ゼロの使い魔~竜の国からの遭難(?)録   作:ショウマ

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祝日は気球と共に 後編

 

 

「うーん……みんなどこに行ったんだろう?」

 

 静まりかえった気球の中を、四人……三人はセレスを先頭にさ迷っていた。

 

 奥に行ったことは分かっていても、セレス達が来るまでに列は移動してしまったらしい。

 

 辺りを見渡しても、入り組んだ通路とたくさんのドアが並んでいるだけで、あれだけいた人の姿は全く見えなかった。

 

「な、何だか人の気配がありませんね」

 

 その異様さにシエスタが身をすくめながら、気味が悪そうに言う。

 

 震えている友人を見たセレスは、自分がずっと抱き抱えていた眠る黒い少女をシエスタに手渡した。

 

「ミス・シェロティ……いえ、セレスさん?」

 

 思わず抱き抱えてしまった重さを感じさせない少女と、気さくな友人を交互に見るシエスタ。

 

 セレスは悪戯めいた表情を浮かべて笑う。

 

「誰かの温もりを感じていたら、怖いとか寂しいなんて思わないよね?」

 

 それは自身の経験からきた思い。

 

 長く病に伏せっていた時には、やはり気分が滅入ってしまうこともあった。

 

 そんな時に、誰かがそばに居てくれるというだけで何かが満たされ、心が落ち着きを取り戻す。

 

「そう……ですね」

 

 起きないローラを、きつく抱き締めるシエスタ。

 

 肌に伝わってくる温もりによって、シエスタが感じていた恐怖は徐々に払拭されていく。

 

「ウロウ。あなたは……って、あら?」

 

 たった今まで近くにいたはずの友人メイドの姿が消えていた。

 

「ウロウーー!」

 

「ウロウさーん!」

 

 二人の声だけが、静かな気球の中を響き渡る。

 

 ドアが開いたような物音も無く、忽然とウロウが姿を消したことに、今まではどこか楽しんでいたセレスも危機感を強めた。

 

 青いフクロウの杖を持つ右手にも、自然と力がこめられる。

 

「とりあえず、この先にはいないよね。戻りながら、扉を片っ端から開けてみようか」

 

「はい。誰かがいらっしゃれば事情を説明して、用事を終わらせたら早く帰りましょう。何かここは気味が悪いです」

 

 普段の二人なら絶対にやらないようないささか乱暴な方法ではあるが、とにかく今は、このサーカスの人から話を聞きたかった。

 

 すぐ近くのドアの前に立つと、杖を持っていない左手で取っ手を掴んだ。

 

 シエスタがセレスの背中に隠れるようにして、顔だけを横から出す。

 

「開けるよ」

 

「はい」

 

 唾を飲み込んで、ドアを開けた。

 

 そこは広めの個室となっており、ブタが数頭ずつ入れられたたくさんの檻が置かれていた。

 

 部屋に入ってきた二人を見て、ブタ達が一斉に鳴き声を上げる。

 

「このブタ達、さっきまでスゴい芸をしていた子達かな?」

 

「そう思いますけど、私はブタを個別に識別出来ませんので、断言は出来ませんが……」

 

「それは……ボクもちょっと出来ないかな」

 

 ブタ達が騒ぐ中、二人は扉を閉ざして部屋を出ていった。

 

 それから幾つかドアを開けて中を確認するも、そのほとんどが空っぽかブタが入れられた檻が置かれているだけだった。

 

「こんなにも多くのブタ達が、さっきのショーに出ていたんだね」

 

「ちょっと多すぎる気もしますが……それにあのショウを見た後だと、檻の中に閉じこめるのは、ちょっと可哀想な気も」

 

「そうだね、それはちょっと気になってたんだ。それもあんなスゴいショーを見た後だと特に、ね」

 

 正確に数えたわけではないが、彼女達が覗いた部屋に居たものだけで、優に百頭は越えているだろう。

 

 もう一つ、セレスが気になっていることがあった。

 

 それは部屋に入ってきた二人に、ブタ達が毎度のように鳴くことだ。

 

 同じような鳴き方と思うのだが、何か心に訴えかけているような錯覚を覚える。

 

「ローラが……起きていたらなぁ」

 

 サーカスを見ていた間の時間の感覚は無いが、お昼はとっくに回っているはずであった。

 

