異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
-98-
―――居酒屋「主張員」。
何かを主張しているような格好で佇む謎の銅像がいくつも鎮座するホテル内の居酒屋で、8人は静かに料理と飲み物を楽しんでいた。
部屋に侵入した男から情報を聞き出すだけ聞き出し、オブリビエイトで記憶を奪って放置してきてから、黄昏の傭兵団は子供たちを寝かしつけてきた文、そして恋と合流していたのである。
「というわけで、また悪の組織が出てきたみたい……」
沈痛な面持ちでミナは生ビールを飲み干す。
銘柄はバドワイザーのようで、なんだか味が薄いような気がしてミナはため息をついた。
「まーたですか。また先輩案件ですか」
文は焼酎水割りをちびちび飲みつつ言葉を返す。
部屋の中は異様に静かである。
無論、これはミナが遮音の魔法で音声を遮っているからだ。
注文自体はボタンで店員を呼ぶタイプなので全く問題はなかった。
「今度のはどうも此方の世界に存在し続けてた秘密結社みたい……危険かもしれないから、今度清水さんの職場とかお子さんの保育園とかに結界作りに行くわ……」
げんなりして焼酎のボトルから水割りを作ろうとして、ルルに取り返される。
「僕が作りますよ。話を続けてください」
「あいよー……つまり、これは廻さんや夕ちゃんと深く関係があるものみたいなんだよ。全貌というか、大まかな目的と今回の作戦目標くらいしかあの泥棒は知らなかったみたいだけどもな」
ミナがそこまで言うと、廻が面を上げて「そこからは私が話そう」と重々しく言葉をつないだ。
「即ち、大日本帝国の亡霊―――それもやんごとなきお方を東京から京都へ戻し、然る後に現日本政府を徹底的に解体して独裁国家を建設する……という目的で動いていると盗人は述べていた」
「やんごとなきおかた……あ、うん、陛下のこと……だよね?」
恋がそう質問すると、夕が深く頷いた。
「然り、だ。現状の曲がりなりにも安定している我が国を破壊して、新国家建設……それもやんごとなきお方を排除してという考え方が気に食わん」
「どうしてどいつもこいつも国を破壊しようとするんでしょうねぇ……DEATHですよ……」
岬のうんざりした言葉に、廻は「叩き潰せば良い。幸いにして彼奴らの大目的と今回の作戦目的、そして組織名が知れた。対処するに当たり有益な情報だったと判断する」と答えて重々しい表情を若干和らげる。
「組織名?」
「うむ。奴らは『改の会』と名乗っているようだ。そして今回の作戦目的はミナ殿の持つ『クレーラの瞳』という異世界の宝石の奪取と……」
そこまで言って、後は夕が継いだ。
「我々の記憶装置に残されている情報と照合した結果、確率〇.九九九一七で守親町の地下に封印されている廻用の支援装備の回収だ」
夕は放置してきた男の顔を想起する。
その言葉も。
『その宝石こそ、地下への入り口となるものだ!それこそが……とある博士が残した最強兵器への一端なのだ!研究所再起動により場所を遂に特定できた!ははは!この国もこれで終わりよ!!』
音声記録をそのまま再生した夕は、深い深いため息をついた。
「本当に今更になってこれはないと思う。国体護持という意味では、やんごとなきお方は今もいらっしゃるのだからな」
「確かに日本は戦略爆撃で都市部の多くを焼き払われましたです。しかしながら官公庁まで陸軍で占領・破壊されたわけではないので、官僚組織は戦前のものを引き継いでいますです。だから大日本帝国と日本国にはかろうじて連続性があるのですよ。政体は変わりましたし、軍事面では戦後ずっとアメリカの衛星国ですけども……」
岬が醤油味のツナが載ったレタスを自分の皿に取りつつそう言った。
「それに外交面でご活躍されていらっしゃる方々だしさ、それを完全に政治的に排除するとかもうほんと頭悪いわねぇ……」
随分と薄い焼酎水割りを口にして、ミナは眉を顰める。
次に細切りのイカそうめんを口にして、それを十分に咀嚼してから飲み込むと、仲間たち、そして文と恋の顔をゆっくりと眺めた。
恋の瞳を見つめて、瞳の奥にあるものを見ようとするかのように目を細めてミナは聞く。
「会議室、取っちゃったけどさ。今この場で面接することにするわ。伊良子恋。あなたは『冒険に何を求める』?」
「……どういう意味で?」
恋が聞き返す。
至極もっともな疑問だ。
ミナはまっすぐに瞳を見返す少女に一つ首肯すると口を開いた。
