世界の中心で剣は世界一可愛いと叫ぶ〜そんな俺は剣のお世話係〜 作:イチゴ侍
どうしてこうなったのかは今でも分かりません。
空気感は戦姫絶唱しないシンフォギア寄りというかまんまです。戦わないし、敵とのお話(高町式)もありません。
ついてこれる奴だけついてこいッ!の精神で、よろしくお願いします。
……って言えばなんでも許されるってマリア姉さんも言ってた。
『風鳴翼の世話係の面接受けたったwww』
それは突如ネットの海に流れてきた話だった。
風鳴翼と言えば日本が誇るあの大人気アーティスト、歌声はもちろんの事、スタイル良し、人柄良しの男女問わず憧れる女性だ。
未だ20代入ったばかりほどの彼女だが、若者受けの歌だけでなく演歌も歌えるほどのバリエーションで老若男女知らぬ者無しだ。
そんな風鳴翼のお世話係とはなんなのか、PCの画面に映るその呟きをマジマジと見つめる
『それマ? kwsk』
『なんか極秘? だかなんだかで風鳴翼のマネージャーが募集かけてたみたいで人数は1人だけらしいぞ』
『極秘なのにバレてるの草』
『いや実は俺関係者だしw』
『関係者がお漏らしw』
『これどうやったら応募できるのよ』
『↓にURL貼っとくわ』
『これは有能』
『関係者ナイス』
『てか関係者さんが受かってたらもう終わりじゃね?』
『それな』
『あれ? バレた? w』
『クソ野郎過ぎて笑えねぇ……』
『上げて落とすな』
それからこの関係者と何十万と及ぶ人達のやり取りが続き、後から嘘でしたなどとは言えない状況となる。
しかしこのやり取りは唐突に終わりを迎えた。
『あれから誰か応募した?』
『関係者が落ちたら応募する』
『↑に同じく』
『てか関係者さん最近呟いてなくね?』
『それな』
『まさか受かってウハウハで忘れてるとか?』
『はー羨ま。あの風鳴翼のお世話とか』
『てか風鳴翼のお世話って何するのよ。前にテレビで部屋見たけどめっちゃ綺麗だったじゃん』
『実は汚部屋とか? w』
『それはありそう』
『仮部屋だったのか……』
『それは萎える』
『ギャップ萌えしそう』
『それな』
『てかほんとに関係者さん来ねぇな』
それから数日間、関係者は一度も呟くことなく、関係者のアカウントは削除された。それを人々は応募終了のお知らせだ、社会的に抹殺されたんだと言うふうに捉えていた。
が、一部それらとは真逆の考え────関係者が面接で落ちたのでは? と捉える者が現れた。それを好機と捉えた者たちはこぞってあの募集のURLから風鳴翼のお世話係の募集に応募し始めた。
それから落ちただの、返事待ちだのと会話が飛び交うこととなった。しかし"受かった"という文字は全く現れない。
それは単純に受かっても言えないルールがあるのかもしれないが、募集が終わってない事を見るにそれはありえない。
こうしてお世話係の募集は実在していた事がネットの海で知れ渡ることとなった。
「……完成した」
部屋に一人、机に面と向き合い一枚の紙を掲げる一人の
「合格報告は……無し、よしっ」
男は手に持った一枚の紙を透明なクリアファイルに慎重に収め、黒いビジネスバッグに入れるとスーツに着替え始める。
水色のネクタイをしっかりと閉め、両頬をバチッと叩き気合を入れた。
「よっし、行くぞ……!」
部屋を抜け、玄関を出る男。その足が向かう場所はただ一つ────。
◇
その日、今日も今日とて緒川慎次は頭を抱えていた。
「これで524人目……ですか」
それは"風鳴翼のお世話係"の応募者数であり、緒川が面接をしてきた人数でもある。
そして緒川こそが、風鳴翼のマネージャーでありこの募集を始めた発起人だ。
当初では自分が知りうる人限りでの募集に収めるつもりだったこの募集。しかし、その中の一人によってネットの海に流されてしまい、一般からも募集が来るようになってしまったのだ。
ちなみに流した人物は、既に社会的に抹殺されている。
即座に募集を切ることも考えたが、知人の中では合格者が現れることが無かった。そこで不承不承ながらも一般からの募集も続けることに決めた緒川だった。