 それでも、朝からずっと眠り続ける黒衣の少女が起きる気配は無い。

 

 起きている時は終始気怠そうな彼女だが、眠っている姿からはそれは欠片も感じられない。

 

「この子なら、ブタの言葉も分かりそうなのに」

 

 何度も揺すり、声をかけても気持ち良さそうに眠り続けている少女ではあるが、セレスはもう一度起こしにかかるべきか悩んだ。

 

 基本的にセレスは、ローラの自由を重んじている。

 

 ルイズやキュルケ達同様の、大切な一人の友人として、彼女の個を大事にしていた。

 

「でも、この状況ならそうも言ってられないよね……って」

 

 扉の一つを開けた時、目映い光が射し込んできて二人を照らす。

 

 その扉は気球の外に繋がっていたようで、下に下りる階段が取り付けられていた。

 

「そうだ……シエスタはローラと一緒に、外で待っていてくれないかな?」

 

「え?」

 

 外を指し示しながら話すセレスに、シエスタは驚いて目を丸くする。

 

「もしかしたらルイズ達が出てくるかもしれないし、ウロウさんも一緒かもしれないからさ」

 

「セレスさんは、どうするのですか?」

 

「ボクはもうちょっと中を探してみるよ。ルイズ達が出て来たら、それを伝えてほしい。誰も出てこなかったら、ローラを叩き起こしたら良いから」

 

 シエスタにならたぶん怒らないと思う……けど……きっと。

 

 心で思うだけに留め、口には出さない。

 

「……分かりました、お願いします」

 

 ここか、一行が乗ってきた馬を預けている厩舎で待っていれば、いずれはルイズ達とも合流できるはず。

 

 その時に、ウロウも一緒に出てくる可能性もある。

 

 不安ももちろんある……あるが、少しの間を置いてシエスタは頷いた。

 

「大丈夫! ボクには、ローラから貰ったこの杖があるから」

 

 持っているだけでも魔除けになるというこの杖は、ローラから受け取って以来、その言葉の通りずっとセレスの身を護ってくれている気がする。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

 

 階段下から不安そうにこちらを見上げているシエスタに、彼女を安心させるかのように気楽そうに杖を振って見せるセレス。

 

 少しそこまで散歩に行ってくる――そんな雰囲気を醸し出しながら、セレスは再び気球の中へと戻っていく。

 

「さてと……早く、みんなと合流したいな」

 

 好奇心は旺盛だが、気丈といったわけでは無いセレス。

 

 シエスタの前では、彼女を不安がらせないようにそういう振る舞いをしていても、不気味さは感じるし怖いものは怖かった。

 

 未知の気球を探索といった気持ちよりも、恐怖の方が勝っていることがそれを物語っている。

 

 そして何気なく通路を見渡した彼女は、あることに気が付いた。

 

「ええっ!? 何コレ!?」

 

 先ほどまでと同じ、薄暗くて人気が全く感じられない通路。

 

 その通路が、左右にどこまでも続いていることに。

 

 慌てて背後を振り返ってみれば、そこにあったドアも消えていた。

 

「え、ええっ!? た、たった今までドアが――」

 

“ずる……”

 

 あったはずなのに! というセレスの声は、途中で途切れることになる。

 

 セレスの耳に、何かが聴こえた気がした。

 

 何かを引きずるような……そんな音が。

 

「何……今の……?」

 

 恐怖で強張っている彼女の表情、その口から出た声もかすれていた。

 

 耳をすませても、何も聴こえてこない。

 

 怖いという思いからきた空耳かと、彼女が思い始めた時――。

 

“……ずる…………ずる……”

 

「何か……いる……?」

 

 今度は、彼女にもハッキリと聴こえた。

 

 音は、ドアがあった場所を見つめていたセレスの、右方向にある通路の方からだった。

 

 バッとそちらを見つめれば、遠目に紫色の何かが見えた。

 

 目を凝らしてそれを観察してみれば、怪しくも儚げで、朧気な……紫の炎が浮かんでいる。

 

 否。浮かんでいるだけではなく、徐々にこちらに近付いて来ていた。

 

 聴こえてくる、例の不気味な音と共に。

 

“ずる…………ずる………ずぅる……ずぅる”

 

 聴きたくない音を、より鮮明にハッキリとさせながら……。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――行ってくるね」

