世界の中心で剣は世界一可愛いと叫ぶ〜そんな俺は剣のお世話係〜   作:イチゴ侍

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実践テスト①

 隼斗が"風鳴翼のお世話係"に応募してから数日後、無事に面接を通過した事が伝えられ、次は実践テストの案内がやってきた。

 

 

「筆記試験とかはよく聞くけど、実践って何をやるんだろ」

 

 隼斗は自室で掃除機をかけながら考える。普通に考えればこれはお世話係の募集なため、予想できることと言えば料理、そして住まいの掃除、衣服の洗濯だろうか。

 さらに視野を広げれば仕事のサポートだったり、身体のケアも入るだろう。

 

 身体のケアと聞けば誰しもがキャッキャウフフなのを想像するが、去勢した男(未遂)である隼斗の場合は微塵も浮かぶことは無く、エステや整骨院などのマッサージを想定していた。

 

 

「その辺も視野に入れて今のうちに鍛えるか?」

 

 そしてその翌日、隼斗の母はピッチピチの肌と体の柔らかさを手に入れたとか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして、実践テスト本番の日。

 

 約束の場所に着いた隼斗。集合場所は予想外にも都心の高級ホテルだった。かなりの高さで普通の一般人なら5年かけてやっとな程の額を要求されるホテルで、設備も最高級、ネット評価など付けられる代物ではないほどのモンスターホテルだ。

 

 想像以上な場違い感に居心地が悪くなる隼斗。ホテル内に入り、入口付近のフカフカのソファに腰掛ける。

 

 

「……や、やわらか過ぎる」

 

 使い古されたソファなど足元にも及ばないその弾力性。今座ったばかりにも関わらず即座に隼斗の腰にフィットするよう形を変える対応力。

 表面には糸くず一つあらず、封を開けられたばかりではという程の新品さ。

 

 隼斗は軽くショックを受けた。

 

 

「今の俺じゃこれほどまでにソファを保たせる技術はない……まだまだだな」

 

 しかし、隼斗は知らない。

 たまたま座ったそのソファがまさかの本当につい先程封を切られ、置かれたものだったという事を。

 密かにそのソファの着席第一号となった隼斗だった。

 

 

「高波さん。お待たせしました」

 

「あ、緒川さん。本日はよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ。では、案内します」

 

 実践テストの詳細は結局のところ今日まで何一つ教えられていない。何が必要なのか、何が待っているのか、検討も付かない隼斗は言われるがままに緒川の後をついていき、たどり着いたのは、VIPルームだった。

 

 

「ここって……あの有名人とかじゃないと入って来れないって言う最高級の……」

 

「よくご存知ですね。あっ、確か以前にテレビの取材が入っていましたね」

 

「はい! その放送は俺も見ていて……あっ、俺じゃ無くて……すいませんでした」

 

「ああ、大丈夫ですよ! 高波さんの人となりは面接で終えているのであとは実力のみです。普段通りの話し方で構いませんよ」

 

「……」

 

 隼斗は軽く息を飲む。長い廊下を歩き、ようやくたどり着いた一室。その前に立たされ、インターホンを鳴らした。

 

 

「はい! 今開けます! 緒川さんですか────」

 

 中から聞こえてきたのは、紛れもなく隼斗の憧れでもあり毎日のように聴いている女性の声そのものだった。

 徐々に近づいてくるその足音に胸躍らせ、隼斗はジッと待つ。

 

 そしてドアが開き中から現れた人物と隼斗の視線が交差する。

 

 

「あっ……」

「へっ……?」

 

 現れたのはあの大有名人────風鳴翼。そしてその翼の前に現れたのは見知らぬ男性────高波隼斗。

 そして傍でその一瞬を見ていた緒川は、

 

 

「翼さんには言ってませんでしたね。彼が面接を通った高波隼斗さんで、今日が実践テストの日でした」

 

 ニッコリ顔で事故報告を済ませる緒川。その動じない姿勢に隼斗とは呆れ、翼はプルプルと震えていた。

 

 

「緒川さんッ!」

 

「まぁまぁ翼さん。サプライズですよ」

 

「マネージャーともあろう人がスケジュールを事前に伝えないなんて……」

 

「あはは……つい」

 

「最近の緒川さんはたるみ過ぎですよ?」

 

「────あ、あの……」

 

 二人のあれやこれやと始まる会話に着いていけず、ハブられていた隼斗が口を挟む。

 ようやく気がついた翼と、申し訳なさそうに首の後ろに手を当て苦笑する緒川。

 

