ゼロの使い魔~竜の国からの遭難(?)録   作:ショウマ

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反撃は決意と共に

 

 

「新手か」

 

 城の敷地内に足を踏み入れ、やってくる少年少女達に気付いて視線を向けたその“大男”は、今度はそちらへと得物である大きな金棒を構える。

 

「こ、これは……!?」

 

 ルイズやセレス達トリステイン学園一行を加えたルミエラ王女と、彼女が率いる数人の護衛兵、そしてバブとポヨンの貝獣コンビから成る一団。

 

 この混合パーティが襲撃現場である南門に駆け付けた時、そこで広がっていた惨憺たる光景を目にした一同は思わず息を飲んだ。

 

 まず、辺りに散らばっている破片は城を守る最後の障壁である門の、大穴の空いている部分だろう。木を鉄で補強して作られたそれは、外からの強い力によって粉々に壊されていた。

 

 そして、地に伏している兵士達。

 

 城内へ行かせてなるものかと敵に立ち向かい、しかしそんな彼らよりも相手の力の方が遥かに上回っていたようだ。彼らの持っていた剣や槍は半ばから折れ、鎧も原形を留めている物は一つとして無い。

 

 それでも全員がまだ苦痛に呻く声を上げていることから、幸いにも守備隊員の中に死者は出ていない。だが、すぐに立ち上がれるほど軽傷の者もいないため、早めに治療をする必要があるだろう。

 

 見回りなどでもよく城外に出るルミエラにとって、グランガラム城とその町で暮らす人々はみな顔見知りといっていい、気心の知れた仲である。

 

 特に城内で生まれ育ったルミエラにとって、毎日必ず顔を会わせる城勤めの者達は家族にも等しい。

 

 そういった者達を傷付けられ、さしものルミエラの頭にも熱いものが上っていってしまう。

 

「(――ダメっ!)」

 

 だが、思わず激高しかけたルミエラを、残っていたグランガラム王女としての冷静な部分が引き止めた。

 

 爆発寸前だった感情をかろうじて抑え、ルミエラは大きく一度深呼吸する。そして、明らかに人間ではない大柄な相手の顔を見据えた。

 

 成人男性の二倍以上、四~五メートルはある赤い体躯を、実戦により鍛えられて膨れ上がった筋肉が覆う。

 

 武器はそれに見合ったトゲのついた金棒だが、防具はシンプルな形の肩当てと革製の腰巻きだけだ。

 

 額には小さく一本、側頭部からは一本ずつ天に向かってくの字に伸びた太い角が生えている。目の上、額の角の両脇には二つの黄色い楕円形のようなモノも。守りよりも攻撃を重視する、典型的な戦士(アタッカー)タイプらしい。

 

 ルミエラも簡単な治療魔法なら使えるが、それの効果対象は一人。目の前に敵が居る状態で、倒れている全員に術をかけていくのは難しいだろう。

 

 それにルミエラの使う魔法では、重傷者をすぐさま治療するのは不可能だ。もちろん時間をかければ可能ではあるが、やはりそれもこの場では難しかった。

 

 つまりは、治療をするためには目の前の(大男)をどうにかしないといけないということだ。

 

「侵略者よ、我が城に何用です? 何が目的で、このような非道を行ったのですか!? 王女ルミエラ・グランガラムが問います。答えなさい!」

 

 いつもよりやや強い口調で、こちらに対して不敵な笑みを浮かべている相手に杖を向ける。

 

「オレの目的、か。簡単なことだ、姫君よ」

 

 それに大男は動じることなく、フムと面白そうに頬肉をつり上げた。

 

「『強き者と戦う』! それこそが、戦士たる者の本懐であろう?」

 

「そ、そんなことのためにこんな酷いことを――」

 

「る、ルイズ!」

 

「ムグゥ!?」

 

 それまで立場的に(国的にも)部外者のため静観していたルイズだが、大男の答えには納得いかず、つい口を挟んでしまう。

 

 そのルイズの口を慌てて手で塞いだのはセレスだ。タバサに劣らず読書家の彼女は、これまで読んできた冒険譚の中にこういうタイプの者が度々出てくることを知っていた。

 

