000
昨今は三つ子だとか、五つ子だとか、六つ子だとか、よく同い年のきょうだいが主要キャラとなる漫画や小説が多い気がする。別に好きでも嫌いでも無いが、どうなのだろう。
どうとは人気が出そうとかそういう三次元的ではなく、二次元的、当事者として。
年上の姉でもなく年下の妹でもなく、同い年の家族がいるというのは果たして幸せなのだろうか。
外聞を気にせず言おう。否。断じて否だ。気持ち悪い。吐き気がする。想像しただけでも死にたくなる。殺したくなる。
目立つに決まっているし、比較されるに決まっている。上下が付けられる。
その対策のために自分を封じ、お互いに差がつかないように暮らすなんて息が詰まるに決まっている。しかもそれが誰にも理解されないだなんて、怖い。
いつか、誰だったか先生から聞いた。一卵性の双子は入れ替わってみたりするらしい。
兄と弟、姉と妹で入れ替わって登校してみたり、出社してみたり。
理解できない。何が楽しいんだ? 狂気すら感じる。
例えば隣に座る人間が実は違うなんて、なんの嫌がらせだって話だ。
結論。二次元はあくまで二次元。創作はあくまで創作。
狂気も均せば面白く、起こせばそれはやはり狂気でしかない。
001
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」
ウサミミ美少女改め、シアの懇願に裂那が二つ返事で了承すると、いやいやながら、または無関心を気取りつつも一行はシアの話に耳を傾ける。すでに裂那が了承してしまったのだからと諦めるあたり、裂那の生き様は業が深い。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は《ハルツィナ樹海》にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強い。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあり、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族にある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
髪の色が違うという話から《色》なのでは無いかと裂那は尋ねたが、シアも青子も否定した。シアには裂那が黒髪に見えるらしく、ならば何故シアだけが髪色が違うのかといえば、青子曰くただの突然変異。アルビノみたいなものだと語った。
一族は大いに困惑したという。兎人族として、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族で最も家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国《フェアベルゲン》にばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのだ。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどに。
故に、ハウリア族はシアを隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げた。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。
「いいぜ。平和主義の
「おい待て」
ハジメが悪あがきを試みるが、裂那のシニカルな笑みに息を飲んだ。
「安心しろ。話し合いで解決してやんよ」
ハウリア族好みの、裂那の非暴力的な言葉に、シアはパァッと明るい笑みを振りまいた。
ハジメやユエはやれやれと言った表情をしているが、すでにリサも乗り気なようで方向転換は諦めざるをえなかった。
002
リサを裂那の膝の上に乗せ、シアを後部座席に移した。
シアはハジメの座席越しに疑問をぶつける。
「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう? それに、ハジメさんも青子さんも魔法使いましたよね? ここでは使えないはずなのに……」
「仕組みや構造が違う。我は時という次元を、英雄候補は化学と魔法の混合技術」
青子の回答に、シアは理解できなかったのか頭上に?を浮かべた。
ハジメが代わり、魔動四輪の事や魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。
「え、それじゃあ、お二人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」
「ああ、そうなるな」
「補足するなら、汝の隣にいる古の姫君は英雄候補以上に同類と言える。突然変異、先祖返りの能力をもち、似た運命を辿っている」
しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。
「……いきなり何だ? 騒いだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」
「……手遅れ?」
「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら、……何だか嬉しくなってしまって……」
どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、他とは異なる自分に余計孤独を感じていたのかもしれない。
シアの言葉を理解したのか分からないが、この中で最も異端種であるリサがプルプルと腕を伸ばし、シアの頭を撫でた。
「よかったね、ウサギのお姉さん」
青子曰く、リサは魔物の魂を裂那が取り込み、金色なる種として最適化されて誕生した、《金色なる種》と《魔物》のハーフ、みたいなものらしい。その製法は亜人族にも似ているらしく、同情のような感情でも起こしているのかもしれない。
「……はい……ぐすっ……」
しばらくすると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。相当数の魔物が騒いでいるらしい。
「ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」
「だぁ~、耳元で怒鳴るな! 聞こえてるわ! 飛ばすからしっかり掴まってろ!」
ハジメは、魔力を更に注ぎ一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。
そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。
ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると四十本ちょっと。人数にして二十人か。見えない部分も合わせれば四十人といったところ。
そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。
「ハ、ハイベリア……」
肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは《ハイベリア》というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。
ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。
周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。
彼らを救うと宣言した、平和主義者の最終兵器がやる気に満ち満ちているのだから。
『邪魔だテメェら!! 巣ぅ帰れ!!』
窓から身を乗り出して身を乗り出し、叫ぶ。
裂那の声がハイベリアの口から鳴り響き、ハイベリアや周囲の兎人族たちが驚いたように飛び跳ね、そのままハイベリアは従うように隊列を組んで去っていった。
「な、何が……」
先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としている。
身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い鉄の塊。小柄な少女の上半身が飛び出していて、その子を覆いかぶさるように見覚えのある人影が飛び出そうになっている。
「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」
これは現実だと理解したのか、兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。
「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」
「ちょ、おいバカ何してっ、落ちるっつーの!!」
「えっ、うわっ、っきゃ!?」
崩れるように窓から落ちたシアと裂那を、兎人族はおそるおそる見つめていた。
003
「シア! 無事だったのか!」
「父様!」
真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、裂那と魔動四輪から降りたハジメ達の方へ向き直った。
「あ〜、レツナ殿で宜しいか? 私はカム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか。……父として、族長として深く感謝致します」
そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。
「オレが礼を聞くのはまだ後だ。……が、まぁせっかくだから聞き入れてやる。んなことより、随分簡単に信用しやがるな?」
亜人族、特に兎人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族が原因だ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかも裂那達の助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに裂那は疑問に思った。
カムは、笑顔で返した。
「シアが信頼する相手ですし、特にあなたは目を見れば分かります。レツナ殿は、私たち以上に温厚で優しい方だ」
その言葉に、ハジメとユエは困惑の表情を隠さず表に出す。青子はいつも通り無表情だが、嬉しいのか何なのか、今にも走り出しそうなリサを抱き留めている。
当の裂那はといえば、困惑とも苦笑いとも言いづらい微妙な表情をしていた。
「大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは女の子に対して容赦ないし、ユエさんは人の無様を笑う人ですし、青子さんは超絶ドライフルーツですが、裂那さんは優しい良い人ですし、リサちゃんは可愛くてお利口さんですっ! 約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」
「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人達なんだな。それなら安心だ」
シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメとユエを見ながら、うんうんと頷いている。
ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、意外なところから追撃がかかる。
「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」
「ちょっとユエさぁん!?」
「おまけにクモは惚れっぽい。テメェらのこともなんだかんだ施すさ」
「もうほんと黙ってくれ……」
まさかの口撃に口元を引きつらせるハジメだったが、何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。
一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。
ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。
当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、ある物は接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕され、またある物は骨まで溶かされ、またあるものは瞬きする間も無く消滅するからである。
気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物であるハジメ、リサに対して畏敬の念を向けていた。
もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。
「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」
すでにリサは子供達とワイワイ騒いでおり、さながら距離感の近いアイドルだ。
子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、シアが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛ける。
額に青筋を浮かべたハジメは、取り敢えず無言で発砲した。
ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!
