ゼロの使い魔~竜の国からの遭難(?)録   作:ショウマ

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 二話分を詰め込んだため、少し長めとなっています。


別れは再生と共に

 この心地好さ、何て言ったら良いのだろう?

 

 

 寝心地の良い何かに包まれて、そのままどこかに眠りながら漂っていくようなそんな感じ。

 

 

 それも良いかな? このままずっとこうしていたい。

 

 

  ……ずっと。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「セレスティナ!? しっかり!」

 

 

「ミス・シェロティア……目を開けて下さい!」

 

 

 その日の午後。

 

 

 トリステイン魔法学院には塔が六つある。一番背の高い真ん中の本塔を囲む様に五つ塔が配置されており、生徒達が食事を行う食堂は本塔にあった。

 

 

 朝食・午前の講義・昼食を終えたセレスティナとルイズ。午後は講義が無いこともあり、食堂でのんびりとした時間を過ごしていた。

 

 

「あの、すみませんミス・シェロティア、よろしいでしょうか?」

 

 

 談笑していた二人の元にやってきたのは、二人が知るメイドのシエスタだった。

 

 

「あ、シエスタ。どうしたの?」

 

 

 会話を一時中断して、にこやかにシエスタを見るセレスティナ。会話を中断されたルイズの方は、若干不機嫌そうに見ているが……。

 

 

 そのルイズの様子に気が付いてシエスタは頭を下げると、持ってきたものを差し出した。野菜等を挟んだパンと、こぼさないように蓋がされたスープ皿。

 

 

「ローレシアさんの食事を、と」

 

 

 近くに他の生徒が居なくなったのを見計らって持ってきてくれたらしい。

 

 

「ありがとう、シエスタ」

 

 

 その気配りに素直に感謝を伝えると、席を立つ。

 

 

 受け取ろうとしたセレスティナに私が運びますからと断って、シエスタが食事が見えない様に持ち運びしやすい形の箱に入れていく。

 

 

「ルイズさ……ルイズ、ボクちょっと部屋に戻るね」

 

 

「わたしも行くわ。様子が気になるしね」

 

 

 そう言ってルイズも席を立ちセレスティナと並んで歩き始め、その後ろから箱を持ったシエスタがついていく。

 

 

 談笑しながら三人は女子寮を進んでいた。

 

 

「あ、シエスタ。後でローレシアの服を脱がせるのを手伝ってほしいんだ」

 

 

「セレスティナ……、あなたやっぱり……」

 

 

「ミス・シェロティア、その様なご趣味が……」

 

 

「ち、違うよ!? ご、誤解、誤解だってば!? ちょっと着替えを……」

 

 

 二人の反応に、真っ赤になって大慌てで否定を返す姿を見て笑みが溢れた。

 

 

「分かってるわよ、そんなに慌てなくても」

 

 

「ミス・シェロティア、お着替えの方はお手伝い致しますので」

 

 

「もう……二人ともひど……い……や?」

 

 

 そんな話をしながら目的の部屋の近くまで来たときに、突然セレスティナが前のめりに倒れ始めた。

 

 

「え、ちょっと……!?」

 

 

 咄嗟にルイズが支えたが、セレスティナは微かな呼吸はしているものの反応は無かった。

 

 

「セレスティナ!?」

 

 

「ミス・ヴァリエール、一先ずお部屋の方へ……!」

 

 

「そ、そうね」

 

 

 ルイズとシエスタで支えながら部屋に運んで、マントを取りブラウスのボタンを上からいくつか外して呼吸をしやすくした上でベッドに寝かせた。

 

 

 その様子を、三人が入ってきた時からベッドの端に座っていたローレシアが見つめていた。

 

 

「ど、どうしよう……いつものだったら寝かせておいても大丈夫そうだけど……」

 

 

「入学式の時と同じですよね……先生方も寝かせておくように言っておられましたが」

 

 

 入学時に提出した書類には勿論記載されていたが、真剣に読む教師は実は少なく、少し体が弱い程度にしか思われていなかった。

 

 

 ルイズも、寝かせて様子を見るしかないのかしら……と思い始めた時、ふと座っていたローレシアが視界に入った。

 

 

 普段見たことも無い、その真剣な表情も。

 

 

「ローレシア……?」

 

 

「助ける」

 

 

 その様子が気になったルイズに返ってきたのは簡潔な一言。しかし、気怠げな雰囲気は全く無かった。

 

 

「しかし、私だけでは少し力が足りない。あなた達の力が必要」

 

 

「ち、力と言ってもわたしは……」

 

 

「私はただのメイドで、魔法とか使えませんが……」

 

 

 ローレシアの頼みに、二人はそれぞれの事情で躊躇していた。

 

 

「出来れば、強い火の力が欲しい」

 

 

 躊躇う二人にローレシアは構うことなく話を続けた。

 

 

「火? 火だと……キュル……ツェルプストー?」

 

 

「わ、私が呼んできます!」

 

 

 シエスタが部屋を飛び出して行った。

 

 

 思い付いて言ってしまった仇敵の名前に、ルイズは苦い表情を浮かべていたが、気になった事をローレシアに尋ねる。

 

「ねえ、どうして火なの? 治療なら水系統だけど」

 

 

「治療じゃないから」

 

 

「治療じゃない?」

 

 

