超完璧彼氏であるジェイド・リーチと、何とかして別れたい他校生女子の話。
夢小説。

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超完璧彼氏と別れたい

めちゃくちゃ可愛い下着が好きだ。

レースとかふんだんに使われていたり、キラキラしたビジューがついていたり。

何にも予定の無いただの日常、何なら気分が乗らない日だって、自分のご機嫌を取るのに可愛い下着を身に付けるだけでテンション爆上がりする。

例えば運動着に着替える時に、友人から「そのブラ可愛いね!」なんて言われるだけで嬉しくてニヤニヤしちゃう。待ち受けている超ダルいマラソンだってウキウキで走ってみせる。

ブルーな生理の時だって、最近は可愛いサニタリーショーツも増えてきた。上下を揃えることだって出来る。どうしてもなければ、三枚九八〇円とかの捨てショーツ買ってブラと色味を合わせることだっていくらでも出来る。

ネットで安くて可愛いブラ&ショーツのセットを見るのも大好き。

メイクも好きだ。季節ごとの新作コスメはマジカメで確認するし、休日は友人とコスメを見に行くことだってしょっちゅうだ。学校であんまりバッチリメイクをキメられないけど、休みの日は出掛けなくてもメイクするだけでテンション上がる。有名マジカメグラマーのメイクやファッションを自分なりに試すのも大好きだ。大人になったら揃えてみたいコスメなんて山の様にある。

結局、自分のご機嫌取りを一番出来るのは自分だけだとよく理解している。

 

さて、話は変わる様に思われるかもしれないが、その実全然変わらない。

私には他校に通っている同い年の彼氏がいる。

名門ナイトレイブンカレッジに通っている彼は、成績で困る事も少なく、所属する寮において副寮長を務めているとか。また、寮内にて経営しているラウンジにおいて、支配人の右腕ともいえる立場についているらしい。護身術を習っていたとかで、武芸の腕に明るいようだ。

先生方からの覚えも良く、後輩からも頼りにされているらしい。まるで物語の主人公並みに設定が詰め込まれている男が実在しているのだ。彼の通う学校が男子校でなければ女の子が迷わず飛びついていただろう。

それになにより顔がいい。特徴あるオッドアイをミステリアスだとでも言えばさらにモテる事だろう。また、彼は人間ではない。珊瑚の海出身の人魚である。彼からたまに覗く鋭い歯は特徴的だ。噛まれるとかなり痛い。まぁ、その人外の美というのも付加されているだろう。ガチ褒めじゃねーか、惚気かよ、と思われるかもしれない。

 

ただ、めちゃくちゃ性格が悪い。

 

お前、自分の彼氏だろ、というツッコミは後で弁明するとして、とにかくあの男は性格が悪い。

嫌いなことが『予定調和』ということもあり、彼は非常に好奇心旺盛だ。勿論好奇心旺盛であることが悪い事だとは言わない。ただ、何事にも限度というものがある。

かなりおまけして良く言えば、まぁ一途と言えなくもないんだろうけど、そんな素敵な話じゃない。あの男にあるのは『楽しいか否か』だ。自分の興味を引くものには手間暇を惜しまない。たとえどんな手段であろうとも迷わず実行する。そしてその手段の選び方が中々えぐい。ヤのつく自由業を生業にしてんのかな、と思うくらいには。えぐいくらいに情報を集めてきては人の弱みを握ってくる。これは私の実体験から言っているので、まず間違いがない。悪巧みさせたらピカイチだ。誰よりも相手の精神に相当な深手を負わせられるし、それを誰よりも積極的に且つ愉快そうに行っている。

どれだけ顔が良かろうが、それらを差し引いてもマイナスになるくらい人間性が酷い。まぁ「それでも構わないわ!」って方も世の中にはいらっしゃるかとは思う。ぜひ彼にアプローチをかけて末永く幸せにやってほしい。その際には私と彼が物凄く穏便且つ平和に別れる手助けをしてくれると大変に助かります。連絡待ってます。

そう、そんな彼氏である男――ジェイド・リーチというが、その恐ろしい彼氏と私は別れたくて仕方がない。たかだか学生の恋愛でしょ、簡単に別れられるじゃん、と思っているならそれは見当外れだ。私はこれまで身近に人魚という存在がいたことないので彼から言われて知ったのだが、私達の言う恋人関係と彼の言う番関係というのは大きな隔たりがあるらしいのだ。意味が分からないだろうけど、正直私もあまりよく分かっていなので深く突っ込まないでほしいところだ。彼に「番になってほしい」と言われた時、人間でいうところの恋人のようなものです、と説明を受けた。当時の私はそれを断り酷い目にあったのだけど、それはまた後で説明することにする。とにかく詳しい事は省くが、紆余曲折あった結果私はジェイドの要求のほぼ全てを飲む形で彼の名実ともに(ジェイドが言うところの)番となってしまった。周りに説明する時やジェイドが私の友人に挨拶した時は「恋人」という言葉を使っていたので、私自身、番=恋人のことを指すのだと理解していた。それがつい最近、将来の話になった時にジェイドは私を自身の故郷である珊瑚の海に連れて行く気満々だということが発覚したのだ。ジェイドの思い描く展望では私は海で過ごし、毎夏ジェイドのタマゴ(ないし稚魚)を抱えるらしい。怖い。

