気怠く返して、軽自動車のキーを受け取る。

 

「……オレが運転席で、カーチャンが助手席だろ?ルルと岬と恋ちゃんで……まあ一人としてデブもノッポもおらんしダイジョブやろ……」

 

ミナはキーをもてあそびつつバッグを背負う。

 

当然のように無限のバッグは身につけて。

 

「じゃ、出発しますか」

 

「了解です」

 

時間はまだ10時頃。

 

チェックインまではまだまだ時間があった。

 

 

 

「なんでこんな早く出るん?」

 

ミナは軽自動車を隣町へ向けて走らせつつ、助手席の母にそう聞いた。

 

「寺社観光しないでも、別に見て回って面白いところはあるの」

 

そう言って赤信号で停車中に古いカーナビ……タッチパネル式ではなく、キープッシュ式のそれに電話番号を入れつつ茜は笑った。

 

「……ヨーグルト工場とかだろ、どうせ」

 

「嫌いか、愚息」

 

「いや好きだけども」

 

向かっている先は守親町にある地ヨーグルトの工場で、神森市の小学校の遠足や社会見学では定番の場所である。

 

『300m先、右方向です』

 

「呑那ヨーグルトセンターだっけ……1200円でヨーグルト食べ放題か……」

 

ミナが古いカーナビの音声を聞きながら、ぬぼーっとそう言うと、後部座席の恋が運転席に身を乗り出してくる。

 

「なーミナねーちゃん、それも楽しみだけどさー旅館の名前なんてーの?」

 

「座りなさい。座ってシートベルト締めなさい……」

 

ミナがそう窘めると同時に、隣のルルの目が怪しく輝き、恋は「ぴぃ!?」とひよこみたいな鳴き声を上げ慌てて席に戻ってシートベルトを締める。

 

「行く場所はソコトラ……騫虎温泉旅館って名前よ。温泉はいいし、食事も美味しいわよ~」

 

ミナの代わりに答えたのは茜だ。

 

「……まあ私も1回くらいは行ったことあるわよ。でもねぇ……あんまり外装にも内装にも期待しない方がいいかな……」

 

ミナは苦笑しつつそう答える。

 

「えっと、なんでだい?」

 

「騫虎温泉旅館なんて変な名前で分かる通りなのですよ。こう……部屋も悪くないし、温泉と食事は本当に良いところなのです。ですよ。ですけども……」

 

そんなげんなりした声の岬の言葉をミナが引き継ぐ。

 

「行ってみればわかるけどね……勘違いした外国人が作った旅館風ホテルって感じなのよ。決してテレビでは宣伝されないであろうちぐはぐ感がヤバイところね」

 

その言葉に、恋は「……ああ、仏像とかあるタイプ?」と多少隣のルルに怯えつつ推測した。

 

それは当たらずとも遠からずで。

 

「ほとんど当たりかな……なんかすっごい安っぽい観音像と謎のキリスト像が建ってるの」

 

「そーそー。で、調べてみてわかったけど、まだ中に無意味に広いゲーセンあるみたいね。レゲーばっかりだってレビューに書いてあったわ」

 

水門母娘がそう回答して笑う。

 

「へー、なんかそういうのってネタになるし楽しみ。ス〇Ⅱあっかな?」

 

「……10年位前には初代の餓〇〇説があったのは覚えてるわ。まだあんのかな……」

 

ミナの心のなかに『ガ○ーデ○セツ!』とオープニングの台詞が思い浮かぶ。

 

今となっては懐かしい代物であった。

 

「恋ちゃんさぁ……多分まだガロスペあの旅館のゲーセンにあるからさぁ……対戦しようずぇ……」

 

茜が怪しい口調で恋に提案すると、「マジでガロスペあんの!?」と彼女は席をもう一度立たんほどの勢いで興奮しだした。

 

「あたいビ○ー・○ーン使う!」

 

そうしてバンバンと運転席の背もたれを叩く少女に、ミナは嘆息する。

 

―――カーチャンの使うレスラーキャラには誰も勝てねえんだ。

 

そんな感想をいだきつつ。

 

 

 

呑菜ヨーグルト工場では通り一遍のヨーグルトの製造工程を見せてもらってからヨーグルト食べ放題を楽しんだだけで特にトラブルなどは発生しなかった。

 

ヨーグルトセンターは小規模ながら、しっかりした工程を踏んでいるようで、見ごたえがあると異世界出身のルルも東京者の恋も一様に思った。

 

ミナや岬は神森市の出身であるため、この工場には何度か来たことがある。

 

遠足や社会科見学の行き先が工場なのは定番だが、この呑菜ヨーグルトセンターの場合はヨーグルトの試食や昼のバイキングなどもあるため子供に人気があった。

 

なんとなればA県内では中学校の修学旅行の昼食を取る場所にも選ばれたりしている。

 

せっかくの修学旅行が県内で残念がる学生もいれば、食い放題のヨーグルトセンターの飯を楽しみにする学生もいる。

 

かつての中学生の思いといえば、ミナ、空悟は後者、岬は前者であった。

 

「しかし、発酵製品は確かに各家庭で作るよりもこうした工場で生産するのが効率的ですね。あちらでは主流ではありませんが」

 

「あっちは国によって文明レベルがまちまちだもんね。まあせいぜい江戸時代かそこら程度までだけど……」

 

ミナはヨーグルトセンターで購入したヨーグルト飲料をストローですすりながら、ルルの感想に答える。

 

「あたい、豚肉のヨーグルト漬け焼きが美味しかったなぁ」

 

「今度一緒に作ってみましょうですよ。そういう凝った料理も時間があるから作れるのです。時間があるって最高なのです」

 

恋と話す岬は実感のこもったそんな意見を言って笑った。

 

「そうよねえ。凝った料理は本当に時間がないと作れないものねぇ」

 

茜がミナを見てそうニヤついた。

 

「オレのは冒険者の料理だし……まあレシピがあれば凝ったものを作るのはやぶさかじゃねえけどもさ」

 

母の揶揄するような視線にミナはそう答えてアクセルを踏む。

 

「毎日作るのに手間暇なんかかけすぎてたらめんどくさいってね」

 

「その思考は主婦めいてるわね。あーやっぱり本当、女の子になっちゃったのねえ」

 

「あーうん。これでも630年くらい性別女性やってっからさ。そりゃそっちの方向に思考も偏るってもんよ」

 

母の言葉にそう返して、ミナはまっすぐ前を見た。

 

自分がどちらであるか、などという疑問はもう200年以上前に答えを出している。

 

どちらでもない。

 

ミナ・トワイライトは、それまでのミナでも前世の水門三郎でもなく。

 

どちらでもある。

 

ふさわしい現在の名で言うのなら、水門ミナであるのだ。

 

「うんうん、割り切ってていいわね。昔みたいにウジウジしてないのだけでも異世界に行った甲斐があったってもんじゃない?」

 

「ウジウジしてたら死ぬだけだからな!」

 

ニヤッと笑ってミナは更にアクセルを踏む。

 

時速はおおよそ60kmで法定速度は守られていた。

 

―――あくまで仮免の練習中なので。

 

心の中でそう言って、次の目的地へと車を走らせるミナの笑顔は―――遺伝子的な血脈ではもう無関係であるはずの茜にどこか似ていたのであった。

 

 

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