ジョギング中の徹が踏切の前を通りかかる。
線路内には、手押し車を両手で押しながら歩く老女の姿がある。
「あ!」
老女の押す手押し車の車輪が線路の隙間に挟まり、抜けなくなる。
老女は一生懸命に抜こうとするが、手押し車はびくともしない。
その時、踏切の警報機が鳴り響き、遮断機が降り始める。
「やば!」
徹は老女を助けるため、慌てて線路内に飛び込む。
「失礼します」
老女を抱き抱える徹。
「あ、手押し車……」
「手押し車より命優先!」
けたたましく鳴り響く電車の警笛。
徹は遮断機をジャンプで飛び越える。
電車が踏切に進入し、老女の手押し車を吹っ飛ばして粉砕した。
「ひ!?」
老女は無惨な最期を遂げた手押し車を見て、自分が巻き込まれていたらどうなっていたことやらと恐怖を感じた。
「あ、ありがとうございます」
老女は徹に頭を下げた後、彼の顔を見た。
「あ……」
ゆっくりと徹の顔を触る老女。
「似てるわ」
「え?」
「私の、若い頃の彼に」
「そ、そうですか」
「思い出すわ。彼、遠くの国に帰ってしまってね。今頃、何をしているのか」
「そうなんですね。僕に似た男性ですか」
「ええ。若い頃の彼に瓜二つ」
それよりも——と、続ける老女。
「助けてくれたお礼に、喫茶店でお茶をご馳走するわ」
「いいですよ、そんな。当然のことをしただけなので」
「あら? こんなに可愛い女性の頼みを断るの?」
「は……はは……」
徹は後頭部に汗を
(しわくちゃで可愛いかもわからない)
「で、当然行くわよね?」
「ちょっとだけなら」
徹は老女と共に、喫茶店に入った。
「好きなものお飲みになっていいのよ」
「えっと、じゃあ、コーヒーをブラックで」
「それじゃあ、私も同じものを頼もうかしらねえ」
スタッフがコーヒーを用意した。
「そういえば、お名前を言ってなかったわね。私、
「潤。潤 徹です」
(……?)
徹は彼女の名に聞き覚えがあった。
「千奈さん、失礼ですけど、おいくつなんですか?」
「あなた本当に失礼ね。百二十五歳よ」
「すごい長寿なんですね」
徹の中で疑問が確信に変わる。
「千奈さん、
「どうしてそれを?」
「僕だよ。ヴェルクだ」
驚いた表情を見せる千奈。
「そんな!」
「久しぶりだね、千奈さん」
「そうね。本当に久しぶりね」
「僕たちの子はどうしてるの?」
「亡くなったわ。もう二十年くらい前」
「そっか。君が二十五の時だもんね。産まれたの」
「でも、孫とひ孫がいるのよ」
「そうなんだ」
「
「僕は最近戻ってきたんだけど、その時に知り合った方も警察官だね」
「それじゃあ、二人は知り合いかもしれないわね」
「千奈さん、今日はどこかにお出かけ?」
「曽孫の家にね」
「そうなんだ。じゃあ送ってあげるよ」
「いいの? ありがとう。助かるわ。歳のせいか足腰が悪くて」
「久しぶりにスカイダイビングといきますか」
「またあなたの手の上に乗れるのね!?」
きらきらと目を輝かせる千奈。
コーヒーを飲み終え、店を出る。
「えっと、誰もいないよね?」
辺りを見渡す徹。
「それじゃ」
徹はヴェルクに姿を変える。
ヴェルクは千奈をお姫様抱っこすると、空高く舞い上がった。
「遠く離れた地上の景色はやっぱりいい眺めね」
「千奈さん、曽孫さんの家は?」
「あっちよ」
千奈が奏の家の方を指差した。
ヴェルクは猛スピードで飛行する。
「わあ、速い」
「飛行機より速いぞ」
ヴェルクはあっという間に某所に辿り着く。
そこは、奏の住むマンションだった。
「ここなの? ここ、僕の仮住まいなんだけど」
「偶然ってあるのね」
「ここまで来ると部屋まで一緒なんてことは……」
ヴェルクが千奈がついていくと、彼が寝食を共にしてる奏の部屋の前にやってきた。
「あ、僕は用事が……」
「だめよ! あなたのこと、紹介しなきゃいけないんだから」
ピンポンとチャイムを鳴らすと、奏がでてきた。
「いらっしゃい、おばあちゃん」
奏はそう言ってから、ヴェルクに気づく。
「ヴェルク!?」
「これ奏。この人はあんたの曾祖父さんだぞ」
「え? ええ!?」
驚き戸惑う奏。
「そそそ、それじゃあおばあちゃんの元彼って!」
「そうさね。そういえば話に聞いてた居候の男はいるのかい?」
「いや、ジョギングに行ったきり戻ってないけど」
ヴェルクの額に影が差す。
(やばい。元に戻るタイミングが)
「えっと、僕ちょっと用あるから……」
ヴェルクは飛び立とうとするが、「健、待ちなさい」と、千奈に遮られた。
もはや、嫌な予感は否めないヴェルクである。