5日目 天気:曇り
昨日はレッドの姿を見かけなかった。それほどこの課題に苦戦していたのだろう。
しかし今日執務室へやってきたレッドの表情は、外の天気とは対称的に晴れやかな表情を浮かべていた。
私はご機嫌なレッドのカメラを覗き込み、目を大きく見開いた。
なんと写真に写っていたのはラップランドだった。
写真の中のラップランドはレッドの隣で、照れ臭そうに頬をポリポリと掻きながら、薄らと笑みを浮かべていた。レッドの想いに押されたのだろう。
何故私が驚いたか。それはラップランドはレッドに対してテキサスやプロヴァンス同様、あまりいい印象を抱いていなかったからだ。しかし、上記の2人とは違う点があり、それはレッドに対して微かな興味を抱いている。という所だ。
『あれは……あの赤いの……まさか……!ドクター、絶対にアレに近づいちゃだめだ!でも、でも──チッ、不思議な感じだ、戦ったらきっと死んでしまうのに、こんなにもあの子と戦いたいなんて……!』
興味、とはまた違ったベクトルのようにも受け取れるが、ラップランドはきっとレッドはそれほど悪い奴では無いと感じてくれたに違いない。
この微笑ましい写真がそれを物語っていた。
写真の中のレッドもここぞとばかりにラップランドにくっついていて、仲良くツーショットを撮っていた。
「よく頑張ったね」
私はただ一言レッドにそう言い、優しくレッドを抱き締めた。
心地良さそうに頭を擦り付けるレッドの姿はとても可愛らしく、ケルシーが溺愛するのも頷ける程だった。
次は何の課題を出そうかと悩んでいる時に、レッドは自ら「同じ課題、やりたい」と言ってきた。
確かにレッドにとってはシンプルな方法の方がやりやすいのかもしれない。それにラップランドという経験を得た今、彼女の中に不安の因子は皆無だ。
私は頷き、それを了承した。果たして次はどのオペレーターか。私は楽しみに待っている。
7日目 天気:雨
やはり時間は掛かるものなのか、昨日レッドが執務室に姿を現すことは無かった。
しかしアーミヤの情報によると、ロドス基地内を縦横無尽に、且つ静かに駆け回っていたらしい。
レッドが誰かを追い掛け回している、そんな一抹の不安が過ぎったが、たった今入室してきたレッドの表情を見て、それは無いなと安心した。
レッドはまたしても太陽のような笑みを浮かべ、ご機嫌に尻尾を揺らしながら私にカメラを渡した。
私はまたしても意外な人物の登場に、思わず笑ってしまった。
何と最近ロドスに入ってきた、イーサンだったのだ。
写真の中のイーサンは意気揚々と、レンズに向かってピースをしながら笑っていた。
イーサンとレッドの共通点として考えられるのは、出身地不明という点だろう。彼もそれなりに激動な人生を送ってきたオペレーターだ。
以前はあのレユニオンに所属していたらしいが、ご飯の不味さから脱退したらしい。そんな理由から彼のフランクさが窺える。
きっとレッドがロドス基地内を駆け回っていたのは、神出鬼没なイーサンを見つける為だったのだろう。
イーサン自身もきっと、写真を撮るという目立つ行為は大好きなはずだ。誰に対しても人当たりがいいイーサンはレッドに対しても変わらず接してくれる。その事実が確認出来ただけで、私にとってもいい収穫だった。
自由自在に消えるイーサンに対して
「探すの大変だった。でも楽しかった」
とレッドが笑顔で言っていたのが印象的だった。
確かにイーサンは誰とでも仲良く話す割には、姿をまるで表さない。その神出鬼没さはモスティマに匹敵するかもしれない。
よく見つけたな、とレッドの頭を撫でて、この調子で課題続けるかとレッドに問い、元気よく頷いたので続行となった。
追記:最近ロドス内にてレッドの雰囲気が変わったと噂になっていた。とてもいい兆しだ。
