「だれかたすけてくれえええええええええええええ」
「イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ」
音が聞こえる。
グシャッ
ドシュッ
ピチャ
死が、近づいてくる。
荒魂だ。
「ふざけてないで、働きますよ」
「ねえ、流石に私の心(タイトル欄)分かりすぎだと思うんだ!! ちょっと夫婦の距離間考えない!?」
「貴女と夫婦になった覚えはありません。あとまじで死者出したくないんで力貸せ」
「夜見ちゃんヤンデレストーカー娘に進化中!?」
東京。首都高速道路。
毎日大量の車が通る場所で荒魂が現れた。
荒魂に対処する者たちが思ったことは全員一緒だった。
地獄の始まりだ。
荒魂とは一体何なのか?
それを詳しく説明することはかなり難しい。
刀使やそれに関する研究を行っている者達なら理解することができるが、それでも一般人分かりやすく説明することは困難である。
理由は簡単。関係ないから。
私生活において、荒魂について詳しく知っていてもなんのメリットもない。
ではなぜ、なんのメリットもない『荒魂』という言葉が一般の人間達の中で周知になっているのか?
それが決して逃れることができない『災害《死》』を意味するからだ。
現在の日本で最も多い死亡原因は何か?
地震? 火災? 事故? 自殺?
いや、荒魂だ。
荒魂の最も恐ろしいところは誰も発生を予測できないというところだ。
その上、発生する荒魂の規模も不明。
故に、準備のしようがない。準備をしていても対処が追いつかない。
現代兵器も効果がないため『戦争』のノウハウが通用しない。
『それに対処するのが刀使なのでは? 刀使が居るから大丈夫。』という声もある。
特殊な術が使える。
その上荒魂に攻撃を与える事ができる武器を持っている。
刀使がいれば安全だ。
血だ。
血の花が、咲いている。
10代の乙女達の命が、高速道路を彩っている。
足が、動かない。
腕が、動かない。
心が、追いつかない。
「へ?」
間抜けな声が喉から出た。
一瞬だ。一瞬で全てが変わってしまった。
ほんの数分前まで仲間たちとバカみたいな話をしていたところだ。
『初めての実践』
『共感の教えてくれたとおりにけば大丈夫』
『写シがあれば死ぬことはない』
『相手も低級の荒魂』
『初任務から活躍しよう』
そんな話をしていた。
「・・・・ヒッ・・・」
横隔膜がおかしな動きをしている。呼吸がうまくできない。
目の前で、赤い生き物がうごめく。
形はムカデに近い。しかし大きい。長さは15mはあるだろう。
少女は仲間たちとヘリに乗ってこの高速道路に駆けつけていた。
『偶然』あった車が無いポイント。先鋒隊として先輩の刀使と自衛隊の人間とともにそこに降りようとした矢先だった。
一瞬。
たった一瞬だ。
何かがぶつけられた音。金属がひしゃげ、ガラスが割れる音とともに、体がめちゃくちゃに振り回される。
あまりの衝撃で御刀から力を引き出し、『写シ』を貼る余裕もなかった。
轟音。
どれくらい気を失ったかはわからない。
気がつけば、鉄臭いアスファルトの上に転がっていた。
ピントの合わない目をなんとか動かして状況を把握しようとした。
その目が捉えたのは悲しい現実だった。
刀を構えた先輩が鉄の壁に叩きつけられる瞬間だった。
15mの巨体のする動きではなかった。
横薙ぎに払った尾が先輩をボールのように吹き飛ばした。
写シは貼っていなかった。
いや、貼れなかったというべきか。
(そういえば・・・・)
あまりの恐怖に動けないはずなのに、頭は余計な記憶を掘り出してきた。
暇で暇でたまらなかった荒魂に関する座学の授業だ。
『荒魂は人間に恨みを持っています。有史以前、人間が金属を作る技術を持ったその時から荒魂は存在し、人間を恨み続けてきました。』
尾が振り上げられる。
『荒魂の人間に対する恨みや憎しみは、人間の築き上げてきた文明をたやすく上回ります。』
振り下ろされる。
『荒魂は馬鹿ではありません。デカイ的ではありません。人類の「天敵」なのです。こちらの戦法を学び、理解し、どうすれば「苦しめることができるか」を考えています。』
何度も。何度も。何度も。何度も。
あえて力を抜いて。
一瞬で終わらせないように。
たっぷりと苦しみを染み込ませるように。
『御刀があるからといって過信してはいけません。』
何度もあの『両足がない車椅子』の女教師は言っていたではないか。
尾についている鎌のような突起で先輩を空中に持ち上げられる。
遠目だが、まだ息はある。
声も、聞こえる。
「お・・・・しま・・・・す。し・・・・・ない」
お願いします。死にたくない。
動かなくては。
バカみたいな考えが頭を支配した。
それでも体は止めることができない。
なんとか体を動かそうとする。しかし、そこで気がついた。
小さな荒魂がいる。
私の周りに沢山。
「は・・・」
首元に変な寒気がする。
お腹の筋肉がおかしな動きをする。
「はは・・・」
一匹、一匹こちらに近づいてくる。
デカイ方も大きな口を開ける(ありえないくらいに巨大だ)。
「あはっははははははははははははははあははははははははははははははあああははははっははっはっはっっっh」
何かが切れる感覚がした。
切れてはいけないなにかが。
(おしまい。もうおしまい)
荒魂にまとわりつかれる自分の体を見ながら、笑いながら、狂いながら、
(死ぬんだ・・・)
少女は終りを迎える。
「万象一切灰燼と為せ」
日が、うまれた。
やっと言えたよ。