 

「翼さん、いつまでもこんな所で話す訳にもいかないのでそろそろ入れてもらってもいいですか?」

 

「い、入れる……とは?」

 

「文字通り高波さんと僕をです」

 

「ど、どこに……?」

 

 無言で指を指す緒川。その指先は翼の部屋を指していた。

 これでようやく話が進む、そう安堵しかけた隼斗だったが、それは虚しく崩れることとなった。

 

 

「それは……その、少し! ほんの少し待っていてください!」

 

「え?」

 

 隼斗にそう言うと翼は、すぐさま開けたドアを閉じようと動く。呆気にとられる隼斗の前に、颯爽と動く黒が見えた。

 

 

 バンッ、と音が鳴った。

 

 

「お、緒川さん……!」

 

「翼さん、ダメじゃないですか。閉めてしまったら入れないですよ?」

 

「ヒェッ……」

 

 何かに怯える翼。その視線が捕らえたのは、満面の笑みを浮かべた魔王だった。

 しかし、何に怯えているのか隼斗の位置からでは全くもって見当もつかなかった。

 

 閉められかけたドアがミシミシと音を鳴らし、それはまるで二人の鍔迫り合いに挟まれてしまったドアの助けを求める声にも聞こえた。

 

 

「緒川……さん、離してください……!」

 

「翼さんこそ、そろそろ諦めてください」

 

「くっ……!」

「……っ」

 

 一体何を見せられているのか、隼斗は思う。まず自分は今日ここに何をしに来たのか、それすらもあやふやになってきてしまっていた。

 

 

「ちょ……二人ともそろそろ……」

 

「すいません高波さん、今止めますね!」

 

 そう言うと緒川は、おもむろに胸元からギラっと刃先が光る短刀を取り出した。

 

 

「あの!? 俺が言ってるのはそういうそろそろじゃなくて!」

 

「行きます!」

 

 隼斗が止めようと動くが、間に合わない。緒川の抜いた短刀はその先を地面に向け投げられた。翼の足が危ない、その後に待っている惨劇を隼斗は想像し目を瞑る。

 

 そして翼の悲鳴が聞こえ────、

 

 

「……お、緒川……さん」

 

「少しばかり大人しくしていてください」

 

《影縫い》

 

 それはNINJAなら誰しもが扱えるという忍術の一つ。文字通り対象の影を地面に縫い付けて、その動きを確実に止める技だ。それを扱えるのもNINJAであり、解けるのもNINJAだけだ(一部例外を除く)

 

 体の自由を奪われた翼は、ドアを閉める体制のまま固まりその手に入る力もまるで入らない。

 

 

「さ、高波さん。試験会場はこちらです」

 

 まるで何も無かったかのように振る舞う緒川の姿勢に少々の恐怖を感じた隼斗。緒川に着いていくように足を進める隼斗だったが、横切る際の翼の悲痛な表情に少しばかり心痛める。

 

 それほどまでに人をあげたくないのかと、隼斗は疑問に思う。

 

────が、その疑問はすぐさま解決されることとなった。

 

 

「これは……フィクションですか?」

 

「いえ、ノンフィクションです」

 

 それはホテルの部屋と呼ぶにはあまりにも汚く、おぞましかった。これほどまでの惨状は隼斗の記憶上、中学時代に経験した修学旅行の男子部屋が最後だった。それがこのような形で塗り潰されるとは思いもしないだろう。

 

 脱ぎ捨てられた服やスカート、一足ポツンと捨て置かれた靴下。常人の男ならば鼻の下を伸ばしに伸ばすであろう下着の類。

 そしてそれだけかと思いきや、どこで買ったか大量の空のペットボトルゴミ。さらには食べ終わった後であろう弁当のゴミ!ゴミ!そしてゴミ!数えればキリがないほどだった。

 

 

「緒川さん……これはあれですよね? 俺の実践テストのために用意されたんですよね? そうですよね?」

 

「いえ、正真正銘……風鳴翼の生活風景そのものです」

 

 玄関の方から悲鳴が聞こえる。隼斗は聞こえない振りをしながらも心の中でご愁傷さまと合掌した。

 

 これまで出会ってきたことがないレベルの汚部屋でかつ、足場すら確保するのも難しいこの現状の中、隼斗は体の震えが止まらないでいた。

 

 

「高波さん?」

 

