ゼロの使い魔~竜の国からの遭難(?)録   作:ショウマ

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異世界交流は騒乱と共に 前編

 

 

「ここが、古都グランガラム王国のお城です」

 

 出会った貝獣三人組の案内で辿り着いたのは、長い年月と落ち着いた印象を感じさせる城であった。

 

 トリステインの王城もその長い歴史を誇っているのだが、聞けばこのグランガラム城はそれすらも上回る年月を積み重ねている――この世界でも有数の歴史的建造物らしい。

 

 遠方からのときは余り分からなかったが、近くで見れば、ルイズ達の知るトリステイン城と比べて小さいことが分かる。

 

 しかし、特筆すべきはその自然の要衝具合だろう。

 

 北側から南にかけては丁度Cの字状の岩山が、その内側を口の形に森が広がっており、グランガラム城はその中心に存在していた。

 

 森の東側はすぐに切れて平原となっているが、それを挟んで広大な海といった具合である。

 

 もっとも、それはあくまでも陸から見た場合だ。

 

 岩山といってもそこまで高いものではなく、シルフィードはもとより飛行の魔法でも飛び越えられる程度しかない。

 

 そして何より、城そのものにも問題があった。

 

 歴史を感じさせると言えば聞こえは良いが、石造りの城はあちらこちらで劣化しているのが見て取れる。

 

 酷い箇所は職人による補修作業が行われているが、その中には兵士と思しき者も混じっていた。

 

 才人風に言えば、「ボロい」ということになるだろう。

 

「皆さん、こちらへ!」

 

 兵士と町人が談笑しながら作業する姿を眺めていたルイズ達を、門番と話をしていたバブが呼ぶ。

 

 ゾロゾロとルイズ達がそちらに向かうと、

 

「おお、皆さんが冒険者の方ですね? 今バブさん達からお話を聞きましたよ。ようこそ、グランガラム城へ!」

 

 門兵達はそんなことを朗らかな笑顔で言って、城門を開き始めた。

 

 軋みながらゆっくりとした動きで開くのを待つ間、ふとセレスは抱いていた疑問を訊ねることにする。相手は、一番普通に会話が出来そうな白くて小さな貝獣だ。

 

「ねえ、バブさん」

 

「ボクのことはバブで良いですよ。えっと……セレスティナさん」

 

「じゃあ、ボクのこともセレスって呼んで。えっとそれで、ボク達をあっさりお城の中に入れてしまって良かったの?」

 

「はい。皆さんに悪意があるようには見えませんし。それに、えっと……」

 

 そこで言い難そうに口を閉ざしたバブは、自分の後ろで縮み上がっているクピクピと、セレスが抱いている黒衣の少女に複雑そうな顔を向ける。

 

「もし何かされても、ボク達では皆さんを止められませんから……」

 

 その表情の意味することをありありと察したセレスもまた、視線を腕の中の無気力な人物に落とすと、バブと似たような表情を浮かべた。

 

「あ~、この子のことは基本的に気にしない方が良いかな……? 難しいとは思うけど」

 

「あ、あはは……ちょっと難しいですね」

 

「そうだよね」

 

 お互いに力なく笑い、やがて二人の口からは、どちらからともなく深いため息が漏れる。

 

 そして奇しくも同じタイミングで、二人の視線は後方へと。

 

 そこに立つのは小柄な少女。その水色の髪に埋もれるように佇む小さな風竜、その背中に括り付けられた気球に向けられた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 それは城にやって来る少し前の出来事。

 

 まずはグランガラム城に向かう、ということで一致したルイズ達。しかし、その際ジョーダンの気球をどうするか? という話になったのである。

 

 自分達の誰かが残るや兵士を呼ぶなど様々な意見は出たものの、決定案というにはほど遠く。

 

 それもこれも、ジョーダン――ローラが言うところの変態男――が取り返しに来た時のことを考えての所為だ。

 

 試しに聞いてみたが、バブ達もあの男のことは知らないらしい。

 

 彼らの言うジョーダンとは、背が低く小太りで常にピエロメイクな男。ルイズ達も知る、あの時サーカスの壇上で挨拶をしていた人物のようだ。

 

 それと、バブ達がジョーダンではない男について、「相手の実力は分からないけど、強力な魔法を使うならこの国の兵士にはきついかも」と語ったことも大きい。

 