 

 そう言って、セレスが気球の中に戻っていく。

 

 閉ざされた扉を見上げていたシエスタが、自分達二人以外誰もいない広場で小さく溜め息を吐く。

 

「どうしてこんなことに……」

 

 サーカスを見終わった直後は楽しかったはずだが、その気分も、今や霧散してしまっている。

 

 今はただ、早くみんなと学院に帰りたかった。

 

「――まで経っても来ないなんて、何をしてたのよ」

 

 勢いよくドアが開かれると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 シエスタがうつむいていた顔を上げてそちらを見つめれば、その顔にみるみる安堵の色が広がっていく。

 

「ジョーダンさん、本当に気前良いよな! 忙しいのに、ずっと待っていてくれたんだぜ?」

 

「せっかく燃えそうなあたしの炎が、これで終わりだなんて。残念だわ」

 

「きっとまた会える」

 

「あ、シエスタ。あなたも来れば良かったのに」

 

 ルイズ。才人。キュルケとタバサ、ウロウ。

 

 気球から出てきた五人は階段を下りると、シエスタの所に集まる。

 

「見失ってしまったんだから、仕方ないじゃないか」

 

 そして最後に、お手上げと言わんばかりの仕種をしながら、セレスが外に姿を現した。

 

「セレスさん!」

 

「みんながいたのは、このドアの隣の部屋だったんだよ」

 

「丁度、顔を出したみんなとバッタリ」と、セレスがシエスタに説明する。

 

「みなさん、無事で本当に良かったです」

 

 ホッとした様子のシエスタに、六人は怪訝そうに顔を見合わせると、朗らかに笑い声を上げた。

 

「おいおい。シエスタ、ジョーダンさんが俺達に変なことするはずないじゃないか」

 

「そうよ。あんなに熱い情熱を持っている人なのに」

 

「それに、ここはそのジョーダンさんの気球。何かあるはずもない」

 

「おかしなシエスタ」

 

「さ、学院に帰りましょ」

 

 ルイズが手を叩きながら一同を促す。

 

「あ、セレスさん。ローレシアさんを」

 

 シエスタがそう言って抱き抱えていたローラを手渡そうとするが、セレスは首を横に振って拒否した。

 

「それはもうちょっとシエスタが持っていて」

 

「それ……?」

 

 一瞬、“それ”が何を指しているのか分からなかったシエスタ。

 

 物みたいに言ったソレがローラのことなのだと理解した時に、彼女は激しく違和感を覚えた。

 

 ローラが時々巻き起こすドタバタに怒ることはあっても、セレスが彼女を大事な友人として尊重していることは、シエスタも当然知っている。

 

 その彼女が、ローラを物みたいに扱うとは……ありえない。

 

「……セレスさんでは……ない?」

 

 足を止めて、シエスタは小さく呟く。

 

 その彼女に気が付き、他の六人も足を止めて、一斉に振り返る。

 

 その顔には、なんの表情も浮かんでいない。

 

 それを見て、後退りするシエスタ。

 

 ローラを抱く腕にも力が入り――

 

「………ふぁ……」

 

 腕の中から聞こえる、小さな欠伸。

 

「…………ねむ」

 

 凛とした涼やかな声で怠そうに話す少女。

 

「ローラさん!?」

 

 ようやく目を覚ました少女に、シエスタは今の状況に対する戸惑いと、何とかしてくれそうな人物への喜びが入り交じった声で、その名を呼んだ。

 

「私が暮らしていた国とここでは、時間の流れが違いすぎる。時差ボケはなかなか抜けない」

 

「そ……そうなのですかって、そうではなく!」

 

 見れば、ローラの目はまた閉じかけていた。

 

「ローラさん! セレスさん達の様子が……!」

 

 それを聞いたローラの目が、一気に開かれる。

 

 素手で掴みかかってきた“セレス”が、ローラが常に纏っている結界に阻まれて弾き飛ばされた。

 

 煙が上がっている両手を気にすることなく立ち上がる“セレス”と、横に他の五人も並ぶ。

 

「私の大事なモノに手を出すとは、良い度胸」

 

 抱いているシエスタには見えないが、少女の目が……凶悪な竜のそれに変わった。

 

「第三の竜罰ドライ・ゲバウト〈サークルダウン〉」

 

