夢を見た。
男は武器を構え果敢にも立ち向かい、無残にもその血をまき散らし帰らぬ人となった。
夢を見た。
女は子供とともにいた、ただ逃げることしかできずに、子供諸共潰され死んだ。
夢を見た。
そこには数多の兵隊がいた。その全てが此方に武器を向けていた。その半数が死んで、もう半分が喜んでいた。
体が震え、嫌な汗が額から滲む。
これが自分の結末、自分の根源、そう思うと恐ろしくなる、嬉しくなる。
矛盾している、まるで自分の中にもう一人自分がいるようだ。
深呼吸をする、すると先ほどまで感じていた苦しさはない。
再び目を閉じる。
もう夢は見なくなった。
目が覚めるとベッドの上にいた。
薬品とか包帯があるってことはここは医務室だろうか、ここに運ばれるまでの記憶がないってことは自分は気を失っていたのだろう。
それで誰か、教官辺りに運ばれて此処にぶち込まれたのだろう。
まったく、情けない、ただ見てるだけだったのに気を失ってしまうなんて。
そういえばあれからどうなったのだろうか、自分がここにいるってことは試験自体はクリアしたって事だと思うのだけど……。
まさかあの堅物そうな博士が終わってないのに通すことはないだろう。
「問題は、あれからどれくらい経ったのかだけど……。」
そう独り言ちベッドから起き上がり部屋を一通り見まわして部屋を出ようとすると外から話し声が聞こえてくる。
誰だろう?と思い扉に手をかけ開く。
「「「「あっ……。」」」」
声が重なる。
目の前で呆けた顔をしているのはユウナ、クルト、アルティナの三人である。恐らく自分も同じような顔をしていることだろう。
ただいつまでもこうしている分けにはいかないだろう。
「おはようございます。すいませんが自分はどれくらい意識がなかったんでしょうか?」
「……って……ない……。」
「はい?」
「起きてすぐふらついてんじゃないわよ!!」
「へ……?」
彼女はそういうや否や俺を小脇に抱えベッドに戻そうとしながら、アルティナに指示を出す。
なぜか俺を小脇に抱えるように突っ立って、首を絞めながら。
「アルティナ!教官呼んできて!」
「了解しました。」
「まって……はな…して……しま……。」
何度も彼女の腕をパンパンと叩いて限界だとアピールするが、ユウナは混乱しているのか全く気付かない。
やばいそろそろ息が……
「ユウナ、ユウナ。」
「なに!?クルト君!」
「絞まってる。」
クルトのその言葉に少し冷静になったのか、ユウナはゆっくりと虫の息な俺を見る。
それで自分がしていたことが理解できたのか、腕を話しすごい勢いで謝ってくる。
「ほんとーにごめん、エルド君!!」
「い、いや問題ないですよ。それとクルト。」
「ん?」
「ありがとうございます。あなたが神でしたか。」
「何をやっているのですか貴方たちは。」
そんなやり取りをしているとアルティナが若干呆れながら入ってきた。
その呆れるアルティナの後ろには、困ったように苦笑いを浮かべるリィン教官がいた。
「エルド調子は大丈夫か?」
「ええ。これと言って特には。まぁただ気を失っていただけですからね。」
「あ…ああそうだな。」
教官の問いにそう返すと、なんだか教官は言い淀んだ。
取り敢えず目下知りたいことを聞こう。
「あの…自分はどれくらい……。」
「……二週間だ……。」
「へ?」
「いや……だから、二週間だ。」
随分と長いこと意識がなかったんですね自分……。
そりゃ皆驚くわけだ、何だか本当に情けなくなってくる。
「ところでエルド、あの日の事で何か憶えている事はないか?」
「何かとは?あの魔煌兵が出てきて皆さんが戦っていたとこまでは憶えていますよ?」
そう答えると教官は少し考えた後「そうか…。」と独り言のようにつぶやいた後再びこちらに話しかけてくる。その表情はどこか真剣みを帯びていた。
「エルド、君には二つの選択肢がある、一つ目はこのままⅦ組としてこのまま士官学院生として過ごすこと。残念ながら転科はできないけどな。」
「もう一つは何ですか?」
「もう一つは……、シュミット博士の研究所預かりということで、分校を辞めて過ごすことだ。」
「どういうことですか?」
思いもしなかった選択を提示されて思わず少し強い口調で返してしまう。少なくとも自分はそういう知識がなく、興味もこれと言ってあるわけでも、志願したわけでもない。
なら後考えられる可能性としては、でも、自分にはそんな不確かなところはない、いたって普通の人間のはずだ。
「疑問に思うのも当然だ、まずはこれを見てくれ。」
教官はそういいながら此方にARCUSⅡの画面を見せてきた。
画面には先日の魔煌兵が映っていた、しかし赤黒い巨大な剣によって串刺しにされた状態で。
「博士……いや、俺達はこれが君が原因として起こったのではないかと思っている。」
「なっ…!」
その言葉に驚きを隠せない、自分にそのような力が在るとは思わなかったからだ。
今も昔もそのような力を……
自分の中で自分への疑問が生まれる、今まで信じていたものが崩れ去っていく感覚がする。
「俺としてはこのままⅦ組にいて欲しい。だが、決めるのは君自身だ。」
教官の声は遠くこもって聞こえない。だが、教官の瞳がこちらを真直ぐ見据えている。
その眼には申し訳ない気持ちと決意が現れていた。他の三人も此方をじっと見つめている。
「……Ⅶ組にいればわかりますか?」
「それはわからない……でも、きっと真の意味で自分を理解できる切っ掛けにはなると思う。」
もしあれが自分が原因としてもそうじゃなくても、自分という存在を理解できるのなら。
拒む理由などない。
「エルド・アイゼンターク。≪Ⅶ組・特務課≫に参加します。」
そう言って手を差し出し真直ぐに教官を見据える。
「俺が何者なのか、何をしたいのかは自分で見つけたいんです。間違っても偏屈博士なんかに任せたくありません。それに―――あいつにも会えそうですしね。」
「了解した、エルド。≪Ⅶ組≫への参加を歓迎する。」
そういうと互いに微笑み、手を結んだ。
ところで―――――“あいつ”ってだれだっけ。