正義の敵は王道を拒む   作:那由多 ユラ

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毎度毎度、誤字報告ありがとうございます!

一応言っておきますと、第一話、ハナちゃんのセリフの、人繋ぎの大悲報は誤字ではありません! 読みは完全にパクりましたが、文字だけはmacに任せたもので、誤字ではなく意図的な誤変換であります!

とまぁ、殆どの人にはどうでも良い話でしたね!

ぜひ感想や評価をお願いします! 低評価、「面白いです」のような一言の感想も大歓迎!

「読者諸君は小説家が読者の思っている数十倍感想に飢えていることを知覚しろ!」

……失礼いたしました。ではでは、本編をどーぞ!


第十二話

 

000

 

 

神の子が神であるとは限らないように、人の子が人であるとは限らない。

 

 

 

001

 

 

フェアベルゲンを一度出た裂那は、ハジメが拠点と決めた場所を確認してからもう一度フェアベルゲンに向かうことにした。

 

大した荷物もないので準備はすぐに済んだのだが、ハジメにフェアベルゲンに向かう旨を伝えるとシアに呼び止められた。

 

「待ってくださいっ。本当に案内なしで向かうおつもりなんですか?」

 

「おう。なんも問題ねぇ。霧の中歩くのは慣れてんだよ」

 

「そ、そうですか。……そ、その、お気をつけて!」

 

「ん。まぁ喧嘩しに行くわけじゃねぇさ」

 

そう言い残し、ハジメから戦闘訓練を受けるハウリアたちを尻目に裂那は青子を引き連れフェアベルゲンに戻っていく。

 

 

 

 

迷うことなく歩いて三十分程度。フェアベルゲンに辿り着き、周囲を見渡す。

 

「その辺にいると助かるんだが……」

 

戻ってきた裂那たちに、亜人達は警戒心を隠さずじっと見つめている。

 

裂那が探しているのは、狐人族の女性だ。

 

狐人族は基本的に明るい毛色の者が多いのだが、その女性は違った。

 

 

一人だけ、紫色であった。見えたのは一瞬だが、目も髪も、民族衣装も全てが紫色であった。

 

 

全身紫というだけなら、そういう髪色で服は好みというのも考えられるが、誰も違和感を覚えずにいられるだろうか。

 

 

「……金色、あっち」

 

「ん? お、みっけ」

 

紫色の狐人族は、裂那たちを建物の陰から訝しみながら見ていた。

 

裂那が見ていることに気がついたのか、紫色は自分の顔を指差し困惑の表情を浮かべている。

 

警戒している亜人たちを無視して、裂那と青子は近寄っていく。

 

 

 

 

002

 

 

 

「お察しのこととは思いますが、私は今代の紫色なる種を担当しております。エーデルエリンと申す者です。長い名前ですので、エリンとお呼びください」

 

 

裂那と青子は紫色なる種であったエーデルエリンの家へと招かれた。

 

ダイニングテーブルを三人が囲う。フェアベルゲン特産のお茶が出されて、それぞれ自己紹介をした。

 

「ところで、その、一体何の御用でしょうか?」

 

裂那は一口お茶を飲んでから尋ねる。

 

「単刀直入に言うが、お前、オレらと一緒に来る気はないか?」

 

「……詳しく、お聞かせ願えますでしょうか?」

 

口調とは裏腹に、彼女の目はキラめいていた。

 

「青子が言うに、金色なる種たるオレを主軸に創世神話の続きが綴られるらしい。今はその準備段階なんだが、同行するにしてもしないにしても《色》の現状は把握しておきたい。一緒に来てくれるのならありがたいが、来ないなら来ないでそれで構わない」

 

「補足すると、赤がまだ未発色、橙、藍がすでに絶滅しており、白、黒は創世神話以降行方不明。変革を告げた桃色は金色がすでに交友を為している」

 

「なるほど……」

 

エーデルエリンはお茶をグビッと飲み干し、思考を巡らせている。

 

