正義の敵は王道を拒む   作:那由多 ユラ

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追記、毎度毎度、誤字報告ありがとうございます!



第八話

000

 

 

神の存在に有無は関係なく、救われるものは救われるし、救われぬものは救われない。

 

そこに神は関係ない。

 

 

 

001

 

 

場所は石造りの住居。反逆者の住処と思われる場所で、探索はユエとリサに任せ、オレは書斎らしき部屋で調べ物に集中していた。

 

「創世神話……。エヒトとは別の宗教、だよな」

 

オレの目当ては、《〜〜なる種》に関する情報。あまり期待はしていなかったが予想外の書物から見つかった。

 

 

赤橙黄緑青藍紫。白黒挟んで計九色。

各色の《色》を持った始まりの人間たち。神の代替品、ゴッドオルタナティブ。

 

白色なる種

赤色なる種

橙色なる種

黄色なる種

緑色なる種

青色なる種

藍色なる種

紫色なる種

黒色なる種

 

九人の人間から、この世界の人間は始まった。

色は混じわり合い、元の九色を中心に、凄まじい速度で繁栄していった。

 

創世神話には、無色と称される人間が登場する。

 

宗教戦争。無色と、有色の人間の戦争だった。

 

最終的に無色の最強、《エヒトルジュエ》と有色の最強、変革の一手《桃色なる種》の決戦の果て、事実上有色の人間は滅びた。

 

 

 

 

……金色はどうした?

 

ハナの桃色は終盤だがかろうじて出てきた。ユエの言っていた黄色もだ。

 

神の代替。代用。いったいどういう意味なのだろうか。

 

それらしい能力はある。神らしい特性がある。

 

《無性生殖》

 

いつの間にかステータスプレートに記されていた、金色の海。あれは所謂、母なる海って奴だろう。頭裂いて女神産む神がいるんだから、腹裂けて生む神がいてもまぁいい。

 

リサはどうなのだろう。人なのか、神なのか。金色の髪や瞳は誰から見ても金色なのか?

 

そもそもオレが金色に見える条件はなんだ?

 

金色に見えていたのは確認できているだけで、オレ、ハナ、ユエ、クモ、リサ。

クモはユエの封印されてた部屋で再会したときからだ。だが落ちる前後での違いがありすぎて、条件の特定は難しい。

 

見えない奴は圧倒的に多い。見える方が少数派だ。

 

見える条件があるのか、見えない条件があるのか。

 

最初、桃色なる種であるハナだけが見えていたことから《〜〜なる種》である者同士でしか見えないと思っていたが、どうやら違う。

 

ユエやクモも《色》なのか?

 

間違いなく違う。クモは確かに変色しているが、ステータスプレートを確認したし、これはユエも含めてだが、服と髪と目の色が違う。

 

オレには見えない可能性も考えたが、もし仮にそうだとして、それならどうしようもない。考察のしようがない

 

資格や技術が必要なのか、何かしらの選別があるのか。

 

いかんせん、世界観がファンタジーなせいでどんな理由でもありえちまうのが恐ろしいっつーか、めんどくせぇ。

 

 

 

 

002

 

 

 

オレが頭を悩ませていると、部屋の勢いよく扉が開かれた

 

「ママー!」

 

「……裂那」

 

クモはいまだ眠っているのだから、必然的にユエとリサだった。

 

「おー、どうしたよ?」

 

「きてきて!」

 

「……ついてきて欲しい」

 

オレはロリ二人に振り回されるようにして、書斎を後にした。

 

 

 

 

 

奥へ奥へと進み、やがて外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンっぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。ユエが魔力を注ぐと、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。

 

「約四十五度。これは、風呂か?」

 

ちょっと熱いくらいの、日本人向けの温度だ。

 

「……裂那、一緒に入ろう」

 

「んー、まあいいか。少し頭休めたかったところだしな」

 

「やったー!」

 

上着をきたまま飛び込もうとしたリサを、すかさずオレは止めた。

 

「待てコラ。リサ、服脱いでから入れ」

 

「はーい!」

 

スポポーンとオレの貸していた上着を脱ぎ捨て、リサは湯船に飛び込んだ。

 

遅れてオレとユエも服を脱ぎ、湯船につかる。

 

「んーーっ!」

 

「あったかーい!」

 

「ふぅ……。向こうじゃ風呂なんてむしろ嫌いだったが、こうも日が開くといいもんだな」

 

「……ん、久しぶり」

 