 どうやらグランガラムの兵士達は武術には長けているものの、魔術は全く使えないらしい。

 

 トリステインも兵士の多くは魔法が使えない平民だが、魔法が使える部隊も別個に存在する。それに加えて、グりフォンやヒポグリフを使役する幻獣乗りの部隊だってあるのだ。

 

 一方のグランガラム。

 

 魔法が使えるのは王女のルミエラと、彼女の師である老いた宮廷魔術師……だけであった。

 

 ちょっとした事情で協力しているというバブ達三人(意外(?)なことに、ポヨンも使えるそうだ)を入れても、余りにも少ない数にルイズ達は驚きを隠せない。

 

「メイジがほとんどいないって、それでよく日常生活が送れるわね」

 

 まず魔法ありきの世界で暮らしているルイズ達にとって、それは信じ難い話だった。

 

「このグランガラム地方は比較的温暖な気候で、出没する魔物も比較的弱いものばかりなのです」

 

 ちょっとした魔物程度であれば、魔法が使えないこの国の兵士達でも十分対処可能で、彼らが苦戦するような状況の時は王女自ら出向く。

 

「今までこのスタイルでやってこれたのです」というバブの説明に、ひとまず納得した一同。

 

 ルイズ的には、メイジである王女自らが国や民を守るというところに感銘を受けたようだが。

 

「それでどうするの」というタバサの発言に引き戻され、再び悩む一行。

 

「あ」

 

 その時、あることに気が付いたシエスタが小さく声を上げた。

 

「ローラさんなら、簡単なのではありませんか?」

 

 シエスタはタバサの髪で遊んでいる――ローラの魔法で小さくされたままのシルフィードを示す。

 

 彼女はその光景を目の前で見ていたのだ。

 

「あら、それ良いわね」

 

 ここで待つことに飽き始めていたキュルケが、その意見にすぐさま賛成する。他の仲間達も「それ良いわね」と、反対する者はいないようだ。

 

 一名を除いて。

 

 もちろん、術を使わされるローラ本人である。

 

「面倒。それなら、私がここで待つ」

 

「キミならそう言うと思ったけど、でも……」

 

 予想通りな答えに、しかしそれをなんとか踏みとどまってもらおうと、セレスは知恵を巡らせ始めた。

 

 もしあの男が城の方に来たら、ボク達だけではどうにも出来ないよ――という言葉だけは、口にしたくない。

 

 純然たる事実ではあるのだが、それは自分達の都合である。大切な友人でもあるローラに、無理強いという形で話を持っていきたくないのだ。

 

 友達は互いに助け合うもの。

 

 自らの不注意で長い間寝たきりだった彼女だからこそ、これ以上ずっとオンブに抱っこは嫌だった。

 

 助けられたら、それ以上に助けてみせる。

 

 そんな思い詰めたような表情をしているセレスをチラリと見て、タバサが口を開く。

 

「私もセレスに賛成。それに、戦力を分けるのは得策じゃない。あなたも今は」

 

「ん? タバサ、ローラが今ってどうかしたの?」

 

「……なんでもない。少しは疲れてるのでは、と言いたかっただけ」

 

 タバサの内容に訝しげにするセレスだったが、続く彼女の言葉に「そっか」と納得した。

 

 なにせ数で有利だった自分達と違い、ローラはあの男と単独で戦った直後なのだ。その時に、彼女は派手な魔法も使っている。あれではまるで、噂で聞いた伝説のメイジ『烈風』カリンだ。

 

 大きな魔法ならそれに応じて負担も大きくなる。

 

 シエスタの話では、自分達と合流するまでにも彼女は力を使っているらしかった。

 

 それぞれの力がどれくらいの消耗になるか、ローラ本人が口にしない限りセレスには分からない。

 

(いつもベッドで寝転がってダラダラしていたのも、何をするにも気怠げな反応をしていたのも。もしかしたら、それには深い意味があったのかもしれない。例えば、彼女の力は負担がとっても大きいのだとか! そう考えたら、色々と納得出来る気がする。運動をするつもりが全くないのも、いざという時のために力を蓄えてたんだよ、きっと)

 

 それにこうも消費し続けでは、ローラがいくら強力な竜であっても、少しは疲れるだろうとセレスも思っていた。

 

 ちなみに、彼女のこの拡大解釈的な勘違いは、数日後にやはり間違いだったと判明することになる。

 

 もちろん、タバサはローラが負傷しているのを知っているからこそ、こんな形で話を振ったのだ。

 

 タバサは、ローラが自分以上に自らのことを話したがらない性格だということを見抜いていた。

 

“怪我のこと、セレスに話してもいい?”

