学戦都市の捕食者   作:The Susano

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ちょっとゴッドイーター要素を出してみました。


第2話

「それでは、こちらが制服と校章です。決闘などにより破損した場合は支給されますので、申請をお願いしますね」

 

「ああ」

 

シルヴィアとの邂逅から翌日、俺はクローディアから制服と校章を受け取っていた。星武祭の他にも、公式序列戦や決闘などによって破損や紛失はかなり多い(勝利条件の1つである校章は特に)ため、どれも申請さえ出せば支給してもらえるそうだ。

支給品を受け取って転校生用の配布書類に目を通していると、クローディアが不思議そうな表情を向ける。

 

「どうした?」

 

「いえ、どことなく嬉しそうに見えたもので。何かいいことでもありましたか?」

 

「お勧めの店が見つかっただけだ。初めて行った店が当たりでね」

 

訳ありで感情表現が極端に少ないのだが、昨日の出来事の影響が表に出たのか、クローディアに気づかれる。即座に昨日の一部を話すが、隠していることはバレバレである。

ただ、深くは追及されなかったので書類を受け取って寮に戻り、用事のために学園を出る。感情が表に出る理由を知っているのは恐らく1人だけ。唯一、同僚のロミオにだけは趣味から勘づかれている可能性がある程度だ。

 

(シルヴィ、元気でいてくれて良かった。)

 

そう思いながら、昨日のことを歩きながら思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、なんで敬語なの?たぶん、同い年と思うけど」

 

「今年で16歳ですから合ってますよ。敬語は、女性との会話だとこうなるんですよね。慣れると消えるんですが……」

 

互いの自己紹介も終えると、シルヴィアからそんなことを聞かれる。同級生以下の同性なら最初からため口なのだが、女性や目上に対しては敬語になりやすい。クローディアに関しては、会った日にため口でいいと言われている。それを知った直後、ロミオから徹底的に釘を刺されたが。

 

「敬語は無くていいよ。固くなっちゃうし、私も気にしないから」

 

「……分かった。多少ぎこちなくなくなると思うが、よろしく頼む」

 

そう話していると、料理が運ばれてくる。日替わりメニューはハンバーグらしく、鉄板の上から良い匂いが漂う。また、ほぼ同時にカルボナーラも到着し、こちらも出来立てのミートソースが食欲をそそる。

 

「おおっ!どっちも美味そうだな」

 

「でしょ!どのメニューも美味しそうだから、いつも迷っちゃうんだよね」

 

そう言って同時に『いただきます!』というと、お互いに料理へ手を付ける。その匂いに違わずとても美味しく、俺は一心不乱に食べ進めていた。そして、気づく頃には半分以上食べ終わっていた。

その間、シルヴィアもカルボナーラを食べながら、にっこりと笑って見ていた。

 

「はっ!つい夢中で食っちまった」

 

「ふふっ。気に入ってくれた?紹介した甲斐があってよかった」

 

後半は味わって食べていたため、2人の食べ終わりはほぼ同時だった。デザートのバニラアイスを食べて一息ついていると、今度は俺がシルヴィアに質問する。

 

「ところで、あんな路地裏に?昼間の明るい時間とはいえ、女性が1人で歩く場所じゃない」

 

言えないなら構わないけど、と付け加えながら質問する龍弥。世界のどこでも、ああいった薄暗い場所には一癖、二癖ある者が集まりやすい。来て初日とはいえ、アスタリスクでも当てはまると知れたのは良かったと思うことにする。

 

「流石に不思議に思うよね。まあ、端的に言うと人探しかな」

 

「……魔女(ストレガ)が?いや、逆だな。だいたいの位置までしか探せなかったから、歩いてるわけか」

 

「うん。アスタリスクにいることは分かったんだけどね」

 

シルヴィア・リューネハイムの能力。それは、歌を媒介にしたイメージの変化だ。つまり、曲に込められたイメージを実際の現象として操ることができる。恐らく、多彩さでは魔女の中でも一線を画すだろう。

一極型と比べても僅かに劣る程度のため、その精度でも見つからないとなると目視による捜索程度しかできない。

 

「そっか、見つかるといいな。じゃあ、そのペンダントも贈り物か?」

 