「ママのおなかの中に戻ったみたーい」

 

「やめろよ? クッソいてぇから」

 

「あははー」

 

「そういやユエ」

 

「……ん、何」

 

「地球じゃ吸血鬼の弱点に『流水』ってのがあるんだけどよ、平気なのか?」

 

「ん、別に問題ない」

 

「あと他にも弱点は日光とか十字架とかニンニクとか、家主の許可がないと人の家に入れないとかもあったな」

 

「……裂那のとこの吸血鬼、弱すぎ?」

 

「一応、みんなで考えた最強のお化けみたいなノリで作られた怪物なんだけどな」

 

「……あほ?」

 

「まぁ、否定はしないけどよ。結局は大衆向けの創作物なんだ」

 

「……ドラキュラ伯爵」

 

「そ。モデルになった人間はブラドの他にも何人もいるけど、その大体が高貴な人間ってのは、それだけ貴族とか王族を恐れてたんだろうな」

 

「……確かに、私も……」

 

「そんなおっかねぇ奴らを幼女にして可愛がったりするんだから、愉快なもんだよ。日本人って奴らは」

 

「……変態」

 

「変態かはともかく、変な民族ではあるな」

 

「むぅ……」

 

「ま、その辺はクモの方が詳しいぞ。オレと違って本職だからな」

 

「え……」

 

誤解したユエが表情を凍らせた。

 

「ぷか〜、ぽか〜」

 

仰向けでプカプカ浮かんでいたリサが、ユエのお腹に流れ着いた。

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「……リサ?」

 

「ンフフ〜」

 

「……かわいい」

 

ユエはリサを抱き留め、頭を撫でる。

 

「……あー、、オレ、もう上がるわ」

 

「え、もう……?」

 

「昔っから風呂は苦手なんだ。息苦しいっつーか、息が詰まるっつーか」

 

昔から、風呂だのプールだの、液体に浸かってると呼吸が上手くできない。オレは根っからのサウナ派なんだ。

 

「……そう」

 

「テメェらに着せられる服探してくるから待ってろ」

 

「ん、わかった」

 

「えー、ママ行っちゃうの?」

 

「すぐ戻ってくるっての。ユエの言うことちゃんと聞けよ」

 

「わかったー」

 

リサは腕をパシャパシャさせて裂那を見送る。

 

 

 

 

003

 

 

 

二階には、書斎や、工房らしき部屋があるが、扉が封印されている。書斎だけは強引な手を使って開けたが、いちいちそんなことをしていたら手間がかかりすぎる。

 

オレは三階へ向かった。

三階はどうやら一部屋しかないようだ。扉を開けると、そこには直径七、八メートルほどの精緻で繊細な魔法陣と、

 

青色がいた。

 

「待ちわびた。金色」

 

「……テメェ、青色か?」

 

青色の少女だった。青や群青で染められた、教会のシスターが着るような修道女の格好の、ボブカットの少女。当然、眼も髪も青い。

 

「我は、青色なる種。色の導き手にして、歴史を語る者」

 

「青色なる種。……失われた青図(ホワイトブルー)だったか?」

 

それは、創世神話に出てきた、青色なる種の計画名。

 

「否。その計画(プロジェクト)はすでに終了している。今の我は進行信号(シグナルブルー)。そう呼ぶといい」

 

「あぁ、そう。……で、なんでテメェがここにいるんだ」

 

「待っていた。新たなる色、金色なる種。つまり、汝を」

 

新たなる色……。創世神話に出てこなかったのは神話以降のことだからか?

 

「お前はどこまで知ってやがる」

 

「言ったはず。我は、歴史を語る者。今も、昔も。そしてこれからも」

 

「……いろいろ聞いておきてぇんだが、今はユエたちの服が最優先だ。色の導き手、お前はオレの味方ってことでいいんだな?」

 

「そう思ってくれて、構わない。服のある部屋へ案内しよう」

 

「助かる」

 

 

 

オレは、進行信号の案内のもと、分かりにくい位置にあった、元々ここに住んでいた者の部屋でいくつかの服を回収し、ユエ達のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

湖畔の町、ウル。

 

農地改善、開拓と言う建前で裂那捜索の旅をしている愛子一行は、稲作が盛んな街へと訪れていた。

 

皆、米料理に思いを馳せて。

 

カランッカランッ

 

そんな音を立てて、愛子達は、それぞれ別れて街を探索した後、花々が部屋をとった宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿だ。名を《水妖精の宿》という。

