異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第99話 「終わっています」

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ミナたちの部屋。

 

痛み止めを飲んで即座にゲーセンに向かった茜のいない部屋に、空悟以外の黄昏の傭兵団のメンバーが集まっていた。

 

勿論、昨夜仲間入りを許された恋も一緒である。

 

空悟はといえば、当初の予定通りに守親町にある遊園地へ向かっていた。

 

「で……敵の狙いは?」

 

「わかっている。画面に投影しよう」

 

廻はおもむろにかばんからHDMIケーブルを取り出すと、それをテレビと自分の体につなげる。

 

「……もう現代技術そこまで解析しているのね」

 

「薺川博士は天才だからな」

 

夕が少し誇らしげに胸をそらす。

 

それを無視するかのように、浴衣姿の廻は「映像出力開始」と呟いた。

 

すると、画面には「昭和二〇年試製戦術機動鎧壱号」と題された設計図が浮かび上がった。

 

「……あの、私にはこれスーパーロボットかなんかに見えるんだけど……」

 

「奇遇なのです。あたしにもそう見えますですよ?」

 

「いや、どう見てもこれスーパーロボットじゃん……」

 

現代民三人が次々と感想を漏らす。

 

多数の砲門と鋭角的なデザインはどこかの准将が乗っているロボットのよう。

 

そして設計図に書かれている装備の数々はどこをどう見ても某元祖スーパーロボットの武装をフィーチャーしているとしか思えない代物であった。

 

「胸部熱線砲、眼部殺人光線照射砲、溶解嵐噴霧装置……」

 

「再利用型噴進腕……?」

 

「どう見てもこれス○フリのフリしたマジ○ガーじゃんか……」

 

ミナ、岬、恋の順にげんなりした声が響いていく。

 

「私もなにかの冗談ではないかと思いたいのだが、いかんせん我々自身が非常識で冗談臭い代物であるのでな……」

 

普段は冷静沈着で感情の動きも最低限である廻が遠い目で窓の外に広がる守親町の町並みを見下ろすのを見て、夕は盛大に溜息をつく。

 

しかし、それも一瞬のこと。

 

表情を正した廻は、「本情報は空悟殿にも伝達済みだ。少なくとも、これは確実に破壊ないし研究所への収容、隔離が必要となる」とミナをまっすぐに見て言った。

 

「同感ですね。ここに書いてある『論理飛躍式』という言葉がひどく気になりますし」

 

ルルもまたそうしてミナをじっと見つめる。

 

ルルの言葉に、廻も夕も肯ずるとミナは「十中八九、バグを利用した兵器よね、これ」と頭を振った。

 

「マジでマジ○ガーだのガン○ムだのみたいな性能発揮されちゃあたまんないわ……」

 

そんなものはもう存在自体が魔王と変わらないだろう。

 

それもミナとルルが死力を尽くさなければどうにもならないレベルの。

 

流石にミナが強いと言えども、マッハで空を飛んだり、機械の獣を分子分解したりなどできるはずもない。

 

げに恐ろしきは末期戦の茹った脳みそか……とミナは天を仰いだ。

 

「先ほど、金髪女はバグを利用した兵器と言っていたが、正確にはバグそのものではなく、バグの挙動を応用した物理法則の一時的改竄のことを『論理飛躍式』と呼んでいる。これは薺川博士に確認したことだ」

 

夕にそう言われ、ミナは「つまり、古代語魔法や陰陽術に近い理論で動いているというわけね……」と頭を抱えた。

 

古代語魔法は物理法則を魔力を通した古代語……ロジカル・ランゲージにより一部改竄して現象を発生させる魔法……

 

そして陰陽術は同じく陣と符によって異なる物理法則を持つ小世界を一時的に作り出して現象を発生させる術理である。

 

それを科学技術のみで行っているとすれば、恐ろしいことである。

 

「○ルト○ウムまで混ざってきてるということは、もう確実にそんなもん起動させたら大変なことになるわ」

 