「そう、治療じゃない。原因を取り除く」

 

 

 ルイズに答えたローレシアは、相変わらず詳しい説明をしないが最後に一言だけ付け加えた。

 

 

「力ずくで」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 数分後、キュルケを連れてシエスタが戻ってくるとローレシアはゆっくりとベッドから立ち上がった。

 

 

 少しふらついていたが、シエスタが支える。

 

 

「それで、セレスティナを助けてほしいってどういうことかしら?」

 

 

 部屋でゆっくりしていた所を無理矢理引っ張ってこられたキュルケは、不機嫌を隠そうともせずに言った。

 

 

 ルイズとシエスタが困惑しながら黒い少女を見たことで、キュルケの視線もそちらに向かう。

 

 

 その三人を一人ずつしっかり見つめて、ローレシアは口を開いた。

 

 

「セレスを救う。三人の力を貸してほしい」

 

 

「救うって具体的にどうするの?」

 

 

「あたしの火が司るのは破壊と情熱。治療じゃなくてよ?」

 

 

「セレスの症状の原因は禁書……開いてはいけない魔法の本を開いたせい。少しずつ、気が付かれにくい速度で心が蝕まれ、ある程度進んだら一気に進行する」

 

 

 ルイズとキュルケに頷きを返し、説明を始める。

 

 

「私は治療術は苦手。外部からの簡易的な治療法を試したけど、反発がかなり大きかった」

 

 

 そう言ってローレシアは両袖口を捲って見せた。

 

 

 二ヶ所の、変色し大きな痣を見て三人は息を呑んだ。

 

 

「よって、私の魔法と三人の力で原因を無理矢理炎で取り除く。キュルケ、私の肩に片手を置いて」

 

 

「この貸しは高くつくわよ?」

 

 

「ツェルプストー!」

 

 

 怒鳴るルイズに肩をすくめてみせて、キュルケは言われた通りローレシアの肩に手を置いた。

 

 

「ルイズは私と手を繋いで」

 

 

「でもわたしは……わたしは、火は……魔法は……」

 

 

 差し出された左手に、ルイズは手を伸ばさずにうつむいてしまった。

 

 

 その下を向いた頬にそっと触れる手。

 

 

 あ……と小さく声を上げて顔を上げたルイズは、その手の持ち主――ローレシアを見た。

 

 

「大丈夫。あなたには強い……とても強い力がある。ただ、まだツボミなだけ。私は開花を見ることは出来ないけど、いつか大きな花が咲く」

 

 ローレシアには話していないルイズの苦悩。実習時に他の生徒達にも知られる様になったとはいえ、深い悩みの種になっているそれを見透かした様な言い方。

 

 

 ルイズはチラリと眠っているセレスティナに視線を向ける。

 

 

 セレスティナから聞いたわけでは無いだろう。ルイズの実家ではしゃいで庭の池に落ちていた時と、学園での数日だけだが、彼女は他人の気にしていることを言いふらす性格では無い。

 

 

 普段のルイズなら、「あなたにわたしの何が分かるの!?」と激昂するところだが……。

 

 

 ルイズはもう一度ローレシアを見た。普段のその気怠そうな雰囲気とはまるで違う、その瞳からも真摯なモノが伝わってくる。

 

 

「あら、ここまであなたが評価されてるのよ? それでも自信が持てないならお帰りになれば、ルイズ?」

 

 

 ふふんと、髪をかきあげながら試すような視線をルイズに向けるキュルケ。

 

 

「や、やるわよ! やらないなんて言っていないでしょ!」

 

 

 そんな大声とは逆に、ローレシアの手をそっと握る。

 

 

「友達を助けるのは当たり前でしょう」

 

 

 こちらは小声だが、三人にははっきり聞こえていた。

 

 

「ありがとう。さっそく始める」

 

 

 ローレシアが右手を正面に突き出すと、例の本がひとりでに開き、ページを捲りながら浮かび上がる。

 

 

「セレスの闇を焼くために、秘呪で私とルイズ、キュルケで彼女の心の中に飛び込む。ただ、既にかなりの部分が闇に染まっている。でも、心の部分は最も繊細な部分」

 

 

 ページ捲りが止まり、開いた面を見せる様に傾くが、本が淡く光を放っているため書かれている文字は読めない。

 

 

「私が合図をするまで、二人は絶対に手を出さないで。何が起きても」

 

 

「何よ、その言い方は? 」

 

 

「明らかに何か起こりますって感じよね」

 

 

 不穏な物言いに、ルイズとキュルケが不審そうに言うが、少女からはごめんという一言が返ってくる。

 

 

「説明したいけど、本当に時間がない。大丈夫……と言っても私への信用は無いけど、二人の安全は保証する。勿論セレスも」

 

 

 本から長い棒が伸びてきて、その光景に三人は驚きに目を見開いた。

 

 

「シエスタはセレスの汗を拭いてあげてほしい。噴き出すから、鏡台に積み上げておいたのを使って。後、その浮いている本が床に落ちたらルイズとキュルケを私から引き離して」

 

 

「あ、はい」

 本から物が出てくる光景に目を奪われていたシエスタだったが、言われた内容はすんなり頭の中に入ってきた。

 

 

「始める」

 

 

 本から突き出していた棒を握り締めたローレシアは、一気にそれを引き抜いた。

 

