「…ん?」
本に囲まれた部屋の中。一人の男がいた。
「あんたは…」
男はこちらを見て何かを呟こうとした。
「…いや、別にいいか。こんなところになんの用だ?」
男はそう言うと立ち上がって近くの本棚に近づいた。
私は用件を伝えた。
「……記録が見たい、ねぇ。どんな記録だ?」
男は本棚を見ながらそう言った。
私は実体験できるような記録がいいといった。
「実体験ができるような…か。」
男はそう呟いて視線を落とした。
「客観的にみるような奴じゃなく、主観的にみる奴のことだろ?」
男はこちらをじっと見つめて問うてきた。
私はその問いに頷く。
「…はぁ…今主観で見られるのはあれしかないんだよな…」
男はため息をつきながらそう呟いた。
私はあれとは?と聞いた。
「見ている側が気分の悪くなるような話だ。」
私はそれを見せてほしい、と言った。
男は私の言葉を聞いて私をまっすぐと見つめた。
「…本当に見たいのか?」
私はもちろん、と言ってうなずいた。
「……本当に、見たいのか?」
男が念押ししてくるように聞いてきたが、変わらず頷いた。
「……はぁ。後悔しても知らないぞ。」
私は構わない、といった。
「……ついてきな」
男は諦めたように言って、机にかかっていた杖を持って大量の本棚のある場所へと向かい始めた。
私は慌ててついていく。
男はしばらく歩いた後、一つの本棚の前で止まった。
「…最後に、もう一度だけ聞く。…………本当に、いいんだな?」
私は変わらず頷いた。
「…分かった」
男はそう呟いて杖を本棚に向けた。
「開け」
男がそう言うと本棚が小さく発光した。
「生きる記憶を封じる扉よ。わが声のもとにその姿を現せ。魂の名のもとに汝の封じる記録に通じよ。我が杖“レコーダリス”と我“
男が男性にしてはかなり高い、というか女性と言っても過言ではないレベルの高音で唱えると、本棚が揺れてその奥に通路が現れた。
「…さ、行くぞ。」
男はそう言い、通路の中へと入っていった。
「…この先には、とある記録が保管されている。実際俺達が保管してる中でも真面目に嫌な記録だ。」
そう言った後歩き続けると、一つの鉄扉が現れた。
「…見るって言ったのはあんただ。…それでも最後にもう一度だけ聞く。…本当に、見るか?」
男はそう言って私を見つめた。
私は頷き、そして先程から気になっていたことを聞いた。
それは、男と呼んでいた存在が本当に男性なのかということ。
なぜなら、先程の高音と名前。明らかに女性レベルだったからだ。
「はぁ?俺?女だがそれがどうした?」
男、ではなく女であった。
「ま、自分が間違えられやすいのは知ってるがな。」
女は軽く笑いながらどこかから取り出した鍵を扉の鍵穴に差し込み、回した。
「…開けるぞ」
女がそう言って扉を開けると絶叫のようなものが聞こえた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
苦しんでいるような、怒っているような。そんな声が、私の前にいる半透明の存在から発せられていた。
「…そいつに触れれば記録の中に入れる。」
そう言うと、女は部屋の隅によった。
私はその存在に触れた。
触れた瞬間、私は落下感覚を感じた。
side 女
「…行ったか」
俺は来客が記録の中に入ったことを確認した。
「……呼んでおくか、ヒーラー。」
俺はそう呟いて右手を振った。すると緑色のウインドウが現れる。
「…っと、これか」
目的の表示を見つけてそれを叩く。
prrrrr…
少し長めの呼び出し音のあと、通話がつながる音がした。
<はい、こちら月が支配する夜の世界、外部電話通信形式集中管理局でございます。ご用件は何でしょうか。>
「調律師に用がある。繋いでくれないか。」
<調律師…“
その言葉の後、電話口から曲が流れ始める。
「…暇だな。」
女がそう呟くと音楽が止まり、誰かが出た気配がした。
<お電話代わりました、“創詠 旋理”です。どちら様でしょうか。>
「記録の管理者、“魂込 彼方”。ヒーラーの派遣を要請したい。」
<魂込 彼方様…ご用件はヒーラー、治癒師の派遣ですね?>
「あぁ、頼めるか?」
<少々お待ちくださいませ。>
その声が聞こえると、電話口の方でページをめくる音がした。
<申し訳ありませんが、世界群コードをお願いします。>
「“GW03”…だったか」
<GW03…世界コードをお願いします>
「“record index”」
<なるほど。ポータル接続を確認してきますので少々お待ちください。>
そう言うと、電話口から誰かが離れた気配がした。
「…あ、しまった。使えなかったかもしれん。」
<彼方様、大変申し訳ありません。現在、世界接続が非常に不安定でして、GW03へのポータルが起動できない状況でございます。>
「まじか…」
<大変申し訳ありません。>
「あ~…じゃあ精神を安定させるような術ってありますか。」
<…?術でしたら“術の管理者”である
電話口で言われたことに女…彼方は少しだけ動揺した。
「あ~っと…香織は今ちょっといなくて…」
<そうですか…では今から軽いものを教えますね>
電話口の少女(?)はそう言って術の概要を彼方に教え始めた。
<……これで大丈夫です。>
暫く話し続けると、少女はそう言った。
「ありがとさん、料金は?」
<教えただけですし料金は発生致しません。それでは失礼いたします。>
少女はそう言って電話を切った。
「…早えよ。」
彼方はそう呟いてウインドウを閉じた。
「…さて、“亡霊のお話”。どうなることやら。」
彼方はそのまま壁に寄り掛かった。
…さてと、この話が好印象を受けるか悪印象を受けるか。多分悪印象でしょうね。
では、また今度。