 そんなルイズに、大男はフンとつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「そんなこと、か。どうやら武人の心が分からぬ無粋な輩がいるようだ」

 

「グム!? ムグググゥ!」

 

「だ、ダメだって。落ち着いて、ルイズ」

 

 杖を振りかざしてもがき始めたルイズを、セレスは必死で止める。キュルケはそれに呆れた様子で、タバサはチラリと視線を向けただけですぐに男の方に戻した。

 

「眠れる大国と聞いていたが、この程度か。兵の練度は高いようだが、そもそも平和ボケしているようではそれも無意味。……まあいい。この国に勇者がいると聞いた」

 

「ゆ、勇者?」

 

 ルミエラは眉を潜め、バブとポヨンは顔を見合わせる。

 

 ただ一人。

 

「勇者だって!?」

 

「そんな奴がいるなんてゲームみたいだ、スゲーぜファンタジー!」などと言っている才人を、セレスの手を振り払ったルイズがすぐさま蹴り倒しす。

 

 大男がそんな三人をジロリと睨みつけると、蛇に睨まれた蛙の如くルイズ達の動きが止まった。だが、硬直した才人やセレスを背中に庇うルイズだけは、すぐに負けじと薄い胸を張り、キッと睨み返して対抗する意思を見せる。

 

「(あ、あんなの……怒った時の母様の方がもっとずっと怖いでしょ!)」

 

 意に反してブルブルと震える手足を、心の中で叱咤しながら。

 

「フム。何人か毛色の違うのが混じっているな。面白い!」

 

 ズン、と一行に向かって大きく一歩前に出ながら、

 

「お前達の中の誰が勇者かは知らんが、このメガロキングが相手をしてやる。死にたくなくば全力でかかってこい! このオレを倒してみろ!!」

 

 大男――メガロキングは気迫に満ちた声を上げて、一行に向けて金棒を構え直す。

 

「侵略者よ、断じて許すことは出来ません! 必ずや捕らえて、法の裁きを受けてもらいます!」

 

 ルミエラがそう宣言すると同時に動いた影が一つ。

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」

 

 先手必勝とばかりにタバサの放った氷の槍が、メガロキングに迫る。

 

「フンッ!」

 

 それを、メガロキングは金棒の一振りで打ち砕く。

 

「相手の足を止める」

 

 ポツリと、タバサはルミエラにそう囁いた。

 

 それだけで何かを察したのか、ルミエラは自分の連れてきた護衛兵達の方へ顔を向ける。

 

「全員! 今のうちに、倒れている者達を治療室の方へ!」

 

「は、ハッ!? し、しかしそれでは……」

 

 王から与えられた姫の身を第一に考えよという職務と、その護衛対象者(ルミエラ)からの命令。

 

 目の前の敵(メガロキング)が尋常ではない相手だと、守備兵よりも上である自分達でも敵わない強さ(レベル)だということは感じていた。しかしそんな相手であっても、ルミエラの盾になるくらいなら出来る。

 

 かといって、助けられるかもしれない倒れている仲間達を見捨てることも出来ない。連れていくのなら、ルミエラの言う通り自分達の体力が万全で、異国の少女が見慣れぬ魔法で足止めをしてくれている今がベストであろう。

 

 ただ王命と、今の自分達に出来る最善。どちらを優先すべきか、逡巡してしまう。

 

 そんな彼らを、ルミエラは一喝した。

 

「急ぎなさい! 命に優先などありません。それに、事は一刻を争うのです。戦場での迷いは、それが僅かな時間であってもあってはなりません。……彼らをお願いします」

 

「……ハッ!」

 

 背筋を伸ばし、一糸乱れぬ敬礼一つ。護衛兵達は負傷者の輸送に取りかかる。重傷者から先に、槍を担架代わりに連れ出す彼らに後を任せ、ルミエラ自身は急ぎ前線に赴く。

 

「セイッ!」

 

「とお~」

 

 手や足、武器そのものを狙って飛んでくる氷の槍や矢を煩わしそうに振り払うメガロキングの元へ、白と緑の貝獣コンビバブとポヨンが斬り込んでいた。

 

 短い手足を感じさせない素早く、それでいて正確な攻撃。出会った時はノンビリ・ノホホンとしていたポヨンも、まるでそれを感じさせない。

 

 ギギィン!