 

 引き抜いたそれは、赤茶色の杖。先端には、額に青い宝石が埋め込まれたフクロウの顔を模した飾りがある。

 

 

 ローレシアが杖を一振りしてベッドの上のセレスティナに向けると、掛け布団が横にどけられその体が宙に浮かんだ。

 

 

「森と、夜と闇の番人よ……。示せ、闇に囚われし者を救う道を」

 

 

 言葉が紡がれるに従って、シエスタ以外の四人が似て非なる『黒い』光を放ち始める。

 

 

 セレスからは禍々しさを感じる『黒』、三人からは深淵とも言える『漆黒』。

 

 

「導け……〈誘 心 門(インバゲート)〉」

 

 

 構えた杖の青い宝石の部分から、淡く青い光が放たれセレスの放つ闇へと真っ直ぐ向かっていった――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 そこは一面の闇だった。

 

 

 床も天井も壁も、何もないただ黒いだけの世界。

 

 

 そこにいるのはただ二人だけ。

 

 

 Yの字に拘束されたセレスティナ。うつむいて、意識は無いようだ。

 

 

 そして、『男』。セレスティナの正面に立ち、周りの黒とは違う、禍々しさを持った黒一色のその『男』には顔すら無かった。

 

 

「ふむ、思ったより早かったな」

 

 

 目も鼻も口も無いが、セレスティナを見下ろしながら『男』は言葉を発した。

 

 

「この娘の体を掌握したら、あの娘の魔力も貰うとするか」

 

 

「その子の体はあなたのものじゃない」

 

 

 『男』の背後から聞こえてきたのは、凛とした少女の声。

 

 

 こちらも、その白い肌とそれ以外の漆黒の部分が周りの闇から浮き上がっていた。

 

 

 前も後ろも見分けがつかないが、『男』は確かに背後に振り返った。

 

 

「またおまえか」

 

 

 この世界で二人は数回矛を交えていた。しかし……。

 

 

「おまえには感謝というものをしてやっても良い。この娘の掌握が早まったのはおまえのおかげなのだから」

 

 

「強さの割りにあっさり退くとは思っていた。私が助けた事で浸食が早まるとは思わなかった」

 

 

 背後の吊るされたセレスティナを軽く振り返って言う『男』に、ローレシアは言葉に悔しさを滲ませた。

 

 

 そう両者の戦い自体はローレシアが優勢に進めていた。しかし試合には勝っても、勝負には負けていたのだ。

 

 

「おまえは人間を知らないのだな。人間というのは脆く弱いモノだ。安らげるという場所があれば、安易にすがる。簡単に今までを放棄して、逃げるのだ」

 

 

「確かに私は人間に興味なかった、それは認める。分かったことは、感情の起伏が激しく心が乱れやすい。故に、そこから何かの起因になりやすい」

 

 

「その通り。だからこそ、おまえという『光』が注ぐからこの娘は闇に居るという選択をしたのだ。ここに居れば苦しみも辛さは感じず、一時の温もりが得られると思ってな」

 

 

 『男』は大仰に、芝居がかった仕草で一礼して見せた。

 

 

「おまえのおかげで予定より早く体を得られ、狙っていた次の獲物も近くに居るという幸運。感謝してやろう」

 

 

 そんな『男』に対して、少女は静かに口を開いた。

 

 

「……まだ」

 

 

「む?」

 

 

「セレスの体はあなたのものじゃない。彼女は、確かにここで一時的な安らぎを感じてしまった。でも、どこかで否定している」

 

 

 ローレシアは射抜くような鋭い視線で『男』を見た。

 

 

「セレスはまだ、あなたに負けていない」

 

 

「『まだ』……な。だが、時間の問題だ」

 

 

 『男』は余裕の口調で周りを示すかの様に両手を広げる。

 

 

「ここは既に我が世界、我が領域。おまえの力は制限……いや、振るうことも出来ん。今までの様には……いかんぞ」

 

 

 『男』が軽く手を振る。ただそれだけで『男』の周囲の闇が揺らめき、ローレシアの肩や腰、腕部分の服が裂ける。

 

 

 現実世界ではないためか、血こそ流れないものの、裂けた部分には斬られた様な痕は残っていた。

 

 

 切られても、ローレシアの表情は変わっていないため、そこからでは痛みの度合いは分からない。

 

 

「大丈夫だから。セレスは助ける」

 

 

 誰かに言って聞かせる様に言うと、ローレシアは『男』からセレスティナへと顔を向けた。

 

 

「セレス。セレス、聞こえているはず」

 

 

「黙れ」

 

 

「あなたは旅に出たかった筈」

 

 

「黙れ」

 

 

「様々なモノを見たかったのでは?」

 

 

「黙れ」

 

 『男』が不愉快そうに口を開く度に闇が揺らぎ、ローレシアの体のどこかが切られていく。

 

 

 痛みがあるのか無いのか、依然ローレシアの表情からはそれは窺えない。

 

 

「あなたの旅の終着はここ?」

 

 

「だまれ」

 

 

「これが心から見たかった景色?」

 

 

「だまれ!」

 

 

「『夢』の事を話していたあなたは――」

 

 

 今までとは違う大きな傷が腕に……脚に刻まれていく。

 

 

「本当に綺麗だった」

 

 

「だまれ!!」

 

 