最悪、黄昏の剣の最大出力で破壊するしかないか、とミナは二日酔いでもないのに痛む頭を押さえつつ立ち上がった。

 

破邪滅神の力を持つ勇者の装備であれば、ねじ曲がった法則ごと破壊することは可能だろうが……

 

「あーもう!考えても仕方ないわね!場所は!?」

 

「この旅館のすぐ近く―――以前、みはる殿らとともに撮影に向かった場所だ」

 

廻はそう言って立ち上がったのであった。

 

 

 

―――以前行った洞窟。

 

「ここだ」

 

廻はその狭い―――謎の女に作られた箱庭とは全く違う洞窟の地面にクレーラの瞳を持って手をつくと、「解錠」と短く言った。

 

すると、地面から電話ボックスのような形状の入口がせりあがってくる。

 

そこには「科戸研究所 分所」と記載されていて、確かに研究所関連の施設なのだとわかった。

 

「こちらはバグを応用した施設ではないのでな。薺川博士も経年劣化で破損していると考えていたようなのだが、バグ影響下開発を行った時の建物の建材の一部を使用していることが仇になったようだ」

 

そうしてその大きな電話ボックスにしか見えないそれに入り込む。

 

「問題ない。機能生存を確認。入りたまえ」

 

促された5人はミナ、ルル、恋、岬、そして最後に夕が中に入った。

 

それと同時にボックスのドアが閉まり、エレベーターのように電話ボックスは地中へと埋まっていく。

 

「え、えっこれ大丈夫なの?!」

 

恋がその動きにびっくりしてそう言うと、「心配ない。例えこの昇降装置が急に故障して途中で止まったとしても、我々の能力を結集すれば十分に掘削・侵入が可能だ」と夕は笑う。

 

生き埋めになった程度で死ぬのはおそらくこの中では恋だけである。

 

その事実に等しい言葉に、恋は「あたいもこうなれんのかな?」と汗をぬぐう。

 

「大丈夫なのです。あたしたちと一緒にやっていけば必ず強くなれるのですよ―――しかし、暑くなってきたのです」

 

「地熱だな。熱源として地熱を利用している。無論、偽装のため温泉に影響のある利用法ではないのだが」

 

その言葉に、ミナは自分の持つ火鼠の皮衣を思い出す。

 

それは吸熱と放熱の魔法が封じられたマジックアイテムだ。

 

この施設はそれに似たことをしているのか、と思いやはり分所ごとスーパーロボットを闇に葬らねばならないと決意した。

 

「ところで、件の鉄巨人の完成度はどのようなレベルなのですか?」

 

ルルが聞くと、夕は「七七.一%まで工事が進んでいたと薺川博士から聞いた。少なくとも起動は可能だという」と答える。

 

「色々と最悪ね―――動かす条件は?」

 

「私が乗り組む以外に方法はない―――が、未起動状態で接収されるのが一番まずかろう」

 

廻にそう言われ、ミナは「そうですね」と短く答えて床面を足で叩いた。

 

「そうすると、最悪敵に奪取される前に廻さんが乗り組んで研究所まで持っていくってことにしたほうがいいのかもしれないのです」

 

岬がステッキ弄びつつそう言って、「まあ最悪の場合だと思いますですが」と続けて窓から外を見る。

 

地層がむき出しの景色を見れば、これはエレベーターなどではなく、掘削装置の類なのだろうとわかった。

 

それから1分ほど地中の旅は続き、ガウン、という何かが接続される音と共に終着となる。

 

そして―――廻と夕の顔色が変わった。

 

「まずい。施設内の警備機構が起動している」

 

「何者かの侵入を検知。警備機構の掌握を目指しているようだ」

 

ミナはその言葉を反芻するように頭に入れて、「やっぱりこうなるか……!」と静かに呟く。

 

「廻さん、夕ちゃん!格納庫へ案内して!最短距離で!」

 

「心得た」

 

廻はただ一言言って、電話ボックスのドアが開くと同時に走り出す。

 

既に完全武装。

 