 

 二人、飛び上がっての銀の剣(シルバーソード)戦斧(バトルアックス)による一撃。

 

 受け止めた金棒から、大きく火花が散った。

 

「なんの! だがこの手応え、良い腕だ!」

 

 ブン! と唸りを上げながら、得物を振るって二人をルイズ達の方へと大きく跳ね飛ばすメガロキング。

 

 飛ばされた先で、空中でクルリと一回転し、体勢を立て直して着地するバブ。

 

 飛ばされた先で、あたふたしながらそのままポテッと落地するポヨン。

 

「ほら、しっかりしなさいな」

 

「ありがとうなんだな」

 

 助け起こしてくれたキュルケに礼を言うポヨンの横を、青銅で出来た五体の戦乙女達が駆けていく。

 

「フッ。行きたまえ、僕のワルキューレ!」

 

「何でお前はそんなに偉そうなんダ、ギーシュ?」

 

 薔薇を食わえながら格好付けるギーシュに突っ込みを入れながら、ギャブーロはワルキューレの後を追うように走っていた。

 

 他の仲間達と違い、杖の先端を持つ彼の右拳が赤々と燃え上がる。

 

 杖に魔力を伝わらせて刃とする〈ブレイド〉という魔法がある。火系統の者が使えば〈炎刃〉、水系統の者が使えば〈水刃〉という具合に、それぞれの系統毎に存在している。

 

 だがギャブーロは刃とするのではなく、杖に魔力を這わせて拳を覆う形としていた。彼自身、自分が何故このようなスタイルを取ったのかは分かっていない。ただ、こうするのがひどく馴染んでいた。

 

「重装兵……? いや、ゴーレムか!? 勇者だけでなく、召喚士もいるとは! ……だが!」

 

 ワルキューレを見て驚く顔も一瞬、その余りある力でワルキューレ達を次々と粉砕していく。

 

「無茶苦茶な奴だナ……バーニングブロー!」

 

 トンと流麗なステップを踏んで、ギャブーロは砕けるワルキューレと振るわれる金棒の死角から殴りかかる。

 

 相手の足下から突き上げるように放った炎の拳は、吸い込まれるようにメガロキングの身体を捕らえた。

 

「ムッ!?」

 

 覆う物が無い右脇腹に感じる熱。

 

 振るった金棒を咄嗟に引き戻すも、ギャブーロは既に射程外の位置まで移動していた。

 

「アジな真似をしてくれるな、小僧」

 

「見た目通りタフだな、全く効いてない。青銅のワルキューレよりも硬いんじゃないカ? 殴ったオレの方がイテェゾ」

 

 炎を消した拳を押さえながらギャブーロが呻くように言えば、メガロキングはニヤリと獰猛な笑みを浮かべてみせる。

 

「炎を宿したところで、そんな細腕に殴られてガタがくるほど、オレの鋼鉄のように鍛え上げた身体はヤワではない」

 

「才人じゃないが、これがマジでヤベェって奴カ」

 

 仲間内での実戦演習でよく耳にした言葉を口にしてみた。

 

「ガハハ! さあ、どうした! ――むっ?」

 

 メガロキングが背中に走った小さな痛みに振り向けば、肩甲骨辺りに突き刺さっている氷の槍が視界に入る。

 

「油断大敵。あなたの相手は一人じゃない」

 

 幾つもの氷の矢を生み出しては放ちながら、タバサは相手の背に回り込もうと走った。

 

「効かぬ! ……効かぬが小娘、小癪な真似を!」

 

 飛んでくる氷の矢を次々と撃ち落としながら、

 

「グオッ!?」

 

 

 ドオン! と、今度は爆炎が背中を襲う。その衝撃に、メガロキングが思わずたたらを踏む。

 

 氷の槍を溶かしながら燃える背中越しに、振り返ったメガロキングが目にしたのは、得意そうに炎と同じように赤い髪を掻き上げる(キュルケ)の姿があった。

 