「あわわわわわわわっ!?」
ゴム弾がウサミミの間を通り抜け、シアは凍りついたかのようにピシッと姿勢を固めた。
「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」
すぐ傍で娘が未だに銃撃されているのに、気にした様子もなく目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族達も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシアに生暖かい眼差しを向けている。
「……あいつ、オレら以外に彼女持ちだけどな」
「……ズレてる。裂那も、兎人族も」
ユエの言う通り、どうやら兎人族は少し常識的にズレているというか、天然が入っている種族らしい。それが兎人族全体なのかハウリアの一族だけなのかは分からないが。
そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。
中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。
ハジメが何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。
「帝国兵はまだいるでしょうか?」
「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」
「んなわけあるか。こんにゃくをしらねぇのかテメェらは」
「「こんにゃく?」」
ユエとシアが聴き慣れない単語に首を傾げた。
「触れば手が荒れ、食べれば舌が痺れる芋をすりおろし、草木灰を混ぜて丸一日煮込んで食べる食いもんだ。……そんくらい、人間は執念深いんだよ」
「それ、日本人だけじゃねぇの? 腐った豆食うような民族だし」
「え……」
裂那とハジメを日本人と知るユエは、そっと距離をとった。
004
そんなこんなシリアスの欠片もない雰囲気のまま遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。
登りきった崖の上、そこには……
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。
だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」
帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。
帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、
裂那に黙らされた。
「あー、もういい。自己紹介ならそれで十分だ」
口に手刀をねじ込み、横なぎに振り払う。
「カハッ、カハッ……。オボエェ〜〜」
帝国兵は嘔吐しながら、見下す裂那の睨みつけた。
「人間様にそんな目向けんなよ。不敬だぞ?」
「何を、うぐっ!」
全員が戸惑う中、裂那は小隊長の頭を踏みつけ、吐瀉物で汚す。
「頭が高えよ」
首に飛び乗り、嫌な音を最後に男は動かなくなった。
小隊長の死という現実に、兵士たちは半ばパニックになりながらも武器を裂那に向ける。
ハジメやリサ達、兎人族は裂那を心配そうに見つめている。
早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。
裂那は無抵抗に、帝国兵達に歩み寄る。
「うっ、うおー!!」
動じない裂那に恐怖した一人が、剣を振り回し襲い掛かった。
「どこだろうと、武器持った男ってのは愚か極まりねぇな。ったく……」
剣が肌を叩こうとも傷一つつかず、裂那はその剣を掠め取った。
「か、返しやがれ!!」
「ん? ほらよ」
決して躱せない速さではないはずだった。切っ先が吸い込まれるように、無抵抗に腹に突き刺さる。
隙だと思ったのか、偶然か。いつかのベヒモス戦の時のように火球や風球が裂那に四方八方から襲いかかる。
「裂那さん!!」
シアが叫ぶ。
「痛くも痒くもねぇよ。こんなもん」
尽くを受けるが、裂那は歩みを止めない。
「ひ、ひぃ!!」
「効いてねぇぞ!!」
「何してやがる! 女だからって油断すんじゃねぇぞ!!」
『殺されたくなきゃ、自主的に自害しろ』
後ずさる帝国兵達にめんどくさくなったのか、裂那は口撃術を容赦無く発動した。
阿鼻叫喚の地獄絵図。口から裂那の声が響いた兵達のうち大半は、剣や杖先を頭蓋に突き刺し、断末魔を上げながら死んでいった。
地面に脳漿と血の海が広がる。
口撃術はあくまで簡易的な催眠術のようなもので、効かぬものは多いし、特に人間には通じにくいのだ。
狂気じみた光景に腰を抜かした帝国兵たちを、裂那はぬちゃぬちゃと足音を鳴らしながら一人一人殺していく。
005
突然だが、《デスタウン》と言う日本の都市伝説、怪異をご存知だろうか。
直訳すると、死の町。
どこの馬鹿ともしれぬ誰かがオカルトを語り出したと思わせてしまったかも知れないが、まぁ付き合ってくれたまえ。
デスタウンとはこの世とあの世の中間に存在する世界で、霧深い町だ。
生者と死者が共存する世界であり、瀕死の人間が迷い込むそうな。
