異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第93話「私の心をどうやって読んだ!?」

 

 

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奇抜。

 

それがこの場にたどり着いた廻と夕の一番最初の感想であった。

 

7~8mはある大きさのキリスト像と観音像が建ち、「騫虎神社」と書かれた鳥居が立っている。

 

「……これは、外地人の美的感覚だな……」

 

「ああ、間違いないな。少なくとも日本を知っていて、一つ二つ美的感覚が日本人基準で破壊されているこの感じはたしかにそう感じる」

 

二人は怪しまれないように普段着でその旅館の入口にある謎の宗教施設と思しき存在を眺めつつ、そう感想を述べた。

 

事実、そのような明らかになんかズレている旅館や温泉施設は全国に存在するが、その全てが太平洋戦争当時の日本併合地域、つまり外地……その大半は某半島であるが、それと関わりがあるわけではないことは間違いない。

 

無論、この騫虎温泉旅館もその多分に漏れているわけではない。

 

ここの創業者一家はアメリカ人なのである。

 

現在は経営から引いているという情報を廻は得ていたが、結局改装費用などと釣り合わないのであろう。

 

謎の神社や変な外装、内装はそのまま放置されているようであった。

 

「これは……誰か止めなかったんだろうか」

 

招き猫の隣にシーサーが飾られているちぐはぐなその神社に、廻に頭痛を感じるという機能はないはずだがそれを感じたような錯覚を得ていた。

 

「ふむ……」

 

逆に平気な雰囲気を出している夕はといえば、社務所?らしき場所の売店に売っている木刀を構えた恵比寿様のキーホルダーをためつすがめつして首をひねっていた。

 

「なあ、廻……なぜ木刀を恵比寿様が構えているのだろうな。米国人の美的感覚というものだろうか?」

 

「経営は日本人に代わっているはずだから、そうではなく需要があるのだろう……きっとおそらく推定」

 

廻はこめかみに指を当ててそう答える。

 

自信はない。

 

何故なら、この旅館のレビューを様々な旅行サイトで確認していた廻は、その平均的な感想が「食事と温泉は最高なのに建物が駄目」という感想ばかりで評価は5点中3点前後という宿だということを知っていた。

 

実際、夕がいる場所と別の棚を見れば埃をかぶった緑色の招き猫が鎮座しているのが見て取れる。

 

「……まあ良かろう」

 

精神に疲労を感じた廻は気を取り直して、旅館の方を眺めた。

 

見た目は屋上部分に当たる場所に露天風呂があるためか庭園風になっている以外はほぼ普通の旅館に見えるが、2階はほぼ全域がレトロゲームだらけのゲームセンターになっている。

 

それを示すように2階の部分だけザン○エフと○鬼、ルガー○・バ○ン○ュタインやMr.○ラテなどが壁にプリントされていた。

 

「……奇抜だな」

 

廻はげんなりとする以外に方法がなかった。

 

場所は以前にみはるの撮影に付き合って箱庭に閉じ込められた山の中腹である。

 

周囲にはコンビニがいくつかと米国が出身の会員制スーパーが存在していて、アメリカンな雰囲気を醸し出しており台無し感を既に演出していた。

 

「……なんだろうな」

 

「見ろ、廻!この招き猫は変形して戦闘機になるようだ!」

 

「……何を招くつもりで作ったんだそれは……」

 

はしゃいで緑の招き猫を彼に見せる妹機に、廻は遠く生暖かい笑みを向けるのであった。

 

 

 

その頃、ミナたちは2時間後……15時のチェックイン前に、小さい博物館に行っていた。

 

守親郷土史博物館という名前のそれは文字通りに郷土史を解説するためのものらしく、そこそこ史料が揃っていることにミナは感心する。

 

―――グリッチ・エッグでは国が滅びたら、たいてい魔物が生えて焼いてくから、ろくに痕跡が残んねえんだよなあ……

 

内心、そのように思いげんなりした。

 

かなり仲の良かった……一時期はパーティメンバーでもあったとある王が、虹の指環で国を滅ぼし跡には何も残らなかった事例を目の当たりにしていることもあって実感のこもった気持ちが溢れ出そうになる。