「今、タバサが言ったばかりでしょ、ミスター・メガロ? あなたのお相手は一人ではなくてよ?」

 

「確かに――」

 

「〈ハイドロン〉!」

 

「な!」

 

 駆け寄ってキュルケの横に並ぶと同時に、ルミエラの構えた杖から迸る水流。正面からとはいえ不意打ち気味に放たれたそれを、メガロキングはこれまでに積み重ねた戦士としての勘に従い、無意識に金棒を盾代わりとする行動に出た。

 

 そうして受け止めたメガロキングだったが、水流の勢いは予想よりも激しく、その足は次第に後方――城外へと押し出されていく。

 

 そこに、キュルケの〈フレイム・ボール〉とギャブーロの〈ファイアー・ボール〉、状況的に回り込むのを止めたタバサによる〈氷の矢(ウィンディ・アイシクル)〉の魔法が一斉に襲いかかった。

 

 新たに喚び出されたワルキューレも、魔法の対処に追われるメガロキングに殴りかかっていく。

 

 水に炎に氷。さらには互いの攻防力の差によりまとわりつく形となったゴーレムと、まるでアリに集られる象となるメガロキングであるが……

 

「えーい、次から次へと鬱陶しいわ!」

 

 ギラリと、彼の眼が剣呑さを帯びた。

 

 一方で。

 

「ほら、セレス! いい加減にわたし達もいくわよ! サイトも、さっきまでのバカみたいな元気はどうしたのよ!?」

 

 ルイズが怒鳴り声を上げていた。先陣を切って仕掛けるつもりが、自分の背中に隠れるようにして今も震えるセレスと、腰を抜かして立てない才人が気になって動けなかったためだ。

 

 しかし、それも仕方のないことかもしれない。

 

 軍人としての教育も受けているギーシュ達(キュルケも)や何故か場慣れしてるような感じを受けるタバサと違い、セレスと才人には実戦の経験が皆無だからだ。

 

 試合ではない実戦なんて漫画やアニメでしか知らない才人はもちろん、セレスも――一年前の夢での出来事を含まないのであれば――ウロウとの時が初めてである。

 

 それでも才人のように腰を抜かすほどでないのは、コレが当たり前な世界の住人だからなのであろう。知識としてハッキリと理解している分、才人よりは良い。当然、それはそれとしての恐怖はあるが。

 

 ただ、ルイズの場合はそれとは別の問題があった。

 

 ルミエラに協力を申し出たのは自分なのに、それがこのまま何しないまま終わっては物凄く気まずい。

 

「(それに、キュルケのことよ。ここぞとばかりにアレコレ言ってくるに決まってるわ!)」

 

 この一年はそれなりにそれなりな関係でいる二人だが、性格が変わったわけではないのだ。ルイズでからかえる機会を得た時のキュルケは特に。

 

 最近は魔法が使えないことについて何か言ってくることはないが、それ以外のことでは相変わらずであった。

 

「しっかりしなさい、セレス!」

 

 肩を揺さぶり、真摯に自分に声をかけ続けるルイズの姿に、セレスは眩しいものを見つめるかのように眼を細める。

 

「……あの時も、さっきの戦いの時も、そして今も。本当にルイズは強いね」

 

 ――ボクは、そんなキミの勇気にいつも助けられてるよ。

 

 心の中で、セレスはそっと感謝を告げた。

 

 しかし……。

 

「あんたが協力してくれないと、わたしが魔法を使えないじゃない!」

 

 と、ルイズはセレスの前に左腕を突き出し、身に付けている緑色の宝石が付いた腕輪を示す。ローラお手製の二個一対で作られたソレは、はめている者同士の魔力を同調(リンク)させ、互いの魔法を使うことが出来るという代物だ。

 

 ただし、結局は借り物の力であるため、プライドの高いルイズが他人の前で魔法を使うことはない。それでも便利なことには違いなく、事情を知る仲間しかいない時などは『いつか使えるようになった時のための予習』と称して、セレスとよくリンクさせては魔法を使用していた。

 