 『男』が激昂すると同時に、今までとは比べ物にならない一撃が放たれ、ローレシアの右肩口から左脇腹にかけての服が弾けて深い傷が刻まれた。

 

 

 ローレシアは、ボロボロになった黒衣から露になった肌と傷痕を見やるが、すぐにセレスティナへと視線を戻す。

 

 

 ここに来た時よりも周囲の闇は薄まっており、その分『男』の凝縮された闇が目立つようになってきた。

 

 

「後少しだから……。大丈夫、抑えて。セレス、ここではあなたの綺麗な夢は永遠に叶わない」

 

 

「まだ喋るか」

 

 

 男がさらに闇を放つ。

 

 

 ――その時。ここまでほとんど表情を変えなかった少女が驚愕の表情を浮かべた。

 

 

 目の前でなびく桃色がかったブロンドの髪。

 

 

 自身を庇うように立つ、両手を広げて立つルイズの後ろ姿を見て。

 

 

「痛っ……!」

 

 

「ルイズ、駄目! あなたは普通の精神体。ここで傷を負えば、現実で影響が出るかもしれない」

 

 

 ブラウスが破けて、切られた右腕を押さえたルイズに、焦った様子のローレシアが言う。

 

 

「嫌なのよ……。何もしないで、出来ずに後ろでジッとしているなんて! わたしだって貴族なのよ!? 目の前で、傷付きながら友達を助けようとしている子が居るのよ!?」

 

 

 吐き出す様に怒鳴ると、ルイズは『男』を睨み付けた。

 

 

「わたしだって、友達の一人や二人助けてみせる!」

 

 

「もういい。おまえたち、だまれ」

 

 

「やってみなさい!」

 

 

 退く気が無いルイズを見て、ローレシアがその前に踊り出る。

 

 

「黙るのはあなたではなくて?」

 

 

 ……出ようとしたら、その前に阻まれた。

 

 

 燃えるように赤い髪の少女に。

 

 

「キュルケ、あなたまで……」

「キュルケ、何の真似?」

 

 

 裂かれた制服の左脇腹部分に軽く左手を当てると、キュルケは普段通りの仕草で髪をかきあげる。

 

 

「あら、ヴァリエールがするのならあたしも負けられないじゃない」

 

 

 自信に満ちた態度で言い放つと、『男』とセレスティナを見るキュルケ。

 

 

「それに、ローレシアにもセレスティナにも貸しがあるのよ? ここで何かあったら返してもらえないじゃない」

 

 

「あんたらしいわ……」

 

 

 呆れた様にキュルケに言ったルイズも、セレスティナに向かって声を張り上げた。

 

 

「池に落ちても、女の子の服を脱がす……のは控えた方が良いと思うけど、戻ってきなさい! セレス!」

 

 

「あの子ら何やってるのよ」

 

 

 ルイズの発言内容に、今度はキュルケが呆れた様に呟いた。

 

 

 そんな二人を、やはり呆れた様に見ていたローレシアは軽いため息をつく。

 

 

 指示を破ってここに立っている二人は――。

 

 

「二人とも、綺麗」

 

 

 この地――ハルケギニアに来て初めて、微笑を浮かべた。

 

 

 ならば……。

 

 

「心ある力をもって誰かの為の爪牙たれ」

 

 

 ローレシアの姿がかききえ、ルイズとキュルケの間へ分け入る様に現れる。

 

 

「わたしは綺麗なものを護る者」

 

 

 『男』が無言で放った圧縮された闇の弾丸は、二人を左右に押し退けたローレシアの胸の中心を貫いた――。

 

 

「……ゴメン。でも、ギリギリ間に合ったかな?」

 

 

 ……直前で砕けた弾丸の、闇の粒子が。

 

 

 三人の視線の先に居た人物……セレスティナの声と共に、周りの闇が一層薄くなる。

 

 

「遅かったわね。遅刻分、今度何かデザート奢って貰うわよ?」

 

 

「うん、分かったよキュルケ。でも、お小遣い厳しいから、余り高いのは許してほしいかも……」

 

 

 悪戯めいた表情のキュルケには苦笑を浮かべて。

 

 

「わたしもその意見に賛成してもいいわ。クックベリーパイね?」

 

 

「うん。その代わり、ボクの池の件と“事故”の事は忘れてほしいんだけど……」

 

 

 楽しそうなルイズには引きつった表情でセレスティナは答えた。

 

 

「あらダメよ。デザートを戴きながらルイズには話してもらわないと」

 

 

「そうね。まぁ、たまにはキュルケとお茶をしても構わないわね。シエスタも呼んで、本人の前で話してあげるわ」

「キミ達は鬼か悪魔か!?」

 

 

 まだ黒い輪で両手を縛られたままのセレスティナと、ルイズ・キュルケとの賑やかなやりとり。その度に、周囲の闇が薄まっていく。

 

 

 そんな二人に背を押されて、ローレシアは一歩前に出る。

 

 

「ローレシア……その」

 

 

「引きこもりは終わり?」

 

 

 夢の中で自分を助けてくれようとした少女、目の前でボロボロになっている姿を見て辛そうに言いよどむセレスティナに、小さく微笑を浮かべた少女からはからかいを含んだ声。

 

 

 それを聞いて一瞬キョトンとした後に、不満そうにむ~……と唸りながら、しかし柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

