異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第94話「……金髪女は当然奇妙な果実という単語は知っているよな」

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―――結論として、ほぼほぼ八佐衛門の計画、つまり大半の老朽化―――というよりは見苦しい廃墟と化している空き店舗を取り壊して駐車場と総合テナントを作って、希望者はそこへ移転するというものが通った形となった。

 

ミナの折衷案より一歩踏み込んだ、駐車場や総合テナント建設の邪魔になってしまう場所の強制移転も含むものである。

 

ミナの援護もあったのだが、どうやら例のバレンタインの事件で地盤(物理的な意味で)に不安を持った店主が多かったらしく、半数近い店主―――そのほとんどが駐車場や総合テナント建設の邪魔になる場所の―――が総合テナントへの移転を望むようになっていたのだ。

 

反対派の急先鋒であった組合長としては梯子を外された形になり意気消沈していたことは言うまでもない。

 

アホみたいに会議が踊らなくてよかった、とミナは思いつつも賛成に回った半数近い店主のさらに半数は「致し方なし」という表情だったのは流石にかわいそうだと思ってしまった。

 

「私、いなくてよかったのでは?」

 

「いやいや。顧客視点での意見は実に効いていましたよ」

 

はっはっは、と事も無げに八佐衛門は笑う。

 

それとは対照的に肩を落としているのは組合長の方であった。

 

「……だいじょぶですか?」

 

「いえいえ……私としてもわかっていたんですよ。あの商店街をそのまま残すのは不可能だということは……空いている場所をいくら直したところで新店が入居する保証はないということは……」

 

寂しそうに眼鏡を外して拭くと、深いため息を一つだけついた。

 

そんな組合長へと八佐衛門は苦笑しつつ語り掛けた。

 

「なんでも変化するもんさ。気にするなよ、賢治さん。あんたの提案より俺の提案の方がみんな魅力的に見えただけさ」

 

「そうは言いますがね。寂しいものは寂しいものなんですよ。ようやく暴力団めいた連中がいなくなったのですから、活気も戻ってくれると思っていたんですがねえ……」

 

もう一つため息をついて与野組合長は寂しく笑う。

 

どこか気安い雰囲気から、二人の間に悪感情はないということを精霊力を感じるまでもなくミナは察する。

 

そして、意見の違いだけで対立することもあるということを彼女はよく知っていた。

 

「それでも商店街という形は残ります。森は長年を掛けて育ち、時に炎に焼かれ、時に嵐に飲まれて姿を変え行くもの。町もそうであると私は思います」

 

だからミナはエルフとしての立場、そして調和神の神官の立場でそう言った。

 

森も街も……天然人工を問わずあらゆるものは流転し、調和していく。

 

その流れを変えるには膨大な力が必要で、下手に力を加えれば時に調和を乱し、崩壊させてしまう。

 

「なので例え姿を変えてもそこに息づくものが神森の魂なら、それは時代に合わせて調和したということなのです。元気を出せとは申しません。ただ、思い出だけは残しておいてほしい、と」

 

ミナは自然に調和神の聖印を切って、神に祈った。

 

彼らの未来に調和と祝福がありますように、と。

 

「……そうかね。ありがとうお嬢さん」

 

神々しささえ感じるその様子に面食らった組合長は、しかし穏やかな表情で笑った。

 

先ほどまでの寂しさは残しつつも、前に進もうという気持ちが伺える笑みを。

 

「水門さんは帰化した外人さんのようだけど、母国ではシスターでもやっていたのかい?」

 

普段全く神官らしい態度を見せないミナが珍しく見せたその様子に、今日が初対面の八佐衛門はそう聞いてきた。

 

それに対して、ミナは内心「やってしまった」と思っていた。

 

この不良神官とて神官であり、そのような態度はとることはある。

 

が、しかし、シスターであると誤解されて根掘り葉掘り聞かれてもディーヴァーガ信仰など影も形もないこの世界で、自分の出身を隠しつつ話すのは果てしなく面倒な作業である。

 

そのためミナはただ「まあそのようなものです」と曖昧に答えるのみだ。

 

下手な嘘もつきたくはない故の回答であった。

 

「んん……なるほど。ま、いいだろう。それでは私と組合長は別の用事があるから、これで失礼するよ。宴会の時にまた」

 

ミナはどちらかといえば嘘や誤魔化しが下手なタイプである。

 

感情を制御しようと強く意識していない時は、割と顔に出やすいからだ。

 

今回も顔に申し訳なさでも出ていたのだろう。

 

八佐衛門はニヤリと笑ってそのまま組合長とともに去っていった。

 

「……ホントこういうところダメダメだなあ、私」

 

とはいえせいぜいこの世界の常識の範疇で邪推される程度は、ミナにとって何の問題にもならなかった。

 

そうしてミナはポケットからスマホを取り出し、LINFを確認する。

 

