血の軌跡   作:おいいいいい

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「特別演習か…。」

 

現在俺たちはサザーラント州行きの列車に揺られていた、その中の寝室でベッドに横たわり一人呟く。

そして制服のポケットに入っているARCUSⅡを取り出し見つめる。

起きてから一週間、あれから博士と毎日のように様々な実験をした、そしてその成果がこのARCUSⅡである。

一応、試作品(プロトタイプ)という事らしく、色々と難しい説明を受けたがとりあえず現状ではアーツだけが使える状態らしく、データを取ってくるように言われている。

 

情報(データ)…ね。」

 

ARCUSⅡをベッドに放りそう呟く。なんだか、頭がモヤモヤするが仕方がないことなので気分を切り替えるためシャワー浴びるため立ち上がり通路に出る。

シャワー室に行くと誰か入っていたので三号車の食堂でコーヒーを飲んで時間を潰していると後ろから声をかけられた。

 

「あっエルド君もう大丈夫なの?」

 

「ええ、大分良くなりました。」

 

話しかけてきたのはユウナだった、彼女は俺を心配する言葉を掛けながら隣に座る。

 

「にしても乗り物酔いするなんて、気絶も良くするしエルド君って意外と病弱なの?」

 

「ゔ…気絶するのは仕方ないじゃないですか…。」

 

「うんうん、そうだね。」

 

ニヤニヤしながら同意するユウナを恨みがましく睨む。

するとユウナの制服のポケットが膨らんでいるのが見えた。

 

「それは?」

 

「ん?ああ、これ?VMっていうんだけど知ってる?」

 

「いいや、知らないですね。」

 

「そっか…、そうだ!時間あるしやってみよ、ルールは教えるから!」

 

それからユウナにVMの基本的なルールを教えてもらい、何回か対戦をしたところで俺は――

 

「ここはこれしか……。」

 

――完全にハマっていた。

 

「ふふん。今さらそんな物を出しても……これで終わりよ!」

 

俺が出したネイティアルがすぐさま破壊されると、残り少ないHPのマスターカードに攻撃が集中し俺の敗北が決まった。

 

「ぐぬぬ…。」

 

「ふふん。まぁ初心者にしてはよくやるじゃない。」

 

「その初心者に勝率五割ってのもどうなんですか…。」

 

「うっ。」

 

勝ち誇るユウナにそういうと、少しバツが悪そうな顔をしたのでスカッとしたところでリィン教官が横を通り此方に気づく。

 

「二人とも何をしているんだ?」

 

「あっ教官、VMです。今ユウナに教えてもらったんですけどハマってしまって。」

 

話を聞く限り教官も最近始めたそうで、錯覚だし一緒にどうかと誘うが、教官は俺の対岸を見て「また今度な。」と苦笑いを浮かべながら答える。

教官が見ていた方を見ると、明らかに機嫌が悪くなっているユウナがいた。

 

「それで、明日はどうするんですか?」

 

「ああ、それなんだが……実は俺もまだ聞いていなくてね。」

 

ユウナの少し言葉に棘がある質問に困ったような表情を浮かべながら教官が答える。

 

「…ふぅ、しっかりして欲しいんですけど。前もそんな感じじゃなかったですか?」

 

「どうも俺たちのカリキュラムはかなり特殊なものになりそうでな。明朝、俺含めてⅦ組全員でブリーフィングを受けることになる。」

 

「はぁ、ならいいですけど、クレア教官はこういう連絡はもっとちゃんとしてましたよ?」

 

「はは、少佐と比べられるとグウの音も―――そんなにハマったのか、エルド。」

 

そんなユウナと教官の会話をしり目に俺はVMのカードを広げ、デッキ構成を考えていた。

二人を見ると少し呆れたような表情をしていたが、そんなことはお構いなしに再びデッキ構想に戻る。

 

「ま、まぁ取り敢えず、今日はしっかり休んでおくんだぞ。」

 