「キミにだけは言われたくないよ、ローレシア」

 

 

「私は引きこもりじゃない。動くのも面倒なだけ」

 

 

「もっと酷い……と思うけど、助けてもらったボクには言えないけどね」

 

 

 ハッキリ言い切った少女に、セレスティナは精一杯の感謝の気持ちを込めた。

 

 

「ばかな。かんぜんに しょうあく したはずだ」

 

 

 驚きを隠せず、『男』は呆然と呟いた。

 

 

 そんな『男』に、ローレシアは冷たく言い放つ。

 

 

「忘れた? ここはセレスの心の中。確かにさっきまでの結界はあなたが張ったもの。でも、本人以上の場の掌握は出来ない」

 

 

「つまり、持ち主が居ない家で好き勝手にしていたってだけでしょ?」

 

 

「じゃ、泥棒にはお帰り……いえ、消えてもらいましょうか?」

 

 

 ルイズとキュルケも、怒りを込めた眼で『男』を真っ直ぐ見据えた。

 

 

「ここはもうセレスの世界。世界のルールは……もう変わってる」

 

 

 ローレシアは高く両手を掲げる。

 

 

「コール……!」

 

 

 その呼びかけに応えるかの様に、ローレシアの頭上で白い光が溢れ……ややあって現れたのはいつも持っているのよりはやや小型の黒い本。

 

 

 その本が開き、中から赤茶色のフクロウを模した杖が飛び出してくる。

 

 

 そのまま受け取った杖を一振りすると、ルイズとキュルケの手元に愛用の杖が現れる。

 

 

「ツェルプストーの炎は立ちはだかるものは何でも燃やし尽くすけど、あなたはどうなるのかしら?」

 

 

 楽しげに歌うような声で、炎の女王は呪文を詠唱する。その怒りと反比例に態度は余裕を奏でる。

 

 

 放たれた火球――〈フレイム・ボール〉の魔法は、正確な狙いで二発三発……と『男』に命中し焼く。

 

 

 

「とりあえずセレスを助けるのが先よ、キュルケ!」

 

 

 次々と火球をぶつけるキュルケを見て、ルイズは何の気なしに杖を振り――三人はセレスティナの横に転移していた。

 

 

「「「えええ!?」」」

 

 

 その出来事に、ローレシア以外の少女達は驚きの声を上げた。

 

 

「ぜ、『ゼロ』のルイズが……魔法成功率ゼロのルイズが、魔法!? しかも、何よその魔法は!?」

 

 

「ルイズ、使えない使えないって毎日授業の度にボクに愚痴っていたのに、いつの間にこんな便利そうな魔法を!?」

 

 

「二人とも後で覚えてなさいよ!」

 

 

 二人に怒鳴ると、ルイズはそのなだらかな胸を張る。

 

 

「そう、これがわたしの本当の実力よ!」

 

 

「ルイズ、ちょっと違う」

 

 

 そんなルイズの背中をつつくローレシア。

 

 

「何よローレシア?」

 

 

「ここはセレスの心の中。つまり現実とは違うイメージの世界。ここで出来ても、現実でも出来る訳じゃない。さっきのは、早くセレスの所に行こうとしたイメージが力になった」

 

 

「う……そ、そんな」

 

 

「まあ、ルイズならそんなところよね」

 

 

「あ~……驚いた。それなら納得だよ」

 

 

 うちひしがれたルイズとは逆に、今度は納得した表情の二人。頷いている二人にムッとしたルイズは、近くで吊るされて動けないセレスティナの頬を思いきりつねる。

 

 

「痛い痛い痛い!? ちょっと、ルイズ、本当にいたひっへ!?」

 

 

「あら、心の中なんでしょ? 痛くないわよね-」

 

 

「なるほど、つねられたら痛いというイメージなわけね。じゃ、さっき切られた時に感じた痛みもそれね」

 

 

 ルイズにつねられ悲鳴を上げるセレスティナ。後半は杖を持った手も使って両頬を引っ張られていたが。

 

 

 それを見て冷静にこの世界を理解したキュルケ。

 

 

 キュルケが少し念じると、セレスティナの両手の戒めが消える。

 

 

「なるほどね」

 

 

 取っ組み合いを始めた二人を見ながら、『男』を牽制していたローレシアの横に並ぶ。

 

 

「あの二人は放っとくとして、後はあれの始末ね」

 

 

 キュルケにローレシアは首肯する。

 

 

「他の場所に逃げないように、ルイズの魔力を勝手に使って結界を張ってある。キュルケの炎の魔力も借りて念のため結界の外を浄化したから、ここから出たら疲労が襲うと思う」

 

 

 

「そう」

 

 

「この借りはセレスからもらって。それで私のセレスへの貸しを消す」

 

 

「彼女、全部返せるのかしら」

 

 

「たぶん。それにしても、人間としてはルイズの魔力は大きい。かなりの量を使っているから多少は今も倦怠感を感じている筈なのに、あれだけ元気に動けるとは」

 

 

「単に気が付いていないだけじゃないの?」

 

 

 未だに互いの頬を引っ張ろうとしている背後の二人に、キュルケは当たっている予想を述べた。

 

 

「……なめるな!!」

 

 

 『男』が吠えた。力を制限されていても、関係無いとばかりにどこからかかき集めた闇を自らに凝縮していく。

 