そこにはルルが送ってきたミナたちの部屋番号と、先にチェックインしていた廻と夕の、そして別途小旅行に来ていた今野一家の部屋番号が簡単なメッセージとともに送信されてきていた。

 

「ま、いっか。とりあえず着替えて風呂行くべ」

 

ミナはスマホを雑に胸ポケットに突っ込むと、踵を返してエレベーターへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

ミナが会議に参加していたころ。

 

恋はその光景に混乱していた。

 

何故かといえばそれは簡単である。

 

部屋の内装は、ロビーと似たり寄ったりの……いや、それ以上の似非日本っぷりであったからだ。

 

「畳の上にベッド置くのは、民家ならともかくやめた方がいいと思うんですよねえ……」

 

仲居さんが去っていった部屋でお茶を飲みながら岬はそうつぶやく。

 

「それよりあたい、ベッドの形が〇△□なのがめちゃくちゃ気になるんだけど」

 

「それは天井のニンジャのウキヨエより気になること?」

 

首をかしげる恋に茜はそう問いかける。

 

「いや、だって……寝づらそうじゃん。〇はともかく△は……どういうセンスなの、これ……」

 

恋が困惑した様子でそう言って座る。

 

通常は旅館なら長机が置いてありそうなものだが、なぜかそれはちゃぶ台である。

 

テレビが置いてある床の間には「味噌汁」「大勝利」という謎の掛け軸。

 

とどめに襖には「御社・当社・貴社・弊社」と謎の文言が大書されている。

 

和洋室とは名ばかり、某サイバーパンクニンジャストーリーの舞台、ネ〇サ〇タマばりに日本を勘違いした内装であった。

 

「ニン〇ャス〇イヤー旅館として売り出したほうがいいんじゃねえの?」

 

「それはあたしもそう思うのです。デザインは前の社長に頼まれた日本人デザイナーがやったそうですが、完全に楽しんでやってますですよねこれ」

 

いったいどういうセンスなのかはわからない。

 

少なくともこの旅館をちゃんと売り出したいと思う人間がやったわけではあるまい。

 

これで☆3前後の評価を受けているのだから、コアなファンがいるのだろう、と岬は思う。

 

それから恋とじゃれあったり、茜の話を聞いたりしてまったりした時間が過ぎていった。

 

「お風呂、いこっか恋ちゃん?」

 

「ミナねーちゃん帰ってきてからにしようぜ茜おばさん!宴会7時からだし!」

 

茜の提案にそう言って、恋は天真爛漫に笑う。

 

その様子に岬もまた微笑んで―――それから1時間ほどした時、あることに気づいた。

 

仲居さんが去ってから、一切ルルが言葉を発していないのだ。

 

『この馬鹿が私がいないところで黙りこくってたら気をつけなさい』

 

ミナがそう言っていたことを思い出して、沈黙を続けているルルに岬は「どうしましたですか?」と話しかけた。

 

「いえ、特には」

 

そうして岬に向けた笑みが張り付けたような薄っぺらい笑顔だったため、岬は察した。

 

なんだかよからぬことを企んでいるということを。

 

「……ミナちゃんのお風呂を覗こうって魂胆です?」

 

「いえ?」

 

「なるほど夜這い?」

 

「……いえ?」

 

「先ほど隠したそれは?」

 

「……」

 

一言ごとに張り付いた笑顔が能面のような笑顔へと変じていく。

 

これはもう駄目だなと思った岬は「ミナちゃんに言いつけますです」と言って踵を返した。

 

「やめてくださいッ!?」

 

慌てて彼女の肩を掴もうとしたルルだったが―――

 

その瞬間に、動きが止まる。

 

ガチャリと客室のドアが開いて―――レディーススーツのミナが姿を現したからだ。

 

その後ろには廻と夕もいる。

 

「ルル、その隠したものを出しなさい」

 

冷たい笑顔でミナは彼の手を掴んだ。

 

「み、みみみみ、ミナさん!どうしてこんなに早く……!?」

 

「会議が思ったより早く終わった。それだけのことよ」

 

そうしてルルを睨んで「はよ出せや」と耳を引っ張った。

 

「や、やめてください!出します!出しますから!!」

 

―――やがて圧力に屈した不死者の王は、隠した物品をミナに渡す。

 

それは―――

 

「……一発で理性消える級の媚薬じゃねーか!私にまた盛ろうとしたな!?ぶっ殺すぞボケェ!!」

 

御多分に漏れぬエロアイテムだったのは言うまでもないことであった。

 

 

 

数分ほど後、不届き者の男の娘は天井から思いっきり吊り下げられ、顔面を滅茶苦茶に変形させられていた。

 

「……金髪女は当然奇妙な果実という単語は知っているよな」

 

「もちろん。木に吊り下げられた死体のことでしょ?」

 

「これはまさにそれだな……元より生命反応がない不思議な物体であることだし」

 