「冒険者とは、あえて危険を冒し困難に挑むもの。あなたがその危険を冒す理由は何?」
その問いに恋は数瞬躊躇するが、すぐに笑顔になって「あたいみたいな不幸な人を増やさないため、そんで自分が幸せになるため!」と明るい声で答える。
ミナはその顔に、「じゃ、仕方ないわね」と短く言ってグラスの中身を飲み干す。
「ようこそ、『黄昏の傭兵団』へ。あなたの参加を歓迎します」
恋は差し出されたミナの手を握り返して「はい、よろしくお願いします!」と元気に返した。
ミナは事前に恋に対して罪科感知の魔法を使用しており、彼女が殺人の罪を犯していない―――つまり虹の欠片で変異した人間を殺したことがないことを知っていた。
後は覚悟と動機だけを聞けばいい。
旅館の会議室で聞くつもりだったが、悪の組織がまた一つ出てきてしかも廻の支援装備なるどう考えても危ない代物を回収しようとしている以上明日はそちらの探索に時間を割かねばなるまい。
そのため先んじて面接を行ったが、思いのほかスムーズにミナが納得する答えを出してくれてよかったと、彼女の従者は微笑んでいた。
そんな勇者と下僕を文は困った顔で見つめる。
「いいんですかねえ、こんな子供を……」
「文、いいじゃないか。三郎もルルくんもいるんだ」
そんな酷く困った顔をする文の肩を抱いて、空悟は笑った。
「銃やナイフよりもはるかに恐ろしい武器を恋ちゃんは持っていて、それを簡単に手放すこともできないし手放したところでSMNや邪神の手勢が見逃してくれるとは限らない。なら―――正しい使い方を教えるのは大人の義務で、それを学ぶのは子供の義務さ。そうだろ?」
半ば文に、半ば恋に向けて放られた言葉に、恋は力強くうなずいた。
「よろしく、みんな!」
恋は立ち上がってお辞儀をする。
深々と下げられた頭にうんうんと肯定的な笑みが向けられ―――
ミナは目を細めてただ笑うのであった。
「ところで、この街の地下に廻さんの武器が埋められてる……と言っても、どのあたりなのですか?」
恋が座ってポテトチップスをかじり始めたのを見て、文がふとそう聞いてみた。
腕を組んだままの廻が「それについては薺川博士に確認を取っている。明日の朝には確定するはずだ」と答えた。
「おそらく研究所閉鎖後に隠蔽されたものだろうからな。情報が存在しない。だが、研究所の工作機械と調査装置をもってすればどうにでもなる」
何しろバグ影響下で作られた常識外れの代物だから。
廻は自分たちもそうであるということを言外に込めてそう答えた。
「そうよねえ。その改の会とかいう連中も、バグに侵されて頭おかしくなったまま生きてるやつでもいるんでしょう」
困ったものね、とルルから手渡された薄い焼酎水割りを飲み干しつつミナは頭を振る。
「だろうなあ……ジャン〇ー〇ンかと思ったら、メ〇ル〇ーまで混ざってきたような気分だよ、俺は」
空悟がそう言いつつ、注文ボタンを押下した。
「あ、オレはレモンサワーね。日本だしジ〇イ〇も混ざってきそうで嫌なんだけど、オレ」
ミナは首をすくめて唇をへの字に歪める。
「……しかしこの時代に大日本帝国由来の秘密結社とは……90年代くらいまでなら人気の設定だったはずなのですけども。最近はとんと見ませんですねえ」
「なんで消えたの?」
恋がそう聞くと、岬は「かつての日本がそんな大それた悪さできるほどお金持ってなかったということが周知されてしまって、リアリティがなくなってしまったのですよ。まあそんな貧乏な時代で生まれた方々の前で言うのも失礼だとは思うのですけども」と苦笑した。
それ以外にも理由はあるが、ともあれ似たような軍隊系フリー素材としての使い勝手はナチスのほうがはるかに上というのが一番だろう、と岬は思う。
同じような悪の印象がある旧ソ連軍は組織的なつながりのあるロシア軍が存在し続けているし、同じく中国の人民解放軍はそのまま存続しているうえいわゆる「アジア的ダサさ」があって悪役として使いづらいと岬は思っていた。
やはり悪役にするならナチスが一番である。
「実際、末期の末期の研究と言いますですし、予算とかどうだったのです?」
「うむ。実際、岬が思うほど予算はかけられてはないのではないだろうか。バグ影響下研究は理不尽の塊だったし」
夕がそう言って天井を見上げ、「バグ影響下研究など奇策も奇策。一か八かどころではない賭けだ。まともにやって勝てないから奇策に走り、更にどうにもならなくなるというのはどこにでもある話だな」とため息をつく。