いや、恋人同士が「将来結婚したいよね~(はーと)」みたいな話をするのは別にいい。好きにしたらいい。ジェイドはそういうレベルで物事を言っていないのだ。

ジェイドが口にした時点で全てが決定事項であり、私に言ってくるのは単なる言い聞かせにすぎない。ジェイドが「卒業したら僕と一緒に海に帰りましょうね」と言ったならもうそれは私の卒業後の進路は海だという事である。帰るって何だ。故郷じゃないのに。彼は魔法薬学が得意だというし、彼の昔馴染みも錬金術が得意だと聞いている。海の中での生活は安心して僕に任せてくださいね、とあのお綺麗な顔で笑って言っていたが私的にそういう問題でもない。私は魔法なんて大して使えないし、勿論ジェイドの足元にも及ばない。例え本当に海に連れて行かれたとして、「生活様式があまりにも違う」と常々ジェイドが言うように、私は本当にジェイドに頼りきりになり、ジェイドがいないと生活できないという恐ろしい問題に直面しなくてはいけなくなる。ジェイドの思うつぼだ。本当にもうジェイドは常日頃より私を管理したがる。最初の内は学校も違うし、と思っていた。毎日会えるわけではない恋人が相手の事を知りたがるのは別に不思議な事じゃない。毎日のように連絡を取り合うのもまぁ、分かる。私は嫌だったけど。ジェイドはそれはもう「彼女を思いやり大切にしてくれる理想の彼氏」であると私の友人達からの評判を貰っているように、私が毎日連絡取るのは嫌だと言えば納得さえしてくれた。

このように、友人達からは「あんなにかっこよくて物腰も穏やかで紳士的な彼氏なんて羨ましい」と高評価されている。何故か友人達はジェイドのマジカメアカウントをフォローしており、デートの次の日には私よりもテンション高くデートの無いようについて語ってくる。ジェイドは私と違い、行った先々の写真を撮っては律儀にもマジカメを更新しており、見た目は彼女溺愛リア充アカウントだ。友人達に公開されているアカウントは。ジェイドは複数のアカウントを所持しているため、むしろそのリア充アカウントはカモフラ用だと私は思っている。実際、私の全然更新されないマジカメは分かっているだけでジェイドのアカウント三つにフォローされている。一個は鍵アカだ。アカウント名も分かりやすいし、どうせ捨てアカだろうけど。とにかく友人達はジェイドに対して、どこそこのケーキ店サーチがどうだの、エスコートが完璧だの、センスが素晴らしいだの褒め言葉のオンパレードだ。あんなに素敵な人が彼氏だなんて相当幸せ者だよね、と私の話を一切聞かない。私がジェイドの性格が悪いと言ったところで彼女達にとっては惚気にしか聞こえないらしい。

 

話めちゃくちゃ変わってんじゃん、とお思いだろうが、本当に変わっていないのだ。

こんな人魚のくせに猫を五~六匹被っているジェイドと初めて会ったのは、私の通う学校のある街の外れだった。そこで私は質の悪い連中に絡まれ、あわや貞操の危機、という事態に陥った。簡潔に言えばそこをジェイドに助けられたのだが、その時の私の格好が、一限目に控えていたテストの為に下がっていたテンションを上げるためにギラッギラした勝負下着(紫)が破かれた制服から覗いているという恥極まりないものだった。私はギンギラギンにゴージャズに主張する下着も大好きだが、別に見せびらかしたい気持ちがあるわけじゃない。あ、いや仲のいい友人達に褒めてもらうのは好きなんだけど、顔も名前も知らない赤の他人・それも男に見せたいとは全く思っていない。連中が持っていた刃物で破いてきた時に「何だ嫌だ嫌だ言いながらヤル気じゃん。ビッチかよ」なんてほざいていたが、まさか見られることになるなんて思っていない。あんな奴らに見せる為では100%ない。

まぁ、ジェイドが現れて連中を肉体的にも精神的にも削り取ってくれたおかげで大事にはならなかった。それを目の前で見ていた私も結構精神的にキたけど。どうにも連中の中にナイトレイブンカレッジの生徒が混ざっていたらしく、そいつが真っ青通り越して土気色の顔して怯え切っていたので、きっと学校でもジェイドのえげつなさは有名なのだろうな、と思う。

助けてくれたジェイドは紳士的に自身のジャケットを私に羽織らせ、家まで送ってくれた。この時点では、ジェイドの事を恐ろしいと思いながらも助けてくれた補正もあってかきゅんきゅんした気持ちでジェイドにときめいていたと思う。礼をしたいから、と連絡先の交換を申し出ていたから。本当にやめておけ、と言えるものなら言いたい。その時にナイトレイブンカレッジでラウンジを運営しているのだと教えてもらい、それなら礼は売上貢献だな、とモストロ・ラウンジを訪ねて、そこで……ジェイドとの交際がスタートする羽目になる。