その腕にはオリハルコンの手甲が輝き、その一撃はベトンの壁を打ち砕く。

 

その先にある通路が見える。

 

「このまままっすぐに壁をぶち破り格納庫へ侵入する。警備機構は我々には攻撃しないはずだが、敵による掌握がなされればその限りではない。急ごう」

 

「了解!」

 

次の壁を夕が打ち砕き、その次の壁は魔法の戦斧にてミナが破壊する。

 

最後の壁は―――

 

「「マジカル!サンダーバードォォォ!ストライク!!」」

 

岬と恋の合体魔法がぶち抜いた。

 

ぶち抜かれた壁の向こうには―――

 

「!!!」

 

頭が銃になった兵士のような何か、軍服を着たゾンビやレッサーヴァンパイアなどが―――

 

「ふぁーははははは!この程度痛くもかゆくもないわぁぁぁぁ!!」

 

テンション高いおそらく大日本帝国海軍の第三種礼装らしき詰襟を着た男に苦戦を強いられていた。

 

「この程度で吾輩を止められると思ったかぁぁぁ!!ふぁーははははは!」

 

機関銃や軍刀での攻撃を避けることもなく受けながら前進し、バキリと銃男の頭を破壊して男は哄笑する。

 

「!?何あいつ!」

 

「解析―――どうやら機械を内蔵した人間のようだ。我々の技術が一部使用されている形跡がある」

 

ミナの言葉に夕がそう答えて、腕部機関砲を男に向けた。

 

「むっ!貴様らは……そうか、本当によみがえっていたのだな!『七式』!」

 

しかし、それに廻も夕も答えることはなく、ジャキリと腕部機関砲のセーフティを外して睨めつける。

 

言葉を最初に返したのはミナだった。

 

不機嫌そうに腰に左拳を当てて、右手で青い宝玉の輝く杖を向けながら。

 

「あんたが『改の会』とやらの人?」

 

「ぬう……!い、いかにも……!我らは日本国家の再建とやんごとなきお方らに頼る者らの粛清、そしてやんごとなきお方らの封印こそを目的とする秘密結社『改の会』なり!」

 

ミナを見た男は、掴んでいたゾンビを明後日の方へと投げ飛ばして一歩下がる。

 

情報が洩れていることは先刻承知なのであろう。

 

否定することはなく、油断なくこちらを睨みつけてくる。

 

「我々が持つブローチ、そして我々自身がこの施設への鍵。私か夕がこれを持っていなければここへ入ることはかなわない……謎解きとしては、薺川博士に確認するというズルをしたがね……それら以外で鍵となる物体を得られなかったゆえの強行と見た」

 

廻にそう聞かれ、男は冷汗を流しつつもニヤリと笑った。

 

「如何にも。お初にお目にかかる。吾輩は改の会将校部戦闘班、午来」

 

そう名乗って海軍式の敬礼を行う。

 

「七式、そして異常熱源体……貴様らの目的も、この施設か?」

 

「異常熱源体とやらが誰のことか知らないけど、あたりきしゃりきのこんこんちきよ。スーパーロボットなんぞ今の世界にはいらないのだわ」

 

気付いてか気付かずか、異常熱源体そのものであろうミナは青筋を立てながら一歩前へ踏み出す。

 

「ふん……我らが目的はすでに知っているだろう!貴様のような正体不明の毛唐もどきにはわかるまいよ!祖国の苦しみなどなぁ!」

 

午来と名乗った男はそう叫ぶが、ミナは知ったことかとばかりに「うっせーよ」と一言言った。

 

その一言には、自分が異常熱源体と言われていると悟ったイラつきも入っているのだろう。

 

ミナは不機嫌を絵にかいたような顔となって続ける。

 

「そんなもん庶民にゃ関係ないのだわ。人はパンのみにて生きるにあらずとこちらの世界の聖人は言った。人は論理にて動くのみにあらずと我が奉ずる神は言われた。今あるパンを捨てて、意味不明な論理で平和を乱す権利などてめーらにあるわけないでしょうが」

 