 六人を囲むように幾何学的な紋様――魔法陣が描かれる。

 

 押し潰さんとする凄まじいまでの重力が、六人に襲いかかった。

 

「きゃああああ!?」

 

「シエスタ! 助けて!」

 

「ぎゃあああ! シエスタぁぁ、た、助けてくれぇぇぇ!?」

 

 一斉に悲鳴を上げる六人に、シエスタが息を飲み、目を背けた。

 

 竜の目が細められ、その凶悪性が一気に高まった。

 

「彼女達の声で、悪意を持って友の名を呼ぶな! 砕け散れ!」

 

 初めて聞く、黒い少女の激怒の声。

 

 硝子が割れるような音が六つ、鳴り響いた。

 

 かつてない恐怖に震えるシエスタの心が、急激に落ち着きを取り戻していく。

 

「〈鎮静〉。大丈夫……ゆっくり、呼吸を続けて……大丈夫」

 

 心に染み込んでくるような、温かな声と、何か。

 

 僅かな時間で、シエスタの心から恐怖と、彼女の脳裏に残っていた悲鳴が消え去った。

 

 落ち着きを取り戻したシエスタは、黒衣の少女の顔を見て訊ねる。

 

 シエスタと似た色の、だが神秘性を讃えた宝石のような黒い瞳がシエスタに向けられた。

 

「あの、今のセレスさんやルイズさん達は……」

 

「魔法で作られた人形。この世界で言うとガーゴイルや、ギーシュのゴーレムみたいなもの」

 

 その時、ジョーダンの気球が大空に舞い上がった。

 

 巻き起こった土煙から身を守ろうとするシエスタの前で、それらは球状に阻まれる。

 

 ローラの結界によって。

 

「絶対に……取り戻す」

 

 シエスタの腕の中から下りたローラは、飛来してきた濃緑色の巨本を片手で掴む。

 

 下から吹き上がるような風が、二人の衣服を大きくはためかした。

 

「シエスタは学院に――」

 

「私も一緒に連れていってください!」

 

 言葉を遮り、ローラのローブをしっかりと握ってシエスタが言った。

 

「危険すぎる」

 

「お願いします! 平民の私を友達と言ってくれた皆さんのためにも、私も何かをしたいんです!」

 

 押し黙ったローラの瞳が竜の目に代わり、シエスタを威圧する。

 

 半歩片足を引くが、グッと堪えた。

 

 ローラの服を掴んでいた手も……離さない。

 

「お願い……します!」

 

 その目を見て、自分の気持ちを伝える。

 

 竜の瞳がギロリと――あくまでもシエスタから見た印象では――僅かに下に向けられた。

 

「そのネックレスは、絶対に手離さないで。あなたの身を護る、唯一の品」

 

 前回の別れの際に、ローラが送った魔法のネックレス。

 

 メイドである彼女に送ったのは、真冬の冷水から肌を守るといったものだが、ルイズやキュルケの物と同様に簡易的な護身魔法もかけられていた。

 

 少女の瞳に戻ったローラはそう言うと、深く溜め息を吐く。

 

「信友至宝。溜め息は、ルティの専売特許と思っていたのに」

 

 すぐ上の姉の、何かを諦めて受け入れるときの姿を思い出すローラ。

 

 彼女もこんな気分だったのだろうかと、最近会っていない姉だが、その内聞いてみようと思っていた。

 

「絶対に離さないでね」

 

「はい!」

 

 今度は自分の意思で、しっかりとローラを抱き抱える。

 

 音もなく、シエスタの足が地面から離れて……高速で飛び出していった。

 

 二人を襲うはずの強風も結界に阻まれ、何の障害にもならない。

 

 やがて気球が見えてくるが、周りには霧が立ち込めてその姿を覆い隠そうとしていた。

 

「まずい」

 

 それを見て、ローラが小さく呟いた。

 

「魔法を解除する霧を使って、どこかに転移するつもり」

 

「え? 転移してしまったら、みんなは……」

 

「彼女達は、私が作ったアイテムを持っている。転移しても、その後は辿れる……けど」

 

「けど……何でしょう?」

 

「時間はかかるし、私が行けない場所かもしれない。私には、どこにでも転移出来るような力は、無い」

 

「そんな……」

 

 つまり、二度と会えなくなる可能性がある。

 