この会話は明日の調査には全く関係ないだろう、と思いつつもミナはほろ酔いながらその話を興味深く聞いていたのだった。
なおその頃、茜はというと。
「あぁぁぁぁぁぁ!なんだこのガ〇ルつえぇぇぇぇ!?」
ルルの幻影が見守る中、スーパース〇ⅡXで乱入者の―――
「ふっふっふ……私の待ちガ〇ルにザ〇ギ如きで勝てるとは思わないことですね」
何故か異様に強い商店街組合長に負け越していたのであった。
そして空悟と文は子供たちとともに就寝し、廻と夕も警戒のため部屋に戻った。
残る4人も客室に戻って、ルームサービスのラーメンをすすりつつ映画を見ていた。
「ルームサービス0時までやってるとか、やるわね」
「恋ちゃん、平気そうですねぇ……あたし、そろそろ眠くて……」
「曲がりなりにもアイドルだから、睡眠コントロールくらいできるのさ!」
恋にそう言われると「う、うーん……確かにあたしも……徹夜は慣れてるはずなのですが……うーん……?」と悩み始める。
そんな彼女を見て、恋は何かを思いついたようにベッドへと寝転んだ。
そして―――
「―――♪ とうっ!」
おもむろに岬に枕をぶつける。
もちろん本気なのではなく、じゃれあいのレベルのパワーで。
「あうっ!?ほう……あたしと枕投げで勝負ですか?いいですよ!」
岬は望むところとばかりに伊達メガネを眼鏡ケースにしまうと三角ベッドの上の枕を恋の顔にぶつけた。
「やったな!あはははっ!」
ミナはやってる映画が詰まらなかったこともあって、早々に観戦モードに入って周りの飲み物や食べ物を被害がないよう片付ける。
そしてビールを片手に、時折投げつけられる枕を避けながら「やれー!」と笑っていた。
「こちらの世界にもあるのですねえ、枕投げ。防音がしっかりしているせいか、周りから怒鳴り込まれないのは不思議ですね」
「まあ念のため遮音はかけておきますか。シルフよ、風の乙女よ。漏れ来る波を遮り、内と外との音を断て」
そうしてミナが風の精霊を呼び出し、音を遮る。
それとほぼ同時に、ガチャリと扉が開いて。
「私のザ○ギと30戦15勝15敗とは……あれが組合長の姿か……?」
ぶつぶつと呟きつつ、組合長との激闘を終えた茜が帰ってきたのであった。
「おいおい、もう1時よ。迷惑だからやめて寝なさい。明日は朝食7時半よ」
ほぼ素面に戻っている茜は、少女たちからの枕を娘と同じように避けつつそう零すように言って布団に座った。
……ベッドは三角と四角のシングルが二つ、どう見てもラブホのベッドにしか見えない丸いベッドだけダブルベッドという部屋の仕様上、5人目6人目は布団で寝るようになっているのだ。
「はーい」「はいです、先輩」
そうして二人はちょこんとラブホベッドに座って、それから毛布の中に潜り込む。
布団を頭からかぶって、中で何事か楽しそうに話しているのが聞こえて、やがて10分もしないうちにその声が寝息に変わったことがはっきりと分かった。
それに母娘は微笑んで、窓際のチェアーに座る。
そのチェアーはなぜかドラゴンの意匠が盛り込まれていて、やたら視覚にうるさいものだ。
それを気にせずに茜は冷蔵庫からビールを取り出した。
「それにしても枕投げか……何十年もやった記憶がないわね……」
「やりますか?」
茜の独り言に反応したルルに「私、もう50過ぎだからやらないわ。エルフじゃないし」と言って、ミナの買ってきたビールのタブを開けた。
「起きれんのかい、カーチャン」
「お前、ザ○ハは使えんの?イオナズンは使えるんだろ?」
「まあ使えるけど……」
ゲーセンで負けた腹いせに深夜だというのに飲み始めた母に「でも二日酔いとか泥酔とかは治せねーかんな?」と釘を刺す。
酒精の神は酔い過ぎないための対策を許しても、その対策を怠ったものが被るペナルティを取り払うことは許さないのだ。
「あと2本でやめとくからだーいじょうぶ!」
「本当に大丈夫かなぁ……」
ミナの心配はほぼ当たり、翌日の昼近くまで母は「頭痛い」とこぼし続けるのであった。
朝食はいわゆるビュッフェ形式であった。
ミナはメニュー全種類を一通り楽しんだ後、大盛りカレーライス……スナック黒十字の基準での大盛りでカレーライスをよそってきて、二日酔いで頭痛が収まらない茜をうんざりさせていた。
「よく食べるわねぇ~」
「大喰らいミナちゃんという不名誉な仇名をもらってるくらいだったからな!」