裂那も青子も急かすことはせず、空間が静寂に包まれた。

 

ふと、部屋の内装を眺めるが、物は少ない。狐耳が縦に長いからなのか、天井から垂らすような家具は壁沿いにしかなく、照明も床から伸びるような形だ。

 

 

時間にして十分程。外の警戒による静けさもなくなり、喧騒が戻ってきた頃にエーデルエリンは口を開いた。

 

「私、この国のみんなのことは大好きです。……でも、私は神秘を司る紫色なんです。正直言ってしまうと、この国にもう神秘はそう多くありません。……確かに、ここにいればきっと命の危機なんて少ないでしょう。ご飯も美味しいですし、雨風を防げる家もあります。霧が有る限り、人間族の被害にも遭わないでしょう。……でもやっぱり、何かが物足りないんです。まるでどれだけ食べても満たされない、どれだけ寝てもずっと眠たい、みたいな。欲求不満というか、シンプルに退屈というか……」

 

エーデルエリンがカップを両手で包むように持つと、底から這い出るように、イソギンチャクのような触手が這い出てきている。触手はエーデルエイスの指を撫で、腕を這う。

 

「おい、それ、大丈夫か?」

 

「へ? ……あ、……。えへへ、ごめんなさい。つい考え込んじゃうとこれで。……外だと絶対バレちゃいけないからか平気なんですけど、家だとこうで」

 

「それ、オレらに言って大丈夫か? バレたら白ウサギと扱い変わらないだろ」

 

裂那は普通に心配そうな表情で言う。

 

「あぁ……。いえ、大丈夫です。私、裂那さん達について行きますから」

 

エーデルエリンはカップに被せるように手で閉じると、触手は初めから居なかったように跡形もなく無くなった。

 

「ん、まぁ分かった。いいぜ、歓迎する」

 

「ありがとうございます! そうと決まれば、今日はウチに泊まって行ってください。ちょっと訳あって私は勝手に森を出られない身なので、明日早朝、人の居ないタイミングがありますので、……いいですか?」

 

そう言いながら、どこからか肩掛けバックを取り出すエーデルエリン。

 

「……さてはお前、近いうちにでも抜け出す気だったな?」

 

「えへへ。なかなか思い切れなくて、その、ちょうどいいタイミングだったんです。これはもう、運命! ってくらいに!」

 

「なぁ青子、紫って毎回こんななのか?」

 

「紫の性質は神秘。分からないからこそ美しく、神話だからこそ神々しい。神話に関わりの無かった今代のキャラクターは、未だ未知」

 

「ほへ〜。私、先代の人の話とか神話の話とかいろいろ聞きたいです!」

 

「構わない。いくらでも聞かせよう」

 

「今夜は寝かせませんよ! 夜通し女子会です!」

 

「旅立つっつったろ! 早めに寝ろ!」

 

「私、遠足前日は徹夜するタイプなんです!」

 

「いねぇよそんなやつ! つか遠足あんの!?」

 

「もちろんありますよ! 子供達を集めて、魔物の脅威に怯えながら大樹まで行って、一番早く帰ってこれた子が後の族長になるんです!」

 

「マジで!? あいつらそんなんで選ばれたのか!?」

 

「それはもちろん冗談ですが、アルフレリックくんはいち早く帰ってきた功績を認められて、その勢いで手柄を横ど……上げまくって族長になったのは本当です。ちなみに私はビリで、森中に捜索隊が放たれました」

 

「徹夜するからだバカ。今日はさっさと飯食って寝る。いいな?」

 

「むぅ……。仕方ありません。道中ではしっかり聞かせてもらいますからね!」

 

 

 

 

003

 

 

 

翌日早朝。エーデルエリン、裂那、青子は無事、亜人の一人にすら気がつかれることもなくハジメ達の元へと帰ってこれた。

 

どうやらハウリア達は早くから戦闘訓練を開始していたようで、起きたばかりらしいハジメの元に武装したウサミミ達が魔物を持って盛っていた。

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

 