「緒川、やはり面接を越えられる者は現れないか?」
「司令……」
「ま、無理もないか。これまで翼を支え続けたお前が面接するんだからな」
司令と呼ばれたOTONA────風鳴弦十郎は、近くに置かれていた履歴書に目を通す。
「さっきの奴なんか良かったんじゃないか? 資格や志望動機なんかも問題なしだろ」
「いえ、彼は……上辺だけでしたね。翼さんのことについて少し喋るとそれが容易に浮かんできましたから」
「なるほどな」
罠にかかった、という事だろう。一般から募集をかけるとはすなわち、風鳴翼のファンがやって来るのは明白だ。自分の憧れの人、好きな人に近づけるチャンスが転がっているのだ、それを無視できるほど人間は簡単ではない。
「しかしあれですね。皆さん誰もが翼さんのファンですとはハッキリと言わないんですよね」
「それはあれだろ。ファンだからなんて言っちまえば警戒されるのがオチだ」
ファンの中にはそれはソフトな気持ちで推している者もいるだろう。しかし中にはかなり危険な分類に入るようなファンもいる。本人を近づかせれば暴走するような輩や、下心満載な輩、数えればキリがない。
だからこそ"ファン"という肩書きは非常に警戒されてマイナス評価に繋がる可能性があるのだ。
「僕としてはファンだと言ってくれる方が嬉しいんですけどね」
「なるほど、つまりは──リスクを承知で名乗れる奴くらいじゃなきゃまず無理って事だな」
「はい……おっと、そろそろ次の方ですね」
「お、なら今回は俺も同伴させてもらうかな」
次の方、ご愁傷さまです……と心の中で合掌する緒川。世の中には圧迫面接という言葉があるが、弦十郎に至ってはただの一人で圧迫面接を凌駕する圧迫面接となるだろう。
一言も口にせずとも存在感だけで圧倒するそれがたまたま偶然にも自分の番に居座るとは、もうすぐやってくる方には想像もつかないだろう。
そして面接室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、緒川と同じくらいかそれ以下の身長のある男だった。髪は染めることなく真っ黒で、肌が白くアウトドア派には全く見えない。顔は可もなく不可もなくという感じで、可愛い寄りのかっこいいといった印象を受けた。
服装は自由に私服でもOKと募集には書いていたが、スーツでやってきたのは彼を含めて数人ほどだっただろうか。緒川の中では第一印象は良好だ。
「どうぞ、座ってください」
「はい」
緒川に向かって一礼する男、そればかりか隣にいた弦十郎にも男は礼をする。
「では、まず自己紹介をお願いします」
「高波隼斗です。現在はフリーターで、就職活動中です。趣味は料理と掃除……あと、風鳴翼さんの歌を聴くことですね」
その時、緒川の目が光る様を弦十郎は見逃さなかった。
「本日はお忙しい中、お時間頂きありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします。僕が風鳴翼のマネージャーを努めさせて貰っている緒川慎次です。そしてこちらが……」
「風鳴弦十郎だ。苗字の通りだが、俺は翼の叔父に当たる者だ。よろしく頼む」
弦十郎の礼と共に礼を返す隼斗。内心、隼斗はその威圧感に圧倒されかけるが何とか踏みとどまっていた。それを微塵も表に出さないそのメンタルに、緒川は密かに賞賛していた。
「では高波さん。あなたは現在、就職活動中のようですが、どのようなお仕事に就きたいと思っていましたか?」
「家政婦になりたいと思っていました。物心つく時には既に料理や家の掃除など、母がやっている事には興味を持っていました」
「なるほど、それで料理と掃除が趣味ですか。腕の方はどうなんですか?」
「かなり良いと家族や友人にもよく言われます」
口頭で伝えるのは簡単だが、この答えをはっきりと言える言えないでは、この面接の次に行われる実践テストで大きく関わってくるため重要なのだ。
「他には風鳴翼の歌を聴くこと……と言いましたが────」
「ファンです」
「……」
「ほう……」