そう言ってシルヴィアの首にかかるペンダントを見る。銀メッキのロケットペンダントだが、輝きから綺麗に手入れをされているのが分かる。

 

「ちょっと違うかな。これは、幼馴染からのプレゼント。いつ再会できるか分からないけど、必ず会えるって信じてるから」

 

そう言いつつ、ペンダントを両手で握りしめる。それを見て、俺は「そっか」と返すことで精一杯だった。下手な事を言うのは無粋というのもあるが、心当たりがあり過ぎる。

 

「さて、そろそろお開きにしますか。お互いに戻った方が良さそうだ」

 

外を見ると、道を街灯が照らし始めていた。門限まではまだ余裕があるが、わざわざギリギリに行くこともないだろう。

 

「もうこんな時間かー、あっという間に過ぎちゃったね。改めて、助けてくれてありがとう」

 

「どういたしまして。こちらこそ、色々話せて楽しかったよ。っと、そうだ」

 

互いに席を立ちながら挨拶を交わすと、名前を書いた紙ナプキンにアドレスを書いてシルヴィアに手渡す。

 

「お近づきの印ってことで。携帯端末でもいいんだが、足を消しやすいに越したことはないからな」

 

「……ふふっ。気遣ってくれてありがと。でも、使う時は遠慮なく使うからね?」

 

「覚悟の上だ。俺にできることなら、大抵やってやる」

 

胸を叩きながらとんでもない宣言をする。なお、個人的に結構マジで言ってたりする。

 

その後、シルヴィアをクインヴェールの校門が見えるあたりまで送っていき、俺は男子寮の自室に戻った。買った物を配置した後、同僚達に連絡を取って近々会いに行くことを伝えた。

ただ、1人だけ明日時間を空けて貰えるか聞いたところ、了承を得られたのでメールで改めてアポを取っておいた。

ちなみに、連絡を取った時にさっそくロミオが今日のことを追及しようとしたのだが、

 

『後でやれ(やって・やって下さい)!』

 

と他の奴らに満場一致で釘を刺されて後回しになった。結局、色々伝えあった後に事細かく説明する羽目になり、かなり面倒な目にもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ロミオの奴、毎回思うが何で界龍に入ったんだよ)

 

当時でもかなり迷っていたのだが、強くなりたいという本人の意向で界龍に行くことを決意したのは全員が知るところなのだが、今の状況を鑑みると意地でも星導館に行かせるべきだったと後悔している。

 

さて、回想しつつ向かっている先は、アルルカント・アカデミーである。俺達の部隊が解体された時、1人ずつ各学園に配属されることになっていた。その時、武器開発に興味があった同寮が責任者と共にアルルカントに行った。今日はちょっと頼みがあったために先に連絡を取ったのだ。

 

返信されたメールに書かれた場所で待っていると、紫のジャケットに同色の帽子を被った青年がやって来た。セミロングの髪に緑の瞳、傷痕があるものの整った顔に高身長も相まって魅力の1つになっている。

 

「相変わらずみたいだな、ギル。武器のPRにも引っ張り出されてるって?」

 

「ナナにでも聞いたか?晒されるのは好きじゃないんだが、しつこく頼まれてな」

 

ギルバート・マクレイン。元同僚で、現在はアルルカントの高校3年生である。部隊で最年長だったため、大半が中学校入学に対しギルバートは高校に進んだ。ちなみに責任者の推薦で大学への入学も確定している。

 

「で、俺にだけ先に会うってことは、何か用事か?」

 

「ああ、こいつのチェックを頼みたい。一応、手入れ自体はしていたが、今の内に点検しておきたい」

 

「ったく、世話が焼ける。博士は今外出中だ。俺が見ても構わないな?」

 

「ああ、問題ない。助手のお手並み、見せてもらおうか」

 

左手を動かしながら答えると、「るせぇ」とぶっきらぼうに返しつつそのまま歩き始める。無愛想だが頼れる兄貴分という感じは、全く変わってないようだ。

無言で歩くこと数分、アルルカントの一角にある研究室に入る。机には複雑な計算式が書かれた紙が散乱しており、試作品であろう兵器が置かれている。正直、素人には危な過ぎる部屋である。