男のハウリアは魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」

 

「ようクモ。……テメェ何したらあんなキチウサ量産できんだ?」

 

「……聞くな」

 

「おい目ぇ逸らすな」

 

道中、魔物を相手どる様子のおかしいハウリア達を見かけた。狂気じみた笑い声を上げていたり、黙々と魔物を滅多刺しにしていたり、意味もなくミンチにしていたり……。

 

「わー、すごいですね! あのハウリア族が積極的に魔物を殲滅しているなんて、とても神秘的です!」

 

「おい神刺、この紫のはまさか……」

 

「おう。狐人族のエーデルエリン。察しの通り紫色なる種だ」

 

「申し遅れました。エーデルエリンです。 エリンとお呼びください」

 

「お、おう。……信用できんのか?」

 

「まぁたそれかテメェは。別にテメェが気にする必要はねぇよ。予定よりちと早いが、オレらはテメェらとは一旦別行動だ。なんでも、この狐がフェアベルゲンを出るとこを見られるのはまずいらしくてな」

 

「……マジ?」

 

ハジメはポカーンと口を間抜けに開けた。

 

元々、そういう予定ではあったのだ。裂那とハジメの旅の目的は微妙に異なる。リサや青子という戦闘ができる人員が加わった今、あまり一緒に旅をする理由は無いのだ。

 

「マジ。ところでユエとリサはどこだ? あとついでに白ウサギも」

 

「あ、あぁ、リサはまだテントだ。ユエとシアは別のとこで特訓してる」

 

「ほーん。……この状況、シロが見たらどう思うんだろうな」

 

「……言うな。そんでもって言うなよ」

 

「ククッ、安心しろ。あることあること無いことあること、美化しまくって言い聞かせておいてやる」

 

「やめろ!! 場合によっては帰還より優先して殺すぞ!」

 

「はっ、痛くも痒くもねぇ。っと、今ここで遊んでる暇は大してねぇんだ。おいクモ、イタい目逢いたくなきゃ魔動四輪一機寄越せ」

 

「盗賊かテメェは!」

 

「優しく言ってやってんだろうが。SAN値まで減らしたくはねぇだろ?」

 

「お前は邪神か何かなのか!?」

 

「オレの母親は神だけど邪神じゃねぇよ!!」

 

「うおっ!? 急に怒んな! 銃でもなんでもくれてやっから!!」

 

「はっ、話が早くて助かるぜ」

 

 

 

 

ハジメは宝物庫から魔力駆動四輪を取り出し、テントで眠っていたリサを抱き抱えて後部座席に乗せた。

 

運転席には裂那一行でリサを除き唯一魔力を持つ青子が座り、裂那が助手席に。リサとエーデルエリンは後部座席に座る。

 

子供は後部座席に。これ運転者としての常識。

 

「私は子供じゃありません!!」

 

「歳覚えてねぇ時点でガキだテメェは!」

 

「亜人族に年齢の文化があまり根付いて無いんですから仕方ないじゃ無いですか! 十歳も百歳も大して変わらないでしょう!?」

 

「否定はしねぇけどそんなんだからテメェは箱入りなんだろうが!」

 

「私だけ愚かみたいな言い方は納得いきません! あなただって十歳とかその辺でしょう!?」

 

「悪かったなガキ体型で! これでも十六だボケ!」

 

「ボケ!? 私の半分どころか十分の一も生きてない小娘があろうことか私をボケと言いましたか今!!」

 

「……金色、紫、神話として見苦しい」

 

「ババア超えて先祖レヴェルは今黙ってろ!」

 

「青子様はきっと年齢六桁とかなんでしょう!? ちょっと黙っててください!」

 

「……失礼な。我が身は神話の時代から神話を語る身。十桁はくだらない」

 

「単位がちげぇよバカ。ったく……。」

 

 

 

 

004

 

 

 