 

 先程の言葉にも、そんな意味が込めてある。

 

 タバサにとっても、友達は大切な存在だ。

 

 しかし、必要ならば駆け引きすることも辞さない。そこが二人の違いだろう。

 

 ローラの漆黒の視線とタバサの空色の視線が空中で交錯する。

 

「私に疲れはない」

 

 そのタバサの考えを把握した上で、ローラはキッパリと答えた。

 

 何やら見えない火花が散っていそうな丁々発止のやりとりを、他のメンバーは口を挟めないままただ見ているしか出来ない。

 

「あなたのこと。そろそろゆっくり休むか、本を読みたいのでは? 集中して」

 

「それは否定しない」

 

 『集中して』の部分を強調したことにも、当然意味はある。休むや読書についてはどうでも良くて、つまりは『治療にあてる時間が必要では?』だ。

 

「あなたにとっても悪い話ではないはず。もし何かが発生しても、一緒にいればそれだけあなたの手間が減って、労力を減らせる……かもしれない」

 

「ん……まぁ、それなら一考の価値はあるけど、満点はあげられない」

 

「残念」

 

 そのローラの返しとそれに対するタバサの反応に、全員が疑問符を浮かべる。

 

「満点ってなんだ?」

 

「何が残念なのよ?」

 

「ちょっとタバサ。どういうこと?」

 

 口々に言う中、代表してキュルケが訊ねた。

 

「ローラから受けてる交渉術のテスト」

 

「なによそれは……。あなた達、いつのまにそんなことしてたのよ?」

 

 言外に、“あの極度に面倒臭がりなローラと”と物語っている。

 

「本を読んでいる時。彼女の気が向いたら」

 

 ローラは話すまでには莫大な時間がかかるが、一度講義として語り始めると饒舌になるタイプらしい。

 

 以前、ルイズに頼まれて魔法の講義をした際もそうであった。

 

「ボクがいない時に、二人はそんなことしてたんだ」

 

 授業が終わるとルイズに連れ回されることが多いセレスは、四六時中ローラと一緒というわけではない。

 

 ルイズや才人、それにキュルケが加わった時には、静けさを好む彼女に配慮して部屋に残している。

 

 どうやら授業はその時に行われていたようだ。

 

 なぜ交渉術なのかは謎だが、ローラからの個人授業なのは確か。

 

 いつぞやの図書室で延々と翻訳させた件で、現在お預け中のセレスが羨ましそうに言う。

 

 それでも、言葉が出なかった自分の代わりに話をしてくれたのはタバサだ。感謝を込めて視線を向けたセレスの視界に、どこか残念そうな彼女の姿が入ってくる。

 

「今回は説得されたがっていたから簡単だと思ったのに」

 

「え? 誰が――」

 

「タバサ。セレスも、余計な詮索するなら」

 

「言わない」

 

「ボクもしないから、そろそろ禁止の解除を……」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 そういったことがあった後、全員が見つめる前でローラは魔法を発動させた。

 

 城にある物見の塔みたいな大きさの気球がみるみる小さくなっていく様は、初見のバブ達には衝撃的だったろう。

 

 既に一度見たことのあるシエスタはともかく、ローラのやることに慣れたつもりのルイズ達でさえ、改めてその非常識さに呆れたのだから。

 

「ボクや一部の者は、自分の身体を小さくすることが出来るのですが……他の、それもあんなに大きな物を小さくするのは無理です」

 

 実際に、バブがその小さな身体を“八十%”や“五十%”に縮めて見せてくれた。

 

「他者を変化させるという意味なら、クピクピの〈ジュエルナ〉の魔法の方が近いのかな?」

 

「アレは一部の魔物を宝石に変えてしまうだけクピ。変えたら元に戻すことは出来ないし、どの宝石になるか指定も出来ないクピ。そもそも条件も色々あって効かない相手が多いから、ジョーダンのブタ光線の方が上だクピ」