「ぬぅぅ……貴様らはどうだ!七式!!」

 

怒りを滲ませて午来は廻と夕に問うた。

 

しかし。

 

「済まないが、私はこの時代の我が国が平和であれば問題ないように思う。敗戦の後、陛下の御身は危うくではあるが保全され、今現在において人々は平和に豊かに生きている。我らの時代のように食うて生けぬからと祖国を捨て中国大陸や南北米大陸に活路を見出す困窮者もいない。子に身売りを強要する親も余程でなければいない。飢えて死ぬものもほとんどいない。娯楽は豊富で、人は理念にとらわれずに生きている。他国を見ればまだまだ我が国のような平和が存在しない状態が続いているのだ。故に、陰りが見えているとは言え平和と繁栄の存在する我が国においてはそれでいいと考える……理念に死ぬのは我ら兵士のみでいい。君たちの考えには一切賛同できない」

 

「酷く軟弱で米国に頼らねばいつ滅びてもわからん国だが、それは国に住む者たちが選ぶことだ。我々には根本のところは関係がない。我らは兵器故に。今の我々は薺川博士とそこの金髪女の指揮下にある。説得するつもりならば、まずは二人から説得することだな」

 

にべもなくそう切り捨てられたのである。

 

「まあそんなわけだから、ここは引いてほしいかなって。何しろ、極右も極左もアホが壁の端っこ掴んで引っ張ってるだけだし」

 

ミナは肩をすくめてフッと笑う。

 

フッと笑って、午来の後ろから誰かがやってくるのが見えた。

 

「貴様ら……」

 

「無駄だ。そこの異常熱源体は集成党を壊滅させるようなことをしても何の痛痒も感じていない。政治的にはより弱体にある我らを滅ぼすことに躊躇はないだろう」

 

「閣下……!」

 

怒りに震える午来を抑えるかのように、怜悧な印象を持つ青年が一人現れる。

 

短く刈り揃えられた白髪に、午来と同じ礼装が映える。

 

「改の会将校部技術班長、牛込である」

 

短く海軍式の敬礼をして、「……見逃してはもらえないかな?」とシニカルに微笑んだ。

 

「ダメなのです。この先にあるスーパーロボットは、設計図通りの性能を持っているのならこの世にあってはならないものなのですよ―――少なくともあなた達の手には預けられないのです」

 

「マジン○ースト○リなんてもんが敵のロボットで出てきたら東京壊滅するじゃん。あたい、向こうに友達もアイドルの先輩もいるし、そんなことされると困るんだけど」

 

魔法少女たちがステッキを牛込と名乗った男に向ける。

 

「ああ、やはりそうなる?……じゃあ力尽くで行くしかないかな」

 

目頭を指で押さえ、すぐに肩をすくめる。

 

「警備システムの掌握は終わった。後は任せるぞ、午来」

 

短くそう言って男は踵を返す。

 

と同時に、周囲のゾンビや銃男がこちらを向いた。

 

「警備機構が掌握された模様。広域殲滅を開始」

 

夕がそうして殺人光線と腕部機関砲を魔物たちに発射し始める。

 

それに合わせて恋と岬も攻撃をはじめ―――ミナと廻、そしてルルの三人はまっすぐに牛込と名乗った男の後を追い、格納庫へと駆けていった。

 

「させるかぁ!」

 

三人を押し止めるように、午来と名乗った男は立ちふさがる。

 

その体を変貌させながら。

 

『ふはははは!この改造人間・午雷王の前にひれ伏すがいい!異常熱源体、そして七式といえど七十年の技術差で押しつぶしてくれるわ!』

 

メカメカしい3メートルを超える巨人と化した男は、そうして拳をミナへと向けて打ち込んできた。

 

「ちっ!空悟がいたら大喜びだったかも知れねえなあ、怪人!」

 

「ここは僕におまかせを……」

 

攻撃を避けながら独り言つミナに従者はそう言って頭を下げる。

 

その目を見れば、いつもの……冒険のときのルルである。

 

