「それでは。まず、三グループに分けて練習を行います」
市ノ瀬さんの指示の元、オールラウンダー、ファイター、スピーダーの三グループに分かれる。
オールラウンダーは晶也さんの担当で、まずは二人一組の柔軟体操から始まる。
「悠馬と穂希は一緒になるなよ。いい機会だから、共通の友人でも作っておいて損はないぞ」
「分かりました!」
穂希は乗り気だったが、俺はあまり初対面と話すことは苦手でこういったグループ作りも得意ではない。
周囲を見渡すがオールラウンダーは女子の比率が多く、少数の男子部員も既にグループが出来上がってしまっている。どうしたものか......
「よかったら一緒にやらないかい?」
後ろから声をかけられ、振り向くと長身の男性が立っていた。
年齢は晶也さん位で、髪の毛は紫色......何処かで見たことあるような。
「あれ? 真藤さん」
「あ! 日向くーん。君が来てると聞いたから、来ちゃったよ」
「それはありがたいですけど、真藤さんはスピーダーですよね」
「スピーダーの方は佐藤君の娘さんがやってくれてるよ。それに彼には興味があるんだ」
真藤さんの顔つきが変わる。ニコニコと温厚な雰囲気は鳴りを潜め、何かを見定めるような......どうにも怪しい。
ところで、向こうの方から「佐藤院ですわー!」と聞こえてくるが、何かあったのだろうか。
「真藤さんはFCをよくやっているんですか」
「今は少し休暇を貰ってるのさ。まぁ、もう六年も経ってるんだけどね。でも、日向君がせっかく復帰したのに、いつまでも休んでるわけにはいかないんだ」
真藤さんは俺の背中を押しながら、会話を続ける。俺はFCから少し離れていたため、真藤さんの活躍をあまり知らない。
あの絶対王者と名前が一致しているのはただの偶然だろう。
「日向さんってやっぱり凄いんですね」
「そうだよ。もう十数年前かな? 誰もが日向晶也というスカイウォーカーに憧れた。キミと同じようにね」
確かに俺は晶也さんに憧れている。でも、どうすれば晶也さんのようになれるかはわからない。
今でもローヨーヨーやシザーズも出来ない。そんな俺が本当に晶也さんのようになれるのか。
「俺は晶也さんがよく分からないです」
「それは僕もわからない。彼と僕とでは見ている先が一歩違う。追い付いたと思えば、直ぐに先にいく。彼はそれほど凄いプレイヤーだ」
「......俺はそんな風になれますかね」
「いや、絶対になれない。僕は君の飛び方を見たことはないけど、日向君とは決定的に違うよ。でも、君は君の飛び方を目指せばいい」
真藤さんが言ってきた言葉は意外にも前向きなことだった。
「でも......これだけは言わせてほしい」
「な、何ですか......」
「日向君はよく色んな選手の試合を見てるし、君も参考にした方がいいよ。後、日向君はグラシュのメンテナンスもしてるからね。それも参考にした方がいいよ。それと」
真藤さんはあれやこれやと晶也さんに関しての情報を自身の引き出しから出してくる。
......うん。絶対王者の真藤一成さんとは別人だな。きっと。