 

そういえば、と思い返せばこの博物館には中学の修学旅行で来た覚えはあるが、内容は全く覚えていなかったのでこれはこれで新鮮であった。

 

「……てか、もうほんと勝手に戦え!って感じね、これ」

 

守親町の日蓮宗と一向宗の諍いで起きた血みどろの抗争、江戸時代を経て明治時代の廃仏毀釈でも生き残った寺社のことなどを解説した資料を読んで彼女はそう感想を漏らした。

 

「似たようなのは見てますし、うんざりする気持ちはわかりますよ」

 

いつの間にか隣に来ていたルルがニコリと笑いかけてきた。

 

その笑顔にミナは、ふっ、と鼻で息をして「結局、ありゃあどうにもならんかったもんねえ」と遠くを見た。

 

「ミナさんのせいでも、プライザさんのせいでもないですよ。何度でも言いますよ」

 

かつてパーティメンバーであり、とある宗教団体が関わった事件の最後に洗脳されてしまい、魔王復活の引き金を引いてしまった軍人少女の名前をルルは挙げた。

 

その事件で数千人に近い人間が亡くなったのはもう50年は前の話である。

 

「まーねープライザも気に病むことなかったのに。仕方なかったってことはままあるんだよね……魔王相手の話ではさ」

 

ミナはグリッチ・エッグの共通語でそう言って、ルルの目を見た。

 

その瞳に嘘があるようには思えない。

 

あの事件も、結局のところ彼がいなかったら解決しなかったし、最悪世界が滅んでいたであろうことは想像に難くない。

 

彼がいないと世界は滅ぶ、と神託を下した調和神の判断は今のところ何も間違っていないことにミナは嘆息する。

 

「巡り合わせよね、そのあたり。諸行無常、諸行無常」

 

その歴史を示す絵巻物のなかで、農民が坊主をクワか何かで殴り殺しているシーンが描かれた部分を見つめてミナはそう言った。

 

「さて、そろそろ行きましょうか。カーチャンたちは?」

 

「あちらでお茶を飲んでいますよ」

 

ルルが指差した方向には博物館内の喫茶店があった。

 

「じゃ、私達もそっちへ行きましょう」

 

「ですねぇ」

 

服装を見なければ中学生か良くても高校1年程度にしか見えない二人は、そうして喫茶店へと歩いていく。

 

「……」

 

―――誰かしら。

 

その姿を誰かがじっと見ていることに、ミナは気づいていた。

 

その気配の隠し方のまずさに、これは此方の世界の人間であろうと結論づける。

 

(ま、いいわ。少なくともここでコトを起こそうなんて馬鹿な真似はしそうにないし)

 

ミナは頭の後ろで腕を組んで、鼻歌交じりに喫茶店へと入っていくのであった。

 

 

 

「……エネルギー測定値が異常だ」

 

「嘘だろう?―――の予測値を遥かに超えている。あれらを遥かに超えるなどありえない」

 

ミナたちを見つめていた何者かは、ガイガーカウンターによく似た何らかの測定機械を凝視しつつそう顔を見合わせていた。

 

壁が作り出す闇に阻まれて彼らの顔を見ることは出来ない。

 

だが、その声には深い焦りと恐怖が滲んでいた。

 

「研究所の復活となにか関係があるに違いない」

 

「報告……一時撤退だ」

 

そうして声は消え去る。

 

―――彼らは気づいていない。

 

その声を一羽のカナリアが聞いていたことを。

 

そのカナリアの羽毛は淡いピンク色をしていたことを。

 

 

 

「やっぱりなんかこっちを観察してましたね」

 

ルルは淡い色の紅茶を口にしてそう言った。

 

「ミルアはなんて?」

 

「どうもミナさんのエネルギーが異常だとか言っていたようですね。邪神の手勢でもなく、おそらくは魔法少女共でもありますまい。此方の世界の何者か……でしょうね」

 

その言葉に茜が「また厄介事かい?」と義理の息子に話しかける。

 

「まあ、そう言うことなのかもしれません。今の所未確定ですが、少なくとも僕とミナさんについて観測を行っていたようです」

 