ミナは安心して一つ頷き、目の前の大男を睨めつけ、吠えた。

 

「よし、任した!廻さん、目くらましやります!小さき灯りの子リンカよ―――私の手に小さな灯火をちょうだい。その灯火をまっすぐ前に飛ばしてちょうだい!」

 

「殺人光線、閃光照射」

 

カッと凄まじい光が二つひらめき、午雷王と名乗った怪人は『ぬう!!』と叫んで一瞬たたらを踏む。

 

「今!」「承知!」

 

二人は短くそう言って怪人の脇を走り去っていった。

 

『おのれ逃がすか!!』

 

その背を追おうとした午雷王だったが、それは―――

 

「逃がすとお思いですか、あなた」

 

だいぶ不機嫌なルルによって止められた。

 

『き、貴様いつの間に……!』

 

「あなたの視認速度を超える速度で動いただけです。それはミナさんも廻さんもできる芸当ですよ」

 

ニコリと、全く笑っていない瞳で唇だけど半月に笑んで少年は杖を向けた。

 

フィジカル・エンチャント・アジリティと風の精霊術テイルウインドを使い、ミナたちが閃光を放った瞬間に怪人の後ろに移動したのである。

 

同じようなことは当然ミナ、廻、夕にもできるだろうし、別に視認速度にまで言及する必要もなかった。

 

それはただ男の精神を煽るためだけの言葉である。

 

『ぬう!異常熱源体弐号!うぬが相手となるか!』

 

しかし、それを気にする様子もなく怪人は両腕を合わせると、まるでビームソードか何かのように実体である剣を作り出す。

 

『雷牙剣を食らって死ねい!』

 

「―――!」

 

仰々しい名前の鉄塊をルルに向けて振りかぶり、そのまま振り下ろす。

 

しかし、そこには既にルルはいない。

 

既に後ろへ向けて走り、距離を取っていた。

 

『おのれ!逃げるとは卑怯な!』

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。彼の者より力を奪い去り給え。腕を、足を、目を、指を。弱く、遅く、間違え、胡乱に―――フィジカル・ウィークネス・オールボディ!」

 

ルルはその言葉に乗らず、ただ静かに古代語を唱える。

 

それはフィジカル・エンチャントの逆。

 

目の前の存在が生命であるならば、その力を奪い去るフィジカル・ウィークネスの魔法である。

 

『なにィ……!ち、力が抜ける……!』

 

「やれやれ。改造人間などと言うから効くとは思っていたのですが、バグに関わるのなら魔法に対する対策くらいは立てておいてほしいものですね―――さ、後は僕が手を下すまでもない」

 

ツカツカとそのまま彼に背を見せて、ミナたちが去っていった格納庫中枢へと歩き出す。

 

『なんだと!まだ終わっては―――』

 

「終わっています」

 

その瞬間に、何が起きたかと言えば―――

 

「動きが鈍くなったのです!これならあたしでも倒せるはず―――!」

 

襲いかかったのは、魔物たちの殲滅を恋と夕に任せ近寄ってきていた岬であった。

 

その姿は既にフレアスタイルで、その手にはギターロッドが握られている。

 

『き、貴様……!そのような不埒な格好で……!』

 

「うるせー馬鹿なのです!乙女のバトルではぁレオタードとドレスは正装なのですよぉ!!」

 

油の切れたロボットのような動きになった午雷王に岬は叫んで、ロッドを掲げる。

 

「調べよ踊れ!踊りて大気を切り刻み!大気を燃やし、心を燃やし、全てを焼き尽くせ!」

 

ギターロッドから楽譜が生まれ出て、それが怪人を拘束していく。

 

『お、おのれぇぇぇぇ……!』

 

「喰らえひっさぁつ!!アナン・マジカル・ヒートロックなのです!!」

 

紅く燃えるギターロッドが午雷王の脳天で炸裂し、爆発が起きる。

 

しかし、怪人は倒れない。

 

ドラゴンよりも頑丈なのか、上半身を炎にまみれさせてもまだルルの向かう方向へと前進していく。

 

