学戦都市の捕食者   作:The Susano

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大変お待たせしました!

まだ復活はしませんが、気力尽きる前に投稿します。

次回から学園祭なので、その前のつなぎです。



閑話 龍弥の新生活

「さて、無事に星導館学園に入学した神薙龍弥。今回は、そんな彼の1日を覗いていくとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5時 起床

 

「う~、あ~」

 

赤いベッドから出ながら、血生臭くなっている赤いパジャマを洗濯機に放り込み、トレーニング用ジャージに着替える。玄関に向かう前にキッチンでお湯を沸けるようにタイマーを設定すると、運動用シューズを履いて部屋から出て、近くの池に向かう。

ここから池までは結構遠いが、全力疾走すればすぐに着く。速さで風圧の被害も来るが、この時間帯だと全く人がいないので問題ない。

 

池の草木の影で水着になり、こっそり池に飛び込む。服はアラガミを出して捕食する。

オリジナル特有の能力か、神喰の御腕にて捕食した物品は内部で保存できるのである。ゲームでいうアイテムボックスと言えば分かりやすいだろう。なお、内部に入っている物は確認でき、捕食形態に手を突っ込んで取り出せる。

 

この池は人工池なので、バランスを取るためのバラストエリアと繋がっている。素潜りの要領でバラストエリアに向かって泳いでいき、一本だけ欠けた柱の上に身を乗り出す。

なぜ、バラストエリアのこんな場所を知っているかというと、準備期間中に欠けた柱を探し当てたからだ。普通なら検査で直される筈だが、何故か欠けたままのため、ありがたく訓練に活用させて貰っている。

 

「はー、はー。……さて、始めるか」

 

両手にバイティングエッジを出し、アラガミから両手両足に重り替わりの腕輪を付け、もう一度水の中に潜る。この腕輪は、ブラッド時代に訓練用にギルと博士が開発したもので、自由に重さを調整できる。

腕輪は最重量で調整したため、当然バラストエリアの底に落ちる。そして、その状態で立ち上がって素振りを行う。水中による水圧と無呼吸運動、動きにくい環境での慣れも兼ねた訓練である。

その他、欠けた柱の上での素振りや腕立て伏せなど、一般的に行われるトレーニングを行う。

 

 

 

7時30分 朝食+出発

 

訓練を終えて部屋に戻ると、乾燥させた衣類を回収してシャワーを浴びてそのまま身だしなみを整える。

沸いたお湯でコーヒーを入れながらトーストを作りつつ、できるまでの間に昨晩の残り物を弁当に詰める。

 

コポポポ~。チンッ!

 

(うん。いい匂いと焼き具合だ)

 

『Setaria』で学んだ美味いコーヒーの淹れ方や、トーストの焼き色を見る。こういう点で、料理系のバイトを始めて良かったと思う。

トースト朝食を取りつつネット新聞を読む。登校時間間に合うタイミングで準備してある鞄を片手に寮を出る。一見普通の学生と変わらないが、教科書等は電子書籍のために鞄の中身は軽い。

 

 

 

 

8時15分 学校到着

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

挨拶に応対しながら、頬杖を突いて教科書を流し読みする。中学までの基礎学力は独学で何とかなったが、落星工学などの専門分野を学ぶのは不可能のために、ある程度復習と予習をしている。

 

「龍弥ー。ちょっとここ教えてくれね?次のテストでいい点取らねえと生活費削られるからさー」

 

「何でそんなギリギリまで放置するんだよ……」

 

クラスとの関係は、まあまあいい具合である。『高校まで確定=賢い』という図式が早々に作られ、勉強を教えて欲しいと言われるようになった。俺個人としても良い時間潰しになるので、ちょうどいい。

 

「さーて、みんな席に着けー」

 

藤木先生の声と共に朝礼を行い、その日の授業が始まる。

 

 

 

 

12時 昼休み

 

「いただきます」

 

購買に買いに走る男子を見ながら弁当を開ける。親の手伝いで見た調理法を、見様見真似と味見で作った料理だが、食える味にはなっている。なお、初見の料理はちゃんとレシピ通り作った。

 

「おっ!美味そう!」

 