運ばれてきたアップルパイをフォークで切り分けつつルルはそう言った。

 

「僕とミナさん、岬さんがいますし、恋殿も自衛能力がありますからお義母様に危害を加えることだけはさせませんよ」

 

「問題はどこのドイツか、ってことかなぁ……」

 

「……んー……やっぱり複数の悪の組織がこちらを狙っている、と言う定番の展開なのでしょうですか?」

 

ミナと岬は一様にこめかみを押さえて唸ってしまう。

 

その様子に恋が「でも、ぶっ飛ばすしかないじゃん!あ、そうだ!パーティーに入れてくれるの、考えてくれた!?」と元気よく笑った。

 

「……とりあえず面接は今回の旅行でやるから、もうちょっと待ってよ。会議室借りてるのだわ」

 

ミナが肩をすくめてそう言うと、恋は「わかった!」と頷いて席に座った。

 

「ま、それはそれとして。私やルルを知らず、岬とも関係がなさそうな此方側の勢力っていうのが気になるわね……」

 

ミナは顎に手を当てて目を細める。

 

「ふーん……じゃあ旅行の後にこっちでも調べてみるわ」

 

「ちょっと聞いてもいいか……?カーチャン、一体ホントは何の仕事してんだよ……マジで……」

 

「トンデモねぇ、あたしゃ水道局の局員だよ」

 

ミナの質問に、とあるコメディアンの持ちネタを引用して茜は誤魔化す。

 

しかし、ミナはそれ以上には追求しようとは思わなかった。

 

「とりあえず今のところは脅威度が低いようですし、アップルパイが冷める前に食べてしまうのですよ」

 

岬がそう促すと、ミナもまた「そうね」と微笑んでパイを全員に取り分けていく。

 

後1時間ほどでチェックインの時間だ。

 

十分に間に合うだろうとミナは芳醇な香りを漂わせるアップルパイを口に入れるのだった。

 

 

 

そうしてチェックインの時間がやってきていた。

 

商店街関係者と思しき人々がロビーの一か所に固まっているので、それを目指して5人は歩いていく。

 

―――その中途。

 

ホテルの入り口でふと目に留まったのは、見覚えのある後姿だった。

 

「……あれ?」

 

「おや、先輩じゃないですか。こんにちは。こんなところでどうしたんです?」

 

それは二人の子供を連れた文であった。

 

「こんちは。あー、いやちょっとご招待でさ。清水さんが来てるっつーことは空悟も来てるん?」

 

ミナがそう聞くと、文は「ええ。ちょうどよく二人でお休みが取れたんで、今日は小旅行ってやつです」と笑った。

 

すると、ミナに文の子供たちが元気よく挨拶をしてくる。

 

「「こんにちはー!」」

 

「はいこんにちは。アキちゃん、タカシ君。今日はお父さんやお母さんと旅行で楽しいね」

 

ミナも挨拶を返すと、子供たちは「うん!」と爛漫に返事をして文の顔を綻ばせる。

 

「へぇ……歌自慢大会の慰労会ですか」

 

ミナの来訪目的に文は「ただで旅行はいいですね!私もあやかりたいものです」と正直な感想を述べた。

 

「その前に商店街と百貨店のいざこざの会議だけどさ。まあ解決策はあるし」

 

ミナはフッと笑ってそう肩をすくめる。

 

内心、折衷案を自分らの功績を盾にごり押ししようと考えていた。

 

それを見透かすかのように、文は「先輩はそう言う玉虫色の解決案でお茶を濁しますよね。あちらに行ってもお変わりないようで」と薄く笑う。

 

「言うて、今回の場合それしか解決法ないぞ。店に愛着持ってる人を強制的に立ち退かせるわけにもいかんべし、かといって駐車場とかは必要だし」

 

だから残りたい人は残し、複合テナントに移りたい人は移ってもらう。

 

余ったスペースで十分に駐車場は作れるだろう。

 

……10億程度の賞金でどこまで出来るのかはミナもよくわからなかったが。

 

地域活性の名目で市からも資金が出るのかもしれない。

 

賞金はその呼び水でしかないのかもしれない。

 