 

 キュルケが放った火球を受けながらも、『男』……いや、『闇』は膨れ上がっていく。

 

 

 先程の雄叫びを聞いて取っ組み合いを止めたルイズとセレスティナも、キュルケ達の所にやって来た。

 

 

「最後の悪あがきね」

 

 

「あの、ボクは杖が無いんだけど」

 

 

 キュルケが余裕を含ませて言うと、申し訳なさそうにセレスティナが言う。

 

 

「愛用の杖位イメージしなさいよ」

 

 

「引っ張られた頬が痛くて、イメージ出来ないんだよ」

 

 

 そう言ったルイズに、頬を擦りながらジト眼で見るセレスティナ。

 

 

「これ使って」

 

 

 そんなセレスティナに、ローレシアがフクロウの杖を差し出した。

 

 

 受け取るべきか悩むが、ローレシアが大丈夫と言いながら頷くのを見てそっとその杖を手に取った。

 

 

「わ……色が」

 

 

 セレスティナが受け取ると同時に、額の緑の宝石部分はそのままに杖が青く染まった。

 

 

「魔除けだから、そのままあなたが持ってて」

 

 

「分かったよ、使わせてもらうね」

 

 

 セレスティナがそっと杖を握ると、杖から溢れそう力を感じた。そして、自分の背後を支えてくれている何かを感じて振り返ると、そこには半透明なシエスタの姿があった。

 

 

 外で支えてくれている友人にも、起きたらたくさん感謝を伝えようと誓う。

 

 

「ローレシアはどうするのよ? 杖無しでは魔法が使えないでしょ?」

 

 

「ルイズじゃないんだから、この子ならイメージで使えるんじゃないの」

 

 メイジとして当然の疑問を持ったルイズに、この世界を理解したキュルケが答える。問題はその発言内容で、当然ルイズの目がつり上がった。

 

「どういう意味よ、ツェルプストー!?」

 

 

「この世界を誰よりも理解しているのはこの子でしょ? それならあたし達よりも戦い慣れている筈よ」

 

 

「う……」

 

 

 自慢の髪をかきあげながら自信満々で言うキュルケの言い分に、納得してしまったルイズは口ごもる。

 

 

 膨れ上がって、巨大な蠢く塊と化した『闇』を前に、ローレシアは先程の黒い本と共に静かに上昇していく。

 

 

「魂無き存在は虚ろ。魂無き虚ろな力がもたらすものは悲劇」

 

 

 開いた黒い本から、黒い宝石が飛び出してくる。

 

 

 彼女をそのまま表したかの様な、ツヤのある漆黒をしたそれを受け取ると胸の前で祈る様に両手で挟み込む。

 

 

解・魔王竜(グル ドラ ム)

 

 

 三人が見上げる中で、ローレシアが宝石から吹き出した同色の光に包まれた。背と同じ大きさだった黒く輝く球は、何かを形作りながらみるみる巨大化していく。

 

 

 たくましい両足と長い尾、一対二枚のしっかりした翼、足同様の鋭い爪を持った両手。

 

 

 前に突き出した口と並んだ鋭い無数の牙、頭部周辺に数本の角。

 

 

 ゆっくりと開かれる双眸。瞳の色は、体色と同じ漆黒。

 

 

「グルォオォォーーーッ!」

 

 

 ハルケギニアには居ない、異世界で 魔 王 竜(デイモスドラゴン)と呼ばれる凶悪な竜が、力強く咆哮しながらこの地に顕現した。

 

 

「な、な、な……!?」

 

 

「ま、まままま、まさか韻竜!?」

 

 

「やっぱり……夢の中で出てきた竜は」

 

 

 今日一番の驚きに、ルイズとキュルケは目を向いていたが、セレスティナは驚かず逆に落ち着いて、得心したように呟いた。

 

 

 落ち着いていたが故に、その後の冷静な対応が出来た。

 

 

「『エア・シールド』」

 

 

 『闇』から放たれた闇の弾丸を、巻き起こった突風が受け止めた。普段よりも強力な効果を発揮している風の壁は、次々と襲い来る闇の弾丸を弾き飛ばし三人を護る。

 

 

 気を取り直したキュルケも、火球で応戦を始めた。

 

 ローレシアは向かって来る闇の弾丸をものともせず、大きく息を吸い込む。

 

 

「『信友至宝……虚ろな生命体、消え去れ!』」

 

 言葉ではない、思念とも言えるものが辺りに響き渡ると同時に、ローレシアは口から漆黒のブレスを吐き出した。

 

 放たれた闇のブレス――暗 虚 吠(ヴォイドブレス)と呼ばれる凶悪無比なそれは、闇の弾丸を呑み込み、『闇』の本体をも分解しながら無に還していく。

 

 

「お……の……れ」

 

 

 そんな言葉を遺して、『闇』は分解されていった。

 

 

「終わった……?」

 

 

 静かになった辺りを見渡してセレスティナが首を傾げながら言うと、上から元のボロボロな黒衣のローブ姿に戻ったローレシアが否定する。

 

 

「まだ。周りを良く見て」

 

 

 三人の足下……と言っても床ではなく空間だが、『闇』から放たれた弾丸の欠片があちこちで小刻みに動いていた。

 

 