『ぐうおおおおおおおお!!!』

 

「随分とタフなのです!なら!」

 

「やろう、岬ちゃん!」

 

魔物たちの殲滅を終えた恋と夕が駆け寄ってくる。

 

「後ろからだが、卑怯とは言うまいな」

 

『ぬぐぐぐぐ……まてぇぇぇい……!午王剣ん……!十文字ぃ……斬り……!』

 

最初に比べれば随分とのたのたとした動きだが、巨体故にその動きは歩き去るルルを捉える―――だが。

 

「ルルくん!?」

 

岬の悲鳴とともに、ザン、と肉が裂ける音がしてルルの体が四つに割れる―――しかし、服はすり抜けるように地面に落ちた。

 

四つになった体は、一滴の血も零さぬままに全裸のまま宙へとふわりと浮いて―――そしてそのままくっついて早戻しのごとくに元通りになり……すっくと一糸まとわぬ姿で地面へ立つ。

 

美しい女性のような笑みを浮かべて。

 

『う、うぬ……!やはり化生の類か!』

 

「調査不足ですよ。僕はリッチー、不死者の王。如何に権能を封じられていようと、ただの金属の塊では殺せない―――まあ、僕を真っ二つにできただけでもすごいと思いますよ、あなた」

 

クスクスと股間を除けば少女のような体を地面に落ちた服で覆い、少年は笑う。

 

「それではまた。あなたの魂が地獄に落ちませんように」

 

ルルはらしくない言葉を言って、ほとんど裸マント状態でまた格納庫中枢へと歩みだす。

 

『がぁぁぁぁぁぁ!』

 

追いすがろうとする午雷王だが―――

 

「殺人光線、照射」「「マジカル!サンダーバードぉ!ストライクゥゥゥゥ!!」」

 

少女人形と魔法少女の必殺攻撃が後ろから迫っていたのであった。

 

『おのれ、おのれぇぇぇぇ!申し訳ありません、任務失敗であります!!』

 

大仰に叫ぶと、怪人は倒れ伏し―――そして大爆発を起こす。

 

ドオオオオオン、と爆音を上げて。

 

そして、そこには生首が1つ落ちていたのであった。

 

「……ひ……こ、殺しちゃった……?」

 

「気にする必要はない。こいつは将校部と名乗った。即ち士官であり、命令によって死ぬのも仕事のうちだ」

 

怯える恋に夕がにべもなく言い放つと―――

 

「ふ、ふはははは!甘い連中め!この程度で改造人間は死なぬ!次を首を洗って待っておれ!後は頼みました、牛込司令!」

 

そうしてまるで煮こごりが溶けるように男の頭は液体となって床に広がり、すぐに泡となって消えていく。

 

まるで、往年の特撮番組の怪人のように……

 

その様子に、夕は不信感を抱いて格納庫中枢へと向かうルルに声を掛けた。

 

「おい、待て女男。こいつは死んだのか?」

 

「残念ながら、死の気配を僕は感じていません。おそらく、あれは半分人形のたぐいですね。本体がどこかにいるタイプの分霊術のたぐいです。僕も使えるからよくわかりますよ」

 

そう言って一瞬振り返って笑った。

 

―――もっとも……錬金術ですらない科学技術とやらでそれを成すのは、やはりバグを応用しているからなのでしょうが。

 

そこは言葉にしなかった。

 

夕はルルの言葉に首肯し、「よくわかった」とつぶやくように声を出し、そして唇をへの字に曲げて続ける。

 

「一応、行く前に一言言っておく。股間は隠していけ。金髪女にぶん殴られても私は知らないぞ」

 

「……そうですね」

 

そうしてルルはマントのように羽織っていたワンピースに体を突っ込み、走り出した。

 

……その場にはパンツだけが残されていて。

 

なぜそれだけ拾っていかなかったのか不明で。

 

「うーん、なんですかね、この気持ち」

 

溶け去った午来に怯える恋の頭をなでながら、岬はそう独り言ちたのであった。

 

 

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