「…………………。あ、あれ!? え、ちょ、ちょっと待って、そういう問題!?」

 

「ここは感動するとかそういう場面だよね!?」というセレスに対し、「何を言ってるのよ!」と呆れ顔で返すルイズ。

 

「あんたもトリステイン貴族なんだから、杖を持って戦うのは当然でしょう!?」

 

「ええーーっ!?」

 

 声を上げてから、慌てて自分の口を塞ぐセレスの姿に、ルイズの頬がピクピク痙攣し始める。

 

「……なによ、今の『ええーー』ってのは? あなたも杖にかけて、ここに来たんでしょう!?」

 

 柳眉を逆立てて怒るルイズの余りの剣幕に、タジタジとなったセレスは口を塞いだままコクコクと何度も頷いた。

 

 実のところ、セレスとしてはモンモランシーやクシューラ達と一緒に避難するつもりだった。

 

 とはいえ、保身目的というわけではない。そうしないと、致命的なまでに体力的な問題を抱えている自分が、みんなの足を引っ張ってしまうと考えたためだ。

 

 移動だけならば、自分一人でも浮遊や飛行魔法でどうにか出来る。

 

 では、何故そうしなかったかと言えば、ルイズに引っ張ってこられたから……というのも確かにあるが。

 

 地下から移動する際、ルイズに握られたままだった自分の手。ルイズがルミエラに進言した時もそのままだったが、違うのはギュッと力が込められたこと。

 

 セレスがそこから感じたのは――不安。

 

 普段は怖いもの知らずなルイズであっても、ここはトリステインから遥か遠く離れた場所。それもおかしな男に、訳の分からぬままに連れてこられたのだ。不安に思わないはずがない。

 

 だから……。

 

――だから、そんなルイズの支えに少しでもなれたらいいなって。

 

 ルイズのことだ、口には絶対に出して言えないが。

 

 孤独や寂寥(せきりょう)感を誰よりも知り、そして嫌う少女は一緒に行くことを決意した。

 

 行ったところで、自分に何か出来るというわけではない。同じトライアングルでも、実力も経験も上なキュルケやタバサが一緒なのだ、むしろ足手まといになるのは目に見えている。

 

 かといって、モンモランシー達のように後方でいざというときの治療術に長けてもいなかった。ウロウとの、自身初となる戦闘を乗り越えたことで楽観視していた部分もあるだろう。

 

 それでも、何かをしたかった。この地でルミエラと出会い、彼女の在り方に心を動かされ。彼女のように大切な友人達のため、自分でも出来ることを。

 

 ただし、戦闘ではなくサポートの方で。

 

「ああ、もう!」

 

 キュルケとは逆に、及び腰な親友にルイズは癇癪を破裂させる。

 

 臆病の気があるのは知っているが、ただそれだけでもないことを知っているからだ。

 

――未知の探求とやらの時は呆れるくらい積極的になるのに!

 

 一、嬉々として探検。

 

 二、何故か途中で怖がり始める。

 

 三、土壇場になると途端に落ち着きを取り戻す。

 

 それが、親友(セレス)の行動パターンだ。

 

 それに本当に臆病なだけならば、身体を張ってキレたローラを止めるなんて真似はしない。

 

 前線は奮闘している。怪我人の輸送も、日頃の訓練のためか分担して急ピッチで行われている。

 

 だが、どちらもまだ時間はかかりそうだ。

 

 それなら、どちらが優先すべき事項か?

 

――決まってるじゃない。

 

「行くわよ!」

 

「ど、どこに?」

 

 返事より先に、ガシッと掴まれる自分の腕。それだけでセレスは理解出来た。理解出来てしまった。

 

「ああ~……」

 

「あいつを倒したら、安全に治療出来るわ!」

 

「ぼ、ボクは怪我をしてる人の輸送に回った方がみんなの役に立つんじゃないかな~って……」

 

「ツベコベ言わない!」

 

「ちょっ!? まっ、る、ルイズ、待って!? 腕! そんなに引っ張ったら腕が抜けるーーっ!?」

 