 それに気が付いたシエスタは、霧の中に消えそうな気球に、無駄と分かっていても手を伸ばした。

 

「………………」

 

 ローラにはこれを打開する方法が二つあった。

 

 一つは竜に戻り、直接突撃する方法。

 

 魔法を解除されても、自前の翼で飛ぶ分には影響が無い。

 

 しかし、それにはシエスタを下ろすか自分の背中に乗せるかしないといけないが、彼女は背中に誰かを乗せた経験は無かった。

 

 背中を気にして飛んでいては、追い付けるものにも追い付けない。

 

 さっきの彼女のキレイな意思を受け取ったローラとしては、下ろすのも忍びなかった。

 

 何よりも、その巨体ゆえに気球が無事だという保証も無い。

 

 そして、もう一つの方法には――

 

「キュルキュル(追いついたのね!)」

 

 ローラ達の横に、懸命に飛ぶ風の幼竜がいた。

 

「キュルキュル?(お姉さまがどこに行ったか、怖いねえ様は知らない?)」

 

 タバサの使い魔であるシルフィードは、戻ってこない彼女を心配して追いかけてきたらしい。

 

 ローラの竜としての姿は見たことが無い“彼女”だが、本能でそれを察しているのか、普段は余り話しかけてこない。

 

 ローラが引きこもっているために、接点が余りないこともあるが……。

 

「良いところに。シルフィード、あなたの力が必要」

 

「キュ? キュル!?(何のこと? でも、必要とされているなら貸すのね!)」

 

「ありがとう」

 

 ローラはシエスタごとシルフィードの上に移動すると、自分を手放させて騎乗に集中させる。

 

 ローラの結界がシルフィードを包むと、“彼女”を邪魔するものは今この瞬間、存在しなかった。

 

「キュルキュル!(今、何よりも早い!)」

 

 速度を上げ、みるみる気球に追い付いていく。

 

「凄いです!」

 

 シエスタの感じるシルフィードは、まさに疾風だ。

 

 その彼女の前で、ローラは集中して、ある物の気配を探っていた。

 

 飛んでいる状態では試せなかった、二つ目の手段。

 

 探していたソレに辿り着き、ローラは空いている片手を上げた。

 

「見つけた……コール」

 

 手の中に現れたソレを握り締めた。

 

 片刃の、意思を持つ長剣を。

 

 鍔部分の金具がカタカタと鳴り、魔剣が驚きを口にする。

 

「お、おでれーた!? いきなり引っ張ったのは、黒い嬢ちゃんか」

 

「才人達を助けるのに、あなたの力が必要。手伝ってほしい」

 

「そりゃ構わねーが。嬢ちゃん達は使い手じゃねーしな。どこまで手を貸せるか――」

 

「大丈夫。あなたは何もしなくていい」

 

「へ?」

 

 ローラの言葉に、魔剣デルフリンガーが間の抜けた声を上げた。

 

 そして、ジワリと嫌な予感が刀身をかすめた。

 

「何やら悪寒が」

 

「絶対に、取り戻す。幻刀演舞」

 

 ローラの手から、フワリと剣が浮かんだ。

 

「あ、ちょっと気分が……やっぱやめ」

 

 冷や汗が滲み出ているかのような剣に対して、無情な一言が告げられる。

 

「舞え」

 

「ぎゃああぁぁ……!?」

 

 あっという間に気球に向けて飛び去っていく剣。

 

 空を飛ぶ歓喜の声も、すぐに聞こえなくなる。

 

「シルフィードは、あの後を真っ直ぐ追いかけて」

 

「きゅるきゅる!(任せるのね! 前を飛ぶなんて生意気なのね!)」

 

「ちょっと違うけど、まぁ……いいかな」

 

 目的を達成するのが第一のため、やる気が出るなら些細なことは放置する。

 

 前を行くデルフを追いかけて、さらに加速するシルフィード。

 

 やがて、前を行くデルフリンガーは霧を斬り裂きながらどんどん進み、〈施錠〉の魔法で閉じられていた大きな扉をも突き破った。

 

 そこに、僅かに遅れて飛び込むシルフィード。

 

 掻き分けられた霧が再び気球を覆い隠すと、その姿が完全に見えなくなった。

 

 ……ハルケギニアの空から、完全に。

 

 

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