それはこれまで524人を相手にしてきた緒川の中で初めて聞いた言葉だった。誰も彼もが禁句とばかりに口にしてこなかった"ファン"という三文字。
緒川はその瞳を鋭く構え、弦十郎は関心の声を漏らす。一瞬にして空気の変わった面接室、だが隼斗は臆することなく次の問いかけをただ待つ。
「では、翼さんの歌で好きな歌を挙げるとするならどれでしょうか?」
「"FLIGHT FEATHERS"です」
それはかつて、アーティストユニット"ツヴァイウィング"として片翼の天羽奏と共に歌っていた翼がその片翼を失い、活動復活後に一人ステージに立って歌った曲だった。
「僕が風鳴翼さんを知ったのはそのライブが初めてでした。そこで初めて聴いたあの歌はどこか悲しく、そして強い想いを感じました。きっとそれはツヴァイウィングとして活動していた頃に共に居た天羽奏さんを思っていたのだと解釈してます。それ以来風鳴翼さんのファンで他にも上げればキリがないほど好きです」
「なるほど……」
緒川は強く頷き、弦十郎はただ静かに噛み締めていた。
「では、高波さん。志望動機を教えてください」
「風鳴翼さんのお世話がしたい。それだけです」
真っ直ぐに一直線に目を向ける隼斗。その目はしっかりと緒川を捕らえて離さなかった。しかしその呆気なさに緒川は肩透かしをくらっていた。
「そ、それだけですか?」
「はい」
緒川はそっとこれまでの志望動機を思い出す。524人全員が同じような長い動機をペラペラと話していた。
しかし、今目の前にいる男はたった数文字だけしか口にしなかった。どんなに聞き返しても"それだけ"だと頑なに変える気はないらしい。
「そ、それだけ……えっと、もっと他に……そう、熱い思いとか……」
「緒川?」
それは長い付き合いの弦十郎ですら見たことがないような緒川の姿だった。どんな予想外にも冷静に対応していた緒川が今、慌てているのが目に見えて分かる。
おそらく524人もの相手をこれまでしてきて、初めてのタイプに出会ったからこその動揺なのだろう。
「熱い思い……。では、志望動機と言うには少し違うかもしれませんが、決意表明と捉えてください」
「は、はい、それでお願いします」
「ではこの際だから言います────まず、お給料いりません。そして関係を持ちたいとも思いません。下心とかも微塵もありません。ただお世話したいんです。もちろん信用出来ないと言うのならば、去勢しても構いません! なので! 風鳴翼さんのお世話をさせてくださいッ!」
高らかに決意表明した隼斗。その数秒後、弦十郎は笑いだし、緒川は目を閉じた。
そして隼斗は去勢しかけた(未遂)
◇
数日後。
「……というわけで、525人目の応募者である高波隼斗さんが第一面接突破となりました」
「すいません緒川さん。何が"というわけ"なのか全くもって分かりません」
「525人目ですよ。翼さんのお誕生日と同じ数字ですね! 当たりですよ!」
「お、緒川さん……?」
「翼。そっとしてやれ」
いつもと明らかに様子のおかしいマネージャーを心配する翼。事のあらましに関しては弦十郎を通して伝えられた翼だが、ある部分で引っかかった。
「きょ……きょせ────っ!?」
「まさかその場で切り落とそうとするとは思わなかったな」
「そ、その────ば!?」
顔をこれでもかと真っ赤に染める風鳴翼19歳。立派に大人の分類だが、まだまだそっちの知識に関してはウブである。
「だ、大丈夫なんでしょうか……その人は」
「ああ。ある意味、俺が知る中で一番のファンだろうな。なんせきょせ────」
「────も、もういいですっ!」
そして翼は全身真っ赤になりながらもその場を後にした。
「ぜ、絶対まともな人じゃないよ……奏……」
今は亡き片翼に助けを乞う風鳴翼19歳だった。
高波隼斗22歳
調理師の専門学校に通おうかと思った所、別に料理人になりたいわけではなくて、ただ家政婦(家政夫?)になりたいだけなため、高卒状態で就職活動していた。そこで嗅ぎ付けた"風鳴翼のお世話係募集"まさに隼斗にとって千載一遇の大チャンスとなった。
こんな感じで書いていきますのでよろしくお願いします。