 

一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。

 

「い〜っるぁっシャイませぇっ! お客様ぁ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

愛子達はなぜか一人だけメイド服を着た店員の、不意打ちな挨拶に肩をびくつかせた。もしくは、その容姿にか。

そのメイドの容姿は髪型が違うし、背も高身長な方だが、それでもどこか、行方不明の少女、裂那に似ていたのだ。

 

それもそのはず。彼女は裂那とも花々とも顔見知りどころではない、ただならん関係なのだから。

 

「あ、刹那(せつな)さん」

 

「ん〜? ……あれ、ハナちゃんじゃん。おひさだねぇ。どったの? こんなところで。ここは君みたいな子が遊びに来るようなとこじゃないよん?」

 

「は、華々さん、お知り合いですか?」

 

「んー、まぁそんなとこ」

 

花々のテンションが、どこか低い。

 

「ど〜も、私は神刺(かんざし)刹那(せつな)! ピッチピチのメイドさんだよん!!」

 

「人呼んで、メイド喫茶のメイド長。レナのお姉さんだよ」

 

「ハァ〜」と、ため息まじりの花々の紹介に愛子達は驚愕の声をあげる。

 

「「「は!?」」」

「えー!?」

 

予想外の人間の登場に皆驚愕し、レストラン店内の注目を集めた。

 

「あー。計算が崩れる音が聞こえてくる……」

 

「私は日雇いでバイトしてるからさ、話は今日の夜にでも、ね?」

 

裂那の血縁とは思えないほど明るい彼女は、ウィンクを残して厨房へと消えていった。

 

「そんなに気にしなくていいよ。あの人、ほんと何処にでも湧く人だから」

 

「は、華々さん、そんなゴキブリみたいに言わなくても……」

 

「厄介度で言うならどっこいどっこいだよ。一日に南極と北極行って帰ってくる人なんて、扱いが難しすぎる」

 

「それ、人間?」

 

女子生徒の誰かが言った言葉が、日本人達の心情を正確に語っていた。

 

 

 

 

005

 

 

 

「うまい! うまい! まさか異世界でカレーが食えるとは思わなかった!」

「見た目、真っ白だけどな。シチューみてぇ」

「天丼も美味しい! 日本にも負けてないかも……」

「マジか! 明日は天丼にするかな」

「チャーハンヤバイ。チャーハンじゃないけどチャーハンヤバイ。マジヤバイ」

 

ほぼ一日馬車に揺られてきた日本人達には、その日の夕食はこの世界にきて一番の御馳走となっていた。

ちなみに、花々は焼き魚定食で、愛子には大きなハンバーグやオムライスなんかが盛り付けられたお子さまランチのようなものが、刹那から振舞われた。

 

「なんか、イギリスで和食食べた日本人みたいだね」

 

「美味しい。美味しいんですけど、盛り付けに悪意を感じます……」

 

愛子はオムライスに建てられた日の丸の旗を睨み付ける。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

 

「あ、オーナーさん」

 

愛子達に話しかけたのは、この宿のオーナーであるフォス・セルオ。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。

 

「いえ、とてもおいしいですよ。みなさん、癒されてるようですし」

 

愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。

 

花々が魚の骨を抜きながら尋ねる。

 

「ねぇ。オーナーさん。刹那さんのことなんだけど」

 

「か、彼女がどうかなさいましたかな?」

 

フォスは戸惑いながら返す。

 

「なんか聞いてない? 旅の目的とか」

 

「目的、ですか。……あぁ、忘れ物を届けにきたとか、なんとか」

 

「ふうん、そう。ありがと」

 

「いえいえ。御友人かなにかで?」

 

「……まぁ、そんなとこかな」

 

「それはそれは」

 

フォスは嬉しそうに去って行った。

 

「そ、それはそうと華々さん、ちょっと相談が……」

 

「んー? 愛ちゃんなに?」

 

「その、私お腹いっぱいで、その……」

 

愛子の皿を見ると、オムライスは完食していたがハンバーグが半分ほど残っていた。

 

「あぁ、なるほどね」

 

「お恥ずかしいのですが……」

 

「みんなー! 愛ちゃんと間接キスするビックチャンス! 今なら女の子の凍てつく視線のおまけ付きだよん!」

 

「ちょっと!?」

 

花々の言葉に、男子達の首がグリンッと回転した。

 

「冗談だよ冗談。ちゃんとあたしが食べたげるからさ」

 