その声と共におかずの唐揚げが1つ消える。視線を追うと、購買から戻った後ろの席の男子である。

 

「おいおい……。せめて一声かけろよ」

 

「わりぃ。あまりに美味そうだったもんで」

 

平謝りだが、文句を言わない所を見ると味付けは上々のようでなによりだ。少なくとも、自分の味覚がイカれてはいないと分かる。

 

「しっかし、俺は仕送り貰えるが、お前は自分でやり繰りしてんだろ?大変だな〜」

 

「いや、案外そうでもない。長期を見据えた金の使い方は節約を徹底すれば何とかなるし、自炊も慣れれば楽しいもんだ」

 

昼食が終わればまた時間が空くので、適当な談笑である。ある意味一番学生らしい時間と言えるだろう。

 

 

 

 

16時半 授業終了+アルバイト

 

授業が終わって皆がバラバラに帰る中、俺は『Setaria』に向かう。

 

「龍弥さん、こんにちは」

 

「こんにちは、千絵梨さん」

 

ちょうど同時刻に終わる千絵梨と途中で合流して2人で店内に入る。中ではナナとみくりが一足先に準備をしていた。なお、千絵梨はクインヴェール女学園の中学3年生である。

 

「「おはようございます」」

 

「「おはよー。」こっちはもう終わるから、仕込みの手伝いお願いね」

 

「あ、ついでにこれ戻しといてくれ」

 

ナナから受け取った除菌スプレーと雑巾を仕舞いながら、制服に着替える。驚くことに仕立てたのは苺華だという。曰く、趣味が転じてこうなったらしい。

 

「こんにちわー。店長、どこまで終わってますー?」

 

「野菜の下準備がそろそろ切れる。そっち頼んだ!」

 

了解と返事してすぐに作業に入る。元々刃物(正確には刀剣の類)の扱いに長けているため、包丁を手足のように操って皮や芯を切り取っていく。皮がすべて繋がった状態で剥かれ、空中でバラバラにしつつ分けられる様子は圧巻らしく、ここで初めて見せた時にドン引きされた。

曲芸のような作業が素早く行われた結果、そこそこ大きめのダンボールに入っていた野菜が、あっという間に処理される。野菜の下準備は、基本新人が刃物の扱いに慣れる修行だが、俺の場合は忙しい時のヘルプ扱いになっている。

 

「相変わらずの包丁捌きだな。ここじゃなくても良かったんじゃないか?」

 

「他じゃ、飼い殺しにされるのがオチに思いますけどね。街頭パフォーマンスなら一儲けできそうですけど」

 

そんなもんかね?と店長と軽口をたたき合う。最初こそ敬語だったが、本人が面倒とばっさり言ったため、店以外ではこんな感じである。

 

で、諸々の準備を終えてディナータイムになると、一気に忙しくなる。

 

「オムライスとカレーお願いしまーす!」

 

「デザートのケーキもお願いです~」

 

「ハンバーグできました!カレーと一緒にお願いします!」

 

「プリンがすぐにできっから、ケーキはちょっと待ってくれ!」

 

何度か対応して慣れつつあるとはいえ、ディナータイムの混雑具合はとんでもなく忙しい。これで前よりはマシらしいのだから、いろんな意味で恐ろしい。

今日は下準備が間に合ったことで、閉店まで逃げ切ることができた。

 

「今日もお疲れ様!今日は新レシピの試食も兼ねた夕食だ。味は保証するが、忌憚ない感想を頼む」

 

そう言って出てきたのはポトフである。春野菜が多く入っており、しっかり煮てあるため程よく柔らかく、スープも出汁が効いている。個人的には十分に美味しいのだが・・・。

 

「美味しいけど、ケチャップ足した方がポトフらしくないか?」

 

「ちょっと塩分が多く……いや、入れる塩を減らせば」

 

「いっそトマト入れては?酸味があっていいと思いますけど」

 

「そうすると~、味がぶつからないように気を付けないとですね~」

 

「それ以上はもっと試さないと分からないじゃない?まだ、試作品なんでしょ?」

 

「まあ、試行回数を増やすのは分かる。後は~」

 

と、こんな感じで食べながら批評し、時間が流れていく。

 

 

 

 

21時 帰宅

 

