22日目 天気:晴れ
いつもはレッドが誰かと写真を撮ってきて、執務室に居る私に見せに来る。そういった流れだった。
しかし今日はいつもと違ったのだ。
私の事を『先輩』と呼称するオペレーター、エイヤフィヤトラはレッドと共に執務室にて雑談に花を咲かせていた。
私は執務に励みながら、二人に熱い紅茶とそれにピッタリな洋菓子を提供した。
レッドが普段私には見せないような、友達相手に見せる笑顔を咲かせていて、少しばかり嫉妬してしまったのは内緒だ。
そしてエイヤも同じく可愛らしく笑顔を浮かべながら、楽しそうにレッドとお話をしていた。
デスクとそれなりに距離が空いてるということもあるが、レッドがエイヤの耳元で話しているということもあって、二人の会話の内容は聞き取れない。
エイヤフィヤトラというオペレーターは、鉱石病に感染している感染者だ。それだけなら、このロドスでは珍しい物でもないのだが、エイヤの鉱石病はかなり進行しているのだ。
聴力や視力等が低下している。主に聴力だ。普段は補聴器を付けて補っているが、それなりに大きな声で話すか、耳元で話さなければエイヤには聞こえない。
現在ロドスにて治療を受けつつ、オペレーターとしての仕事も請け負って貰っている。
レッドもその事情を知って、耳元で聞こえやすいように話しているのだろう。
エイヤも嬉しそうに「うんうん」と頷いているので、円滑にコミニュケーションが取れているのが窺える。
レッドにとって、相手を気遣いながらコミニュケーションを取るというのは非常にいい経験になるだろう。エイヤにとっても、良き理解者が増えるというのは嬉しいはずだ。
私は満足し、暫く執務に集中していると、先程より騒がしくなったのに気づいた。人数が増えていたのだ。
アンジェリーナにアーミヤが雑談に混じり、楽しそうに女子会を開いていた。
私は執務が一段落したところで、アンジェリーナとアーミヤに紅茶を差し出した。
アーミヤに「ドクターもどうですか?」と誘われたが、私がそこに入るのは無粋というものだろう。
私はやんわりと断り、少女達の楽しげな声を聴きながら少しばかり仮眠を取る事にした。
23日目 天気:曇り→雨
昨日の女子会の写真が撮られたカメラを抱き締めながら、レッドは私の腕の中で寝ていた。
夢の中でも女子会を開いているのかと言うくらいに、レッドの寝顔は楽しげで、幸せそうだった。
私はレッドの手からそっとカメラを取り、女子会の写真を現像した。
写真に映る少女達の輝かしい笑顔は、写真越しにでも楽しさが伝わって来る。
大きめに現像した写真は、赤い額縁に入れて、様々な写真が纏められている写真の隣に飾った。
そしてその音で起こしてしまったのか、部屋から眠たい眼を指で擦りながらレッドが現れたので、二人で仲良く朝食をとった。
昨日の女子会について尋ねたのだが、ドクターにはナイショとの事らしい。
少しだけ悲しいような、秘密を共有する仲間がレッドに出来て嬉しいような、複雑な感情に包まれた。
25日目 天気:曇り→雨
今日はレッドに叩き起されるという形で目を覚ました。
というのも、気づけば午前がどこかへ行ってしまっており、時計に表示されていたのは12:15の時刻だった。
しかし私が起きるのが遅いからレッドはが起こしたというわけではなかった。
満面の笑みを浮かべながらカメラを携えているレッドを見て、私は確信した。とんでもないレアキャラと撮ったのだと。
あのね、と子供が親に玩具を買ってもらった時のような声で、レッドは頻りに発し、カメラを此方に見せてきた。
ついに。その写真を見た時の私の感想だった。そこに写っていたのは、4人のループス族だった。
テキサス、プロヴァンス、ラップランド。そしてレッドの姿が、その写真には収められていたのだ。
プロヴァンスは恐る恐るといった様子だが、レッドの手を微かに握り、カメラのレンズにぎこちない笑顔を向けていた。
テキサスは仕方ない、とどこか折れたような様子で満更でもない表情を浮かべながらカメラのレンズへ。
ラップランドは既に馴れたようで、レッドの後ろから顔を覗き込むように抱き締めていた。
私はレッドに言った。雨漏りしてるね、と。
追記:「雨漏りなんてしてないよ?」と真顔でレッドに言われてしまい、私はカメラに落ちてしまった雫を静かに拭き取った。
30日目:晴れ
今朝方、ケルシーと話し合い、今日をもってレッドの成長を見守るという依頼は終了する事になった。
彼女は儚げにレッドの撮った写真に見入っていて、どこか悲しそうな表情をしていた。
本人は無意識だろうが、私にはそう見えた。親から子が離れていく感覚。恐らく彼女はそんな風に感じているのだろう。
分からなくもない。私もレッドが私やケルシーといる時間より、ロドスのオペレーターといる時間の方が長くなった事に途方もない寂しさを感じてしまっている。とても喜ばしい事だ。当初の目的が無事に達成された。
だというのに、ケルシーと私の間に生まれたその空気は寂々としていた。
午後になり、久しぶりに執務室へ入ってきたレッドは、ケルシーに課題終了の報せを聞いたのか、私に抱き着き一言だけ。
「ありがとう」
そう言ってくれたのだ。
私も返すようにレッドを包み、頭を撫でた。
これは私が何かをしたわけではない。レッドが自ら行動し、自分の居場所を確立したのだ。
私はデスクにしまっていた一枚の写真を取り出し、レッドに渡した。
彼女はポロポロと涙を零し、笑顔を咲かせた。
もう一話あります。