 その一つをキュルケが面倒そうに焼いた。

 

 

「これ全部始末するの?」

 

 

「そう」

 

 

 ローレシアに同意されると、周りにある闇の粒を見てキュルケがウンザリとした表情を浮かべた。

 

 

 そして意味ありげにルイズを見る。

 

 

 その視線に気が付き、ルイズもムッと睨み返す。

 

 

「良いわね、ルイズは。見てるだけで」

 

 

「何よ、その言い方は」

 

「だってあなた火使えないし、元々魔法が使えないからイメージも出来ないんじゃない?」

 

 

「杖のイメージが出来ないセレスと一緒にしないでよ!」

 

 

「そこでボクを巻き込まないでよ!?」

 

 

 二人の言い合いが思わぬことから飛び火してきた。

 

 

 眼下のやりとりを気にせず、ローレシアは『外』で触れているルイズとキュルケの魔力を使って小さな火球を作ると、旋回させながら闇の粒を焼いていく。

 

 

「良いから見てなさい!」

 

 

 言い合いをしていた三人だが、ルイズがそう言って一歩前に出た。

 

 

 そんなルイズを、キュルケは面白そうに、セレスティナは不安そうに見ている。

 

 

「ここはイメージの世界なら……わたしだって出来る筈よ!」

 

 

 そう言ってルイズは杖を構えて瞑目する。

 

 イメージしている事は、火……そして花。

 

「火……花……花が咲くのは地面……」

 

 

 ぶつぶつと言っているルイズの足下から、茶色いものが広がっていく。

 

 変わった自分達の足下のそれを、恐る恐るセレスティナは触れてみる。

 

 

 温もりを持ち、手に取ると手の中でポロポロと崩れる。

 

 

「これは……土?」

 

 

 イメージの地面が広がる光景を、ローレシアも焼く手を止めて見つめていた。

 

 

 やがて、地面のあちらこちらから炎が伸びていく。大地に根を張り、葉を広げながら――いくつもの闇を燃やす大輪の炎の花が咲いた。

 

 

「どう? これがわたしの炎の魔法よ!」

 

 

 胸を張って言うルイズに、キュルケはまあまあねと返し、セレスティナは素直に賞賛の言葉を述べた。

 

 

 やがて、三人は力尽きたかの様に同時に地面に倒れ伏す。

 

 

「ここまでやれば、魔力を使いきるのは当然。杖を通じて、セレスも『外』の影響を受けて魔力を使いきり……。残り少ない私以外に魔力リンクをしておいたけど、最後のあれで三人の魔力が尽きて肉体が眠りについた……かな」

 

 

 ルイズの最後の魔法は、ローレシアの仕掛けた魔力の繋がりによって、三人の魔力を全て使いきってしまったようだ。本来は、魔力の残り少ない自分を補うための仕掛けだったが、いつの間にかルイズはそこからキュルケと、現実とこの世界を繋げていたフクロウの杖を通じてセレスティナからも魔力を取り入れていたらしい。

 

 

 消えつつある世界と炎の花を見て、ローレシアは満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

「綺麗な花、確かに見させてもらった。いつか、現実でも咲かせてね」

 

 

 世界と共に、四人の姿も消えていった――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「お疲れ様」

 

 

 現実世界に意識を戻したローレシアは、椅子に座って自分を抱いている自身と良く似た姿の女性にそう言われ、怠そうに頷いた。

 

 

 肩までの長さの髪は同じだが、膝までのローブや足をタイツで覆っているローレシアと違い、短めのスカートと膝上までのハイソックスという差はあるもの、その女性はローレシアを成長させたかの様な姿をしていた。

 

 

「ローレシアさん、もう大丈夫なのでしょうか?」

 

 

「終わった。セレスはもう大丈夫」

 

 

 ずっと外で待機していたシエスタに簡潔にそして怠そうに答えた。

 

 

「エリシア姉様」

 

 

「その子から事情は聞いた。そのセレスという子の魔力を辿って、禁書らしい魔導書はもう取り寄せてある。帰ったらちょっと調べて、任務で出るまでの間弄る」

 

 

 見た目は良く似た姉――エリシアは用事は終わったとばかりに、妹を抱いたまま席を立つ。

 

 

 ローレシアが少しだけ過ごした部屋を見渡すと、ベッドの上に寝かされた三人を見つけた。

 

 

「ローラも帰ったらしばらく治療。向かない他者との生命転換を使うから、内部がボロボロになってる」

 

「うん。でも、状況が悪化したのは甘く見た私のせいだから」

 

 視線に気が付いたエリシアの言葉にしっかり頷いて、ローレシアはシエスタを見る。

 

 

「お帰りになるのですね」

 

 

 シエスタは寂しさを滲ませつつも、深々と頭を下げた。

 

 

「短い間でしたが楽しい日々でした。どうかお元気で」

 

 

「シエスタもありがとう。三人にもありがとうと伝えてほしい」

 

 

「承知致しました」

 

 

「もういい?」

 

 

 伝言を託し、姉に頷きかけて……首を横に振る。

 

 

「姉様、みんなに借りがある」

 

 

「ん」

 

 

「魔力ちょっと借してほしい」

 

 

「私が面倒だから大気中の魔力素を使うように言った筈。……まあ、それをする力も残っていないみたいだし、今回だけ特別」

 

 