 そうしてルイズは前線に向かって突進する。浮遊状態をずっと維持していたセレスの輸送など、何の問題もない。

 

「サイトはそこでジッとしてなさい!」

 

 セレスを風になびかせつつ、ルイズは最後にそう言い残していった。

 

 そんな少女二人からその場に取り残された一人……いや、二人。

 

「どうする、相棒?」

 

「………………」

 

 いつもと違い、デルフリンガーは気遣わしげに使い手の少年に声をかける。

 

 デルフリンガーは、デルフリンガーだけは気付いていた。

 

 才人の左手は、自分をしっかり掴んでいることを。

 

 緊張や恐怖から出た行動ではなく、戦うために。

 

 最初はメガロキングの気迫に圧された才人である。

 

 ウロウの時はほとんど気絶しており、最後に目覚めた折に何となく身体が動いただけ。相手も見知った顔で、怖くもなかった。

 

 ギーシュとの時も痛い思いはしたが、あれはどちらかといえば試合に近い。死ぬこともなかっただろう、たぶん。

 

 今は違う。

 

 二人の時には感じなかった、鬼のような相手が放つ身を竦めるような本物の殺気がある。アニメや漫画ではない、現実(リアル)本当の(マジな)戦場の風に触れたのだ。

 

 恐怖し、戦慄いた。

 

 だが、才人が感じていたのはそれだけではない。

 

「…………(アツい……まるで身体が燃えてるみたいだ。一体、どうしたってんだ、コレ)」

 

 熱源は、彼のお尻辺り。

 

 ズボンのポケットの中から放たれているようだ。

 

 右手をやり、ポケットの中に突っ込む。

 

 そして、手のひらに収まるほどの大きさであるそれを手にして眼前に持ってくる。

 

 熱い。熱いが、火傷をするような感じではない。

 

 それは貝だ。炎のように赤い、ローラが持ち、“火の貝”と呼んでいたもの。

 

 それが今、貝自身が赤い光を放っていた。

 

『……――は来……。……めよ、……者よ』

 

 才人の頭の中で、何者かの『声』が聞こえた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「王女様。この後はどうするのかしら?」

 

「城からは、もうちょっと離したいところですわね」

 

 

 護衛達からの、移送完了の狼煙(のろし)はまだ上がっていない。

 

 立て続けに魔法を使っているため、キュルケもルミエラも息が上がっていた。

 

 それはギーシュやギャブーロも同様で、二人も肩で息をしている状態だ。

 

 タバサも額にはビッシリと玉のような汗を浮かべているし、バブやポヨンも絶えずメガロキングを牽制し続けている。

 

 あれだけ魔法を撃ち込まれてもなお、メガロキングは堪えていた。驚くべきタフさだ。

 

 こちらの魔力も無限ではない。

 

 堪えきられると、今度はこちらが不利になる。

 

 退いたところで、あの力の前では内門も簡単に突破されてしまうだろう。

 

 なんとしても、ここでどうにかしたい相手だ。

 

「「リンク!」」

 

 少女二人の声が、どうすべきか思考するルミエラの耳を打つ。

 

 声の方を見れば、腕輪にある緑に輝く宝石を煌めかせたルイズとセレスが、朗々と呪文を唱えているところだった。

 

「あの二人、やっと来たのね」

 

「意外。セレスは怪我人の方に行くと思った」

 

 キュルケとタバサは言葉を交わすと、ルミエラも連れて大きく距離を取る。

 

「「ラナ……デル・ウィンデ――〈エア・ハンマー〉」」

 

 二人の声に合わせて、風が唸りを上げた。

 

 二本の杖先から生まれた不可視の暴風は巨大な(つち)となり、メガロキングを打つ。

 

「グオっ!?」

 

 城門突破に用いる巨大な破砕槌のような衝撃を頭に受け、たまらずメガロキングは膝を着いた。

 

「な、なんだ今のは!? 風魔法の〈プレス〉? 〈プレッシャー〉とでも言うのか!? なんという威力だ」

 

 衝撃でクラクラする頭を押さえながら、メガロキングは驚きを露にする。

 

 驚いているのはメガロキングだけではない。

 

 味方もだ。

 