 

「んじゃ、そこに座って左腕を機器に通せ。で、腕を外せ」

 

言われた通り、作業台の横にある椅子に座って左腕を機器に通して固定。そして、脇と二の腕の境にあるスイッチを押すと、パシュンという音と共に腕が離れる。それと同時に、擬態していた腕が本来の金属光沢を持つ黒に変わる。腕には青いラインが描かれ、手の甲にはウルム・マナダイトが青々と輝いている。

 

「自動修復するとはいえ、一応手入れはしていたようだな。劣化している部品はない」

 

「そりゃ良かった。《神喰の御腕(ウロボロス・マーター)》を本格的にいじれるのは博士とあんたくらいだからな」

 

実は、俺の左腕は純星煌式武装だ。入手経路は長くなるのでいずれ話すとして、これが無ければ俺は生きてはいないだろう。

そして、俺という完全適合者がいたからこそ部隊ができたと言える。俺をオリジナルとして、それまで実験で生き残った5人に《神喰の御腕》の劣化コピーした煌式武装———神喰武装(プレデター・ウェポン)が与えられた。俺達のいた部隊、統合企業財体特殊事件対策部隊———別称ブラッド隊の誕生である。

責任者の博士が人格者だったためにまともな生活(血生臭い部隊だったが)を過ごせたのは、幸いとしか言いようがない。

 

「チェック完了。問題なしだ」

 

「サンキュー。で、報酬に何をすればいい?」

 

メンテナンスが終わった後、見返りに何かするのは部隊の時からの慣例である。なお、博士の時は大抵実験台になる(少なくとも命に関わることはない)ため、ナナが和菓子を、ロミオが浴衣を渡している姿が目撃された。ギルが担当し始めたのは部隊の解散する直前だったが、被害が少なかったために重宝されていた。

 

「なら、ちょっと付き合え」

 

そう言うと、ギルバートは右手に黒い腕輪を付け、神喰武装の槍———チャージスピアを手に取って研究室を移動する。ついていくと、アルルカントの訓練場である。研究職が多いとはいえ武器の検証も兼ねて行うことが多いので、空くことは少ないと思うのだが。

 

「《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の特権か」

 

「まぁな。実力で得られる特権は、持っておいて損はない。特にここじゃ、重要視されてなくても融通が利く。外部用のカメラは切っておくから心配ない」

 

アルルカントでは、研究者の発言力が強いために序列制度があまり重要視されていない。しかし、ギルバートの場合は研究者かつ《冒頭の十二人》である点を生かして、特権を用いているのだ。成果主義を貫くここでは、自分が勝つことが成果の証明となるのだから効果覿面だろう。

 

「で、ここに来るってことは……」

 

「察してるんだろ?運用試験のついでに訓練に付き合え。久々に体を動かしたいからな」

 

やっぱりかと思いながら反対側に歩く。ある程度距離を取ると、《神喰の御腕》が起動して両手首に赤い腕輪が巻き付き、双剣———バイティングエッジを構える。開始合図の設定を終えたギルバートもまた、チャージスピアを構える。バイティングエッジは薙刃形態のため、初手は長物同士の戦いである。

そして、開始のブザーが鳴った瞬間、

 

「「!!」」

 

互いに正面に向かって突撃する。俺は激突する瞬間に刃で槍の先を跳ね上げると、それを見越していたギルバートが蹴りで自身に迫る反対の刃を蹴り上げ、そのままバク宙で距離を取る。ギルバートの着地する瞬間を狙い、即座にバイティングエッジを二刀流形態に分離して一本を投擲、俺自身も体勢を整えるために下がる。

 

投擲された剣に気づき、ギルバートは即座にチャージスピアを叩き付けて落下時間を調整して着地する。俺はその時間を使って右手の剣を拳銃形態に変えてそのまま狙い撃つ。

普通ならば銃形態は両手持ちの銃なのだが、取り回しやすさの改造依頼した結果、俺だけ2丁拳銃になっている。

 

ギルバートは横に水平移動することで弾幕を回避。途中からスライディングで接近して横薙ぎにチャージスピアを振るうが、俺はバク転で回避しつつ、投擲した剣を回収する。

 