数時間ほど走り、そろそろ昼食が食べたくなる頃、前方に町が見えてきた。途中で目を覚ましたリサが身を乗り出してはしゃぎだす。

 

「ママ! なんか見えてきたよ! あれが町?」

 

「おう、わかったわかった、落ち着け。危ねぇから」

 

「ほらほらリサちゃん、町に入るにはまだ時間がかかりますから、お姉さんと大人しくしましょ?」

 

「はーい」

 

最年少のリサは、規格外の青子を除いて最年長のエーデルエリンにすぐに懐いた。ユエといい、エーデルエリンといい、亜人族達といい、どうやらリサは人外の年上に好かれるようだ。

 

 

 

周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町。名をブルック。木製の門が見え、すぐそばには古屋がある。

 

町から視認出来そうな距離からは、青子を除き魔動四輪から降り徒歩に切り替える。

 

青子はそのまま時空移動し、魔動四輪を別の時空に預けてくるらしい。

 

 

 

道中もリサははしゃぎっぱなしで裂那は制御に苦戦していたが、なんとか町の門までたどり着いた。武装した男が小屋から出てきて、裂那達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

やる気なさげな質問に答えながら、裂那はステータスプレートを取り出した。

 

「人探し。あとついでに飯が食いてぇ」

 

ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が裂那のステータスプレートをチェックする。そして、目を瞬かせながら言葉をこぼす。

 

「神刺、裂那……。あんたまさか、華々花々さんの探してたっていう……」

 

「あぁ、そうなんだろうな」

 

「しっ、失礼いたしましたぁ!!」

 

男は声を荒げながら慌てて裂那にステータスプレートを返した。

 

「ちょっとちょっと裂那さぁん、いくらなんでも手を出すのが早すぎはしませんかぁ?」

 

エーデルエリンが揶揄うように言った。

 

「知るかっつの。なんだ、オレらより先にハナがここにきたのか?」

 

「えっ、ええその通りございますはい! 身分確認は不要ですのでどうぞお通りくださいはい!」

 

先に来た花々に何をされたのか様子のおかしい男は押し込むように裂那達を町へ招き入れた。

 

「なぁ、ハナ、……花々はまずどこに向かったんだ?」

 

「冒険者ギルドだと思われまする! 道なりにまっすぐ行けばありますのでお気をつけて!!」

 

男は逃げるように小屋へと駆けて行った。

 

「……ママ、あの人になんかしたの?」

 

「リサ、お前まで言うか」

 

「いいですねぇ、人間族の町というのもなかなか愉快で神秘的です」

 

「……今のどこを見てそう思えるんだ?」

 

「ママ! 早く行こ! 面白そうだよ!」

 

「あっ、ちょ、引っ張るなコラ! エリンテメェ死んでもはぐれんなよ!!」

 

「はーい」

 

町は裂那達に負けず劣らずの活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

 

リサもエリンも人間族の町というものは初めてで、何もかもに興味を惹かれキョロキョロと見渡す様子は完全におのぼりさんだ。

 

 

仲良くメインストリートを歩いていると、一本の大剣が描かれた看板を発見した。規模はホルアドの町で見た物より小さいが、冒険者ギルドの看板だ。

 

裂那がリサに引っ張られるように、エーデルエリンが裂那に引きずられるように中へ踏み込んだ。

 

 

 

005

 

 

 

 

裂那達がギルドに入ると、当然のように注目が集まった。リサは尻尾さえ隠せば愛らしさ抜群の少女であるし、目つきは悪いが裂那も十分に美少女に分類される。とどめに狐人族のエーデルエリンだ。首輪をつけていないことから奴隷でも無いことは一目瞭然で、希少も希少な存在だ。

 

冒険者達の瞳の奥の好奇心がギラギラと増した。恋人なのか、女冒険者に殴られているものもいる。平手打ちでないあたりに裂那は好感を抱いた。

 