モストロ・ラウンジには上客をもてなすためのV.I.Pルームが存在しており、私はそこに通されてジェイドから直々にもてなしを受けた。ドラマかなんかで見るホストクラブかと思い違いするほど、ジェイドが側から離れない。給仕の仕事をしているとか聞いたけど、専ら部屋に料理やドリンクを運んでくるのは別の人だ。この時点で、私も馬鹿ではないので何だかおかしい方向に向かっているんじゃないかと思い始めていた。ただジェイドは話し上手聞き上手で話題が何故か尽きない。触れられても違和感が全くないほど人の間合いに入るのがとてつもなく上手だと感じた。私も全然意識しておらず、気付いた時には腰を抱かれていたのだから驚きだ。

ジェイドに会いに行く前に、ナイトレイブンカレッジに通っている従兄に初めて連絡を取った。返ってきたのはジェイドのやばい話ばっかり。一見周りに振り回されているように見えるが、その実、誰よりも積極的に、尚且つ愉快そうに悪巧みに乗る。あだ名に「計画犯」だなんて呼ばれることもあるとか。存分に警戒していたはずなのにこの様だ。

交際についてはジェイドから申し込まれている。先に記したこともあり、もちろん私は断った。当たり障りのない言葉で。学校が違う、に始まり、つり合いが取れないだの私には勿体ないだの、出来るだけ気分を害さないように気を付けて言葉を選んだ。けれどそのどれもが悉く言いくるめられてしまう。後になって気付いたのだけど、ジェイドは私がどう思うかはあまり気に留めておらず、自分がどうであるかを非常に重視しているようだ。私が断りの文句に選んだあれそれは、ジェイドが「気にしません」と言ってしまったらそれまでの理由でしかなかった。恋愛感情がないと言っても、「惚れさせてみせますから、チャンスをください」と眉を下げて言われてしまうと、断るのに罪悪感が芽生えてしまったほどだ。でもこの時私は頷かなかった。だって怖い。ジェイドだって私が彼を怖がっている事を感じていただろうに、何も気にせず迫ってくるのだから本当に豪胆だ。そしてジェイドはあまり気が長い方ではなかったらしい。最後に給仕にやってきたスタッフに人払いを命じた次の瞬間には押し倒されていた。後はもう、お察しの通り、私は散々に泣かされ首を縦に振る以外選択肢がなくなってしまったのである。

この時の私は、まるで魔王に挑む勇者の心持ちだったものだから、装備を最高の物に整えていた。青と黒のレースだった。レースの意匠に蝶が飛んでいるのが最高にお気に入りだった。ちなみにだがジェイドもこの下着を気に入っているらしいと後で知った。メイクだって学校では使えない明るいリップを付けていった。顔面を整えるのも礼儀だろうと思ったからだ。

何度でも申し上げるが、まさかこんなことになるとは思っていなかった。

私はテンションを上げるために下着にこだわるが、徹底して私自身のテンションを上げる為だけに身に纏っているのであって、他人のテンションを上げる為ではない。

既成事実により交際を始める事となったその瞬間から、私は何とかジェイドと別れられないものかと考えている。それも穏便に無理なく、私が被害を被ることなく平和的に。一応名誉のために言っておくが、ジェイドは恋人である私に対し、話で聞くようなエグさをほぼ見せない。意地悪なことをしてくることは多々あるが、実態を聞いている身としてはそよ風みたいなものだ。そしてジェイドは自身の性格を隠そうとは一切していない。フルオープンだ。私がどれだけドン引きしようが全く意に介していない。

そうして私は思いついた。

愛想を尽かされるように仕向けよう、と。単純だな、と思うだろうが、シンプルイズベスト。不慣れな者ほど奇を衒うとはよく言ったもので、何重にも策を重ねたとして、それをジェイドに見破られるのがオチだ。ジェイドはそう言ったことが大得意だから。そして私が酷い目にあうのが見え見えである。

というわけで、私と会う度に、相手のモチベーションが下がるようなことをすればいいんじゃないかと思ったわけだ。

その結果、とりあえず私のテンションも下げとこう、とジェイドとのデートには色気のないスポブラ、Tシャツジーパン、メイクも手抜き、と目に見える範囲でやる気の無さを表していった。これがまぁ、テンションだだ下がりという点において非常に効果があったように思う。わざわざこのためにスポブラを購入もした。友人には二度見されたし体調の心配もされた。私もせっかくのコレクションを眺めるだけの日々に辟易しつつあった。その憂鬱な気分は最高の演出になったのではないかと自負していた。

一緒にいて楽しそうにしていない相手といるというのは中々にストレスになるはずだ。ジェイドも早々に愛想を尽かすだろうと期待していた。

期待、していたのだけど。早々にはぎ取られたスポブラが床に落とされる。

ジェイドが一言。

 

「僕は貴女の〝外側〟に興味がありませんので」

 

 

 



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