「なんで意地悪するんですか〜、もぅ」

 

「愛ちゃんの唇はあたしがいただいたぁ!!」

 

「なんでわざわざそんな言い方するんですかぁ!!」

 

 

その日のレストランは、いつもより賑やかだったとかなんとか。

 

 

 

 

006

 

 

食事を終え、愛子と花々部屋で休んでいると、話していた通り、刹那が部屋を尋ねてきた。

 

「チャオー、ハナちゃん、愛子ちゃん。遊びに来たよん♪」

 

「あ、刹那さん。こんばんは」

 

愛子は挨拶を返したものの、花々はジッと見つめるだけであった。が、刹那の荷物を見て目の色を変えた。

 

「とりあえず、はいこれ。ハナちゃんの。教室に忘れていってたよ」

 

刹那が花々に渡したのは、硬いものが入っていそうな音の聞こえてくるトートバック。

 

「ありがと刹那さん! 初めて刹那さんに感謝の念を抱いた!」

 

「相変わらず、なかなかきついなー。……ったく、ダメだぜ? 商売道具置きっぱになんてしたら。あとこれな。裂那の奴に渡しといてくんね?」

 

そう言って刹那がポケットから出して渡してきたのは、トランプくらいの大きさのプラスチックケース。中には緋色のカードのようなものが入っている。

 

「んー、……これなに?」

 

「裂那が注文してたヒヒイロノカネ製トランプだと」

 

「あぁ、言ってたね。ん、リョーカイ」

 

「んじゃあ、私はもう用事はないから次んとこ行くけど、なんかある?」

 

「んーん、大丈夫。帰ったらよろしくって伝えといて」

 

「オッケー。あぁ、愛子ちゃん。妹のこと、よろしくね」

 

「は、はい!」

 

刹那は振り返ることなく、部屋からも宿からも消えていった。

 

 

 

 

「か、神刺さんのお姉さんなんですよね? なんと言うか、いろいろ違うような……」

 

「まぁね。刹那さんはレナが生まれる前にはお父さんに海外に連れられていって、すぐにそのお父さんが他界しちゃったっていうなかなかハードな人生送ってきた人だから」

 

「海外で他界って、刹那さんのその後は……」

 

聞き辛そうに愛子は聞くが、花々はなんてことないように答える。

 

「もともと散歩とか好きな人らしくってね、世界中転々としながら十五年くらい生きてたらしいよ。日本に帰ってきてからは、まぁ紆余曲折あってメイド喫茶に就職して、今やメイド長。

……大変だったよ。あの人、小学校すら通ってなかったし、戸籍も死亡扱いになってたしで、ほんと、……うん。」

 

だんだんと遠い目をしていく花々。

 

「げっ、元気出してください華々さん!」

 

「んー、あー、そういえばやることあるんだった」

 

「……どうかしたんですか?」

 

「まぁねぇ。刹那さんが持ってきてくれて助かったっちゃ、助かったかな」

 

そう言いながら、花々は刹那の持ってきたトートバックの中身をベッドの上にひっくり返した。

 

ガチャガチャと出てくるのは、大小様々な機種のスマートフォン七機と、ソーラー充電できるモバイルバッテリー七機。ちなみにスマホは全て花々が改造を施したもので、カメラとマイクの性能が格段に向上している。

 

「どうするんですか? それ」

 

「レナなら、こう言うのは人の頭使ってできるんだけど、あたしはそういうの苦手だからさ、コンピュータくらいしか使えないんだよ」

 

花々はバッテリーに切れたスマホをそれぞれモバイルバッテリーに繋ぎ、電源を付けていく。

やがて、ベッドに並べられた七機全てが体育座りしている花々を照らす。

 

「パス、フラワー」

 

花々の言葉をマイクが吸い取り、全てが同時にロック画面を解除された。

 

「愛ちゃん。あたし、これからしばらく応答できないからよろしくね」

 

「へ?」

 

返事を聞かずに、花々は思考を始めた。

 

「A002996857492018428

 B948191475

 C259827440591857492

 D984700998

 E885739183658303756

 F872918474

 G224804871075088391」

 

「華々さん?」

 

意味のわからないアルファベットと数字の羅列を口からこぼし続ける花々。言葉に応じて、スマホの画面に変化が生じている。

 

