壊れた世界にも色はある   作:巴イユ

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かくして彼女はカメラを手にする

 

 1日目 天気:晴れ

 

 

 今日からケルシーの頼みで、ロドスのオペレーター且つ問題児であるレッドの成長を見守ることになった。それに伴い、これから日記を記す事にした。

 

 レッドは見た目に反して幼い面が目立つオペレーターだ。それは彼女が出身不明だという理由にも繋がっているのだろう。

 それ故に、ロドスのオペレーターとはあまり上手くやれていないように見える。彼女の言動に加えて、戦闘においての獰猛さがより他のオペレーター達に距離を置かれる原因になっていると、私は考えている。

 

 レッドは大変優秀なオペレーターだ。先程記述した通り、戦闘に置いては一級品の実力を兼ね備えており、彼女が戦場に居れば、辺りを一掃するのも難しくはない。

 だがそれはあくまで単独で、という意味であり、やはり他のオペレーターとの連携が上手く取れていない面がやや目立つ。

 

 今回はそれをケアするためにケルシーに頼まれたのだが、私はレッドにどう接すればよいのだろうか。それすら私には分からない。きっと、他のオペレーター達もそのように思っているのだろう。

 

 私はレッドを執務室に呼び出し、少しお話する事にした。

 彼女は私が用意したお菓子に目を輝かせ、お話そっちのけで、頬いっぱいにお菓子を詰め込んでいた。

 それだけで私の心は満たされ、変に不安になることは無いと確信を持った。彼女は子供なのだ。まだ何も知らない、真っ白なキャンバスそのものなのだ。

 

 だから私はもっと距離を詰めようと、色々話題を振ってみた。

 だが反応として得られるのは「分からない」。この一点のみだった。

 そう、真っ白なキャンバスに塗る『色』さえ、彼女は知らなかったのだ。

 

 少々脱線してしまうが、私には趣味がある。それはカメラで写真を撮ることだ。

 記憶を失う前の私がどうだったのかは定かではないが、今の私はそれだけが生き甲斐と言ってもいい。

 今自分が瞳で捉えている景色を、永遠に現物として残していられる。何年、何十年、何百年。写真に込められた想いは、決して色褪せることなく、この世に残り続ける。なんとロマンチックなのだろうか。

 

 私はレッドに、赤色のデジタルカメラをプレゼントした。

 彼女に、この世の全てを知って欲しいと思った。汚く、曇天のような景色ではなく、輝いていて、晴天のような景色を知って欲しかった。

 

 レッドは未知の道具に目を丸くして、嬉しいのか嬉しくないのかよく分からない様子だったが、扱いを教え試しに一枚撮って見ると、彼女の純粋な宝石のような瞳が、キラキラと輝いた。

 

 私はレッドに言った。

「これで色を知りなさい」

 彼女はその言葉の意味をどれほど理解出来たのかは分からない。それでも、きっと彼女はいずれ知ることになる。

 この世は素敵で溢れているという事を。

 

 

 

 2日目 天気:雨

 

 

 今朝、朝一番に執務室のドアが元気よくノックされる。

 レッドだった。

 

「お……おはよう」

 

 ケルシーに教わったのだろう。レッドのそのぎこちない挨拶に、思わず頬が緩んでしまう。

 雨音で目が覚め、暗い気持ちで仕事に取り掛かろうとした矢先の出来事だったので、とても嬉しかった。

 

 レッドの首には昨日私がプレゼントした、赤色のデジタルカメラが下がっていた。

 もう沢山撮ったというので、少しだけデジカメの中身を見させてもらった。

 

 最初の一枚はやはりピントがあってなく、ボヤけていたのでよく分からない写真になっていたが、写っている人物は容易く当てられる。

 きっとケルシーだ。手でレンズから避けようとしていたが、きっとレッドが素早くシャッターを押したのだろう。これはこれでいい味が出ている。

 

 次に出てきたのはテキサスの後ろ姿だった。レッドはテキサスやプロヴァンスと言ったオペレーターに飛びつく、特殊な習性がある。

 彼女曰く、モフモフな尻尾に触れたかっただけなのだという。

 テキサスはそんなレッドに警戒していて、他のオペレーター達とは比較にならない程レッドを避けているのだが、彼女の素早さ、隠密性には敵わないらしい。

 私からも頭を下げてはいるが、テキサスは半ば諦めているのだと言う。

 因みにプロヴァンスは交渉の余地が無いくらいに、彼女に対して恐怖心を抱いている。こちらはよりケアが必要だ。

 

 レッドは写真の中に写っているテキサスの尻尾を指差し、消え入りそうな声で「モフモフ……」と呟いていた。

 私は彼女の頭を優しく撫でて、「きっと仲良くなれるよ」そう言った。

 

 私としても、彼女達が最初にレッド達と仲良くなって欲しいと願っている。

 きっと長い道のりになるだろうが、私も最大限の努力をして行きたい。そのためには先ず、レッドを立派に成長させなければ。

 

 私はテキサスが少しだけカメラの方に視線を向けているのを見て、微笑みながら決意を固めた。

 

 

 

 3日目 天気:雨

 

 

 昨日に引き続き、雨が降り続けていた。アーミヤは湿気のせいで髪が上手く纏まらない、と小さく零していた。

 

 夕方辺りに執務室に姿を現したレッドは、満面の笑みでデジカメを此方に見せてきた。

 

 デジカメの中に入っていた写真には、雫が滴る綺麗な紫色の花が写し出されていた。

 その綺麗な景色にも驚いたが、3日目にして上達しているレッドの吸収力にも驚いた。

 私はご褒美として、彼女に大好きなお菓子をご馳走した。ケルシーにまた「甘やかし過ぎだ」と小言を言われるだろうが、そんなの知ったことではない。ケルシーは少々厳し過ぎるのだ。

 この日記が見つかったらまた面倒くさいので、ここまでにしておく。

 

 レッドの上達ぶりに感心した私は、今度はケルシーのように課題を出して撮ってきて貰おうと計画した。本来であれば一週間後に出す予定だったのだが、今の彼女の腕なら問題ないだろう。

 

 私はレッドに、他オペレーターの写真を撮る。という課題を出した。

 勿論テキサスのように気付かれないようにではなく、しっかりと許可を取って。

 いきなり難しいと思ったが、彼女なら出来る。不思議とそんな確信を持っていた。

 ロドスにいるオペレーターも悪い人ではない。寧ろ善人しかいない。私はそう思っている。

 

 レッドは不安そうに私の服を掴んできたが、そっと頭を優しく撫でながら彼女に言った。

 

「君の気持ちを素直に伝えれば、他のオペレーター達はしっかり向き合ってくれるよ」

 

 と。

 レッドは静かに頷き、デジカメを握りしめながら、執務室を退出した。

 

 私は次にレッドが来るのを心待ちにして、執務に取り掛かった。

 一体誰と撮るのだろうか。

 

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