「ぜ、ゼロのルイズが魔法を使った!? 実は魔法を使えるという噂は本当だったのかい!?」

 

「あんなの、オレはくらいたくないゾ」

 

 “ルイズの魔法”を初めて見た二人は、驚きに目を見開いていた。

 

「あの二人は力を溜めて放つタイプの魔道師だったのですね」

 

 遅かった理由にも納得しました、とルミエラは一人頷く。

 

「みんな、待たせたわね」

 

「遅いのよ、ルイズ!」

 

「もっと早く来てほしい」

 

 例によって無い胸を張って言うルイズに、キュルケとタバサはすぐさま文句を口にする。

 

「ご、ごめん。ボクがもたついてしまったから」

 

 ルイズの横では、魔法を唱え終わり再び宙に浮いたセレスが平謝りに謝っていた。

 

「そんなことより、きみが魔法を使えるなんて知らなかったよ。どうして学院では使わなかったんだい?」

 

「そうだナ。少なくともゼロなんて陰口は叩かれないゾ?」

 

 集まってきたギーシュとギャブーロも口々に話しかける。

 

 だが、戦闘はまだ終わっていないのだ。

 

 最初に気付いたのは、メガロキングへの警戒を解かなかったバブ。

 

「……っ!? 皆さん、まだです!」

 

「あ、危ないんだな」

 

 ポヨンも警戒を促す、が一歩遅かった。

 

「ランドクラッシャー! ……ヌオリャア!」

 

 メガロキングの全身からオーラが立ち上ぼり、攻撃を受けている間に溜めに溜めた力を一気に解放。エネルギーを纏わせた金棒を思い切り地面に叩き付けた。

 

 途端、そこに込められたエネルギーが大きな爆発を巻き起こす。

 

 生まれた爆風は城壁の一部を壊し、南の森の入口にある木を一部薙ぎ倒した。

 

「あ、う……」

 

 運良く、浮いていたがために爆発より先に起きた風により上空に飛ばされてしまったセレスだけが、今の難を逃れていた。

 

 それでも一瞬意識を失っていたらしく、浮遊の魔法の維持に集中する。

 

「る、ルイズは? みんなは?」

 

 手が離れてしまった親友と友人達を探して、降下しながら城門の周辺に視線を配っていく。

 

 いた。

 

 だが、タバサもルミエラも、全員が地に倒れ伏している。生きてるのかどうかは、今の位置からでは分からない。

 

「違う、死んでるわけがない! みんな生きてるに決まってるよ!」

 

 不吉な可能性はを振り払い、急ぎ地上を目指す。

 

「一匹、逃したか」

 

 ズン、と金棒の先端を地面に当てて、仲間達から近い位置に陣取ったメガロキングがセレスを見上げていた。

 

 無傷ではない。自分達がくる前に、みんなが与えたダメージは残っている。

 

 だが、セレス一人でどうにか出来る相手ではない。

 

 かといって、一人で逃げるなんて選択肢は絶対に選ばない。

 

「考えろ、考えるんだ。みんなを助ける、何かいい方法を」

 

 自分の取れる手段をあれこれ考える。

 

「どうした? 降りてこんのか? 逃げるなら、そのまま逃がしてやっても良いぞ。臆病者を倒したところで、戦士の誉れにはならんからな」

 

 滞空するセレスに、下からメガロキングが声をかけてくる。

 

「に、逃げない!」

 

 それだけはハッキリ声に出す。

 

「では、降りてこい!」

 

 諦めて、地上に降りる。

 

 飛んだままでは、どのみち他の魔法を使うことは出来ないのだ。

 

「覚悟はいいか? 安心するがいい、お前達は立派な戦士だった。全員、あの世に送ってやろう」

 

 金棒を構えるメガロキングに、セレスもフクロウの杖を向ける。

 

「くう、せめて……」

 

 ――ローラが居れば。

 

 そう考えた時だ。

 

『――セレス』

 

「ローラ?」

 

 青いフクロウの瞳が光を放つ。

 

『力が欲しい?』

 

 とても怠そうに、悪魔が囁いた。

 

 

    ――続く――

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