「HSJSOSGOAOWNCRUMSHTIURUIMCZHGBDHSIALIIOQIRRHAPBVZZGLERGHREHGHUTOEUQUAKSJSUWIEYRJFMVNCBZFKGOEILSJFHRYGFUIFLIUTLHSLUNVOVENEURHGOHGLDJLSJGIRUOIEHGIRHIHGUOENCWIRNFURYTYEINTVOEIRTHNMFIETHLSKLNVLKBIGIHOSUSIHOQIPIEPJNKLUGYIFUTDRYSEARWETSYTFYGUOHJNJKBGJCFHXSQLAKSJDHEUITRYBVOIUNVTUDRHNIRDUNTVUIORENHYITURNVILEURTFWJEUTORWEIHGLNBKJFDLNVUIHTNVUIHKNVGIRNGCIUERNNGUVGBRUYTVBIVNCSRESUITNVKDFGNVGTVERVKERSNLICBDHEYRGAJNZMCJDUWHWHGJENDHOITUWWHSUBZMCNABQIJDUEYRHSKAMSDYEHKDBOJSOEHNCRETBGIUWYERCNSERTBGCUYVRTNESRYTRIEYTCIWYERTIVBIUORYCIUORYTCIUOERYTBUVGRECNUECEGBTERIVBREOITNIUYNIYNTICRTNCREIYTNIRIUYTRIUTYUIERYTIERUYTOYERYTIIURIUHFIUHFKDHKSDJKJBVSHOUSHFOUFOWYOUYOHFSDHSHDHVNVJXKXKXUEFOUHUHFUHFHFHOOOOFHHFUFGIEYGFEHBS……

 

(怖い怖い怖い!? いつもたまに怖いですけど別ベクトルに怖いです)

 

それから二時間近く、その状況は続いた。

 

 

 

 

007

 

 

 

HGUEIWNNGULR.end……、完結。思考終了」

 

「お、終わりました……か?」

 

「んー、まぁ、これでなんとかなると思う。しばらくはこの町に滞在することになるかな」

 

花々はスマホの画面を確認しながら答えた。

 

「そうですか。……ところで、なにをしてたんですか?」

 

「簡単に言えば、脳とスマホを擬似的に繋いで、並列的に思考をしたってところかな。並列思考(マルチタスク)って聞いたことない? あれと大体一緒」

 

「は、はぁ……」

 

説明されてもよくわからない様子の愛子。

 

「まぁわかんなくていいよ。レナもキモいとか言ってくるだけで分かってないし」

 

「それはすぐにでも止めた方がいいのでは?」

 

「いいのいいの。あたしとレナはそういうことも言い合えるくらい仲良しだからね」

 

「それならいいのですが……」

 

「それよりあたしはもう疲れちゃったよ。寝るけど、いい?」

 

「あ、はい。お疲れ様です」

 

「ん、愛ちゃんもね。おやすみー」

 

「おやすみなさい、華々さん」

 

愛子は花々の頭を一撫でして、自分も眠る準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

008

 

 

 

あれから数日が経過し、クモは目覚めた。その間ユエがリサの教育に悪いことをしでかそうとしたりとあったが、まぁなんとかなったというか、なるようになったというべきか。

 

ユエがクモを案内をし終え、今は新たに一行に加わった青色なる種、進行信号を紹介するのだが、こいつらが絶妙にめんどくさい。

 

「我は、進行信号(シグナルブルー)。汝の名を問おう。神話に至りし者」

 

「あ? 誰だてめぇ、どっから入ってきやがった」

 

「我は進行信号(シグナルブルー)。青色なる種。どこからと問われたら、正面からとしか」

 

「青色……。神刺とかのあれか。……南雲ハジメだ。敵なのか? 味方なのか?」

 

「いまの我は金色なる種の導き手。それを敵と見るか味方と見るかは、汝の自由」

 

「はっきりしやがれ。敵か、味方か」

 

「現状、敵対意識は皆無。消去法的に、味方である」

 

「具体的かつ恒久的に答えろ。敵か、味方か」

 

「……味方ではない。ならば、敵」

 

「なら殺すっ!」

 

ハジメは銃を向け、引き金に指をかける。

 

「……神言集、青の項。『時は我のものにあらず。汝の手にこそ時はあり』……停止信号(シグナルレッド)を代理発色」

 

ハジメが引き金を引く直前、進行信号の瞳の色が赤に変色し、赤い時計のような魔法陣が背後に顕現した。

 

ドパンッ!!