「いいですよぉ、冒険者ギルドに冒険者、すなわち冒険!! 愉快痛快まだ見ぬ神秘に満ち満ちています!」

 

「……言っとくが自由行動は無しだからな。万が一にも奴隷になろうものなら面倒極まりねぇ」

 

女冒険者の威嚇を集めながら裂那達はカウンターへ向かう。

 

カウンターには裂那三人分はある横幅のオバチャンがいた。裂那は「天職はパン屋だな間違いない」なんてことを思っていた。

 

オバチャンは人の良さそうな笑みで裂那達を迎えた。

 

「どうしたんだい? ウチは迷子探しから道案内、冒険者関連までなんでもござれだよ」

 

「……副業はパン屋か?」

 

裂那のふと出た言葉に、オバチャンの笑みは消えた。

 

「……あんた、もしかしてもしかしなくても神刺裂那か南雲ハジメだね?」

 

オバチャンの言葉を聞いて、裂那はシニカルな笑みを浮かべた。

 

「なるほど、話が早くて助かる。オレは華々花々の探し人の片割れの裂那だ」

 

「そうかいそうかい。そのお嬢ちゃん達からの伝言、『ハナと愛ちゃんが探しに来た』っと、ちゃんと伝えたよ」

 

「おう、確かに伝わった。この町には居ないんだな?」

 

「居ないよ。次はウルに行くと言ってたね。とはいえ二ヶ月くらい前のことだしまだ居るかはわからないけどね」

 

「んや、助かった。ハナがこの町のどこを回ったのかわかるか?」

 

「そうだねぇ、……あの子達に渡したのと同じ地図を渡すから、虱潰しに巡ってみるといいさね。ウルまでの地図も必要かい?」

 

「おう、助かる」

 

オバチャンは筆を走らせ、すぐに二枚の地図を書き上げ、裂那に手渡した。

 

「おぉ、すげぇ。天職は製図師かなんかか?」

 

「あたしの天職は書士だよ。それくらい落書きみたいなもんさ」

 

「ほぉん。じゃあ用も済んだしオレらはもう行くわ」

 

「そうかい。ま、言うまでもないだろうけど気をつけるんだよ」

 

「言われるまでもなくわかってるさ。あぁ、そうだ。南雲ハジメなんだが、多分ウサギと金髪のロリ連れてくるから、ここに来たら『ウルまでダッシュ』って伝えておいてくれ」

 

「……あんた達、ここを掲示板か何かと勘違いしてないかい?」

 

「はっ、そう思われてんならそうなんだろうな。どうしても気になるんならパン屋にでも転職することを勧めるぜ」

 

「あたしの天職をなんだと思ってんだい」

 

「天職なんて関係ないだろ。オレなんて天職が軍師だぜ? 平和主義が聞いて呆れる」

 

「そりゃ気の毒としか言いようがないね」

 

「そうとしか言いようがねぇよな。……じゃ、改めて、さようなら」

 

「ハイハイ。またなんかあったらウチに来なさいな」

 

「おう。ここにくる程度で済むことを切に願っておくぜ」

 

「あっはっはっは、違いない」

 

 

裂那は冒険者達に冒険譚を語らせてるリサとエーデルエリンの手を引き、冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

 

006

 

 

 

 

冒険者ギルドを出ると、そこで青子が待ち受けていた。

 

「よお、待たせたか?」

 

「問題ない。それより、次の目的地を聞きたい」

 

青子の返事を聞き、裂那はリサとエーデルエリンに地図を渡して目的地を決めさせることにした。

 

「リサ、いろんなもの見たい!」

 

「私はそうですねぇ、あ、服屋さんに行きたいですね。着替えが心許ないですし」

 

「あー、そういやリサの着替えも無いな。とりあえず服屋に向かうか」

 

 

 

地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て最初に向かうことにしたのは冒険者向けの、しかし普段着もある程度まとめて買えるという店。

 

品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店であり、偶然にも花々と愛子も立ち寄った店でもある。

 

