世界の中心で剣は世界一可愛いと叫ぶ〜そんな俺は剣のお世話係〜 作:イチゴ侍
(発表の日に投稿していた事密かに運命だと思っちゃいました笑)
「あの、翼さん……これは」
「あっ!それは────」
隼斗の実践テストはまだまだ続いていた。当初は滞りなく進んでいた掃除だが、ある物によってその手が止まることとなった。
それは勿論────風鳴翼のブラジャーとショーツだった。
青色の大人物の下着で、無地ならまだしもかなりのセクシー路線で隼斗は反応に困っていた。
「えと……それは……下着の宣伝CMを撮影した際に頂いたものであって決して私のでは……」
「なるほど、貰い物でしたか」
「は、はい……ですから……」
翼が大人ぶって無理して背伸びしていると思われたくないのだと考えた隼斗は、安心させるように話す。
「心配しなくても大丈夫ですよ。翼さんに良く似合ってると思います……って、これじゃあセクハラですね」
などとおちゃらけて話を逸らそうとする隼斗。その姿勢……ではなく、"似合ってる"と言われたそのことに少しばかり翼の肩が跳ねた。
「や、やはり下着は私がやります!」
一度も履いていないとはいえ、一度下着で一悶着あったということで恥ずかしさが勝り、翼は率先して下着だけをかき集めて畳み始めた。
しかし、その畳み方を見た隼斗は物言わざるおえなかった。
「翼さん、翼さん、その畳み方だと下着がかさばって他の物がケースに入らなくなりますよ」
「え?」
「翼さんがせっかく協力してくれたのにすいません。少し貸してください」
翼が畳み掛けていたショーツを手に取り、隼斗は翼に見えやすいようにゆっくりと畳み始めた。
「まずはこうして縦に三つ折りにして……」
「は、はい!」
同じくショーツを手に取り、隼斗の見様見真似で手を動かしていく翼。その様はまるで、親に教えを乞う子どものようだ。
「それでここで折って……」
「……こう、ですか」
「はい! それでこのウエスト部分の所に入れれば……」
「わぁ……小さく畳められました!」
隼斗と同じタイミングで完成した翼。隼斗の目にも完成品を嬉しそうに見せる翼の姿は娘のように見えた。
「上手ですね翼さん! それにこうして畳めば……」
隼斗は、自分と翼の畳み終わったショーツをキャリーバッグに収めてその状態を翼に見せる。
「……綺麗」
「旅先からの帰宅でこんなに綺麗にしなくても良いといえばいいんですが、これも実践テストで重視されるかもと思いましたのでね」
「あっ……今は実践テストでした」
「あはは、そういう自分も忘れかけてました」
お互いにこの空気感が心地よく感じられた為か、緊迫していた空気もいつの間にか消え去っていた。
「いけませんね。言わば今の私は試験監督という立場だと言うのに……」
「では引き続き、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで残りの下着に関しては……」
「わ、私がやります! 畳み方も習いましたので!」
流石に一枚目のことが応えているのか、はたまたようやく自分で出来るようになったから張り切っているのか、その真意は隼斗には分からなかった。
「……と、ところで女性の下着の収納に詳しいようでしたが……まさか」
「あ、いえいえ! その……うちは早くに父を亡くしてて、母が独り身で仕事片手に自分を育ててくれてたんです。だから家事洗濯事は全部自分がやっていて、そこで母の下着も閉まっていたので知っているだけですよ」
翼は踏み込みすぎたと後悔する。よく良く考えれば隼斗の家事についての知識や経験はあまりにも高すぎた。それは1年、2年じゃ届かないほどの高みで、翼自身も深い事情があることは薄々感ずいていたのだ。
「ごめんなさい」
「どうして翼さんが謝るんですか?」
「いえ、その……嫌なことを聞いてしまったと思い……」
「気にしないでください。父の顔はあんまり覚えてないんですよ……物心着く前にいなくなってしまったので」
つまりそんな頃から隼斗は母の手伝いをこなそうとしていた。それがさらに翼に重くのしかかった。
「……ごめんなさい」
小さく、とても小さな声で翼は声を震わせた。
◇
隼斗の実践テストが始まってから1時間が経過していた。散乱していた翼の衣服類に関しては、始まってから30分程で全て終了していて、残りの時間は全て借りた部屋の掃除に当てられていた。
「まるで最初に入った時のように綺麗になってる……」
「制限時間までには何とか間に合いましたね」
隼斗はこの後に部屋の清掃を行う作業員が楽になるようにと、ベッドのシーツや枕カバー、使用されたタオル類諸々を全て1箇所に纏めていた。
風呂場を掃除し始めた際には、そこまでやるのかと翼に言わせたほどの隼斗だった。
終了のアラームが鳴ると同時に、ドアがノックされた。
「時間通りの到着です、緒川さん」
「翼さんも試験監督ご苦労様です」
やってきたのは緒川だった。彼は入ってきてすぐさまその異変に気がついた。
「これは凄いですね……」
「お眼鏡にかなって何よりです」
辺りを見回す緒川。予想以上の出来に驚きを隠せていなかった。
その傍ら、ずっと過程を見ていた翼はというと、自分のことのように鼻を高くしていた。
「では細かく採点していきますね」
「よろしくお願いします!」
それから緒川による点検が行われた。大まかにテーブルの上や、ベッド付近、クローゼットの中から玄関まで見ていく。
「どこも完璧ですね。言うこと無しですよ」
「っし!」
小さくガッツポーズする隼斗。そんな年不相応な仕草を見た翼は、思わず笑みを浮かべる。
「あっ、緒川さん! お風呂場も見てください」
