世界の中心で剣は世界一可愛いと叫ぶ〜そんな俺は剣のお世話係〜   作:イチゴ侍

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防人は男を知り、可愛くなる

 風鳴翼のお世話係は、いつどんな時であろうとその仕事を全うしなければならない。

 

 例え同じ部屋に泊まったとしても、

 

 

「翼さん、上着掛けますからください」

 

「は、はい! ありがとう……ございます」

 

「少し寒いですか? 室内温度上げておきましょうか」

 

「いえ! お構いなく……」

 

 

 ベッドが一つしか無くても、

 

 

「た、高波さん! ベッドが……一つしかありません!」

 

「緒川さんだな……仕方ありません。二人で使いましょうか」

 

「え゛」

 

「あー、勿論自分は全身縛りますので襲われる心配は無いですから」

 

「う、疑ってなどいません! だ、大丈夫です……常在戦場……常在戦場……」

 

 

 背中流しでも、

 

 

「背中流しますねー」

 

「────っ! た、高波さん!?」

 

「大丈夫です。目隠してますので!」

 

「そ、そういう問題ではありません!!」

 

「では、行きます」

 

「ひゃっ! そ、そこ……」

 

 

 シャンプーでも、

 

 

「翼さんの髪はほんとに綺麗で触り心地も良いですね」

 

「も、もう……好きにしてください」

 

「一生懸命やりますから、リラックスしててください」

 

「……とても手慣れていますね」

 

「翼さんの為ですから」

 

「そ、そうです……か」

 

「気持ちよくないですか?」

 

「い、いえ! むしろもっとやっていて欲しいくらいで……はっ」

 

「なら良かったです」

 

 

 浴槽の中でも、

 

 

「あー、体に染みるぅ……」

 

「ふふっ、なんだかお年寄り臭いですよ」

 

「あ……ついリラックスしてしまいました」

 

「今のが素の高波さんだったりします?」

 

「────恥ずかしながら」

 

「恥などでは無いですよ。少なくとも、私は今のでもっと高波さんを知りたくなりましたから」

 

 浴槽に並んで浸かる二人。隼斗は、不意に横目に見た翼の笑みに心をギュッと掴まれた気がした。

 

 トップアーティスト、風鳴翼の魅力の一つを実感した隼斗だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 風鳴翼は悩んでいた。その悩みの種は勿論、自分のお世話係である高波隼斗。

 

 隼斗の仕事っぷりに文句がある訳ではなく、むしろ関心ばかりの翼だが、今ひとつ納得の出来ない事があった。

 

 

 ────女性に興味が無いのだろうか……?

 

 

 その片鱗に関しては初対面の時から見え隠れはしていた。どんなに翼の下着を目にしても何かを言うわけでも、何かをする訳でも無い。黙々と他の衣服と同じく扱うのが隼斗だ。

 

 

「翼さんもう上がりますか?」

 

「は、はい。のぼせてしまっては明日の練習に支障があるかもしれないので……」

 

「着替えは用意してあるのでそれを」

 

「ありがとう……ございます」

 

 何から何までして貰っている。翼は、隼斗がお世話係だと言うことを忘れて、申し訳なさを感じてた。

 

 

(……どうして私はこの状況を当たり前のように感じているのだろうか)

 

 初の海外進出、その準備として泊まったホテル。そこでまさかお世話係の男性と二人っきりの部屋に入れられ、さらにはお風呂を共にするなんて誰が想像出来ただろうか。

 普通なら同部屋はまだしも、お風呂は受け付けることはありえないだろう。ましてや相手は知り合って一年にも満たない男性だ、そんな者と湯を共にしている事に翼は不思議と嫌悪感は湧かなかった。

 

 

「……私も焼きが回ったかな」

 

 彼が大切に洗ってくれた髪をタオルで優しく包む。誰かに髪を洗ってもらうことなどしてこなかった翼の初めて、それを確かに隼斗は貰って行ったのだ。

 

 

「────って! 私は何を考えてっ!」

 

 ほんの一瞬、翼の頭をよぎった"愛しい"というワード。その身を剣と鍛えた時から、縁を切ったはずだったそれらが浮かび上がってくる。

 