どちらにせよ、提案するべきはそれだけである。

 

そして「そろそろ時間だから、また後で」と笑ってその場を後にするミナであった。

 

 

 

―――ホテルのロビーには、なぜか紫色の仁王像が鎮座していた。

 

「うーん、相変わらず何度見ても珍奇極まりないわね」

 

「なのですよねぇ」「そうねぇ」

 

ミナの感想に岬と茜が追従する。

 

仁王像の上には「常在戦場」「弱肉強食」と書かれた掛け軸が吊るされており、意味がおおよそわからなかった。

 

「……ニン〇ャス〇イヤーの世界?」

 

「当たらずとも遠からずなのです」

 

恋の疑問に冷汗を流しながら岬はそう答える。

 

そんな彼女らを見つけたものは―――みはるたちであった。

 

「こちらですわ!お早く受付くださいませ!」

 

「こ~んにち~は~」

 

みはるとつぐみがそうして駆け寄ってくる。

 

その向こうを見れば、ぬえ子と組合長、そしてみはるの父らしき厳ついおじさんがこちらに手を振っていた。

 

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

 

丁寧に頭を下げたのはルルだった。

 

「う~ん~こうして見ると~ホントそっくりよ~ね~わたしたち~」

 

つぐみはそうしてルルの頬を掴もうとして、ルルにあっさりと躱される。

 

「おさわりはご遠慮ください」とにべもなく断って、同じく近づいてきたぬえ子に「あなたも僕に触れようとしないでくださいね?」とセクハラを警戒する女性のごとく、両手で胸を隠して一歩後ろへ下がった。

 

「あ、久々なのにひどい!」

 

「ひどいではなく。僕と触れ合おうとしないでくださいよ。いくら女性側からとはいえ、異性の体に軽々に触れようとするなど、はしたないとは思いませんか?」

 

そんなことを宣うルルに、ミナは心の底から「お前が言うな」と隙あらば布団に潜り込んでおっぱい揉んでくるタンカスへの感想を抱いていたが敢えて口にすることはなかった。

 

「うちの娘と息子がお世話になりまして」

 

「いえ、こちらこそ娘や姪がお世話になっております」

 

その脇では親同士が挨拶をしている。

 

みはるの父は厳つい見た目に反して丁寧な御仁のようだ、とミナは感想を抱く。

 

感情の精霊も悪感情をこちらに伝えてこないことに、これならいつかに思った恋の貯金をちょろまかすようなことはなさそうだな、と安堵する。

 

「どうも、水門ミナです。今日はよろしくお願いします」

 

ミナもまた近づいてそう挨拶した。

 

「ええ。一ノ瀬八佐衛門と申します。韋駄天百貨店の社長をさせていただいております。よろしくお願いします。娘のわがままで申し訳ありませんね」

 

にこやかにそう答えるみはるの父の名前は、とてつもなく古い感じの名前であった。

 

「チェックインの手続きが終わりましたら、水門さんは私と一緒に会議室へいらしていただきます。それ以外の方はお部屋でくつろいでいてください。細かい説明は旅館からあるはずです」

 

そうして八佐衛門は組合長とともに去っていく。

 

去り際に「みはるもつぐみさんたちと一緒に部屋へ行っていなさい」と娘に笑顔で語り掛けて。

 

「よろしくお願いしますわ。商店街の未来を……」

 

「うーん、無駄にハードルを上げないでくれないかなー?」

 

何故か本当の重大事のような口調でそんなことを言うみはるに、ミナは思わずそう返してしまう。

 

「こうでも言わないと玉虫色の回答を出されてしまいそうでしたので」

 

「私の心をどうやって読んだ!?」

 

みはるの的確な返しに、ミナは思わず後ずさる。

 

「いえ、ミナさんはわかりやすい表情をしておりますので。ホホホホ」

 

手の甲を頬に当ててみはるは笑った。

 

笑って、「玉虫色の解決ではなく抜本的な解決が必要なのですわ!」と扇子を開く。

 

「……玉虫色の解決じゃないなら、マジでたった一つしか答えがないんだけどさ……」

 

ミナはハァ、と大きなため息をついたのだった。

 

 

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