『平等』と『愛』に縛られていたのかもしれない。
名もない村の人々を見つめながらそう思う。
家族は微笑みあって短冊に願いを込めている。
誰かに認められるわけでもなく、どの竹にも色とりどりな短冊が欠けられて願い事が込められている。
願いの中身には私が想像すらしてこなかった平和への祈りが込められていたり、告白をしたいといったものもあったり、自由があった。
私が成長させた竹も、本当は処分されてしまう可能性があったものの、村長の意思によって守られ続けていたらしい。
いよいよもって、親近感が沸いてしまう。成長できなくて、処分されてしまいそうな竹という存在に。
……だからなのかはわからないけれど、この竹の隣にいると落ち着く。
他人行儀のような言葉になってしまうけれど、救われてよかったと思う。
「あっ、ここにいたんだ」
「ツリーズさん」
彼女が私の隣に座った。
「村長から報酬を貰っちゃって。……そういう身分のものじゃないからって断ろうとしたんだけど、それだと忍びないって言われちゃってね」
持ち運びが容易そうな旅道具をずらりと並ばせる。
「……折れて、貰っちゃったんだ。移動に便利そうなもの」
「……旅、続けられそうですね」
「まぁ……逃避行だけどね」
「迷惑は掛けられませんから、明日あたり出発になりそうですね」
「そうする予定」
平穏な暮らしをしているこの村を、騒々しくするわけにはいかない。
私たちは国からすると裏切者。
追われる立場だ。
「でもね、報酬云々は別にして、ミストルティンと一緒に人助けができてよかったって思うの」
「どうしてですか?」
「人助けしてる時のミストルティンがいきいきしてるように見えたから」
「……そんなことはないです」
「そう? 張り切ってるのが素敵だなーって思ってたけど」
「必要とされていただけですから」
「それ以上に動いてたって」
ツリーズが私の目を見つめて、言葉を繋げる。
「手を取り合って生きていく。簡単なことのように見えて、難しいことを一緒にできた。生きていたから頑張れた。生きることを諦めてたら、こうした時間だって訪れなかったから。出会えてよかったって思うの」
そこまで言葉にして、そうだ、言って何かを取り出した。
ツリーズの手を確認すると、そこには短冊が二枚あった。
「ねぇ、折角だからさ。願い事を書いてみようよ」
「……迷惑になりそうですが」
「名前を書かずに、願いだけ込めてさ」
「……願い事が思い浮かびません」
「そこはまぁ……うん、頑張ってっ」
「いい加減ですね」
でも、彼女の提案が悪くないと感じたのも事実。
渡されたペンを受け取り、願いを考える。
「あっ、私はもう考えてるよ」
「なんですか」
「どんな人でも平等に平和が訪れますように」
「……皮肉のようにも感じますが」
「あの国の締め付けられるような平等じゃなくて、みんながみんなで幸せになれたらいいなってそれだけだけどね」
「……綺麗事かもしれませんよ?」
「願うんだったらそれくらい綺麗な方がいいからね」
その言葉を受けとって考える。
願い事。
……私の願い事。
「知りたいことでもいいんですよね」
「願いに形なんてないからね」
「でしたら、思い浮かびました」
「聞いても?」
「……構いませんよ」
今、考えている願い事。
「『愛』をもっと深く知りたい。それだけです」
「愛……」
「いままでは形のある『愛』ばかりを求めて生きていましたから。せめて、生きている間は、様々な『愛』を知りたいって思ったんです」
「今日の行動は無償の愛だよね」
「……それにもまだ、実感が沸いてませんので」
「なるほどね」
今日の行動にも『愛』があったのであれば。
私の知らない『愛』の形もまだあるのかもしれない。
それを求める為に、生きてみるのも悪くはないのかもしれないと思い始めた。
「じゃあ、愛と平等を求める逃避行をこれからは続けていく形になるかもね」
「人助けをしながらですか」
「それは勿論っ」
断言しながら彼女が立ち上がる。初めてあった時よりも数段明るい笑顔で。
生きていれば、やれることもある。
ならば、逃げ続ける生活の中でも幸せは求められるのかもしれない。
「……これからも、よろしくお願いします」
「改めなくてもいいのに」
「一緒の生活を送ることになりますから」
「夫婦みたいな?」
「……ツリーズは女性でしょう」
「あはは、そうだね」
この世界で逃げながら生きていく。
難しいことなのは理解している。
けれども、彼女と一緒ならきっと、思いつめることはなくなりそうだ。
「……短冊、つけにいこっか」
「そうしましょう」
愛のことも、平等のことも、私の歩幅で考えることができる。
彼女と一緒に相談することができる。
心を蝕む存在しかいないと思えた世界に光明が見えた気がした。
竹に付けられた探索に祈るは『平等』と『愛』のふたつ。
いつか、知ることができたのであれば、きっと幸せなのかもしれない。それが、いつ終わるかわからない逃避行だったとしても。
満点の夜空に、私はただ明日の平穏を静かに祈った。