 

「奏……」

 

 今は亡き片翼を呼ぶが、その幻すら現れない始末。今頃、自分の困惑している様子を笑って見ているに違いない。翼は想う。

 

 

「あれ……ブラが無い」

 

 バスルームから出た翼は、用意されていた着替えにブラが無いことに気がついた。

 しかしそれは隼斗のミスでも、ましてや隼斗が盗った訳でも無い。翼が寝る際にブラをしないということを、隼斗が知っていたからこその配慮だった。

 

 

「……なんだろう。緒川さんだけでなく高波さんにまでも私の情報が筒抜けになっているこの様……」

 

 もはやプライベートもクソも無いとはこの事だろう。緒川に関しては、翼がアーティストデビューを果たした当初からお世話してもらっていた関係なため、それほど気にすることも無かった。

 しかし、つい最近知り合いお世話係となった隼斗に一つ、また一つと自分が知られているということは翼にとって不思議な気持ちにさせるものがあった。

 

 

「────あれ、今私……」

 

 ふと鏡に映る自分の顔を見た翼。

 

 

「……笑ってる?」

 

 歌女でも、防人でもない────乙女な風鳴翼がそこにはあった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翼よりも遅くまで風呂に浸かっていた隼斗だが、普段は長湯するタイプではない。おそらく初の海外で自分でも気が付かずに疲労を溜めていたのだ。

 

 

「はああぁ……落ち着くなー」

 

 翼が先にあがり、一層広くなった湯船で体を伸ばす隼斗。お世話係になるために師匠こと、弦十郎の元で修行を行ってから間も無い海外行きだったため、ガタが来ていた。

 

 

「翼さん……満足してくれてるかな」

 

 傍から見れば淡々と仕事をこなしているかのように見えた隼斗だったが、その内心ではいつも不安になっていた。

 

 

「正直、翼さんはもっと女の子だって事を自覚するべきだと思うんだよ。普通、玄関付近にパンツ脱ぎ捨てますかね!?」

 

 翼の散らかしに、思うところが無いわけでは無かった隼斗。その口は止まることを知らない

 

 

「第一、あんなに美人で可愛い人の下着触って平気でいられるわけ無いんだよ! でも、仕事だし翼さんを汚す訳にはいかないから必死に抑えてるけどさ……」

 

 去勢して何とかなるのならばしたい程、隼斗は悶々としていた。

 隼斗の中では、自分の性欲よりもお世話したいという気持ちが大きく上回っているからこそ、翼の前では無の境地でいられる。が、どこかでその天秤が欲に傾けばその時がクビの合図だろう。

 

 

「……しっかし、同部屋とはやってくれたなー、緒川さん」

 

 時折、クビにするかしないかのジャッジをする機会を緒川によって意図的に作られている気がしている隼斗。

 今回もその一つだと自分では思っていた。

 

 

「お風呂だってあんなメールさえ来なければ入らないっての……」

 

 それは翼がバスルームへと向かって間もなくの事、隼斗の仕事用の携帯に緒川からメールが送られてきた。そこには、

 

『翼さんのお世話係として仕事はバッチリこなしてくださいね! もちろんお風呂もですからね』

 

 "よろしくお願いします"という文面の後に、可愛い顔文字が付いたそのメールを受信した隼斗。

 普通に考えれば軽蔑されるべき行為だが、何をトチ狂ったか隼斗は仕事モードになり、颯爽とバスルームに向かった。

 

 そこからはご存知の通り、翼の背中を洗い流し、髪を洗い、共に湯船に浸かった。

 

 

「翼さんの肌……めっちゃスベスベだったな」

 

 目隠ししながらでも的確に余計な部分に当たることなく背中を洗いきった隼斗。その間、全く手が触れない訳もなく、数十分経った今でもその感触が残っていた。

 

 

「しかも髪まで洗わせて貰えたし……髪って女性にとっては命みたいなものなのによく許してくれたよな……」

 