 

凶弾が、進行信号の右眼球目掛けて放たれた。

 

……。

 

進行信号は避けるそぶりも見せず、放たれた弾は接触する前に不自然に停止、空中に固定された。

 

「……最も人類に近しい試作品たる我に、量産品であり、時に縛られた汝が害することはほぼ不可能。諦めて運命に流されろ。英雄候補」

 

赤く冷たい目が、ハジメを貫くように見据える。

 

 

 

 

「やめろクモ。敵を全て殺すっつーのを否定はしねぇが、わざわざ無駄に敵を作れとは言ってねぇぞ」

 

ギロリと、冷静さを完全に欠いている目で、進行信号から目を逸らすように裂那を睨みつけた。

 

「冷静になれ。怒りと憎悪を無駄に使うな。進行信号は敵じゃねぇ」

 

「何を根拠に言ってやがる!」

 

「統計と経験と考察だ。敵とか味方とか、んなもん問題にならねぇ次元に生きてやがんだ。二極化なんてくだらねぇ真似やめろ」

 

「……信用できるのか」

 

「だぁから、出来るとか、出来ないとか、二極化すんなっての。頭硬いっつーか、堅いっつーか」

 

「……金色、何を言っている?」

 

「大したことじゃねぇ。あとその呼び方やめろ。外出たときめんでぇ」

 

「なら、……新種?」

 

「もっとやめろ。オレを愛玩動物にしてくれるな。しまいにゃテメェの呼び名を青子とかにすんぞ」

 

「構わない。金色の子(リサ)古の姫君(ユエ)、そして英雄候補(ハジメ)も。我のことはこれから青子と呼ぶといい」

 

「憐れ……。そして私の名はユエ。いい加減、そう呼んでほしい」

 

「歴史に固有名詞は不要。語られぬ歴史に、語る価値はない」

 

 

 

 

創世神話に、名前というものは存在しない。あるいは、単にネーミングセンスが無かっただけなのか。

 

 

語るものは、いない。

 

 

 

 

009

 

 

 

ハジメが目覚めてからの、およそ二ヶ月。その間、ハジメは新たに習得した神第の魔法《生成魔法》を活用し、裂那と再会するより前に負った欠損、左腕の代わりとなる義手を作ったり、裂那は相も変わらず本の虫となっていたりしていた。

 

そんな地底での日常の合間、進行信号改め、青子の神の代替(ゴットオルタナティブ)としての能力が語られた。

 

 

 

前提として、神の代替(ゴットオルタナティブ)の能力は神言集に記されている。

 

神言集とは、神によって産み落とされた九色と一色に伝えられた神の最後の言葉である。

 

 

神言集、白の項。

『潔白であれ。しかして漂白してはならぬ。己を汚すな』

神言集、赤の項。

『危機を恐れよ。止まることこそ英断なり』

神言集、橙の項。

『強くあれ。汝に恐れるものは無い』

神言集、黄の項。

『危機であれ。危機となれ。危機とあれ』

神言集、緑の項。

『汝は代替。されど無二。青に習い、青になれ』

神言集、青の項。

『時は我のものにあらず。汝の手にこそ時はあり』

神言集、藍の項。

『染めよ。埋めよ。代替なれど汝らは我』

神言集、紫の項。

『神秘の代替たる汝。秘めよ。消えよ。無でこそあれ』

神言集、黒の項。

『不変こそ真なる真価。汝は色の矛盾なり』

 

神言集、桃の項。

『我は変革望む。汝は変革を為す。ならば世は変革し、それでも時は刻まれる』

 

神言集、追伸、桃の項。

『友を大事にしなさい。汝は唯一であれど、孤独ではない』

 

 

 

青の能力は、時。万物の時を司り、神の如く猛威を振るう。

元々は赤が停止を、青が進行をそれぞれ司っていたが、赤が絶滅した今、神の代替の中でも特別な位置に立つ青が代理をしている。

 

時とは次元の一つであり、この世界は三次元に時を足した四次元である。

とりあえず、次元とは何か。ずばり、点の位置を決めるのに必要な数値の個数と言えばわかりやすいだろう。一次元は直線で、原点からの距離だけで位置は決まる。二次元は平面で縦と横の二個の、三次元ならそれに高さを加えた三個の数値があれば良い。そこに時間を指定することで、この世界は構成されている。

 

ハジメの銃弾も、天之川光輝の聖剣も、ユエの魔法も、全て三次元の事象。

 

青子の能力は、文字通り次元が違うのだ。

 