 

 宝石という言葉に超反応したキュルケに怯えながらも、クピクピがバブの話を補足する形で説明する。

 

「へー。あのジョーダンという人、そんなにスゴい魔法が使えるんだ」

 

「セレスは見てないから良いじゃない。わたしはもう見たくないわ。あの人達を早く助けてあげないと!」

 

「このあたしがブタに変えられていたかもしれないなんて、今思ってもゾッとするわね」

 

 セレスの呟きに、現場でその様を見ていたルイズとキュルケが顔を青くしていた。

 

 それでも、ブタに変えられた人々を助けたいというルイズの心は折れることがない。

 

 そんなルイズを安心させるように、

 

「あ、ブタにされた皆さんについてはなんとか出来るかもしれません」

 

「ホント!?」

 

 顔を輝かせるルイズにバブが頷く。

 

「はい。ただ、そのためにはルミエラ王女の許可が必要なのです」

 

「それじゃ、王女様と話をしないと――」

 

「ギーシュ(予想)のせいで、印象最悪かもしれないがな」

 

 才人の言葉を聞いたトリステイン組の脳裏に、無駄に爽やかなギーシュの笑顔が浮かんだ。

 

「最悪」

 

 あくまでも予想でしかないのだが、日頃の行いのせいでタバサの中では既にギーシュ本人で確定しているらしく。

 

 さらにシエスタも含めた全員がタバサに同意したのも、むべからんことであろう。

 

 途中で鼻をヒクつかせたポヨンが食堂の方に行ってしまったが、現在一行はバブの先導で城内を進んでいた。

 

 ちなみにグランガラム王の居る謁見の間ではなく、先に王女の部屋を目指している。

 

 こういったトラブルは王女であるルミエラの方が慣れているらしく、王もそれは認めている。

 

 さらに途中で会った兵士からの話によれば、ルミエラの部屋では現在、『深夜の侵入者四人組』の内の二人との話し合いが行われているという件もあった。

 

 小さな身体で階段を懸命に上がる貝獣二人組の姿に癒やされながら、城奥の塔内にあるルミエラの部屋に辿り着く。

 

 王女の部屋にしては飾り気がない木製の扉を、バブが二度ノックする。

 

「どなたかしら?」

 

 扉の向こう側から聞こえたのは、落ち着いた感じの女性の声。不機嫌や怒気といったものは含まれてはいないようだ。

 

 それに安堵するも、これから大事な話をするルイズの背中には緊張が走る。

 

 まずは報告を兼ねたバブが喋り始めた。

 

「ルミエラ王女、バブとクピクピです」

 

「クピ」

 

「見廻りから戻られたのですね。うちの兵士でもないのに、いつも色々手伝ってもらってゴメンナサイね。ポヨンさんはまた食堂かしら?」

 

「はい。それに、ボク達の方も色々助けてもらってますから」

 

「ポヨンもいつも通り直行クピ」

 

 バブが一度ルイズ達を振り返ると小さく頷く。

 

「それで、ルミエラ王女にお客様をお連れしました」

 

「お客様? 今……ちょっと大事なお話中なのです。後にしてもらっても構いませんか?」

 

 まだ話し合いは続いていたらしく、バブの申し入れに扉の向こうからは困惑気味の返事が。

 

「それが、気球の件と例の四人にも、少し関係があるみたいなのです」

 

「……へぇ」

 

 穏やかだったルミエラの声のトーンが、一気に落ちた。

 

「例の件で、ルミエラ様は大の男嫌いになってしまったクピ」

 

「言うの遅ぇーーーっ!?」

 

「……なるほど」

 

 騒ぐ才人の陰で、何やら納得したかのようにタバサが呟く。

 

「ん? どうかしたの、タバサ?」

 

 それを耳にしたセレスが聞くと、タバサが彼女と、その腕の中で静かに眠る少女に視線を移した。

 

「満点じゃない理由。手間や労力は減らせても、休めるとは限らない」

 

 それを証明するかのように、黒衣の少女の目蓋が微動し――

 

 

 

 

   ――続く――

 

 

 

 




 
 
 
※ じっくり書こうとするとどうしても長く……。

物語を動かすために、もう少しばかり駆け足にした方が良いでしょうか?

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