説明は、もう不要であろう。美しき化け物の住処である。

 

強いて今語ることがあるとするならば、その化け物が二人になっているところだろうか。

 

化け物が二人いることに目を瞑れば、至って良質な店である。

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

言うまでもなく、黄色なる種だ。ただでさえ気色悪い、良く言えばミスマッチな肉体と服装のギャップを、全身を黄色に染める黄色なる種がより際立たせている。

 

「ピィッ!!」

 

「ワオ! 神秘的な肉体美と可愛らしい服の不協和音。正しく人間族の神秘の到達点! 素晴らしい気色悪さですね! もはや芸術! 神話の挿絵!」

 

リサは化け物に怯えて裂那の後ろに隠れ、エーデルエリンは対照的にその怪物を絶賛する。

 

青子はと言えば、普段の無表情を崩し、なんとも言えない微妙な顔をしていた。

 

「だぁ~れが、神話の英雄すら泣いて逃げ出す、見ただけで魔王が屈する化物だゴラァァアア!!」

 

エーデルエリンの言葉に化物が怒り、咆哮を上げた。

 

「どっからどう見ても神話のバケモン撲殺するマジのバケモノだろうがボケ!! オレの娘怖がらすんじゃねぇよ!!」

 

負けじと裂那も咆哮を上げる。裂那に抱きしめられたリサは、見たことのない母親の様子に目をパチクリさせている。

 

裂那の声が届いたようで、化け物から怒りのオーラだけは消え去り、シュンとした雰囲気になる。

 

「あ、あら、ごめんなさいね? ……そんなに怖かったかしらん?」

 

「黄色なる種の危険性は分かっていたつもりだったが、この方向性の危険度は想定外。至急肉体の再構成を進める」

 

神話の語り手、青子が無茶苦茶な無茶を淡々と言う。騒ぎを聞きつけた通行人たちが、化け物に屈しない裂那達に畏敬の念を抱いた。

 

「無理を言わないで欲しいわ……。さてさてっ! 今日はどんな商品をお求めかしらん? お詫びも兼ねてサービスしちゃうわよぉん?」

 

「あぁ、見りゃわかると思うが、話したいことがある。とはいえ、先に買い物を済まそう。オレとリサ、エリンの服を二、三着見繕ってくれ」

 

化け物改めクリスタベルは「ふぅん?」と裂那達をじっくり観察したのち、「任せてぇ~ん」と裂那達を店内に招き入れた。

 

 

 

既にご存知のことだろうが、クリスタベルのセンスは見事の一言に尽きる。店のカウンターで大人しくしていた第二のクリスタベルこと、マリアベルも協力し、全員の買い物はほんの数分で終わった。支払いは当然のように青子である。何処かから金貨の入った大きな袋を差し出し、「残りは投資。繁盛させるといい」と告げた。

 

 

 

 

買い物を終え、裂那が話があると言うと、クリスタベルに近場のカフェへと案内された。

 

「代金はおねぇさんが出すから好きに注文してねぇん♥」

 

クリスタベルの言葉に甘え、各々軽食と紅茶のようなもの、ジュースを注文した。

 

「あ、こいつの分は玉ねぎを抜いておいてくれ。死ぬから」

 

「私を狐扱いしないでくれます!? 店員さん大丈夫ですから! 私死にませんから!」

 

「は、はぁ」と店員を困らせた裂那とエーデルエリンを、クリスタベルは微笑ましそうに見ていた。

 

「賑やかな子達ねぇん♥……それで、私に話って、何かしらん?」

 

 

青子がフェアベルゲンでエーデルエリンにしたのと同じ話を語り、押し黙ったクリスタベルの返答を待つ。

 

裂那が、リサの汚れた口周りを拭いながら追加で語る。

 

「別に、無理について来いなんて言わねぇさ。戦争に参加するわけじゃねぇが、危険のない旅ってわけでもない。それに店まで持ってんだ。場所の把握がしやすいだけでもこっちはかなり助かる」