また、インターネットから偶然デスタウンにアクセスしてしまう例もあり、その場合ユーザーはトランス状態に陥って仮想世界に取り込まれ、魂を奪われてしまうのだとか。
なぜ今このようなことを語るのかといえば、デスタウンは華々花々の生誕の地であり、神刺裂那とも決して浅くない縁のある町だからだ。
華々花々、並びに神刺裂那の生きる世界観において、デスタウンは実在する。どころか、縁ある人間は都市伝説に生きている世界観だ。
死体と最も向き合う人間は、医者、葬儀屋、警察官なのだろうが、死そのものと向き合っているのはデスタウンの住民だろう。デスタウンは死ぬ直前の人間が迷い込む場所であり、死者と生者の町なのだから。
それはそうと、華々花々は死者の子だ。
いや。いやいやいや。親が死ねばその人は死者の子だろうが、そうではなく。華々花々は違う。桁が違う。単位が違う。次元が違う。種が違う。
肉体から奪われ電子生命体となった魂と、デスタウンで育った生まれつきの死者。それが華々花々の両親であり、故に華々花々と神刺裂那の出会いは運命的な出会いであった。
神刺裂那は中学生の頃デスタウンに迷い込み、およそ二年間を華々花々とデスタウンで過ごした。
紆余曲折あり、二人は日本に帰還していた神刺刹那に連れ出されたのだが、後遺症は悲惨な物だった。
死を認識できていない。
死を終わりだと認識できていない。
死を過程と思っていて終わりだと認識できていない。
死は解放でなく。
死は救いでなく。
死は悲劇でなく。
死ではなく運命は続く。
死ではなく人生は続く。
死んでなく終わらない。
故に裂那は、何者よりも死というものを理解している。
006
「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」
「なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。全部、帝国に移送済みなのか?」
裂那が質問したのは、百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいるのなら助ける気だからだ。
「……は、話せば殺さないか?」
「それにオレが答える義務はないだろ? オレは平和主義なんだ」
「わ、わかった話す! 話すから!」
ブンブンと首を縦に振る帝国兵に、裂那は壊れたおもちゃを見るような目で見る。
「多分、全部移送済みだと思う。人数は絞った……」
「で? それでどうしたんだ?」
「ど、どうしたってなんだよっ! 何が聞きてぇんだ!」
「絞るために何したのかって聞いてんだよ」
「殺したよ!! 決まってんだろ!!」
「……あっそ」
裂那はその辺から剣を拾った。帝国兵の顔が絶望に染まる。
「なぁに今にも殺されそうなウサギみてぇな面してんだよ。文句いいたきゃ口で言え。拳で語れ。魂で叫べ」
「待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」
「知ったこっちゃねぇな」
「頼む! 殺さないでくれ!!」
「もう死んだようなもんだろ、テメェら」
団子に串を通すように、剣を顔面から後頭部まで剣が貫いた。
断末魔もなく、最後の帝国兵は息絶えた。
息を呑む兎人族達。あまりに容赦のない、凄惨な光景を生み出した裂那の行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずと裂那に尋ねた。
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」
「意味ねぇだろ、バカ。んなことしたら、次は倍の数がテメェら亜人族を殺しに来んぞ。それとも戦争がお望みか?」
兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしいが、同じ平和主義を掲げる裂那でも考えは真逆なようだ。
血の海に死体の山を築いた裂那の行動に、具合を悪くしたのか口元を手で抑えるユエが言う。
「……裂那の行いは許されることじゃない。……けど、一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」
「そ、それは……」
「……そもそも、一緒に戦うべきだった私たちがそんな目を裂那に向けるのはお門違い」
「……」
ユエは静かに哀しむと同時に怒っているようだ。
「別に、貴女に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ。……申し訳ない」
「裂那さん、すみません」
シアとカムが代表して謝罪する。裂那は「ん」と気にしていない風な返事をし、ハジメを手招きして馬車の確認に向かう。
帝国兵の死体はユエが焼き払い、残った灰は兎人族らで谷底に落とした。
第九話、END.
999
霧の深い町の、とある公園。少女達は出会うべくして出逢った。
「こんにちは。あたしのお友達さん」
「初めまして。オレのダチ」
「ムフフ」
「かはは」
「「アッハハハハ!!」」
死者と生者と死にかけが住うこの町で、少女達は町の象徴たりうる存在であった。
「じゃ、いこっか」
「いいぜ。連れてけ」
感想よろしくお願いします!!