「ありがとう」

 

 

 姉から魔力が注がれると、それを使ってローレシアは呪文を唱えた。

 

 

「〈物体創造( クリ エイト)〉」

 

 

 キュルケの元には赤い宝石の付いたサークレット。炎から身を守り、火傷一つ負わないように。

 

 ルイズの元には緑の宝石が付いた一対の腕輪。身に付けた者同士を魔力リンクさせ、合意すれば相手の魔法を使うことも出来る。

 

 

 シエスタのそれは、見た目は普通のネックレス。身に付けて望めば、真冬の作業など水の温度変化から身を守る。

 

 

 セレスティナには……。

 

 

 ローレシアは持っていた青い杖を浮遊魔法でベッドの近くに立て掛けた。

 

 

「その杖あげる。使いこなせるかは知らないけど。持っているだけでも魔除けになるから、変な本を開いても大丈夫かも」

 

 高価な物は受け取れません! というシエスタに、タダだからと強引に渡し、ローレシアは姉に頷いて見せた。

 

 

「ん、じゃ帰ろう。寝ている子には悪いけど、この子の治療があるから。大事に扱ってくれてありがとう」

 

 シエスタにそう言うと軽く頭を下げる。

 

 

「姉様」

 

 

 呪文を唱えていた姉は、ん? と視線だけで抱いているローレシアに問いかけた。

 

 

「永遠と感じるモノ、何か一つ見つかればと思っていたけど」

 

 

 黒衣の似た者姉妹が転移して消える瞬間、シエスタは確かに聞いた。

 

「本当に綺麗と感じるモノに出会って、幸福を感じたその記憶は――永遠に残ると思う」

 

 

 変わった迷い人(?)のそんな一言を。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 

 

 春……穏やかなフェオの月。

 

 

 抜けるような青い空。波立ち、広く豊かで青々とした草原。

 

 

 この日トリステイン国立魔法学院では、二年生になる進級試験を兼ねた神聖にして絶対のもの、《春の使い魔召喚の儀》がとり行われていた。

 

 

 この儀式によって、生徒達は一生のパートナーとなる存在を呼び出し、契約する。その存在――使い魔によって、今後の専門課程が決定される。

 

 

 召喚されるもののほとんどは動物だが、時々魔獣、素質がある者の場合は幻獣と呼ばれるものが現れることがある。

 

 

 そんな今後の進路が左右するこの場において、例年通り生徒達はそれぞれの結果に一喜一憂していた。

 

 

 特に今回の儀式は、生徒の興奮冷めやらぬまま終盤を迎えていた。

 

 

「タバサが風竜で、キュルケがサラマンダーかよ!?」

 

 

「凄ぇなあ、あの二人!」

 

 

「くぅ、俺も幻獣クラスが呼べていたらなぁ……」

 

 

「ところで俺の紫ウサギ、こいつをどう思う?」

 

 

「すごく……角です……」

 

 

「ソーナンス!」

 

 

「うるせぇ!? 後、誰だよ?」

 

 

「『ゼロ』と『虚弱』」

 

 

「倒れるのが先か、爆発が先か……!」

 

 

「『虚弱』は大丈夫じゃね? 去年みたいに倒れることが最近ないし。単に体力無いだけだろ」

 

 

 既に儀式を終えている大半の生徒達は、契約したそれぞれの使い魔と共に残っている二名を注視していた。

 

 

「誰が『虚弱』だ! ボクはもう倒れて無いぞ! 今は貧血と立ち眩みだけだ!」

 

 

「ふん! これに成功すれば『ゼロ』の名前は返上よ!」

 

 

 周りから飛ぶ野次に、青いフクロウの杖を持った濃紫色の髪の少女と、陽光に両腕のブレスレットを煌めかせた桃色がかったブロンドの少女が怒鳴り返していた。

 

 

「真打ちは後からよ。セレスが先に」

 

 

「じゃあ、先にボクから行くね」

 

 

 フクロウの杖を持った少女――セレスティナは深呼吸をしながらゆっくりと、現場監督兼責任者の男性教師の前に歩み寄った。

 

 途中視界の隅に赤い煌めきを捉えてそちらを見ると、一足先に終えたキュルケが座ってサラマンダーを撫でながらセレスを見ていた。身動きをした時に、額のサークレットが赤い光を反射している。

 

 

 

 

「大丈夫だ。落ち着いてやりなさい」

 

 

「はい」

 

 男性教師に答えると、去年専用の杖として契約したその特徴的な杖を両手で持って高々と掲げた。

 

 

 髪がなびき、マントが大きくはためく。

 

 

「我が名はセレスティナ・ルティナベル・ド・ラ・シェロティア。五つの力を司るペンタゴン。ボクと共に在り続け、旅をする運命を背負いしものを召喚せよ!」

 

 

 フクロウの杖の額にある緑色の宝石から中空に光が放たれ、召喚門が描かれた。

 

 

 一同が固唾を飲んで見守る中――召喚門が黒い染みが広がる様に黒ずんでいった……。

 

 

 次に見えてくるのは雪の様な白と、緑色の本の角――。

 

 

 そこから落ちてくるのは……。

 

 

 

 

 再会は春風と共に……

 




 
 


(出典)
 魔王竜:土台はスレイヤーズシリーズより。ただし、似て非なる存在。
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