 

裂那と青子の話を聞いたクリスタベルは体格に似合わない優雅な動きで紅茶を飲み、思考を巡らせている。

 

 

 

初めて、もしくは久方ぶりの食事に舌鼓をうち、リサと裂那が十分満足した頃にクリスタベルは口を開いた。

 

「……マリアベルちゃんもいつか店を持ちたいって言ってたし、いい機会かもしれないわね」

 

その言葉に、いつもの間延びした口調だけは鳴りを潜めていた。

 

「いいわ。おねぇさん、あなた達の旅についていってあげるわよ」

 

「助かる」

 

「えぇ、きっと助けになってみせるわ」

 

裂那とクリスタベルは、ガシッと力強い握手を交わした。

 

リサは生まれて初めての人らしい食事に満足し、青子も神話の進行を感じているさなか、エリンは軽く挙手して裂那に尋ねた。

 

「あの、裂那さん」

 

「んー、どうした?」

 

裂那は紅茶を飲みながら返す。

 

「今日加わった私が言うことじゃないかもしれませんが、ちょっと不思議ではありませんか?」

 

「……何がだよ」

 

「その、ただの偶然かもしれないのですが……」

 

「いいから言ってみろ。今オレは機嫌がいいから暴言とかでない限り怒ったりしねぇよ」

 

「その、都合が良すぎはしませんか? ……偶然紫色なる種である私が、偶然にも外に出たがっていたから仲間に加わって、偶然訪れた町の服屋さんに黄色なる種のクリスタベルさんがいて、偶然二ヶ月前からマリアベルさんがいることを理由にクリスタベルさんが仲間になった。他にもハウリアのことなんかも……。……本当に偶然かもしれませんが、なんだか不自然な気がしてなりません。今日一日だけなので統計があるわけでもありませんが、都合が良すぎるように思います。……神秘たる私だからこそわかるのです。……今日の裂那さんの旅は、神秘の欠片もない。まるで……」

 

ここでエリンは言葉を濁らせる。

 

「まるで、台本どうりに動く人形劇。そう言いたいんだな?」

 

裂那の言葉に表情を暗くしながらエリンはコクンと頷く。

 

「ったりまえだろ。世界はおおよそオレを中心に回っている」

 

裂那は恥ずかしげの欠片も見せず恥ずかしいことを言う。

 

「「……は?」」

 

聞き入っていたクリスタベルと、エリンの間抜けた一言が重なった。

 

「とはいえ、それでもおおよそだ。エリンの方は本当に純度九十%の偶然だろうが、クリスタベルの方は間違いなくハナ、桃色なる種の干渉、補正って言ったほうが分かりやすいか? ……そう、桃色なる種の補正が掛かっている」

 

「……そういえば、マリアベルちゃんが来る数日前にピンクの女の子が来たわねん」

 

「ハナがこの町で何をしたのか知らねぇが、ハナは既にオレらに干渉してきてる。いちいちそんなこと気にしてる暇はないぞ。ハナの真骨頂は掌握だ。この世界は既にハナの手のひらの上。オレやハナに都合の良い運命なんていくらでも来る」

 

「……ありえない」

 

そう言ったのは、青子だった。

 

「ありえない。桃色なる種に、そんな性質は無い。桃色なる種が最強兵器とはいえ、そんな力は持たない、はず」

 

「はっ、嘗めんな青子。ハナは桃色なる種になる前からオレを中心に世界を回してるし、オレが金色なる種になる前、故郷にいた時から、あの霧の深い町でやっと出逢った(初めての再会をした)ときから、オレを中心に世界は回っている」

 

 

 

 

 

「オレらは選んだ運命に流される才ある人間様だ。ありとあらゆる尽くが不都合にして好都合のご都合主義の畑の住人だ。オレの生涯において不自然なことなんて一切皆無だ」

 

裂那はそう締め括り、静寂を背景に残った紅茶を飲み干した。

 

 

 

第十二話、END.




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