「緒川さん、理由はともあれ実践テストっていうのはつまりこの部屋を綺麗にできるか……ってことですね」

 

「その通りです。さらに言うと翼さんの衣服類を綺麗に収納する事も入ります」

 

 緒川は床に無造作に置かれていたキャリーバッグを指さす。かなりの大きさではあるが、明らかに散乱した衣服の数と大きさが比例していないようにも隼斗は思えた。

 

 

「でも本当に良いんですか? 翼さんは女性な訳ですし、下着とか俺が触れても嫌じゃないんでしょうか?」

 

「そうですね、どうでしょうか? 翼さん」

 

 同タイミングで先より身動きが取れずにいた翼がようやく動き出し、言いたい事がたくさんあると言わんばかりの複雑な表情を浮かべていた。

 

 

「……はぁ、はぁ……」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「いえ、ありがとう……ございます」

 

 緒川と隼斗が話している間、翼は常に緒川にかけられた影縫いを解除するために必死に頑張っていたが、その影響かもう既にどこかやつれていた。

 

 そしてようやく話は進むこととなる。

 翼の下着の件については、片付けられなかった翼の落ち度ということで不承不承ながらも隼斗が触れることを了承する形となった。

 緒川としても隼斗がそれでナニかをするかもという警戒は、面接の時点で無いに等しいと理解しているため何も言うことは無かった。

 

 

「では、制限時間60分。開始してください!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゴミが一つ、ゴミが二つ、ゴミが三つ……。

 まず隼斗が手をつけたのは、すぐに片付けられる散乱したゴミの収集だった。

 

 瞬時にゴミ袋を三つ用意し、分別していく。

 

 

「器用なものですね」

 

「慣れてますから」

 

 その場には椅子にちょこんと座る翼の姿があった。

 翼の同席に関しては隼斗たってのお願いだった。当初は緒川共々部屋を後をにする予定だったが、面接で相対した緒川と違い、翼とは今日が初顔合わせである。そんな中で自分の私物が見ぬ間に漁られるのは良くは思えないだろうと察した隼斗が翼に監視役としていてもらうことにしたのだ。

 

 

「今日も仕事とかあるんですか?」

 

「あ、いえ。仕事自体は昨日で終わっていたので今日はお休みでした」

 

「それは申し訳ないことしましたね……」

 

「え?」

 

「せっかくの休みだし、翼さんのご自宅はここ付近じゃないんですよね? 観光とかしたかったですよね」

 

 自分が片付けている間の時間で羽を伸ばせたであろう事を知り、監視役などと縛ってしまったことを後悔する隼斗。

 それを感じ取った翼はすかさず否定した。

 

 

「いえそんな! むしろ人に掃除を頼んで私だけ楽しむなど出来ません……」

 

「優しんですね。翼さん」

 

「……っ」

 

 不意に投げかけられた言葉に数秒動揺する翼。歳の近い男性が周りにあまりいないため、そのような事を言われるのは慣れていなかった。

 

 

「た、高波さんは……その、どうしてこんな事やろうって思ったんですか?」

 

「翼さんのお世話係ですか? 面接の時にも言ったんですが、ただ単純にお世話がしたい。それだけなんですよ」

 

「それだけ……」

 

 気付けば大量にあったゴミは全て袋に閉じ込められていた。

 汚部屋に滑車をかけていたゴミが消えるだけで印象がガラリと変わったのを隼斗はもちろんの事、翼も実感していた。

 

 

「凄い……」

 

「俺、家政夫になりたかったんですよ」

 

「家政夫というと家事代行のですよね」

 

「はい。世の中には片付けたくても自分ではどうすることも出来ない、そんな人がたくさんいますよね」

 

 翼は大きく頷いた。

 

「他にも仕事が大変でそっちに手が回らなかったりとか、そんな人達の為に何かがしたい。そう思って家政夫になりたいって思ったんです。そしてそんな夢への第一歩に大好きな風鳴翼さんが相手なんてほんと死んでもいいレベルですよ」

 

「そんな大袈裟なこと……」

 

「大袈裟でもなんでもないです。ほんとに大好きですから」

 

 下心のまるで無い隼斗の一途な物言いに、翼は恥ずかしくなり下を向かざるおえなくなった。

 甘酸っぱい、それとは無縁だった翼にとってはこの空気がとても居心地が良く感じられた。

 

 ────青春ですね。

 黒スーツのNINJAは後にそう呟いたとか。

 




翼さんのお世話がしたい……(切実)
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