青子の話を聞き、裂那の解説を聞いたハジメは初対面時の攻撃を本気で後悔し、裂那や青子のような《色》と極力関わらないことを密かに誓った。

 

 

 

 

009

 

 

 

 

出来る準備の全てを終え、遂に旅立ちの日。

 

青子が脱出用の魔法陣だと語る魔法陣を起動させながら、ハジメは静かな声で告げる。

 

「……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

「ん……」

 

「ママ、そーなの?」

 

「気にすんな。リサは問題ねぇよ」

 

ハジメは内心「んなわけあるか!!」と叫びながら続ける。

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい。……教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

 

「今更だな。テメェがしらねぇだけで前兆はあった」

 

ハジメの錬成技術は貴族等も注目していた。直接で無かっただけで、作品の要求も少なくは無かった。

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

「裂那がいるなら、今更」

 

「おいこら。何言ってやがる」

 

「……俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

 

 

「金色神話、プロローグ完結。第一章、《金色と愉快な仲間たち》。始まり、始まり」

 

 

 

青子の言葉を最後に魔法陣の光に満たされた視界。何も見えなくとも空気が変わったことは実感した

 

奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 

 

 

やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……

 

 

 

洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

「何言ってんだ? 定番だろ?」

 

「……マジか」

 

 

ハジメの服の裾をクイクイと引っ張るユエ。何だ? と顔を向けてくるハジメにユエは自分の推測を話す。慰めるように。

 

 

「秘密の通路、隠すのが普通」

 

「……あ、ああ、そうか。確かに、反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じるハジメ。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。

 

「ママ、ここが外?」

 

「ちげぇよ。ここは、あれだ。ワームホールの道中みてぇなもんだ」

 

「金色、それでは説明が不十分」

 

「めんどいんだ。察しろ」

 

「……歴史には金色は物臭だと記しておこう」

 

「別にどうでもいいが、その歴史しょーもないことばっか書いてるだろ」

 

「登場人物のプロフィールは最重要事項。むしろ他は創作で構わない」

 

「それ、意味あんのか?」

 

話についていけなくなったリサは、眠そうに目を擦っていた。

 

 

 

「いくか、ユエ」

 

「ん。青子がいるなら、置いてっても問題ない」

 

グダグダと雑談に花を咲かせている裂那たちを放置して、早く外に出たいハジメとユエは道なりに進むことにした。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、ハジメの持つオルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。ハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 

ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは、『空気が旨い』という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

 

 

そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

 

 

 

 

 

「よっ、遅かったな。いつまでいちゃついてたんだよ?」

 

「遅かったね! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 

「「……」」

 

ハジメとユエは、まず脳の異常を疑った。

なぜか、置いて行ったはずの青子と裂那、リサが先回りして待ち受けていたからだ。道中は一本道のはず。追い抜かれて気が付かないはずがないはずなのだから。

 

ウザい程に笑みを浮かべた裂那に、怒りも消え去るような満面の笑みを隠さないリサ。そして何故か無表情でダブルピースをしている青子。

 

 

ハジメは《ドッキリ大成功!!》の看板を幻視した。

 

 

 

 

010

 

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の《グリューエン大砂漠》から東の《ハルツィナ樹海》まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 

《ライセン大峡谷》と。

 

 

ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとユエの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「……戻って来たんだな……」

 

「……んっ」

 

二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「んっーー!!」

 

小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。

しかし、そんなものが霞むほどの事態がすぐそこで起きていた。

 

「あれが空! あっちが太陽! ママ、ママ! 青いよ! なんでなんで!?」

 

一行のうち、リサだけは何もかもが初めてのものだ。その好奇心を暴走させ、裂那にぶつけていた。

 

「だーっ、落ち着けリサ!」

 

「明るい! あっつい! アハハハ!」

 

母親といえども、裂那の身体能力は一般人より少し強い程度。ボス級のスペックを誇るリサには到底敵わない。

 

リサの声に引き付けられたのか、いつの間にか魔物に囲まれていた。

 

「初めてみる魔物! アハハ! かわいっ!」

 

言葉とは裏腹に、リサは指先から針を放ち、魔物たちを一掃する。

 

「……あれ? ママ、弱いよ?」

 

「いきなり冷静になんじゃねぇよ。ったく……」

 

ハジメも銃で応戦しているようで、魔物たちの首を吹き飛ばしている。

 

もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ、また毒に侵され。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

「オイオイ、まるで無双ゲームだな。で? どーするよ、クモ?」

 