夕はそうして嘆息した。

 

「まあ婦女子に薬物を盛って手籠めにしようとした輩にはちょうどいいか。しかし、貴様……状態異常……毒物の類は効かないのではなかったか?」

 

恋と岬に簀巻きのままくるくると子供に悪戯されるミノムシのように回されているルルから目をそらし、夕はそう聞いてみた。

 

「うん。基本的に効かない。でも、これは毒物じゃなくてバフ……強化アイテムなのよ」

 

イーニラの水と呼ばれるそれは、人間の理性を破壊して性的興奮と感覚の鋭敏化をもたらし、同時に肉体の強化を行うバーサーカー(意味深)を作り出すための薬物である。

 

これを摂取した人間は性的欲求が抑えられなくなり、目の前の異性と致す(意味深)こと以外考えられなくなってしまうのだ。

 

これは肉体の力を強化するものであるため、強化アイテムに分類されることが最大の問題である。

 

ミナのブラックリボンでもすべてを防ぐことはできないのだ。

 

つまり、抵抗に失敗すれば目の前の異性……つまり、ルルに(性的な意味で)襲い掛かることになるだろう。

 

「手籠めにしようとしたのではなく、されようとしたのか……救いがたい業だな……やはりここで処刑すべきでは?」

 

「処刑して死ぬようなタマなら苦労はしてないわ」

 

心底呆れたという風情で、ミナと夕はため息をついた。

 

一方、廻はスマホを操り空悟に何事かを連絡しているようだ。

 

「……馴染んでるわね」

 

「恐縮です」

 

茜にそう言われて、廻はぺこりと頭を下げた。

 

仮にも潜入用の躯体を使うのであれば、現代になじむ努力も必要だろうと廻は考えていた。

 

故に、もうスマートフォンやパソコンを手動で使うことにもすっかり慣れている。

 

戦闘用の躯体が特撮ヒーローめいた全身鎧型であることを含めて、空悟には「どこかの特捜ロボのようだ」と以前言われていた。

 

無論そんなことを廻は気にしていない。

 

空悟がそう思った理由は、玩具を売るという子供向け番組の使命のためか、その特捜ロボは自分の指でビームガンや自分の体に設置されたコンソールのスイッチを動かしていたことに由来してのことである。

 

ロボットなんだから、そういう操作はいらんだろう、というのは放映当時から存在する突っ込みどころだ。

 

廻は「今野一家も風呂に行くそうだ。そのミノムシも降ろして温泉にいこうではないか」と言ってスマホを私物であろう根付を使って帯に吊る。

 

かぼちゃをニンジャが斬っている意匠のそれは、おそらく騫虎神社で購入したものだろうとミナは思った。

 

「そうですね。オラとっとと準備しろや」

 

ミナのその言葉とともに、どさりと肉が落ちる音がする。

 

乱暴に天井から降ろされたルルは「わ、わかりました……」と完全にグロ画像になった顔をなんとか元に戻そうと躍起になっていた。

 

「今が16時半で宴会19時から……まあそんな何時間もお風呂入んないでしょ」

 

「ここは屋上の露天風呂がいいのです。石で出来た船のお風呂がとてもいいのですよ」

 

岬は指を立ててフンスと鼻息を荒くする。

 

「……えーと、岬?コンビニ店長がそんなん来れたん?」

 

ミナが恋に聞こえないようにひそひそと話しかけると、岬は外の景色を遠い目で見つめてフッと笑った。

 

「一度だけ、本当に一度だけ3年ほど前のリニューアルオープンの後に来れたのです―――実はそれから例の騒動でこの体になるまで、一回も休んだことないのですよ……確か。確か、うん。記憶が忙しすぎてひどく曖昧ではあるのですが。多分なのです」

 

そんな辛く悲しい過去を語る。

 

「……そう。うん。ごめん」

 

ミナは岬にバツが悪そうに謝ると、客室の着替え所へ向かいささっと浴衣に着替えた。

 

「よし。ピッタリね」

 

「あら?昔は浴衣嫌いじゃなかったかしら?」

 

「昔は不器用だったし、なんかサイズ合わねえ浴衣ばっかだったんだもの……それに万一浴衣がはだけた時、ブ男の汚い裸とかなんか見たい奴いねーし、下手すりゃ逮捕だし……」

 

今の美少女の姿なら浴衣がはだけようが逮捕されることは……そのまま自由を求めて走りだしたりしなければまずあるまい。

 

彼女は調和神の使徒ではあるが、自由神とはなんの関係もない勇者であるが故、そのようなことは錯乱でもしない限りはやりはしないだろう。

 

見回して全員が浴衣を着ていることを確認して、ミナは「じゃあお風呂行きましょう」と促す。

 

ぞろぞろと皆が出て行き、部屋は無人になる―――

 

無人になった部屋で何があったかは、後程語るとしよう。

 

 

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