「変わらずの身体能力に加えて、可変機構も完全に使いこなしてるな」

 

「こんなものはただの技術だ。時間さえかければ誰だってできる」

 

「なわけあるか。そもそも、お前みたいになる前に息絶える」

 

互いに軽口を言い合いながら、俺はもう片方の剣も拳銃に変えて相対する。すると、ギルバートはチャージスピアを片手にクラウチングスタートのような構えを取る。明らかに突進の構えだ。しかし、突進までのチャージ中は無防備になるため、個人で打つには隙だらけ。一応星辰力での防御はできるが、微々たるものである。

 

それを選ぶ以上何かあると警戒心を強めていると、いきなりギルバートがチャージなしで突進してくる。反射的に拳銃を打ち放つ。

と、次の瞬間にチャージスピアからシールドが展開され、銃撃をガードしてそのまま突っ込んで来た。左右に避けようにも、追撃されれば隙だらけである。

 

「ちっ!?」

 

俺は即座に拳銃から二刀流形態に切り替え、床に剣を叩きつけて飛び上がって回避する。できれば薙刃形態で飛び越えたかったが、速過ぎて間に合わなかったのだ。

しかも、ギルバートの攻撃はそれだけに止まらなかった。突進中にチャージを終えていたのか、星辰力が吹き荒れる。それを視界の端に捉えた瞬間、俺のバイティングエッジが赤いエネルギーを纏うと青く輝き始める。

 

そして、2人の技が激突する。

 

「クリムゾン・グライド!!」

 

「ダイブ・トゥ・ブルー!!」

 

ギルバートの赤黒いエネルギーを纏った突進と、俺の青い2本の剣による振り下ろしがぶつかり、互いに弾き飛ばされる。

 

俺はバク宙しながら拳銃形態に切り替え、ギルバートに向けて銃撃する。すると、ギルバートの手にはいつの間にか弓が握られており、すでに矢を放っていた。

そして、放たれた矢は途中で黒い龍———アラガミに姿を変え、銃撃を捕食。光の玉となってギルバートに取り込まれていった。

 

その現象と行われたことの予想に、思わず「マジか」という言葉が出る。

 

「流石に驚いたか。これが研究の成果だ」

 

「驚くなって方が無理だ。捕食形態を飛ばして攻撃を無力化し、そのままバースト化って」

 

《神喰の御腕》で創られた武器は銃・近接武器・盾・捕食の4形態を持つ。中でも捕食形態は、食べた物質をエネルギーに変換。バースト化という限定強化と、食べた物に応じた弾丸を得ることができる。なお上記の能力は神喰武装にしっかり引き継がれている。

しかし、捕食形態は近接武器からしか変化できないため、当時は作戦行動開始前に廃材を捕食してバースト化し、強化中にできる限り制圧。その後の強化は各々に任せていた。(前衛役は戦闘中にバースト化していた)

 

「これが俺の新しい手札だ。さて、まだまだ戦闘データが欲しいからな。再開させてもらうぞ」

 

「上等だ。かかってこい」

 

そう言ってバースト化したギルバートと俺は戦闘再開。終了時間限界まで戦っていた。

なお、ほぼ強化しっぱなしのギルバート相手に長時間戦闘は流石に厳しかったため、終盤で俺も切札の強化を使った。

その時に原理を聞いたギルバートから、

 

「それを実行するとか、本当の馬鹿か」

 

と言われた。

 

その後、強化の反動のためになんとか帰宅した後は翌日の昼まで部屋で寝込み、残り3日間である程度生活できる環境と習慣を整えた。

そして、今日。星導館学園の始業式を迎え、俺はここの生徒になる。

 

 




というわけで、トップバッターはギルバートでした。ゲームでも、神機整備のエピソードがあったので、アルルカント行きはほぼ確定でしたけど。

神機の要素をこの世界レベルに落とし込んでみましたが、流石に偏食因子を出すのは、条件としては厳しすぎると判断して失くしました。
ただし、主人公は扱うに見合った対価をきっちり払っています。

なお、アラガミが跳梁跋扈している訳ではないので安心してください。というか、そうするとアスタリスク要素が消し飛ぶので。

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