そういう教官におざなりな返事を返しながら考えていると、ユウナがカードをくれるというので二つ返事で受け取った。

その時のユウナと教官の表情は物凄く引きつっていた。

 

 

 

 

 

「あっシャワー浴びるの忘れた。」

 

すっかりVMに夢中だった俺は本来の目的をすっかり忘れ、部屋に戻った時にようやく本来の目的を思い出した。

シャワー浴びに行きたいが時間を見るともう随分と遅い時間であったのでやめようかとも思ったが、少し考えやっぱりさっぱりしたいと思い通路に出ると、もうみんなは部屋に戻ったのか通路は随分と静かで仄暗い通路には列車の駆動音だけが響いていた。

シャワー室の前に来ると、五号車の方からだれか出てきた。

 

「あっ、アルティナじゃないですか。こんばんは。」

 

「エルドさん…、こんばんは。」

 

「どうしました?こんな時間に、あっ今からですか?」

 

「ええ…シャワーを浴びてから就寝しようと思ったのですが……。」

 

そう言いながらアルティナは気まずそうにシャワー室の扉を見る。

 

「良かったら先に使いますか?」

 

「いえ……、後程でも大丈夫です。」

 

「いえいえ、レディーファーストですし、それに、何か聞きたいこともあるでしょうしね。」

 

俺のその一言で先ほどまでの申し訳なさそうな表情は鳴りを潜め表情が真剣みを帯びる。

 

「……わかりました。それではお言葉に甘えて。」

 

その後シャワーを浴び、ベンチに腰掛けドリンクを飲んで一息ついたところで話を切り出す。

 

「それで?聞きたいことは何でしょうか、大体想像つきますが。」

 

「はい。エルドさんあなたの過去についてです。」

 

その言葉にやはりか…と思い溜息を吐く。

実は先日、教官の方から情報局が俺のことを調べているという事を聞いてこうなることは想像できていたからである。

 

「先日、私の方に情報局から連絡が来ました。あなたの、エルド・アイゼンタークの過去を調査せよと。」

 

「所属は外れていたんではなかったのですか?」

 

「今回だけの特例だそうで帝国政府からの命令です。」

 

「そうですか……、ですが、残念ながら恐らくあなたが聞きたいことには答えられません。」

 

「どうしてでしょうか、何か知られたくない物があるのでしょうが。」

 

アルティナが訝し気な視線を向ける。

別に、何かやましいことがあって言えないわけではなく――

 

「記憶がないんです。孤児院に引き取られるまでの。」

 

――ただ知らないだけなのだから。なんなら此方が知りたいぐらいである、気が付いたらそこにいた。という表現がまさに適切であり、一番最初の記憶は、力なくうなだれている俺を抱えるネア、そしてその時ネアが何かを言っていたという事だけ。

 

「……そうですか、わかりました。では孤児院でどの様な生活をしていたか覚えていますか?」

 

「いいんですか?こんなもので。」

 

アルティナの態度に思わず聞き返してしまう。

しかし、アルティナは当然のように答えた。

 

「はい。記憶が無いなら無いでそのように報告させていただきますので。」

 

「そうですか……。」

 

「それで…。」

 

「ええ…よく覚えていますよ、特に最後は。余り言いたくない事ですけど。」

 

今でもよく思い出す。

千切られ、抉られ、裂かれていく(家族)の顔を、何もできず見ることしかできなかった自分を。

あの時、自分に力が在れば皆を助けることができたかもしれない。

そう思い、強く手を握り締める。

すると、俯いたまま黙った俺を見てアルティナも察したのか声をかける。

 

「嫌なら別に後日でも構いません。特に期限は設けられていませんので。」

 

「すいません……。」

 

「いえ、それではおやすみなさい。」

 

「ええ、おやすみなさい。」

 

そう言ってアルティナと別れる。

すっかり身体は冷え切ってしまっていた。




エルド君はVMがお好き。
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