カレーの上にサラダとさつま揚げ、目玉焼きを乗せ、醤油をさつま揚げと目玉焼きに、ソースをサラダにかけてミナはそれを頬張り始める。
「よく噛みなさいよね」
「高速で噛んでるから大丈夫」
よくよく見れば顎が常人の2~3倍の速度で動いていることを確認し、茜は更にげんなりとしてサラダを口にして牛乳を飲む。
「まぁあれだけお酒飲んで、頭痛いで済む茜先輩もすごいのですよ」
おかゆに梅干を乗せたものを主食に鮭、漬物などをおかずに持ってきた岬は、隣でベーコンエッグをトーストに乗せて食む恋にリンゴジュースを渡しつつそう零した。
宴会で商店街の店主たちと飲みまくっていた茜は、ミナほどではないもののかなり飲んでいたはずだ。
それから更に休む間もなく温泉に入りゲーセンで遊んで、部屋に帰ってからも結局2時間ほど飲み続けた結果、4時間しか寝ていないのだ。
頭痛いで済めば儲けものというものである。
―――余談ではあるが、宴会で飲みまくり、二次会でさらに飲んでいた店主たちの大半は起きてこれていない。
当然の結末であった。
そうして周りを見回せば別の席で廻と夕が純和風のチョイスで朝食を食べているのが見える。
一緒の部屋の潤美と店長は二人ともカレーだ。
商品研究のためだろうか?と思いつつミナはそちらに手を振って―――その隣の席で優雅に紅茶を飲んでいるみはると、二人してトーストを食べている姉妹がいることに気づき、そちらにも手を振った。
両方の席から手を振っているのが見えたので、ミナは安心してカレーライスにとりかかる。
この場にいないルルはいつも通りに朝食を食べることは拒否して、一人昨日の夜に入った内湯とは別の離れにあるもう一つの内湯へと向かっていった。
冷暖房がない古い建物で、どうもこの旅館ができる前にあった民家を改装しているというその風呂は、冬は地獄のような寒さで行くのすら寒くて嫌になるが、春夏秋はそうでもないので人気である。
そこへと向かったルルであるが、流石に媚薬も取り上げたことだし、下手な悪さはしていまいとミナは踏んでいるが……
ミナが一抹の不安を抱いているうちに会場の入り口へ今野一家が現れる。
彼らは渡された座席指定カードを持って、きょろきょろとして……やがてミナたちの隣の席にやってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう三郎。ほら、お前たちも挨拶しなさい」
「「おはようございまーす!」」
「おはよう、空悟、清水さん。アキちゃんとタカシ君も」
挨拶が交わされ、一家は食事中・43番と書かれたカードをテーブルに置くと、夫妻はご飯を取りに歩いていく。
流石にまだ4歳と3歳の姉弟はテーブルに残され、その間ほぼ食べ終わった岬と恋が相手をしていた。
そうしてミナがカレーを平らげ、空悟たちが席に戻ってきた時―――空悟が一つ聞いてくる。
「今日の調査、俺は本当に行かんでもいいのか?」
「当たり前だろ。おめー旅行に来てんだろ。家族優先でいいよ。今回は恋ちゃん連れてくからさ」
小声でささやくようにそう言って、ミナは立ち上がった。
「さて2回戦と行くか!」
「よく食うなおめー」
ジト目になった空悟とその横でため息をついている文、そして頭痛で苦しむ茜を余所にミナは再び物色へと向かって行った。
今じゃ考えられない話ですが、大正~昭和の大日本帝国陸海軍の内部にはいくつも政治結社、秘密結社のたぐいがありました。
旧日本軍は低所得層出身者が士官の大半を占めている軍です。
貧乏な兵や新任士官の田舎の話を聞くうちに、義にかられて極端な思想(左右・宗教他)にかぶれて変な結社作っちゃう軍人たちがいたのです。
貧乏だったり境遇が不遇だったりする人が極端な考えに走りやすいのは今も昔もそう変わらないですね。
その流れから五・一五事件や二・二六事件なども起きています。
後、英独などの基本的に貴族が士官をする軍隊をモデルに建軍したせいで、貧乏な新米少尉でも拳銃と軍刀を自弁しなきゃならなかったというのも悲しい話です。
倉庫や蔵の中の貴重な刀剣類が軍刀に改修されて戦場の露と消えたそうです。
……覚悟のススメとか超人機メタルダーとか鉄人28号とか、日本帝国軍の秘密兵器がどうこうって話も最近はあんまり見ないですね。ええ。
寡聞にして私が知らないだけの可能性は大ですけども。
どんな日常回が読みたいですか?
-
メインキャラのエピソード
-
サブキャラのエピソード
-
敵キャラについての深掘り
-
その他(活動報告にコメントお願いします)