 隼斗は美容師でもなければ専門学校に通った試しもない。では、なぜ翼の髪を痛めることなく洗えたのか。それは例の通り、母である菜乃の髪をよく洗っていたことから知識が身についていたのだ。

 

 

「お母さんには感謝しなくちゃな……もっと欲を言えば俺を男にしてくれなかったら最高だったのに……」

 

 何度も何度もフラッシュバックする先程までの翼の姿。隼斗が入ってきてからは、隼斗が用意したバスタオルを巻いて入ってもらっていたが、それでスタイルが隠れる訳もなく、くっきりはっきりと見えていた。

 

 

「どうして男なんだろ……俺」

 

 大学に入って隼斗の身に起きた変化の一つ。初めて聴いた風鳴翼の曲、初めて見た風鳴翼という女性の姿。その時に隼斗を釘付けにしたのは歌、そして翼の完璧(隼斗目線)なスタイルだった。

 

 同年代の女性とは比べ物にならないほどのルックスで、それが年下だと知った時に隼斗は驚愕してひっくり返った程だ。

 

 同期の友人達にはロリコン扱いされ、母には暖かい目をされたが、隼斗はめげずに翼を推した。

 

 

「憧れで大好きな人と今じゃ同じ部屋で、しかもさっきまでお風呂入ってたんだよな……うっ、やば、収まれよ……相棒」

 

 どんなにその身をお世話係として鍛えても、男としての性には抗えないことを実感する隼斗だった。

 

 

「……本気で去勢するか?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それから隼斗がバスルームを出たのは数十分後のことだった。時刻的にはもうすぐ就寝間近という所まで来ていた。

 

 

「……ふぅ、スッキリした。って────あれ、翼さん。先に寝ていても良かったんですよ?」

 

 ベッドの端に腰掛け、テレビを眺めている翼の姿があった。

 

 

「あ、高波さん。その、緊張で少し寝付けなくて……高波さんはゆっくり出来ましたか?」

 

「はい、おかげさまで」

 

 隼斗は言えない。

 長く入っていた時間の大半が悶々として出れなかっただけだなどと……、

 

 そして翼もまた言えない。

 緊張で寝付けないのは、海外での初ライブが控えているからという理由ともう一つ、これから隼斗と夜を共にするからなのだが言えるわけがない……、

 

 

「……」

「……」

 

 おそらくこれが、隼斗と翼が揃った時初めて起きた無言の時であろう。

 この二人の間に流れるのは、テレビの音のみだった。

 

 

「あ、あの……一つ、質問よろしいでしょうか」

 

 翼から切り出した。

 

 

「はい、いいですよ?」

 

「高波さん……単刀直入に聞きますが────私はそんなに魅力的に見えないでしょうか……?」

 

「…………ん?」

 

 最速で最短で真っ直ぐに一直線に大胆にも疑問をぶつけた翼。予想にもない質問に頭の処理が追いつかなくなる隼斗だった。

 しかしそこは隼斗、すぐさま返答を思いつく。

 

 

「自分にとっては最高の女性だと思ってますが?」

 

「────へっ!?」

 

「翼さんはカッコよくもあるし、同時にどうしようもなく可愛い時があると思います。特に自分が何かを教えている時、傍でそれをじっくりと見ている翼さんの横顔なんて輝く一番星ですよ」

 

 どこかタガが外れた隼斗。

 翼は思わぬ反撃と止まらない賞賛の嵐に追いつけないでいた。

 

 

「あ、あの……もう────」

 

「初めて下着の畳み方を教えた時だって、完成した物を見せて子どものように笑っているんですから、もっと褒めて欲しいのかってくらい可愛さで溢れてましたから」

 

「うぅ────もう、いや……」

 

「────と、まぁ。何を不安に思ったかは分かりませんが、誰にも引けを取らない美人で魅力的な人ですよ。風鳴翼という人はね」

 

 

 その後、翼は照れながらも無理やり眠りにつき、後を追うように隼斗も眠ったのだった。

 




隼斗君も普通の日本男子なんです。ただお世話が最優先なだけで性欲ありありです。
翼さんを徹底的に乙女にするために高波隼斗は頑張ります!
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