10日目 天気:晴れ
2日間姿を見せなかったのには心配したが、朝起きた時に、私のベッドの中にレッドが居て少々驚いた。
ぐっすり寝ているレッドの表情はとても気持ち良さそうで、暫く横になりながら様子を見ていた。
数分経ち、目を覚ましたレッドは寝ぼけ眼を手で擦りながら
「おはよう……ドクター……」
と私に抱き着きながら、朝の挨拶を交わした。
寝ながらもしっかり離さず持っていたカメラを受け取り、まだ眠そうなレッドを撫でながら確認していく。
なるほど、そううっかり声を出してしまう程、レッドの人選は納得のものだった。
医療オペレーターとして活躍している、ミルラだ。
何故私がなるほど、と呟いたか。それはミルラも最初はロドスで浮いていたからだ。
しかし正式加入後の彼女は、他のオペレーターとも上手くコミニュケーションを取り、更には薬剤師としての実力も証明して、ロドスに上手く馴染めたのだ。
馴染めなかった頃と照らし合わせると、今のレッドと境遇は近いかもしれない。
写真は二枚あり、1枚目はミルラが恥ずかしそうにピースしながらレッドとツーショットを撮っているもの。2枚目は、薬の製造過程を興味津々で覗いているレッドの姿だった。
きっとこれはミルラが撮ったのだろう。
2日も姿を見せなかった理由が2枚目にして分かった。レッドは付きっきりでミルラの薬の製造過程を見学していたのだ。
レッドの集中力は凄まじいものがある。以前、大人でも苦戦する超難易度のパズルをレッドの前に差し出したところ、休憩無しで8時間程かけて解いたのだ。
これには流石のケルシーも驚いたようで、複雑な表情でレッドの頭を撫でていた。
そしてミルラも薬に関しては一切の努力を惜しまない。それこそレッドのように時間を惜しみなく使い、朝から晩まで情熱を注ぎ、薬を製造しているのだ。
きっとミルラの目から見ても、自分と似てる、そう思ったのかもしれない。
写真に夢中になっていると、私の腕に抱かれていたレッドは再び夢の中へ落ちていた。
あまりにも気持ちよさそうなので、私も2度寝と洒落込むことにした。
たまの休日くらい、自堕落になってもいいだろう。
追記:レッドはとても温かくて、抱き枕に丁度いい。
15日目 天気:晴れ
ここ最近はレユニオンとの戦いでまともにレッドの相手をしてやれなかった。
そして私も、心身共に疲弊している。いつかこの無駄な争いは消えるのだろうか。双方共に正義を主張し、命を賭して戦う意味はあるのだろうか。
決して口には出さないが、いつも私はそう考えてしまう。
きっと、正義何てものは個人の詭弁に過ぎないのだ。どれだけ正論を振りかざして捲し立てようと、もう片方はそれを正論と受け入れず、悪とみなして争いに発展する。
この世界は残酷だ。だが、捨てたものじゃないと思わせてくれる出来事は多々ある。
例えば、今私の膝元で寝ている彼女を見つめている時とか。
私は気持ち良さそうに、静かに寝息を立てるレッドの頭をそっと撫でた。
とても柔らかく、温かかった。その温かさが、妙に私を安心させるのだ。きっとレッドには他者を癒す潜在能力があるに違いない。
暫くすると、レッドは小さく牙を見せながら欠伸をした。鉛のような瞼を必死に開けながら、私を見て優しく微笑みかける彼女の姿に、私は思わず涙をしてしまった。
(涙の跡で滲んでいて読めない)
だと思う。
レッドは心配そうに私の顔を覗き込むが、私はすぐに笑顔を作った。とても下手くそで、今までの人生の中でも最低な、引き攣った笑顔だったかもしれない。
けれどもレッドはそんな私を抱き締めてくれた。
レッドは他者を思いやれる、優しい心がある。
だからそう遠くない未来、他のオペレーターと仲良く談話しているレッドの姿が見える事になるだろう。