「この程度の絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……。ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「……なぜ、樹海側?」

 

「クモはケモミミっ子とかエルフが大好きな人種だからな。引き付けられる何かがあるんだろ」

 

「……けだもの」

 

「ユエさん!? あなた最近神刺の冗談にガチで悪ノリするようになりやがりましたね!?」

 

思わず口調を変えて叫ぶハジメ。元凶たる裂那は楽しそうに笑い、青子は冷静にリサを観察している。

 

「…………気のせい。もしくは裂那のせい」

 

「あー、……そっすか」

 

諦めたハジメは、右手の中指にはまっている《宝物庫》に魔力を注ぎ、魔動四輪を取り出した。

 

ハジメが運転席に乗り込み、助手席には地味にハジメの次に背の高い青子が、後ろには小柄な裂那、ユエ、リサが詰め込まれる。とはいえ三人とも子供と言っていいほどに小柄だ。まだ余裕がある。

 

地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かだ。ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると語ったが、裂那の騒音が無い方省エネだと語り、その口論は三日三晩続いた。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。当然、魔力皆無な裂那は運転できない。

 

ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。

 

迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔動四輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

もっとも、その間もハジメの手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らせているのだが。

 

しばらく走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 

突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

「ママー、あれ何?」

 

「コスプレイヤーだな。獣に襲われるのが副業だ」

 

「へー」

 

「……? 裂那、どういうこと?」

 

「子供にんなもん教えんな!! 本当に親か!?」

 

「違うの?」

 

「ママ?」

 

幼女二人がコテンと首を傾げた。

 

逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。青子はそんな彼らを見守り、行動を心待ちにしている。

 

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届いた。

 

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

「うし、クモ。あいつ助けろ」

 

「はぁ? なんでだよ」

 

「売れる恩は売るべきだ。日本に帰るんだろ?」

 

ハジメは心底面倒臭そうにしながらも、銃を抜いてドアを開け、双頭ティラノに照準を向ける。

 

少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

双頭ティラノが、ウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。

 

 

ドパンッ!!

 

 

聞いたことのない乾いた破裂音が峡谷に響き渡り、恐怖にピンと立った二本のウサミミの間を一条の閃光が通り抜けた。そして、目前に迫っていた双頭ティラノの口内を突き破り後頭部を粉砕しながら貫通した。

 

力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

その衝撃で、ウサミミ少女は再び吹き飛ぶ。狙いすましたようにハジメのいる運転席の下へ。

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

眼下のハジメに向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だ。

 

ゴチン!!

 

勢いよくドアを閉めたがため、窓ガラスにウサミミ美少女の顔面が張り付いた。

あまりにも痛そうな音に、一瞬ハジメの顔が変貌前に戻った気がした。

 

「……面白い」

 

ユエがガラス越しにウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。

 

そうこうしている内に双頭ティラノが絶命している片方の頭を、何と自分で喰い千切りバランス悪目な普通のティラノになった。

 

眼に激烈な怒りを宿して咆哮を上げる。その叫びに痙攣していたウサミミ少女が跳ね起きた。意外に頑丈というか、しぶとい。あたふたと立ち上がったウサミミ少女は、再び涙目になりながら、これまた意外に素早い動きで魔導四輪を盾に隠れる。

 

「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ! 何勝手に盾にしてやがる。巻き込みやがって、潔く特攻してこい!」

 

「……英雄候補にあるまじき言動。しかしこれはこれでありか……」

 

「おいコラクモ、青子。んなこと言ってないでとっととウサギの一匹や二匹助けやがれ」

 

「了解」

 

青子は躊躇うことなく外に出て、ため息まじりにウサミミ美少女を自身が座っていた席に押し込んだ。

 

「わっ、わっ!?」

 

「停止信号を代理発色。心停止」

 

青子は目を赤くさせ、ティラノの心臓を停止。無気力に、慣性に無抵抗に倒れた。

 

ウサミミ少女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそる車内の面々の顔を見る。

 

「とりあえず事情を全て聞かせろ兎人族。恩情のバーゲンセールは短いぞ」

 

デフォルトで目つきの悪い裂那が口を開き、歯をカタカタ言わせている。

 

「ウサギのお姉さん、大丈夫?」

 

リサが尋ねると、ウサミミ美少女はようやっと現状を理解した。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますですはい! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

彼女はなかなかに図太かった。

 

ハジメは、ウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。

 

 

 

第八話、END.




シアちゃんの図々しさを見習いまして、

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