「お風呂場ですか? もしかして……」
「はい、一応」
風呂場を覗くと、水滴は愚か、髪の毛一つ余すことなく落ちてない状態だった。
「徹底してますね」
「ホテルなのでそこまでやる必要は無いんですが、実践テストという事は翼さんの家を想定したテストだと思ったので隅々までやらせて頂きました」
「なるほど」
深く頷く緒川。その内心では緒川の真意を当てていた隼斗に感心していた。
(見事に当てられてしまいました。掃除に関しては文句無しですね)
「次はバッグの中身を確認します。翼さん、少し失礼します」
「あ、はい。どうぞ」
それからそれから……。
緒川の採点は終了し────
「結果発表〜」
隼斗の命運を決める瞬間がやってきた。
「……と言っても、文句無しの合格ですけどね」
「ほんとですか!」
「ここまでの成果を見せられて不合格なんて言えませんよ」
緒川は苦笑し、隼斗はようやく肩の荷が少し降りた気がした。傍にいた翼もまた、自分の事のように喜びを噛み締めていた。
そんな翼の変化に緒川はすぐに気がつく。
「翼さんも嬉しそうですね」
「────え、あ……その、思わず」
自分でも無意識だったため、指摘されてようやく気がついた様子の翼だった。
「このまま行けばいいパートナーになってくれそうですかね」
「……?」
「いえ、こちらの話です。ともかく、高波さんの実践テストは合格です!」
「ありがとうございます!! ……でも、実践テスト"は"って事はまだ待っているって事ですよね?」
「そうなんですか?」
翼の問いかけに緒川は首を横に振る。
「高波さんを採用する事は無事決まりましたよ」
「で、では!」
「しかし、高波さんは最近までは普通の一般人でした。そんな彼が多忙な翼さんと共に行動するためには体力が必要になります」
「あ……」
風鳴翼の活動範囲はもはや日本に留まらず、世界各地にまで伸びている。そうなればお世話係は自ずと着いていくことになってしまう。泊まりとなればその場でお世話係を全うし、日帰りが出来るのなら自宅で……というように毎日が忙しくなる。
「ですので、高波さんにはこれからお世話係を全うするための体力作りをしてもらいます」
「えと……それ自体は構わないんですが、それは筋トレとか、ジムに通うとかそういう事ですか?」
「確かにそういった事も行いますが、僕にうってつけのトレーナーの心当たりがあるのでその方の元で修行してきてください!」
「しゅ……修行……?」
「────まさか、緒川さん……」
無言で笑みを浮かべる緒川。その真意が読めぬまま、その日は解散となった。
しかし、隼斗はこうして風鳴翼のお世話係という役職に就くことが出来たのだった。
◇
「……というわけで、明日から修行に行ってきます」
「ねぇ、隼斗……少し頭冷やそうか?」
自宅に帰ってきた隼斗は、早上がりで家に帰っていた母に仕事が決まったと報告をしていた。
「え、いや……だから修行に……」
「仕事が決まったって話じゃなかったの!?」
「うん、仕事決まったよ」
「それで?」
「修行に出てきます」
「……息子がいつの間にか日本語を忘れてしまったわ」
ダイニングテーブルに項垂れる母────
女手一つで育てたはずの出来た息子が、いつの間にかアホの子になってしまったのではないか?と冷や汗が止まらないでいた。
「と、とりあえず……仕事先は決まったのね?」
「うん。かなりの良待遇だし、仕事内容も簡単すぎて貰いすぎなんじゃないかって恐縮するくらいにはお給料もいいよ」
「……それだけ聞くとアブナイ系のお仕事なんじゃないかって心配になるんだけど……」
「そのうち緒川さん────翼さんのマネージャーさんから挨拶に来るって言ってたから大丈夫だよ」
少し厄介な案件を終わらせてから伺う、そう隼斗に伝言を託した緒川。その厄介な案件というのとマネージャーの仕事にどう直結するのか頭を悩ませた隼斗だったが、人の影を縫い付けるとか訳の分からない技を見せられた以上、なんでもありなのだと思うようになった。
「それにしてもあの風鳴翼ちゃんのお世話係……ね。よく合格出来たわね」
ま、うちの隼斗なら余裕だけど! と親バカを炸裂させる菜乃。その鼻は高くなっていた。
「あー、面接官の前で去勢しようとしたからかな」
菜乃は高くした鼻を折りかけた。
◇
「……ここか」
あれから数日、隼斗は緒川に渡されたメモの通りの場所にやってきていた。
外装からして道場のような雰囲気を醸し出した門構え、そして日本の古き良き庭園が見え心が澄んでいくようだった。
「あのー、すみませーん! 緒川慎次さんの紹介で来ましたー!」
「────ん? おお! 来たか!」
中からやってきたのは大男……ではなく、隼斗にとっては見知った赤髪の男だった。
「緒川からも聞いている通り、今日からお前を鍛えることとなった────風鳴弦十郎だ! よろしく頼む!」
こうして隼斗の試用────もとい修行期間が始まった。
キャラ紹介
高波菜乃(年齢は非公開)
今は亡くなった夫とは小学生の頃からの仲だった。とにかく仕事に熱心で時には家に帰り忘れることもしばしば……。隼斗が小学校に入る前に夫が亡くなり、それから一層仕事に入れ込んでしまったため隼斗に寂しい思いをさせてしまった。その事を今でも悔いていて、隼斗が小学校高学年になってからは親バカ並に愛情を注ぎ始めた。
怒ると怖い。言う事を聞いていればとっても良いお母さん。中学生くらいまで魔法少女に憧れてい(この先は赤く塗られていて良く読めない)
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