中等部側の門は夕方で閉まるため、高等部側の門から走って寮に戻る。鞄をベッドに立て掛け、アラガミの口からマットを取り出して設置。服を洗濯機に放り込んで起動し、全裸でマットの上に立つ。

 

そして、左手でバイティングエッジの捕食形態を展開すると、

 

『GOOOOOWAAAAAA!!!!!』

 

巨大な口が右腕を捕食する。通常なら凄まじい激痛が走ってのたうち回るだろうが、神喰の御腕の代償と4年以上続いた慣れが、一切の変化を表さない。

瞬間、血が噴き出す前に筋肉の右腕が生え、動画の早回しのように皮膚が再生していく。

 

「今日の細胞の更新完了。シャワーにするか」

 

若干感覚の鈍い右腕をそのままに、シャワーを浴びに行く。

 

神喰の御腕の持つ能力は、捕食能力による所有者の改造。とは言っても、キメラのようになるのではなく、体を構成する細胞を強化する。単純に言うと、『人の姿のまま、喰った物が効かなくなる能力』だ。

これだけ見ると、時間と入手に手間が掛かるが無敵の力が手に入ると思うだろう。しかし、そう簡単な話であるはずがない。そもそも、神喰の御腕は純星煌式武装のために代償がある。

 

まず根本的な問題として、必要とされる適合率が高すぎるのだ。星導館では適合率が80%を超えれば純星煌式武装を貸し出されるが、神喰の御腕は1000%まで計測可能で、最低でも100%を超えなければ内部のアラガミに捕食される。しかも、適合した瞬間に感情抑制の代償が発動し、表に感情が殆ど出なくなる。なお、この延長で痛覚もある程度鈍感する。

また、週一のペースで自分以上の性質を持つ何かを捕食する必要がある。これは先の能力と繋がっており、自分が持っていない耐性や力になる糧を吸収しなければならない。これを無視するとアラガミの捕食本能に侵食され、最終的には暴走して二度と自我を取り戻さなくなる。要は自分という意識が死ぬ。

さらに、神喰の御腕は所有者の体を改造するため、破壊されるまたは奪われた場合、その所有者は命を落とす。

その他代償はまだあるのだが、あまりにも命懸けの要素が多すぎるのだ。能力と代償の天秤があまりにも釣り合っておらず、いくら欲望に駆られていても逃げ出すだろう。

 

「ま、そんな純星煌式武装に文字通り選ばれた俺も大概可笑しいがな」

 

自重気味に言うと、体を拭いてドライヤーで髪を乾かす。赤いパジャマに着替え、明日の弁当を仕込み、机で予複習を行う。終わる頃には洗濯が終わっているので、乾燥機にタイマーを付けておく。また、今朝回収した洗濯物はここで畳む。

 

23時 就寝

 

一日のやることを終えると、さっさと就寝である。もし同僚から連絡が有ればこの時間だが、ここ最近は各々忙しいのかここに来てから全くない。

 

(おやすみ)

 

そう言って目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、彼もしばらくは普通……とは言い難いが、学生生活を謳歌しているようだね。しかし、イベントや災いはいつも突然やってくるもの。彼の望む平穏が手に入るのはまだまだ先のことだ。へっ?そう言ってる僕は何者かって?ん〜、何者でもないのが正解なんだけど、強いて言うなら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――愛する者のために、世界に抗い続けた英雄かな?




と、言うわけで日常回+説明会でした。

この主人公、やろうと思えば今の段階でも「俺強えぇぇェェェェ!」ってできますが、ぶっちぎりのレギュレーション違反になるため、全力全開で戦うのはまだ先です。
ただ、戦闘なしは流石につまらないので、学園祭に1戦は必ず盛り込みます。一応、力や能力は使わず技術寄りに書くつもりです。(ある程度力の要素が入るのはご愛嬌で)

今回、捕食の御腕の条件が厳しいかと思われますが(上記+α)、そもそもゴッドイーターの適合試験も似た感じですし、強い武器に制限があるのはどこの世界も同じということでお願いします。(主にオラクル細胞が原因)

ちびちび書くにせよ、復帰は早くて7月、遅くて9月になると思います。その後はしばらく時間ができる筈なんで、お待ちくださいませ。

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